閑話 ニヒリティ
今回は邪神から見た閑話です。
久々に文字ばかりな気がします…!
本編は…中途半端なところで閑話入れることになってしまったので、本日中に書けたら投稿しようかと思います( ゜д゜)
注:悪い邪神ではなく良い邪神
…だと思います笑
温い目で見ていただからと有り難いです。
「さて。いいかい? これでもう後戻りはできない。そして僕らは人々を動物たちを地球の環境を殺すことになる。本来、最低限の干渉だけしかしないと決め、見守ることを是とした僕らがだ。しかもこれから手を出すのは、僕らが今まで何もしたことがなく、僕らへの信仰も神話などの物語もない異世界だ」
神たちに問う。今更不要だとわかってはいるが、不安になる。僕は創造神から分離した神だからか、不完全なのだろう…。精神構造が神として脆い自覚がある。
「ニヒリティ。今更だろう。何度話し合ったと思っているんだ」
「そうよ。これ以上手をこまねいていては私達の世界…マギアも地球も手遅れになるわ」
筋肉質で僕より体躯が二倍ほどある獣神のベスティエと妖艶という言葉が似合う魔神のレーツェルは呆れたように言う。
「それに…地球では僕らは力も制限される。正の感情でも負の感情でも僕らに関心さえ集まれば僕らの力にはなる。だから好意よりも悪意…簡単に集まる負の感情を人間たちから引き出そう。憎まれてもいい。一度そう結論は出したけれど…そう言っても、魔力を持つ人間達の僕らに対する感情が負のみになり、更にそれが高まり過ぎたら、堕神する可能性は否定できない」
堕神したら理性を失う。元創造神のように暴走し、他の世界に迷惑をかけることになるかもしれない。だからこれは賭けだ。
「とりあえず矢面に立つのは僕だけど、僕以外の神に対しても影響はある。本当にいいのかい? 堕神する可能性も、消滅する可能性も僅かだがあるんだ」
「今更だと言っておるのだ。お前は確かに元創造神かもしれないが、お前と元創造神は性格も神格も違う。この中では一番の新人と言ってもおかしくないのに、お前は自分が矢面に立つと譲らん。ならば我々もそれくらいのリスクは負うに決まっているだろう」
「そうよ。貴方が知識を引き継いでいても私たちの方が何万年も歳上なのよ? 堕神した者だって見てきたし、創造神が暴走した時にも近くにいた。理解してるわ。確率は低いし、そうなったら仕方ないわよ」
ベスティエとレーツェルがそう言うと他の神も追随する。
そんなことはわかっている。けれど、分離したとはいえ、元は創造神…僕の責任と言ってもいいのだ。それに未だに僕の役割は創造の神で他の神の総括だ。
「わかったよ。なら方針の変更はなしだ。最後にこれからすることを確認するよ」
正直やりたくない。本来別の世界の者が手を出すべきではない。けれどこのままでは不味い。昔の創造神なら地球は見捨てていただろうが…どうも僕は神としては出来損ないなのだろう。一人でも多く救いたいと思ってしまう。いや、人間だけではなく他の生物も、この美しい星自体も。地球が消滅したらマギアにも影響があるというのも理由の一つではあるが…。
「まず…今地球に流れ込んでいるマギアの魔素をできるだけ取り除く。それと同時に僕らで魔素を生み出す。魔素が霧散しないようにある程度の植物は先に魔化させる」
「魔力樹はどうする? すでにマギアの魔素で育っている。我らが魔素を生み出したとてアレの成長は止まらんぞ」
「そうねぇ。まだ被害が出るほどに成長していないけど…あっという間よ?」
マギアでの魔力樹は大気中の酸素や魔素を浄化し循環させる木だ。正しく育てれば。という注釈はつくが。苗木の状態までなら害はない。
苗木を埋めたところに魔石を砕いた肥料を敷く。そうしなければ周りの動植物を吸収し、成長するための魔力を集める。
だからこのまま何も対策しないなら魔力樹は周りの物を吸収していくだろう。けど…。
