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180 虫地獄

 


 ガサガサガサッ!


 木が倒れるとけたたましいほどの鳥の鳴き声が聞こえ、大量のセミがそこら中から飛び出して来た。


「まじでセミじゃねぇか! 何でセミが鳥の鳴き真似なんてしてんだよ!」


『凄い数だのう…。襲って来たがどうするのだ?』


「倒すしかないだろ!」


 結界を張るとチチチと鳴きながら飛んで突っ込んでくるセミは結界にぶつかり地に落ちていく。地に落ちたセミにトドメを刺してゆく。


 初めに切断したが、見た目的にそれは間違いだったと思ったのでトドメは【火球】で燃やし尽くす。


「はあ…疲れた」


 精神的に。

 バスケットボール大のセミが大挙して押し寄せてくるとか、どんなホラーだ。


『セミはテイムしないのかのう?』


「可愛くない。格好良くない。もふもふじゃない。もちもちもしてないからテイムしない」


『どれだけ嫌いなのだ…』


「嫌い…ではないぞ? 小さい頃はセミ取りしたし、飼ったりするかは別として、今でも羽根が綺麗なやつとか、凄く小さなセミは嫌いではない…と思う」


『ならテイムしても良いではないか。我もナメクジやミミズ、ムカデは好かんが、セミはそうでもないぞ?』


「却下。デカい」


『好き嫌いの激しいご主人だのう。仲間に虫やナメクジ、蜘蛛などはおらんのか?』


「いるぞ? カブトムシとクワガタムシが。蜘蛛もいる」


『セミも似たようなものではないか』


「似てないわ! それにデカいセミはキモい。よほど珍しい奴じゃなきゃテイムはしない」


『ほう。例えばどんなナメクジなら良いのだ?』


 どんなナメクジって…セミの話をしてたのになんでナメクジなんだ。


「…まあ黄金色で粘液を出していないナメクジとか?」


『…それはもはやナメクジではないだろう』


 風月の言う通りナメクジではないな。どちらかというとルナが細長くなったらそんな感じだ…。


「まあそれくらい珍しい個体じゃなきゃ、好きでもない種族はテイムしないさ。後は有用かどうかがわかっていればまた話は変わるが」


『それならば仕方ないの』


「こいつら解体して魔石取るのは…嫌だな」


 ダンジョン産のセミもいたようで倒した数と残っている死体の数が合わない。

 おそらく、所々に落ちている大きなセミの羽根がドロップアイテム…なのだと思われた。


「セミの羽根がドロップアイテムとか…邪神のやつ何がしたいんだよ」


『鑑定してみるのだ! 我も気になる』


 自分でやれよ…って、そうか。【共生】してるからスキルは使えないのか。


 一枚拾って鑑定をしてみる。


 ————————————————————

 ○カワセミの羽根


 ・効果:振ると音が鳴る

 ————————————————————


 バキッ。


『…ご主人? セミの羽根、折れたぞ? どうしたのだ』


「…くそだろ。説明文に振ると音が鳴るとしか書いてない上に、カワセミって!」


 だから鳥みたいな音出してたのか!? 虫系魔物のカワセミが鳥類のカワセミの鳴き声出していましたってか? 邪神馬鹿だろ。そんなどうしようもないことに力使ってんじゃねーよ。普通に鳥の魔物を配置しておけや。


『ふはっ!』


 脳内に風月の笑い声が響く。


「お前なあ。俺は笑えないんだが。あの野郎俺の期待を裏切る天才だな」


『良いではないか。遊び心も必要だしのう。ふふっ』


 風月の笑い声に毒気を抜かれた俺は折れた羽根を捨て、新しい羽根を拾い振ってみる。


 チッチチチチチチチ。


 バキッ。


『ああ! また折ったのか!? 面白いではないか』


「面白くねーわ! 誰得だよ」


『子供が喜びそうだがなあ。あとは猫科の動物とかの』


 む…。確かに。これをアメリの目の前で振ったらどうなるか気になる。いい反応をしてくれそうだ。


『なんだ。結局拾ってるではないか』


「うるせえ」


 無事な羽根を拾っていく。俺が折った羽根を含めて十四個あったので、【亜空庫(大)】に突っ込んでおく。


「んで、消えてない方は…ルナ!?」


『なーにー?』


「そんなもの吸収することないんだぞ!? ほら、吐き出せ」


 ルナの体からセミの半身が飛び出ていた。吸収しようとしたのだろう。


『まだ吸収してないよ? ご主人様、これ嫌いなんでしょ? ルナ、ご主人様の嫌いな物にはなりたくないから吸収してないよっ』


「な、なら何してんだ?」


『んー。待ってー』


 セミの半身がどんどんルナに取り込まれて行き、セミの姿が完全に見えなくなった。


 ポンッ!


