185 怒り
風月の【分霊】は一度試してみたが使えなかったし、【共生】している魔物の基礎スキルしか使えないのだと思う。そうなると使えるスキルは…。
風月だと【風魔法】【精霊魔法】【覚醒】【雷魔法】【狸化】の五つ。ただスキルレベルが何処まで反映されてるのかはわからない。レベルによって範囲や効果、使える物が増えていくのだろうが、何レベルで何って明確に記載があるわけではないので判断が難しい。
ルナだと【魔素分解】【雷化】【土化】【光化】【魔素変化】【魔素変形】【体当たり】【不惜身命】【自爆】【隠密】と、多く見えるが【魔素分解】と種族スキルである【魔素吸収】を使用できない俺に使えるのは半分ほどだ。
シルバは【発光】【熱吸収】【光吸収】【空中移動】【火球】【吸魂】【帯炎】【精神結界】とおそらく【発光】以外は全て使える。…いや、足に纏っている銀炎はぼんやり光っているので【発光】も使えているのかもしれないな…。隠密には向かないスキルだし、オンオフが出来ないのは難点だが。
「とりあえず…【雷化】!」
すふと足先からどんどん蒼白い、バチバチと音のする雷に体が変わっていく。
言いようのない不安感と僅かな気持ち悪さに襲われる。
「風月。外に出てきてくれ。どうなっている?」
「うむ…。人型の雷だのう。足に纏っているシルバの炎も蒼白くなっておるし、我が【共生】していたら翼も雷になるのだろうな」
「そうか…はぁ…」
「む? もうお終いか?」
「ああ…これキツい。馬鹿にならない魔力を常に消費するのもあるが…自分の肉体が物量を持たないものになっている感覚、といえばいいか…とにかく落ち着かない」
「そんなに魔力を消費するのかのう? ルナとお主の総魔力量は桁が違う。お主基準で馬鹿にならない魔力量を消費するならルナの魔力など一瞬で枯渇するぞ?」
「あー。確かに。それは種族の違いなんじゃないか? 適性のない種族が使うと消費が激しかったり、効果を十全に発揮できなかったり…」
「そうかのう…? いや、それもあるとは思うが、【雷化】…魔素体になることに関してはミミックスライムのルナより、精霊種であるお主の方が適性はあると思うがの? 【精霊化】と似たような物ではないか?」
「【精霊化】より負担が多いぞ」
「うーむ…。なんでかのう? お主の意識の問題か? それとも…」
ぶつぶつと自分の考察を呟く風月。
確かに魔法やスキルってのは、魔力や生命力を消費して神が(おそらく)定めた法則に則ってイメージした現象を起こす。
イメージだけでは駄目だが、それが重要なファクターになるのは確かだから、俺が難しい、できない、気持ち悪いと思ったらそうなる可能性はある。
「まあ使えないことはないし、問題ない」
「適当だのう」
「考えたって明確な答えなんて出ないんだ。このスキルはルナのスキルだ。俺が検証したり使えるように努力するつもりは今のところはないからな。答えが出ないとわかっている問題をずっと考えるのも面倒だし、時間が勿体無い」
「考察するのは大事だぞ? それに色々試してみればわかるかも…って試す気がないからこそ、答えが出ない問題ってことかのう」
感情や使用する魔力量、魔力属性、環境。それに現状シルバも【共生】しているからその状態が良くないのかもしれないし、ルナのコンディションややる気の問題。色々試してみればわかるかもしれないが、そこまでしていたら時間がかかって仕方ない。
ならそんな面倒なことより、現状使えるスキルを使い込んで強くなるか、新しくスキルを得て使えそうな物を練習する方がいい。
「そういえばルナとシルバのレベルはどうなった?」
ステータスを見てみるとルナが十二、シルバが九になっていた。まあまあ…か。シルバの相性が良いとはいえ経験値の低い魔動骸骨たち相手じゃこんなもんか。
「[魔力譲渡]を使ってもう一度…と言いたいところだが、俺も飽きてきたし次に行くか」
「む!? ご主人!」
文字通り目と鼻の先まで詰め寄ってくる風月。
「な、なんだよ」
「我が飽きたと言った時は一蹴したくせに、自分が飽きたからと移動するのはどうかと思うぞ!」
「…一応目的も果たしてるからいいんだよ」
「むむむむ…」
「ほら、行くぞ。【共生】しなくていいのか?」
「ふんっ! 【共生】!」
…はあ。変なところで子供っぽいやつだな。
【共生】はしたが俺の中で沈黙する風月と、何故かちゃんと意思疎通のできているルナとシルバと共に十六階層へと続く大穴に飛び込んだ。
「おっ…と!?」
十六階層に入った途端突然浮遊感がなくなり十数メートル落下した。
問題なく着地はできたが…なんだ?
『ぇ…!?』
『ふへ?』
「###!?」
首を傾げると、シルバ、ルナ、風月が順に俺の中から飛び出てきた。
「は? 風月今なんて言った?」
「#? @/&#ajp」
「待て待て待て。なんて言ってるさっぱりわからん。喋れなくなったのか…?」
「@#/dj'm」
「すまん。わからん」
『これは聞き取れるかの?』
「あ、ああ。聞き取れる」
『ふむ…。お主と我が今まで会話できてた理由は契約したからではなく、お主が持っておる【全言語解析】のおかけだの。念話は…所謂心の声、みたいなものだから我がお主の知らぬ言語でしゃべっていても理解できるのだろうな』
「ああ…じゃなくて! 【全言語解析】があったから理解できていたのは良い。だがなんでわからなくなったんだ」
『…お主、常時発動しておる【身体強化魔法】が切れてないかのう?』
「…発動してないな」
『ふむ…。【共生】も解除され、【全言語解析】も機能しておらん。我は念話…【精霊魔法】を使った念話もお主との繋がりを使った念話も使える。シルバも【空中移動】しておるし、ルナは体に刺さった草を分解しておる。お主だけスキルが使えなくなっておるのではないか?』
「は?」
慌ててステータスを確認するが、ステータスが表示されない。
うそだろ?
