173 宝の持ち腐れ
「ルナよろしくな」
『え? え…?』
「マコトだ。まあ主でもご主人でもご主人様でもなんでも構わないが」
マコトって呼んでくれる魔物はいないんだよな。
『わか…りました。ごしゅじんさま』
随分と舌足らずだな。テイムした頃のクー太よりも…ビャクヤがこんな感じだったか? いや、それより幼い気がする。
「じゃあルナ、一旦ここから少し離れよう」
『るな…? わたし…のなまえ…ルナ…?』
「そうだぞ」
『るな…ごしゅじんさま…にんげん? げんじゅう…すらいむ…』
どうしたんだ? テイムしてこんな反応されたのは初めてだ。
何かを確かめるように単語を口にするルナ。
「こやつ、元々自我らしい物が全くなかったのではないか? お主が戸惑っておるということは今までテイムした魔物にこういう反応するやつはいなかったのだろう?」
『だれ…?』
近づいてきた風月に怯えるルナ。
「仲間の風月だぞ。それで、風月。自我らしい物がなかったって?」
「お主にテイムされる前でも、魔物は食料を調達したり、眠ったり、戦闘だったり、戦闘から逃げたりと多少なりとも物事を考えたりするだろう? そしてお主にテイムされると明確な自我とお主の記憶や知識の一部が手に入る」
「おそらく、としか言いようがないが、そうだろうな」
テイムについても知識があるんだな。おそらくって言うことが多いが、それでも推測してくれるのは助かる。自分で推測したって合っているかわからなくて考えるのが面倒になるし…。
「考える頭があればそれで問題なく適応できるのだろう。だが、さっきも言ったようにスライムとは空っぽの魔石を核とした魔物で、おそらく生きるという本能しかないのだ」
「でも襲ってきたぞ?」
「あれは生きるための食事のつもりだったのだろうのう。ここにいるスライムが襲って来ないのは飢えてないからではないか? ほれ、よく見てみるが良い」
そう言って指差すのはスライムたちの方。
陽光…ダンジョン光に照らされて木々の上や倒木の上、草の上を這い回ったり、ジッと動かないスライムが目に入る。
「なにかあるか…?」
「ここはダンジョンの光がしっかりと当たっているだろう? 天井にある光から魔素が降り注いでおるから、それを餌としているのだと思うぞ」
…よく見ろって魔素を見ろってことかよ。
そんなこと言われても見えねぇよ。まず肉眼で魔素って見えんのか? そんなことできんの精霊だけだと思うが…。
あ、一応俺も精霊よりか。
「魔素なんて見えないからわからん。それに飢えてないのに缶詰に反応したぞ」
「それはお主…あれだけ濃い魔力で包めば誘われる個体がおってもおかしくはなかろう」
ああ…ちゃんと魔力で包めてたんだな。
「襲われなかった理由はわかった。それで…なんの話だっけか」
「自我の話だ。結論としては自我というものはほとんどない魔物だったから、お主の知識を得たことによって戸惑い、今情報を整理しているのではないか?」
「あー、そう言われるとそうなのかもしれないな。未だにぶつぶつ呟いてるし。少し放っておくか」
「それがよいの」
ルナを抱え上げて少し移動する。大丈夫だと思うが、あそこにいるスライムたちが一斉に襲いかかってきたら困るしな。
さて、ステータス確認しますか!ルナのステータス表示!
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個体名【ルナ】
種族【スライム】
性別【メス】
状態:【 】
Lv【3】
・基礎スキル:【分解Lv1】
・種族スキル: —
・特殊スキル:【雷魔法】【土魔法】【光魔法】
・称号:【金色魔素体】
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は?
【雷魔法】【土魔法】【光魔法】? 三属性の魔法スキル?
