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170 訓練の意義

 

 ゆっくりとしばらく落ち続けると、トプンッといった感触とともに光が見えた。


「階層を超えたな」


 隣の風月がそう言う。


「今の変な感触か?」


「多分な。一階層と二階層の間にある結界のようなものだろう」


 へえ。

 下を見ると森が見えた。


「なんでそんなこと知っているんだ? 契約したのは初めてって言っていたのにダンジョンや邪神、人間について色々知っていたみたいだし」


「別に契約していなくとも精霊の世界から人間たちの住む世界へ行くことだってできるからのう。遊びに行くこともあるし、人々の生活を観察することもある」


「へえ? 地球にも精霊なんていたのか」


 いや、巨大鳥や天狗だのも居たみたいだし、おかしくはないか?


「地球? それはどこだ?」


「は? 地球は地球だが…」


「マギアの何処かの国かの?」


 ……ああ。つまりこいつのいう人間の住む世界って地球から見た異次元世界のマギアのことか。

 地球にも精霊がいるんだと思ったわ。


 そんなことを話しているうちに地面に降り立った。


「お前に運んで貰うのは結構快適だったな」


「それは良かった。また次の階層に行く時もやってやろう」


 ふふっと上品に笑う風月。


「おう。頼んだ。あーっと。それで、話は戻るが、地球ってのはお前の言うマギアと…隣り合ってる? 重なり合ってるのか? 詳しくは知らんが、近い異次元世界だな」


「…もしや、魔素がほぼ存在しない世界か?」


「多分そうだな」


「なるほど…」


 地球の存在自体は知っているらしい。


 次元に穴が空いたとか、先代の創造神がとか、魔族がとか…言いたいが、詳しい内容は邪神が他言無用とした内容だし、どれが契約に引っかかるかわからないから教えられない。


 つい最近魔素や魔力というものが現れ、人間社会はまともに機能していないこと。魔物の存在や魔法、レベルアップできるようになったことも最近の出来事であること。そしてそれは邪神が色々とやったらしい。そう言うだけにしておいた。


「ではお主…見た目通りの年齢かの?」


「そうだが? 不老になったのなんて何時間前? もう1日経ったか?」


【不眠】のせいか、陽が出てないところにいるせいか時間感覚が曖昧だ…。


「つまりひと月経たずに精霊種へと進化した、と?」


「お、おう」


 とても真剣な目が俺を射抜く。


「ふむ…」


 そう呟くと何か考えるかのように腕を組む風月。

 そして風月の背後で蠢めくスライムたち!


【風球】!


 手加減をしたつもりが、飛散するスライム。

 十匹ほどいたスライムはどれだけ手加減をしても全て飛散してしまった。

 だが、スライムはダンジョン産でないことがわかった。ドロップアイテムを残さず…ある意味ドロップアイテムかもしれないが、見慣れた魔石を残したのだ。


「ご主人」


「ん? もういいのか?」


 スライムの魔石を拾っていると風月に呼ばれた。


「ああ。すまぬのう。創造神の手紙の内容がやっと納得できた。予定通り我は戦闘には参加せぬ。だが口は出させてもらうぞ」


「それは構わんが…唐突になんだ?」


「お主は言葉を濁しておったが、我だとてある程度のことは知っておるからのう。マギアの次元に穴が空いておることも、魔族が侵入していることもな。魔族がマギアに入ってきてから我ら精霊はマギアへ行くのを控えておるから今どうなっているのかわからぬが」


 なんだ。知ってたのか。


「それでのう。お主を仲間から引き離す理由がよくわからなかったのだ。お主が一人で戦うと言っていたのはただ単に戦いたいからだろう? それはいいのだ。だが、創造神がそうする理由。それがやっとわかった」


「お、おう。そんな睨み殺すほど真剣な顔をするほど重要なことか?」


「ああ…すまん。色々と考えていたからのう」


 そう言って皺を伸ばすように眉間を揉む風月。


「お主は…おそらく地球の者もだが、急激な魔素の吸収、創造神のバックアップがあっての急成長。それで色々とチグハグなのだ。心技体…マギアの世界の人間はレベルが上がっただけでは進化せぬ。お主らはレベルが上限に達すれば進化するのだろう?」


「進化するな」


「精神の研鑽、種族スキル、基礎スキルの研鑽。そしてレベルアップに経験…職業に沿った経験だな。そういったものが蓄積され、体と心が成長すると進化できるのだ。だが、お主たち地球の者は違う。創造神が何かしているのだろうが…そのままではいつかは体か心が壊れる。お主ほど急激に成長していれば尚更な」


 は?


