179 ルナの検証
鑑定はできたが…。
「簡潔だな」
『【精霊魔法】だからのう。鑑定専用のスキルじゃないから仕方ない。詳細が多少出るだけでもマシだぞ? 物によったら名前だけだったりするしのう」
「そうなのか…。鑑定スキルほしいな」
『ないよりマシだろう? それより、やはり我のスキルが使えたのう。【憑依】は魔力と生命力を分け与えられて、【共生】は我のスキルと一部肉体の能力が使えるのだな。同時に出来れば良いが…一度お主と分離しないと無理なのが惜しいな』
「充分だよ。両方使えるような破格のスキルだとデメリットがありそうで嫌だし、あんまり頼ったら俺が成長しなくなる」
『確かにのう…だがお主の中にいる方が楽だし我はここにおるぞ?』
「…構わないよ」
いつも影の中にクロにドライ、ビャクヤが入っていたし、風月が体の中に入っていてもあんま気にならないしな。
『ご主人様もういい?』
「ん? ルナどうした?」
『風月の羽根吸収したよ! ルナご主人様のお話終わるの待ってたの。風月と何か話してたんでしょ?』
あー、今風月は俺の中にいるから声は聞こえないのか。
「それはすまんな。そう言う時はすぐに声かけてくれていいからな」
『わかった!』
「それで…吸収できたんだな? それなら【魔素変化】…は無理か。羽根だけじゃ。【魔素変形】と【完全擬態】は出来るか?」
『多分できる!』
むむむむっとルナが唸るとポンッと頭頂部に羽根が生えた。
『何故上なのだ…?』
「わからん…」
ひょこひょこと頭頂部で羽根が揺れる。
『風月の羽根!』
「ああ。うん、そうだな」
『あのね! 横にも生やせるよ!』
「ならやってみてくれ」
『うんっ』
横に生やせるのに何故上に生やしたのだろうか…?
またもや、むむむと唸ると二枚一対の羽根が生えた。
「は? 一枚しか取り込んでないだろ?」
『何枚でも生やせるよ!』
そう言って同じ大きさ、同じ形の羽根を何枚も生やしていくルナ。
「も、もういいぞ。次は【完全擬態】をやってみてくれ」
『うんっ』
これは…あれだな。【魔素変形】は取り込んだ物の大きさ、色、形全て同様の物しか生やせないが、その代わり一つ取り込めば体の何処からでも同じ物を生やせると…スライムの体だからできることかね。
本来、羽根がついている骨や筋肉、皮膚など、翼を丸ごと取り込んでいればルナの背に生えるのは翼なのだろうが…。
そして【完全擬態】をしたルナは一枚の羽根となった。
「これ…間違えて踏んだりして折れたらルナ死ぬのか…?」
『その可能性はあるのう…。【完全擬態】とは魔力以外は擬態した物と同じになるのだろう?』
「だよな…。ルナ、会話は出来るか?」
『できるよっ』
「その状態でなにかできるか?」
『………動けない!』
「そ、そうか。戻っていいぞ」
『はーい!』
取り込む物次第ではかなり有用そうではある。
だが下手な物に擬態したらまずいな。風船になって空に飛んで行ったり、落ち葉になられたら間違えて踏んだりしそうだ…。俺が許可出した物以外に変化しないように注意しておかないとな。
「おし、じゃあ移動するか。だいぶ時間かけてしまったしな。風月は俺の中にずっといる気か?」
『うむ。必要になったら外に出るが、外に出る必要性を今は感じないのでな。居心地も良いし、ルナも【共生】させるのはどうだろうか』
「お前は好きにしていいが、ルナには戦って貰うから【共生】はさせない」
『あい、わかった』
その後の戦闘で【雷化】などを試した。
スキル詳細に実体を持たないとある様に、体当たりして敵スライムが吹き飛ぶことはなく、すり抜けていく。だがすり抜けた後、敵スライムは感電したかのように震えて死んだ。
その逆、敵スライムが突っ込んできてもルナにはダメージはなく敵を感電させた。【土化】と【光化】の状態で同じことをやっても敵スライムにダメージはなかったが、すり抜けたのは同じだった。
あとは【雷化】している状態の方が【雷魔法】の威力が上がっていた。
とりあえず今は敵スライムとナメクジたちにはスキルの発動はさせずに倒させている。曲がりなりにも二度進化しているのだ。俺が手伝わなくともこの階層の魔物に遅れをとることはなかった。
そして三階層、四階層、とやって来て、今は五階層。
ここまで出現する魔物の種類は変わらなかった。
俺にもっとスライムをテイムさせたいのか。それともナメクジたちをテイムしろと言う邪神からの指示か…何とも言えないがやめておいた。
育てるのが大変だし、スライム以外はテイム欲が湧かない。強いて言うのなら、スライムをもう一匹なら良いかな、とも思ったがテイムするなら珍しい色がいいなと思ったので今のところテイムはしていない。
二階層で見かけたようなスライム広場に一度も出会っていないのだ。そして金や銀、マーブルのスライムも見ていない。単色のスライムばかりだ。黒と白もいいかも、とは思ったが闇属性と光属性だと思うし、それなりの数と遭遇するからテイムは見送っている。
金と対になるならやっぱり銀がいいよな。なんて安直な想いが一番強いのは否めないが。
「にしてもルナのレベルの上がりがおっそいな」
ちなみに俺のレベルはちょいちょい上がっている。おそらくクー太たちの経験値が入ってきているんだと思うが。
『仕方なかろう。スライムたちは本当に弱いようだしのう』
「それもそうか。…お。大穴みっけ」
階層を移動する為の穴は大きいから見つけやすくて助かる。
「そろそろ他の魔物が出てきてくれないかねぇ。相変わらずドロップアイテムは調味料だし」
『神のみぞ知る、だな』
「まあ神が作った場所だしな」
そして大穴に飛び込み六階層。
やはり六階層も森だった。しかし明確に違うことが一つあった。
「鳥の鳴き声だっ!」
『とりー』
「ルナは鳥を見たことないか。風月みたいな翼の生えた生き物だぞ」
『ルナも生えてるよ!』
そうなのだ。ルナは気に入ったのか頭頂部に羽根を生やしたままなのである。
『ご主人よ。後方の木の上に…』
「おっ。鳥か」
『いや、セミがおるぞ』
「は? …セミ!?」
背後の木を見ると、これまたバスケットボールサイズのセミがいた。
しかもだ。どうも鳥の鳴き声らしき音はそのセミの方から聞こえるのだ。
「あの木のどっかに鳥が隠れてるのか。木を揺らせば落ちてくっかな?」
『ご主人…? チッチッと鳴いておるのはあのセミだ。どう見てもな』
ついに孤鷹のアルファ以外の鳥をテイムできると思ったのに、鳥の鳴き声の正体はセミ? そんなのは認めん。
『ご主人様、あれが鳥なの?? 初めて見たっ』
「風月。それはお前の気のせいだ。そしてルナ。あれは鳥じゃない。虫だ」
『そうなの? 鳥見たかったなあ』
「きっと上の方にいるさ。とりあえずあの木に攻撃してみる」
チッチッチッと鳴き声が聞こえる。ミーンミーンと言ったセミの音ではない。だからあのセミ以外にも鳥はいるはず!
『そんな認め難いことかのう…?』
風月が何か言っているが右から左に流しておく。
「【風刃】!」
ガッ!
【風刃】はセミを両断しながら木を切り倒していく。