「バグか」
「どうしたのだ?」
ああ、風月にはステータスは見えないか。
「スキルに【雷魔法】【土魔法】【光魔法】を持ってるんだが」
「ほお。このスライムは優秀なようだな。金色のスライムは三つも使えるのか」
ん? 金色のスライムは?
「どういうことだ?」
「全てを知っているわけではないがな。青は【水魔法】、赤は【火魔法】、緑は【風魔法】が使える。青は進化すると【氷魔法】を使えたりするがな。進化していない個体だと、我が知ってるのは一つの属性しか使えぬ個体だけだな」
「へぇ。特殊スキルと基礎スキル、あと種族スキルにもあるか? 【風魔法】とか同じ名前のスキルって存在するだろ?」
「あるのう」
「何が違うんだ?」
「同じだのう」
「は?」
「スキル名が同じなら同じだ。カッコ付きで〝特〟や〝全〟、〝限〟などあるだろう? そういうものがついておればまた別物のスキルだがのう。神が作ったシステムだ。正確に把握しているわけではないが、取得した手段によって記載されている欄が違うだけだろう。もちろん特殊スキルには特殊な物が多いし、基礎スキルとしては手に入れられない物があるがのう」
「そうなのか…。〝限〟は見たことないが…今更だがお前はステータス見れるんだな。魔物たちは自分のステータスは見れないみたいだぞ」
「それはステータスを見る為のスキル有無や知識不足だと思うがのう」
「ああ、そうか。そういえば【精霊魔法】で簡単な鑑定はできるって言ってたな」
「うむ」
「まあ話はそれたが…ルナは優秀ってことでいいんだな」
「そのようだのう。雷や光の属性も持っているとはのう。ああ…言っておくが、どれだけ優秀な魔法スキルを持っていてもスライムは成長してもそんなに強くない。魔力も大したことないからのう。お主のように自然破壊するような魔法は使えぬぞ」
「え…進化してもか?」
「うむ。我の知る限りはな」
うわぁ。宝の持ち腐れだな…。
「…まあいいさ。弱いなら弱いで戦闘以外のことをして貰えばな」
枕代わりとか…? 癒し担当? 癒しになるもふもふはたくさんあるし、それはいいか。【分解】を持ってるしゴミを処理してもらうとかな。
未だにぶつぶつ呟いてるルナを撫でる。触り心地はすべすべで金属というか研磨された石といった感じだが、もちもちとして柔らかな弾力がある。
すべすべもちもち…いや、すべすべぷにぷに? 枕にしたら怒るだろうか? 枕にしてみたい。
『ごしゅじんさま?』
「お、ルナ。大丈夫か?」
残念ながら目や口はなくつるんとした球体なのでどこをみているかはわからないが、なんとなく俺を見ているんだな、わかった。
『うん。るな、ごしゅじんさまのはいか?』
「配下だし仲間だ」
『るな、やくにたてる?』
「まあ、無理はしなくていいぞ。これから強くなろうな」
『うんっ』
……クー太やビャクヤとは比較にならないほど幼いな!?
こいつを戦わせるのか? もう少し成長してからでいいか…。
「ご主人。【恩寵】は使わぬのか?」
「うーん…やっぱりある程度成長してからの方が効果が高い気がするしな」
「まあ、ご主人がそう決めたなら構わないが」
「ああ。まあすぐに気が変わるかもしれないし、ルナの戦闘を見てから決めるかな。スライムやナメクジを問題なく倒せそうならやめておく」
『おんちょー…ごしゅじんさま、なにかくれるの?』
「そのうちな。スキルの確認をしたら一度戦ってみるか」
『たたかうっ』
戦えるのかわからないけどな…。
スキルの詳細を確認っと。
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【魔素分解】
・体内に取り込んだ物を魔素に分解する。
・取り込んだ物の含有魔力・魔素量によって分解速度は変わる。また対象が生物の場合は魔力量とレベル、種族によって分解速度は異なる。
【金色魔素体】
・雷、土、光の属性の魔素により構成された魔素体。
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