 ルナの体から何かが飛び出て来て俺の足元にコロコロと転がってきた。


『分解だけしたんだよ! これが欲しかったんだよねっ?』


「あ、ああ。…セミを分解して魔石だけを出したのか?」


『うんっ』


 そんなこともできるのか…。解体を躊躇うような魔物、食用にならないような魔物はルナに分解してもらえば相当楽になるな。もっとスライムテイムしておけばよかったか…?


「ありがとうな。これからも頼む。ただ吸収はしなくていいからな?」


『えへへっ』


 抱えて撫でてやる。本当もちもちしていて気持ちいいな…。

 その後全てのセミを分解してもらい魔石だけ貰って移動する。


 セミ…カワセミか。それ以外にテントウムシ、バッタ、カマキリ、トンボ、カナブンといった虫と遭遇した。もちろん全てバスケットボール大だ。カマキリとトンボはもっと大きかったが。

 一口にトンボと言っても赤いのや水色っぽいやつ。バッタはトノサマバッタのような羽根をもつやつに、全身緑色のやつ。

 それと僅かだがスライムもいた。残念ながら六階層で出会ったスライムは全てダンジョン産だったが。


 そしてドロップアイテムだ。

 カワセミは振るとチチチチとなる羽根。

 そしてテントウムシからはカラフルな羽根。(鑑定したら、見栄えが良い。としか書かれていなかった)

 バッタからは側面が刃のようになっている羽根。(強度は大したことない)

 カマキリからは鎌のような前足が一つ。(切れ味はいいのだが、すぐ折れた)

 トンボからは何故かアイマスク。虫の一部がドロップすると思っていたのに何故かどのトンボからも黒いアイマスクだった。

 カナブンからは振るとブンブンなる羽根。(どんなにゆっくり振っても何故かブンブン鳴る)


「もういい。さっさと降りるぞ。旨味がない」


『何かあると思うんだがのう…。邪神がお主のために用意したダンジョンだろう? 一見無駄に見えても、何かお主のためになるようなものがある気がするがのう…』


「仮にそんなものがあったとしても…早く移動したい。数が多いし、キモいし、ブンブン煩いし。耳元でブンブン音がすると鳥肌立つんだよ。気分的には最悪だ」


『うーむ…』


 ルナと抱いて大穴に飛び込む。七、八、九、十階層と変わらず出てくるのは、虫時々スライム。


「さて…次は十一階層だ。前回は六階層で出てくる魔物が変化したし、次でこの虫地獄から抜けられるといいんだが…」


『それは良いが…寝なくて大丈夫なのかのう。我と出会ってそれなりの時間が経っておるが寝てないだろ』


「【不眠】のスキルがあるからな」


『それはわかっておるが、そろそろ限界なんじゃないかと思ってな。寝てない上に大した休憩も取ってないだろ?』


「まあそれはそうだが…お前も寝てないだろ。ルナも」


『ルナは寝ておるぞ?』


「は? いつだ」


『戦闘させてルナの魔力が少なくなるとご主人が抱いて移動しておるだろう? 起きてる時は腕の中にいても僅かに動いておるが、たまに一切動かない時があるからのう。多分寝ておる』


「まじか」

 

『それと我ら精霊は睡眠を特に必要としておらぬ。寝ようと思えば寝れるが。だから気にしなくて良いが、お主は曲がりなりにも人間なのだ』


 曲がりなりにもって…。


「じゃあ少し休むよ」


 風月のアドバイスを聞くことにし、大穴の手前で結界を張って横になる。

 すると風月が俺の体から出てきた。


「ふふっ。我が添い寝をしてやろう」


「添い寝しなくていいから見張りを頼む。添い寝はルナの担当だ」


 そう言ってルナを抱きしめ目を閉じる。


「つれないのう…」


 風月は素直に見張りをしてくれるようだ。

 そのまま目を閉じながら、もきゅもきゅとルナの感触を楽しんでいたらいつの間にか意識が途切れていた。



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