167 誘惑?
青、赤、緑、茶、黄、黒、白のスライム。
バスケットボールくらいのナメクジにムカデ、クモ。
歯応えのない相手ばかりだが本気で殴り、全力で【竜巻】や【紫紅爆】を放つ。
どれくらい経っただろうか。魔力をかなり消費してふらふらしている自覚がある。
ドサッと地べたに座りそのまま大の字に倒れる。
「はぁ…はぁ…」
「落ち着いたかの?」
仰向けに倒れた俺を覗き込んでくる風月。髪が垂れないように横で押さえている仕草がなんとなく色っぽいなと思った。
こんなことを考えられるってことは少しは落ち着いたか…。
「多少は…落ち着いた」
「それならば良い。それにしても随分派手にやったのう…。木が全滅しておる」
「ふぅ…木がなんだって?」
「お主が暴れたからこの階層にあった森が無くなった」
「あ?」
横になったまま左右に視線を向けると、木は一本も視界に入ってこなかった。
「無事な木は…? あと魔物はまだいるか?」
「無事な木はないのう。魔物も…全滅したのではないかの? ダンジョンならそのうち再生するだろうが」
「そうか…」
はぁーー。疲れた。疲労感も頭痛が酷いがスッキリしたな。
「しばらく休むといい。その間我が見張りをしておく」
「ああ…。じゃあ、頼んだ…」
そうして眠りに落ちた。
♦︎
目が覚めると視界全てが緑だった。
なんだ…? えーっと、何で寝てんだっけ?
また酔っ払ったか…? そう思いながら視界いっぱいに映る緑色のものを退かそうとする。
「んっ」
ん? 柔らかい。
「起きたかの」
あー……。
緑色の物が動いたと思ったら風月の顔が見えた。
つまり、退かそうとしてたのは風月の胸か。そりゃ柔らかいわな。
「って…すまんな」
膝枕してくれてたのか。
礼を言って起き上がる。
「お主…」
「ん? なんだ?」
風月の方を見るとジトーっとした半眼の瞳と目が合う。
「膝枕された上、人の胸を触ったのに淡白だのう…」
「あー…いや、顔に出にくいだけだと思うぞ。全く何とも思ってないわけじゃない」
柔らかかったし。
「そうかの?」
「ああ。本当、なんで、精神体の癖に膝も胸もそんな柔らかいのか…」
「そうじゃないわ! 枯れておるのか? 干からびておるのか?」
枯れてねーよ。少しはドキッとしたわ。
「…冗談だ」
「出会って大して経っておらぬが、わかるぞ! ご主人は枯れておる!」
「んな、力強く言わなくてもいいだろ。枯れてないし。ただ…お前に色気を感じるよりも、精神体の癖に柔らかい理由の方が気になったのは事実だが」
「ほれ! 何とも思ってはおらぬではないか」
「だから、そんなことないって。充分色気は感じたり、ドキっもしたわ」
なんで俺は色気を感じたことをこんなを強調しているのだろうか…。なんでフォローしてやっているのかもわからん…。
「ならばこれはどうだ?」
「寄せるな。上げるな。揺らすな。お前はなんて言って欲しいんだ…」
胸の下で腕を組んでゆさゆさと揺らす風月。
「せっかく同じ種族の人型になったのだ。もう少し興味を持ってもらいたいと思ってのう。どうだ? 中々良い身体だと思うのだが?」
「はいはい。素晴らしいスタイルだよ」
「欲情したかの?」
「なんなんだよ…」
物凄く艶っぽい視線を向けてくる風月。俺の中でお前は既に配下で仲間で庇護対象だし、そういう目では見ないようにしてんだよ。まず、こんなとこで欲情なんてしないわ。そんな趣味はない。
「ほら、遊んでないで行くぞ」
さっきはボーッとしていたが、邪神への苛立ちで暴れたんだったか。
魔力は…ほぼ回復してるな。周りを見渡すと森が無くなって、地上にいるというのに端から端まで見渡せるようになっていた。
ドロップアイテムは…諦めるか。何がドロップしてたのかすら覚えてないし、倒木や草を掻き分けてドロップアイテム探すのも面倒だ。
「お主の戦い方は魔法がメインかの? たまに殴りかかっておったが」
「ん? ああ。武器はあんま使わないな。魔法も直接戦闘も両方やるが」
そういや、武器貰ったんだったな。
メリケンサック…無銘拳鍔を取り出し嵌める。
「ほお。魔銀かの」
「魔銀?」
「その手に嵌めたやつだ。魔銀で出来ておる。魔銀は魔力の伝導率が良いのだ。更に魔力を込める程硬くなる」
へぇ。良い武器ってことだな。
「そういえばご主人の職業を聞いていなかったのう。魔拳士か?」
「テイマーだ」
魔剣士…剣は使ってないから拳の方の魔拳士か? そんな職業もあるのか。
「は? テイマーだと? 戦闘職じゃないというのか?」
「テイマーを戦闘職に分類していいのかはわからないが」
「なんと…テイマーであの戦い方…」
「なんだよ。仕方ないだろ仲間がいないんだし。それに狸や狼が仲間と言ったときに俺がテイマーだって気がつかなかったのか?」
「いや、テイマーでなくともテイムできるしのう。それに魔物を使役する方法など他にいくらでもあるからのう」
隷属とかか。
「そういえば風月のステータスって見れるか?」
「契約して配下になっておるし、拒否する気もないのでな。お主が鑑定系のスキルを持っていれば見れるのではないか?」
「そうか。見ていいか?」
「ふふふ。そんなに見たいなら見せてやってもいいぞ」
そう言って着物の襟を掴む風月。
「…どこをだ。ステータスを見せろって言ってだ。襟を開けようとするな」
「枯れておるのう…。もっと熱い視線を向けてもいいのだぞ?」
「風月のステータス表示」
「無視とは酷いのう…」
揶揄うなっての。まったく。
————————————————————
個体名【風月】
種族【中位精霊(風)】
性別【メス】
状態【 】
・基礎スキル:【風魔法Lv7】【精霊魔法Lv6】
【精霊覚醒Lv5】
・種族スキル: 【転生】
・特殊スキル:【憑依】
・称号:【契約精霊】
————————————————————