「すでに把握し切れないくらい、いや、把握していたとしても対処するのにどれほど時間がかかるか。それに今ある魔力樹を取り払っても魔素に適応出来ず多くの生物が死に絶えることには変わらない。それならこれ以上マギアの魔素に侵蝕される前に、僕らが手を出した方が適応できる者は多いだろう」
それに僕らの魔力を満たせば、それを吸収した魔力樹が生物を吸収しなくても良くなるかもしれない。
「そうねぇ…仕方ないわね」
レーツェルに続き他の神も仕方ないと頷く。できるなら仕方ないで済ませたくはなかったが…。
「魔素が満たされたら僕がこの世界の人間に声をかける。僕に悪意が向くようにね。それからはしばらくは次元の穴を塞ぎながら見守る。そして協力者たる人間が出てきたら助力を乞う」
助力してくれるかなんてわからない。手っ取り早く力を集めるために不興を買う。いや、怨まれると言った方がいいだろう。だけど後手後手になってしまった今、打てる手としてはこれが一番だ。
「人間に助力を求めるのもそうだが、現地の魔物たちにはどうするのだ」
ベスティエが言っているのはガルーダや天狗、河童など地球に生息している知識ある超常のことか。彼らはマギアから紛れ込んだ魔物か大昔からいたこの世界の生物、または突然変異だ。
どのようにして魔素のほとんどない世界で生きてきたのかわからないが…いや、魔素がない世界でも力を使いすぎなければ問題ないか。それか御伽噺や伝承に語られていたおかげで魔素が少なくてもなんとかなったのだろう。
人間の信仰…とまではいがないけど人々の想いによって存在を保っているとしたら僕らと似ている。
「確かにその話はしてなかったわね。長生きして知能の高い者も結構いるみたいだし、話を聞いてみてもいいんじゃない?」
「それは彼らが魔素の影響で狂わず、成長していくなら考えよう」
「二十四時間の間は魔素が安定しない。だから皆は不測の事態に備えてほしい。ステータスやスキル、創造する魔物はマギアの世界の法則を元にこの世界の神の知識を混ぜる。この世界の神の知識を混ぜた結果、魔物と人間の勢力バランスがどうなるか予想はできないけれど…それでも、ずっとこの地球を見守っていた神の遺したものは使いたい。いいよね?」
「もちろんだ。ニヒリティがそうしたいのならそうするがいい。我らはそれを支える」
「ベスティエ。ありがとう」
そして二十四時間の間は特殊な称号とスキルを付与することにした。
汎用…適性があって、努力すれば覚えられる基礎スキルなどを与えるのはそう力も使わないが、法則外の特殊スキルを与えるのはだいぶ力を消費する。
だから時間と人数を制限し、そのスキルを獲得した者を優先して観察、手助けをすることにした。
細かいところを詰め、魔素を満たすことに成功した。
「二十四時間経ったね…。どうだい? 各々期待出来そうな子はいたかい?」
「我の担当の国では今のところ見どころのある者はいないな」
「私の方はいたわ。ただ魔力樹の被害で家族を亡くしたみたいだから協力してくれるかはわからないわ」
「レーツェル。それは仕方ない。時期が来たらちゃんと説明しよう」
誠心誠意ね。僕の担当…日本にも面白い子たちがいた。彼らがこれからどうなるのか…。
「協力してもらわなければ彼らだって無事では済まないのだから協力するだろう」
「ベスティエ。確かにそうかもしれないが、時がきたら謝罪をして説明をしたい」
「わかった」
やっぱりベスティエたちとは人間に対する考え方が違うな…
「じゃあ人間たちに念話を飛ばすね」
負の感情を集めるために出来るだけ挑発するように。けどやり過ぎはよくない。心が折れたら、なにをしてもどうしようもないと思われたら駄目だ。けど…これは僕のわがままだけれど、出来るだけ嘘は付きたくないな…。
さあ。やろうか。
《やあ。人類諸君。聴こえているかな?》
人々の声を拾う。聞こえているみたいだね。
《僕が世界を変革してから二十四時間経ったよ。魔物が現れ、スキルが発現し、魔法が使えるようになった世界はどうかな?