「【風球】【雷球】【水球】【火球】! 【爆炎】!
【放電】! 【竜巻】! 【紫紅爆】!」
…なにも発動しない。
「【身体強化魔法】! 【亜空庫(大)】! あっ」
『ほう。亜空庫は使えるのだな』
一つでもスキルが使えることに安堵した。
「…【雷装】【魔装】【魔圧】【地操作】【重力操作】。【変色】【変化】【浮遊】…【精霊化】…【精霊召喚】……使えない」
他に結果が目に見えて分かる発動型は…チッ。ステータスが見えないとこれで全部かもわからねぇ…。
「あ、【火炎放射】! 【結界生成】! 【使い魔作成】…霊狸召喚! 【拠点作成】! くそ。あとは…【邪纏】 ! 【物質複製】! 【想像具現化】!」
…ゾッとした。ほんのひと月ふた月前まで使えないのが当たり前のスキルが使えなくなっただけで恐怖を感じる。焦燥感、不安感…色々な物が押し寄せてくる。
『なに。この階層だけか、ここから先全てにおいてかはわからぬがそのうち使えるようになるだろう。お主を強化するためのダンジョンで弱体化させても神にメリットなどないだろうしのう。それに我らはスキルが使える。戦闘するのに問題はなかろうよ』
「風月…違う。そうじゃない…。別にスキルが使えなくたっていい。確かに怖いし不安になった。けど…無いのが当たり前だったことを考えれば問題はないんだよ。これくらい、なんてことない。レベルと進化によって得た身体能力は健在なのは自分でわかるからな」
「なんてことはない…ということはないだろうに。現に相当顔色が悪いぞ」
「なんてことないさ! そんなことより! クー太たちとの繋がりが感じられないんだよ! お前たちとの繋がりもだ!」
『ひぅ!?』
『っ!?』
『ルナとシルバが怖がっておる。少し落ち着け』
「落ち着けるわけないだろ!? 今、何よりも大切な物だぞ!? スキルなんてどうでも良い! マギアも! 地球も! 魔族も神族もどうだって良い! クー太とラン、クレナイ、ハク、アキ、フェリ、クロ、ラック、グレイ。そしてお前たちとの繋がりがないんだぞ!?」
バシンッ!
「いっ」
『落ち着けと言っておるだろうに。我は先程、お主との繋がりを使った念話は使えると言っただろう? 繋がりは切れておらん。我らはお主の配下で仲間なのは変わらない。お主のスキルが使えなくなっておるから感じられぬだけだ』
…くそ。殴るんじゃねぇよ。
「…繋がりが残っていてもだ。あいつらが無事かどうかわからない…」
『お主、外にいる仲間との繋がりを感じられてたのか? 以前わからないようなこと言っていなかったか?』
「ああ…普通にしてるとわからないが、集中すれば最初期にテイムした仲間のことなら薄らわかったんだ…。それで、お前に魔力の操作と感知について教えてもらってからは最初期にテイムした奴らのことは普段からわかるようになってた。他のメンバーも意識を集中すれば感じらるようになったんだ」
『ふむ…前の階層までは問題なかったのだろう?』
「あ、ああ…」
『ならお主が一時的に感じ取れなくなっただけだ。心配することはない。心配するのも良いが、おそらく我ら配下は信じてもらった方が嬉しいぞ?』
「…信じてる。信じているが…心配な物は心配なんだよ。今まであった物が消えたんだ。不安に…なるだろ…」
『我らはどこにも行かぬよ』
『うんっ! ご主人様、ずっと一緒っ!』
「ああ…。そうだな…」
『ごしゅ…ずっと…一緒に…ぃる…』
「シルバ…」
『ほう! ちゃんと会話できるではないか!』
『ぅ…』
『む? 戻ってしまったか』
「風月とは話したくないってよ」
『なに!? シルバそれは本当かの!?』
『ゃ…』
『や!? 嫌なのかの!?』
ははっ。
ああ。そうだな。取り乱しても仕方ない。邪神のやつは俺とクー太たちを引き離したんだ。
俺らが依存しすぎていると言っていたし、俺を鍛えるため支えになっている繋がりを感じられないようにしたのだろう。
風月は何事もなかったかのように、普段よりもギャーギャー喚いている。俺の気を紛らわすためにそうしているのだとわかるくらいにだ。
パンッ!
両頬を叩き気合いを入れる。
「よし。切り替えていこう」
『うむ! それが良いの! それでどうするのだ?』
「もう邪神に手心は加えん。情報を聞き出して用済みになったら確実に仕留める」
『お主全然落ち着いておらんだろう!? 切り替えって気持ちじゃなくて神への対応を切り替えたのか!?』
「うっさい。気持ちは切り替えた。お前の予想じゃそのうち戻るんだろ。それを信じる。だがここまで俺の嫌がることをやる邪神は許さないことに決めた」
『お、おおう…。まあ…それなら良いかの…?』
「さっさと行くぞ。次の階層もしくは二十階層に行けば元に戻るかもしれないだろ。最悪訓練なんて放ってさっさとダンジョンを出なきゃだしな」
『うむ。戦闘は任せておくが良い!』