168 塩
えーと…?
「なんでお前…レベルが無いんだ?」
「それはのう…我ら精霊は契約主と一心同体。契約主が強くなれば我も強くなる。だからスキルレベルはあれど、魔素を取り込むことで上がるレベルというものはないのだ」
「じゃあ俺と同じ魔力、身体能力ってことか?」
「身体能力はご主人の半分で、魔力はわからぬが、ご主人よりも多いのは確かだのう」
「なんでだ?」
「ご主人の身体能力と魔力が我の能力値に約半分上乗せされるのだ。だが精霊は元々肉体は無く、この肉体は契約によって契約主に合わせた仮初の肉体なのだ。だから身体能力は皆無でな。ご主人の身体能力の半分を上乗せされると、身体能力ゼロの我はご主人の半分になるということだ。魔力量は元から多いからの。ご主人の魔力が上乗せされてどれくらいかはなんとも言えん」
まじか。人の能力値を上乗せって…なんかずるいな。
…いや、クー太たちの得た経験値が何もせずに入ってくる俺も充分ずるいか。
「レベルが上がらないってことは進化もないのか?」
「ふむ…とりあえずスキルの詳細を説明するかの」
「あ、いや、それなら見れるから大丈夫だ。先に見た方がいいなら今確認するから待ってくれ」
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【風魔法】
・風属性の魔法が使えるようになる。
・風属性で出来ることに限るが、イメージと魔力次第で風属性の現象を起こすことが可能。
【精霊魔法】
・精霊魔法が使えるようになる。
・自身の魔力ではなく大気中の魔力を使用する。
・攻撃系魔法の威力・規模は属性魔法より低いが、補助系魔法の威力は高い。
・使える魔法は個体によって異なる。
【精霊覚醒】
・契約によって得た肉体から魔力体になる。
・魔力体になることによって魔力が増える。
・物理攻撃が効かなくなり、精神攻撃に弱くなる。
【転生】
・魔力量が一定以上になった場合より上の位階の種族に転生可能。
・転生先は適性のある物から選択可能。
【憑依】
・称号【契約精霊】によって取得できるスキル。
・契約主に憑依可能となる。
・憑依した契約主に生命力・魔力の供給が可能。
【契約精霊】
・契約したことで与えられる称号。
・特殊スキル【憑依】。
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俺も転生欲しい。より上の位階ってそそられるな。まあ進化とあんま変わらないのかもしれないが。
「ほぉ…。こんなスキルを得たのか。面白いのう」
「は? 知らなかったのか?」
「うむ。契約して初めて見たかのう。契約するのは初めてだしのう。以前は【風魔法】と【精霊魔法】、【転生】しかなかったぞ」
他のスキルは契約してから得た物なのか。
「なあ。【風魔法】と【精霊魔法】って具体的に何が出来るんだ?」
「ふむ…。風に関する魔法はなんでも使えるぞ。魔力とイメージ次第だがのう」
「具体的にって言ってんじゃねぇか。そんなのスキル詳細に書いてあるわ」
「そうだのう…。やろうと思えば風魔法…とは言えぬかもしれぬが、風魔法の延長で雷を落とすことや、雨を降らすこともできるぞ。もちろん台風も発生させられるのう」
…天災かよ。
「【風魔法】ってどうやって覚えるんだ? 【風刃】とか風属性の技しか覚えられないんだが」
「うーむ…。人間と精霊では勝手が違うからのう。わからぬ」
チッ。
「まあいい。【精霊魔法】では何ができるんだ?」
「速度上昇や聴覚上昇、嗅覚上昇、耐熱、耐寒などだ。我が知らないだけで他にも出来ることはあるかものう。そう多くのことを試したわけではないのでな、あとは、どちらのスキルもスキルレベルが上がれば発動が早くなったり、使用魔力量が減ったりする」
ふむふむ…なんでもありってことでいいか?
