169 大穴
そんなスキル持ってないだろ?
「鑑定のスキルはないが、【精霊魔法】で鑑定の魔法ならできるのでな。名称しかわからないが」
【精霊魔法】万能かよ。
「充分だろ。というか鑑定スキルと鑑定の魔法ってどう違うんだ?」
「ん? そのままの意味だが…なんと言えばいいかのう…。鑑定のスキルがちゃんとした鑑定だな。それで魔法の方は、【精霊魔法】で鑑定スキルを模倣したもの…と言えばいいだろうか? 模倣鑑定とでも呼べばいいかのう?」
魔法とは違うスキルを魔法で模倣か…。
「なあ。【精霊魔法】って俺は使えないのか?」
「我が憑依したり、お主が同化するスキルを持っていて同化した場合なら使えるのではないかのう? やってみんことにはわからぬが」
「お前の力を借りずには?」
「うーむ。わからんの。人種が元になっているとはいえ、精霊種ならば使えるようになるのではないか?」
おっ。まじか。
「コツ教えてくれ」
「生まれた時からできるのでな。コツと言われても困るのう。イメージすればいいのではないか?」
「雑だなおい」
どんな魔法、スキルも結果のイメージは大事だろ。イメージせずスキル名を口にしただけで発動するものなんてあまりないだろ。
「そう言われてもなあ。わからないものは仕方ないだろう?」
「はあ…。まあおいおい練習するか」
忘れなきゃ。忘れっぽいからな…メモでもしておけばいいのだろうが…面倒だし。几帳面な性格じゃないしな。
「おっ」
突然、風月が声を出した
「ん? どうした?」
「ほれ、そこ見てみるが良い」
風月の指差すところを見ると、ぼんやりとした半球の光が地面から盛り上がっていた。
「なんだあれ」
「魔物だろうな。生まれるところだろう」
へぇ。
じっと見ていたらぼんやりとした光が消えナメクジが生まれた。
「またナメクジかよ…」
すぐさま【火球】を放ち燃やす。ドロップアイテムはまたもや塩だった。
「お互いのこともある程度わかったし、そろそろ移動するかの?」
「そうだな。早く強くなってここから出たいしな」
移動…と言ってもどうすればいいのだろうか?
四方は壁に囲まれていたし、扉はなかったよな。
他のエリアに移動する階段か魔法陣でもどこかにあるのだろうか?
ざっと見渡すがそれっぽいところはない。つまり、もし、ここ以外の部屋、もしくはエリアに行くには倒れた木々や、葉や草、土埃を退かして出口を探さねばならないということだ。
俺のせいだが…なんという手間だ…。
「む? 行かないのか?」
「行くも何も、どうやって他の場所に行くのかわからない。階段なのか、移動するような魔法陣があるのか」
「階段でも魔法陣でもないが、下に降りる穴は先程あったぞ? 気が付かなかったのか?」
「本当か!? どこだ?」
「本当に気付いてなかったのだな…。どれだけ破壊活動に熱中していたのだ…」
「その言い方は凄く不本意なんだが。破壊活動をしてるつもりはないぞ。ただ少しイライラしたから発散していただけで…」
「ご主人」
「な、なんだよ」
突然すごく真面目な顔をした風月に見つめられる。いや、睨まれると言った方が正確か?
「我ら精霊…いや、魔物もそうだが、大半の者は自然を好む。そして自然とともに過ごす。人間のように草木などの全くない場所でずっと過ごすのは辛いものがある。ここはダンジョンだからの。破壊しても魔素が満ちれば短時間で元に戻る」
「ああ…」
「だから我もとやかく言わぬが、ダンジョン以外で少しイライラした、程度で木々を全て薙ぎ倒すようなことはやめるのだ」
「いや、やらねーよ。俺をなんだと思ってんだ」
「まだお主のことはそう多く知らぬ。だが実際にここを破壊し尽くしただろう?」
「まあ…そうだな。気をつけるよ」
「お主が善良な人間なのは魔力の質や魂の質でわかる。契約に関しても不満ない。だが自然は大切にしてくれ」
「ああ。大丈夫だ」
多分…。気をつけよう。ダンジョン以外でやったら本気で怒られそうだ。
「まあ良い。そうなった時は我が止めてやる。それに破壊された自然を癒すこともできるしのう」
あー、うん。【精霊魔法】万能だな。
「それで穴だったかのう? 案内する。こちらだ」
風月の後について行くとそう遠くない場所にその穴はあった。
「デカくないか…?」
俺と風月が並んで大の字になっても余裕で入れるほどの幅の大穴があった。
「破壊活動の時にうっかり落ちなくてよかったのう」
本当にな…。気づかずこんな大きな落とし穴に落ちたらパニックになりそうだ。
「それで、ここから降りれるのか?」
「おそらくのう」
「なんだそりゃ」
「風が吹いておるから何処かに繋がっているのは確かだろう。周りを観察しながらお主の後を追っていたが、ここ以外にこの階層から出られそうな場所は見当たらなかったのでな」
「そうか…」
底が見えない。下に繋がっているのなら光が見えてもいいと思うんだが…。
「ほれ、行くぞ」
風月がそういうと風に包まれ体が浮いた。
「おお…! 風の魔法か?」
「そうだ。お主飛べぬだろう? 流石にどれくらい落下するかわからぬから浮かせた」
「飛べるぞ? でも自分で飛ぶのとは違うな」
「お主飛ぶこともできるのか」
呆れたような視線を向けられるが、そこは感心した視線を向けて欲しい。
「お主、先程戦い方とスキルを説明した時、面倒臭がって端折っただろう」
「わざわざ全部のスキルを言う必要も無いだろう? 多いし、全部読み上げるのは面倒だ」
「全く…。随分と面倒臭がりなご主人と契約してしまったものだ」
「契約に不満はないんじゃなかったか?」
「ないぞ。ただお主の性格への感想だ」
さいですか…。面倒臭がりですまんな。それはもうどうしようもないわ。面倒なものは面倒だし。
「自分の力で飛ぶか?」
「いや、このままで」
風に包まれる…【風繭】と似ているが、より力強く包まれている感じは悪くない。何もしなくても、それこそ何も考えず脱力していても動いてくれるのもいい。
「では行くぞ」
そして俺と風月はダンジョンの二階層目に続くであろう大穴へと飛び込んだ。