「待て待て。このままだとまずいのか?」


「うむ。まあ今すぐどうにかなるわけではない。だが、このまま成長を続ければそう遠くない未来…数年後には廃人になるか、死ぬだろうな」


 …っ!


 そういえば…邪神が初めの頃のアナウンスで急激に魔素を吸収して多くの人間が死んだみたいなこと言っていた気がする。あの時適応できた人間もいつかはそうなるのか…。


「…数年は困るな。せめて二十年…いや、魔物の寿命ってどれくらいだ?」


「魔物の寿命? 個体によって差はあるが…魔力量の多い魔物のほど長生きするのう。それなりに強い者なら百年二百年は生きるのではないか?」


 それはダメだ…!


「せめて二百年…クー太たちが生きてる間に死にたくはないな…」


「クー太…その魔物がどれほど強く魔力を持っているかは知らぬが、お主が頼るほどなら相当強いのだろうな。それなら長生きするだろう」


 あいつらを残していくのは今の俺にとって一番嫌なことだ。なんとかなるなら面倒でも頑張るが…。


「このままだと長くないなら、こんなところにいないでクーたちと余生を楽しみたいな」


「何故諦めるのだ…。もっと足搔いてもいいだろうに」


「いや、邪神のやつそのことを説明しなかったしな。簡単にどうにかなるなら教えてくれてるんじゃないか?」


「何故言わなかったか…か。推測でしか言えぬが、言う必要がなかったからではないか? それを言って余計な不安を与えないようにと」


 それはないだろ。


「というか言う必要がないって、やっぱりどうしようもないのか?」


「言ったであろう。このまま成長を続ければ、と。おそらく大丈夫だ」


 風月がそう言って優しく笑う。つまり対処法はあると?


「単に肉体と精神、そしてスキル。お主のチグハグなそれらが、ちゃんと噛み合えばよいのだ。だから創造神はお主に頼りにする仲間たちから離れ、一人で鍛えるように言ったのだと思うのう。ここ魔素は神の神聖な力も混ざっているから、ここで魔素を吸収し続けても体に害はないだろう。お主のための魔物と場所をキチンと用意してくれたのだろうな。ここで鍛えればおそらく魔素の影響で死ぬことはなくなる」


 だからスキルを活用しろ、対人の訓練をしろ、魔法やスキルを使う魔物を参考に鍛えろと言っていたのか…? あー…感謝したくないが…感謝するしかない、か。


「わかった…消滅するまで殴るのはやめる。感謝すべきだろうしな…泣くまで殴るだけにしておく」


「何故そんな悲痛な顔で言うのだ!?」


「なんか悔しい」


 振り回されてるのは事実なんだから殴るくらい許されるだろ。許されるよな? 許されなくても殴るが。


「ふはは…! 我ご主人は愉快だのう。創造神に感謝し信仰するのではなく、殴るのは泣くまでにするとは…。マギアの人間たちでは想像できぬな」


 信仰心ねぇ…想像できん。マギアはどうか知らないが、地球…いや、日本人なんて結構そういう奴多いと思うぞ。


「それで、スキル訓練すれば良いのか?」


「体と心も鍛えないとな。おそらくお主が何も意識せずとも、このダンジョンをクリアすれば問題はないのだろう。全て我の予想だが、そうなるように創造神が作った可能性はあるしのう。だが…我がお主の訓練メニューを考えてやろう!」


「…面倒だな」


「何故だ!? 訓練が嫌いなわけではないだろう? 鍛えて戦うのが好きなのだろう?」


「そりゃそうだが…他人にアレコレ言われてやるのと、自分でその時の気分で訓練するのじゃ全然違うだろ」


「それはそうかもしれないが…」


「まあ、風月が訓練メニューを考えてくれたらやってみるよ。嫌になったら自分なりに息抜きやアレンジをいれてやれば良いし」


「そうか! なら張り切って考えてやろう! だがまずは、お主は手加減することを覚えるがよい。スライム相手にあんな火力出してどうするのだ」


 見てたのか…。


「元からそのつもりだったよ。スライムをテイムしたいのに即死させてたらテイムできないしな」


「頑張るが良い。我はお主の戦い方を見ながらどんな訓練が必要が見定めておくのでな」


「はいよ」


 なぜか凄くやる気になっている風月を後目にスライムを探しに森の中を進んで行く。



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