166 契約
今週も連続更新出来ました!
誤字報告助かります!ありがとうございます(//∇//)
「契約完了だ」
そう呟くのは美人という言葉がハク以上に合う女性。
少しキツめの瞳と目が合う。二十代…年齢は同じくらいだろうか。
腰まで届くエメラルド色の髪に真っ白な肌。若草色の浴衣を胸の谷間を強調するかの様に少し着崩している。
ハクとラックも顔が整っているし、スタイルもいいが、それ以上だと思う。
「これからよろしくのう。ご主人」
そして一番の特徴は耳と尻尾。そう、尻尾だ。
「なんで狸の耳と尻尾があんだよ…。というか球じゃないのかよ。丸っこいから月って文字を入れたのに…」
「なんだ? この姿は不満か?」
驚きで、つい口に出してしまっていたようで睨まれる。
「あー、いや…かなり美人だぞ。ただ人型になるとは思わなくてな」
「契約者に合わせた姿になるのだ。人型の姿はこれで耳と尻尾が無い状態がベースだな」
「ベース?」
「人型だと見た目はこれなのだ。契約者に合わせる様に耳や尻尾、角などが生える」
「じゃあ、俺が普通の狸だったら?」
「それだと人型ではなく狸になるのう」
狸になるのか。狸人じゃなく。
「じゃあオーガだと?」
「鬼じゃな。この姿で、耳は人の物、尻尾は無く角が生えるのう」
「へぇ。面白いな」
「さてご主人。まずはご主人の名前から、何故ここにおるのか、何を目的として我を呼んだか。色々聞かせてもらえんかのう」
あー…説明が…面倒だな。
「名前はマコトだ。フウゲツって俺が使役してる魔物って扱いでいいのか?」
それなら[知識譲渡]で知識を渡せるんだが…。
いや、[知識譲渡]じゃ目的や名前とかは伝わらないか?
「使役…でも間違えではないが、正確には契約だ。そして魔物という呼称は当てはまらぬ。精霊であるからな」
「…何が違うんだ?」
「ふむ…知っておるか知らぬが神族や魔族などの精神体に近い精霊という種族だからのう。体内に魔石は存在せぬ」
へえ?
とりあえず[知識譲渡]を試してみたが何も反応がなかったので仕方なく口頭で話す。邪神との契約に抵触しない範囲で、だ。
邪神にここへ放り込まれたこと。
ダンジョンでの目的は、楽しむこと、強くなること、その上で早く最下層に到達すること。
仲間が待っていること。
簡単に説明した。
「ふむ。仲間とやらは気になるのう。それよりも我を召喚した理由を聞いても良いか?」
「手伝いが欲しかった…というのが少し。精霊召喚を試したかったのが一番大きいな。あとは最近ずっと仲間の誰かといたからな。話し相手というか共に行動する相手が欲しかったってのもあるな」
「あいわかった。特に緊急性があるわけではないのならよい。じゃあ仲間について聞いても良いか?」
そろそろ移動したいんだが…まあいいか。風月も仲間になったんだし、少しくらい。
「仲間は…たくさんいるぞ。狸のクー太とラン、グレイ。狼のハクに蛇のクレナイ、アキ、ラック、フェリ、アメリ、ビャクヤ…他にもたくさんな」
「大所帯なのだな。早く会ってみたいものだ」
「ああ。じゃあ行くか」
《十匹を三度以上進化させたことにより職業【テイマー】のレベルが上がります。職業【テイマー】のレベルが上昇したため基礎スキル【テイム】、個体名【中野 誠】のレベルが上がります》
「は?」
「どうしたのだ?」
待て待て。何が起こった? いつ共有した? いや、共有はされてない。
「あ…」
急いで邪神からの手紙を出す。ざっと目を通すと…。
「あった…」
「ご主人。大丈夫かの?」
「ああ。大丈夫だ」
そうだ。さっき読んだのに色々衝撃的なことが多くて忘れていた。邪神が進化させておくと書いてあったのだ。
「ちょっと待ってくれ」
進化したことに対しての疑問は解消した。唐突だったから驚いたが。
早速ステータスを見ると、レベル九のところに[転送(主)]とあった。
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[転送(主)]
・対象限定:使役している魔物のみ。
・使役者の元に被使役者を強制転送する。
・転送する意思と共に対象を思い浮かべ、名を呼ぶことで転送可能となる。
・対象のレベル、魔力量によって使用する際の魔力量が変わる。
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「おお…!」
まじか! まじで!? 邪神! いや、ニヒリティありがとう! 進化させてくれて感謝だわ!
よし!
「召喚、クー太!」
…………。
「ご主人? お主なにをやっておるのだ?」
手のひらを突き出した状態で固まる俺にそう声をかけてきた風月。
「召喚! クー太! ラン!」
「クー太とランとは、お主が先程仲間と呼んでいた者か。召喚できるのかの? 何も起こらぬが」
「なんで何も起きないんだよ!?」
「ダンジョンだからではないかの? 次元が違っては精神体ではない魔物は呼べぬぞ」
…プツン。
自分の中で何かが切れた気がした。
「…邪神殺す」
「ご主人!? 魔力が暴走しかけておるぞ!? 冷静になるのだ!」
期待させて落とすとか…よくもやってくれたなあいつ。殴るだけじゃ済まさん。泣くまで殴る。いや死ぬまで殴る。消滅するまで殴る。
魔族だ、異次元世界だ、地球の命運なんぞ知ったことか。誰がそんな面倒なことをするか。誰も手伝うなんて言ってないわ。勝手にやってろ。俺はクー太たちと狩りしたり昼寝したりしてのんびり過ごせりゃいいんだ。
くそっ。あいつ…クー太にもしものことがあったら邪神だけじゃなく神を名乗っていた奴ら全員滅ぼす。くそ。まじでふざけんじゃねぇぞ。
こんな腹が立ったのは初めてかもしれない。
バチンッ!
「つっ!?」
「自爆でもする気かの!? 少し落ちつけ!」
頬に痛みを感じ、視線を上げると風月が手を振り上げていた。
「もう一発行くかの」
「…チッ」
…風月に当たるのはお門違いだ。だが、この苛立ちが収まらない。
「魔力を抑えるのだ。全魔力を一気に放出するようなことをすればお主の体がどうなるかわからぬぞ」
…すーーっ。はぁああ。
深呼吸をして風月に言われた通りに魔力を抑える。
「うむ。抑えられて良かったのう。それで、突然どうしたのだ」
「…少し放っておいてくれるか? お前に八つ当たりしたくない」
「…うむ」
心配そうに眉を寄せている風月。すまんな。もう少し冷静になったら話そう。今は上手く話せる気がしない。
「手は出さなくていい。ただついて来い。狩りだ」
風月を連れ、この苛立ちをぶつける相手を探しダンジョン内を移動を始める。