突然魔物やステータスが出て戸惑う者、活発になる者、順応する者、そもそも気づかない者。色々な反応が見れて面白かったよ》
……面白くなんてない。他の神はなんともなさそうに、「人はいつか死ぬ。そういう運命だったんだ」そう言うけど僕はそう割り切れない。
《ああ。自己紹介を忘れていたよ。僕のことは神とでも邪神とでも呼んでね。幾星霜と不干渉を貫き君達を見守っていた神が消滅して、代替わりとして僕が生み出されたんだ。
そしてこの変革は僕なりの君達へのプレゼントだ。
人間の文化は面白いし、どんどん新しいものができて素晴らしいと思う。
ただ、前神から記憶を引き継ぎ、君ら人類を観察した結果、僕なりに思うところがあってね。変革することにしたんだ》
異次元世界からこの世界を乗っ取った、とは言わない。事実、地球の神知識を引き継いだ結果、僕だけはマギアの神であり地球の神でもあるから嘘ではない。
この世界の人間の文化が素晴らしいのも、思うところがあったのも本当だ。
《変革された世界は魔物や悪魔、神話生物や妖怪、魔法や超能力。そういった人間にとっては想像の物だったものが現実として現れるように世界を変えてみた。
この先人類がまた世界を席巻するか。
魔物が人類を蹂躙するか。
それとも、こんな世界になってもまた人類同士で争うのか。僕にもわからないし、予想もつかない。そんな世界に変えてみた》
ごめんね…。
《割と適当に変革したせいで人類が結構死んでしまったし、力関係だとかバランスとか気にしないで作ったから混沌とした世界になるだろうね》
そう。適当。被害が最も抑えられるようにはしたけどたくさんの人が死んでしまった。それに力関係がどうなるのかも本当にわからない。出来る限り僕は人間の味方として行動していこう。
《そしてさっきまでの二十四時間はお試し期間。日が経つごとに既存の動物はどんどん強くなるし、未知のモンスターと呼ぶべき生物は昨日よりもたくさん現れるからね》
気をつけてと。どう対処すればいいか言えるなら言いたいよ…。
《あ、そうそう。魔物を倒すとレベルが上がるのは知っているかな?魔物を倒すとその魔物が死んだ時に霧散する魔素を吸収し、レベルアップという形で表しているんだけどね。調整を適当にしたせいで急激に魔素を吸収しすぎて死んでしまう人類が結構いたんだ。だからこれは調整させてもらったよ》
マギアの基準で、人間にとって適当な調整をしたつもりだったんだけどね…。魔素を持たない人間には厳しかったのかな。それともこの世界の人間が魔物を狩ってレベルを上げることに関して想像以上に積極的だったためか…。理由はわからないけど再調整は必要だった。
《だから今までよりレベルが上がりにくいかもしれないけど頑張って。ステータスも少し変えてみたから是非活用してほしい》
この世界の人間に合うように適宜調整は必要かもしれないね。
《さて、これは日和見になっている人間達への忠告だ》
日和見になったって仕方ないのにね…。煽るように発破をかけるのが正解なんだろうか? いや…これでいい。何度も考えたじゃないか…。
《僕は力を使いすぎて元に戻すのも、また変革するにも何百年先になるかわからない。まあ戻す気もないけどね。だから元の世界に戻ることは期待しない方がいいよ?だから頑張ってこの世界で生きてね》
これは完全に嘘。ここまで満ちた魔力を消し去ることはほぼ不可能だし、出来ても人間も魔物も死ぬ。生き残る可能性は一パーセント以下だ。だから頑張って生きていってほしい。
《そして…全ての人間へ。この混沌なる世界で、僕も君達も楽しめることを願っているよ》
出来るだけ楽しんで欲しい。苦しいだけが全てではない。落ち着いたら人間が作った過去の娯楽を再生させるスキルや娯楽施設を僕が作ってもいいだろう。力が余っていればだけど。
「ふう…」
「ニヒリティ…」
「レーツェル? なんだい?」
「その軽薄そうな声音と話し方はなんなのよ」
「この方が煽られている気がしないかい?」
「ニヒリティ…あなた…」
「そんな顔で何を言っている。煽りたく無いのなら煽らなければいい。煽るのが正解かもわからんのだ。下手なことをしない方がいいこともある」
ベスティエの言う通り、確かにそうだ。だけど少しだけ未来視のできる僕としては、このやり方が一番良かったと思っている。
「ニヒリティ。必要なことだけ伝えて後は地球の人間に任せておけばいいだろう。お前は充分、人間たちに介入し、出来るだけ生き残れるように苦心している。お主がそんな辛そうな顔でやることないだろうとは思うのだがな。人間に対して感情移入しすぎだぞ。何故なんだ。創造神は人も動物も区別せず、無関心だったぞ」
「ベスティエ…。それは僕にもわからないよ。創造神から分離した時から僕は前の創造神とは違う。僕が神としては出来損ないなのはわかっているよ」
でもそんな割り切れるものでは無いよ。
次話は本編です。
邪神の閑話はあと2話ほど載せたいと思っていますが、それはまたそのうち…(>人<;)