「じゃあ後は…【転生】は今は出来ないのか?」
「ご主人が魔力を分けてくれれば…ご主人の生きているうちにできるのではないかのう?」
なんだそれ。どんだけ気長な話だ。
「あ。お主、精霊種だったのう。なら寿命はないか。それならいつか我が上位精霊となるのも確実に見えるのう」
何十年かかるんだよ。
「…なあ。寿命がないのは精霊種だけか?」
「いや。精霊種、幻獣種、妖精種、神族、魔族…あとはなんだったかのう…。まあ結構おるぞ? 魔物でも種族特有のスキルで不老や半不死もおるしのう」
「半?」
「別に不死と言っても構わないが…ほとんどの不死は不死と言っても殺す方法が一つや二つあるのでな。半不死と呼んでいるのだ。神族だろうと精霊種だろうと、基本的に死ぬことはない。だが殺す方法があることも確かなのだ。完全な不老不死など我は知らぬ」
「そうか…」
まあ不老はまだ許容できるが、完全な不死は嫌だしそんな興味はないな。
それよりいつかクー太たちも不老になったりしないだろうか。
数十年後俺だけ残されるなんて嫌だしなあ。まあだいぶ先の話だし今はいいか。
他のスキル詳細の内容を確認するが、本人も書いてあること以上のことはわからないらしい。
感覚でこうなるかも? ってのはあるらしいが、実際にやってみないとはっきりわからないと言われた。
自分のスキルもまともに検証してない…というより面倒で忘れてるのに、風月のスキルでどんなことができるか検証するなんて面倒だし、へーっと流しておく。
その後は俺のレベルや使用頻度の高いスキルなどを話しておく。一緒に戦うのならある程度教えておいた方がいいしな。それとレベルがないなら基本手出し無用と言っておく。
「なぜ手出し無用なのだ?」
「戦ってもレベルが上がらないんだろ? 俺が死にそうだったり、敵の数が多くて面倒な時とかは手伝って貰いたいが、他はいいよ。強くならないとだしな」
「ふむ。わかった。なら我の役割は話し相手になってしまうな」
「不満か? 戦いたいなら…まあ多少はいいぞ?」
「どれだけ一人で戦いたいのだ…。別に我は血に飢えてるわけでもないのでな。ご主人と話しながらご主人の観察でもしておるよ」
観察って…まあそれくらいしかやることないんだから仕方ないか。
それと邪神の手紙も見せた。
「本当に創造神と懇意にしておるのか。親しそうな手紙だのう」
「やめろ。あいつは殴るしいつか消滅させる。…この苛立ちを忘れてなければな」
「…忘れてそうだのう。お主、先程までものすごく腹を立てていたのに今はそうでもないだろう? 他に気になることができたり、時間が経つと興味が失せるタイプな気がする。切り替えが早すぎるしのう」
うっさいわ。否定しにくいが。だが、まだ腹は立っている。
「それで、ご主人は弱い魔物をテイムするのだな」
「いや、テイムしたことない種族はとりあえずテイムを試してみる。見た目がキモくなきゃな」
「ふむ…なら、そこにおるナメクジはどうするかの?」
は?
風月の指刺す方向を見ると大きなナメクジがゆっくりと這ってこちらに向かってきていた。
茶色…と黒の斑点がある豹柄の様なナメクジだ。
そういえば苛立ってあんま気にしていなかったが、いろんな柄のナメクジがいたな。いろんな色のスライムも。スライムは楕円形の饅頭みたいな形だ。水滴型ではなかったが定番だな。だからスライムと呼んでいるんだが。
「遅い…アレはキモいなあ。アレをテイムしたら移動速度が遅くなる」
「抱えていけばいいのではないかのう?」
「…お前が抱えるならテイムしてやってもいいぞ」
「……遠慮しておこう」
なんだよ。風月も嫌なんじゃないかよ。なら提案するな。
【火球】を放つとジューッという音がして五秒程経つと煙が出て消えた。
「こんな奴に俺は【紫紅爆】を連発してたのか…」
「まあ良いではないか。倒すのが目的というよりも苛立ちを発散するのが目的だったのだろう? ほれ、それよりも何か落ちたぞ」
風月はナメクジが消えたところまで行くと何かを拾って戻ってくる。
「なんだそれ?」
「ドロップアイテムというやつだろう? ほれ」
折り畳まれた薬包紙くらいのサイズだ。開いてみると白い粉が…結晶っぽいな。塩か?
舐めてみるとやはり塩だった。
「なんでナメクジから塩が出てくるんだ…」
「よく躊躇なく口にできるのう…」
「ナメクジの身体の一部とかならまだしも、紙にちゃんと包まれた、邪神の用意したドロップアイテムだしな。それに毒でも大抵は効かないだろうし、何かあっても…なんとかなるだろ」
「なんとかなるだろって…まあ良い。お主鑑定スキルは持ってないのかのう? ステータスは鑑定できていた様だが」
「特殊スキルのステータス鑑定しかないな」
「そうなのか。なら次からは我が鑑定してやろう」
は?




