160 質疑応答2
「ゴブリンやオーガとかの地球にはいなかった魔物だけど。人間が変質したか、マギアから紛れ込んだか、マギアから漏れてきた魔力によってマギアにいる魔物が産まれたかだね」
「じゃあ、魔物が産まれるスポット…石はなんなんだ? お前らが作ったんじゃないのか?」
「あれは魔素が溜まった場所にはできちゃうんだ。石のように見える魔素が凝縮して固まった物、と言えばわかりやすいかな? だから君がスポットと言った石の周りから魔物が産まれるんだ。僕らは魔生石と呼んでるけどね」
ませいせき…魔物が発生する石で魔生石か?
「じゃあ…つまりなんだ? 人類に散々煽るようなことを言っておいて、別にお前たちが加害者ってわけでも全ての魔物を作ったわけでもないのか」
「いや…加害者というのは本当だよ。僕らの世界の問題で君らに迷惑をかけてしまったのだから」
まあ、確かにそうだな。理由があろうと何かしたのはこいつらだし。
「それで、僕らが全ての魔物を作った、というのはまあ大袈裟だったかもね。もちろん作った魔物もいるし、進化先にこの世界の伝承に沿った魔物も用意した。その方が馴染みやすいかな、と思ってね」
馴染みやすいってなんだ。問答無用で襲ってくる魔物に馴染んでどうする…いや、テイマーとかなら馴染みやすいってのは語弊ではないか。
「それと煽った理由は…真実を伝えるわけにはいかなかったから。こちらとあちらに開いた穴の現状とかそういった話をして、魔族に聞かれては困るからね」
何が困るんだ?
「色々とね。こちらが手をこまねいていることを知られたくないんだ。それに真実を伝えたところで、じゃあ神である僕らがなんとかするべきだ、とか思う人が多いだろう? それだけなら良いけど、それで膝を抱えて何もしない選択をされたら困るからね。僕らは直接的に魔物や魔族をどうにかする力はないから」
…ふむふむ。なんて、頷いてみるがわからん。
「どういうことだよ。力ならあるだろ」
「僕らに実体はないんだよ。いや、作ることはできるんだけど、これまた色々と制約があってね。だからもし、僕らを消滅させたいのなら魔力を増やすか、精神関係のスキルを取得して鍛えると良いよ」
いや、別に消滅させたいとか思ってないが。今になっては色々感謝していると言ってもいいんじゃないか?
「そっかそっか。さて! 他に聞きたいことはあるかい?」
「煽った話はしたが、なんであんな嘘だらけのアナウンスをしたんだ? さっきも言っていたが魔物を作ったことに関して大袈裟に言ったって言っていたし。他にも適当に調整したとかなんとか…色々言ってただろう?」
「この場合の適当は意味が違うよ。いい加減という意味ではなく、程よくという意味だね。他にも神が消滅したのも本当だし、この世界に来た時に地球の神の知識を継ぐことができたからそれに関しても本当だし、思うことがあったのも事実。魔素を充満させたのも僕らだから世界を変えたのも僕というのも嘘ではないし、その影響で魔化したり魔物が生まれたのも事実だから大袈裟に聞こえるように言ったかもしれないけど嘘ではない。それに、君らの反応が僕らの世界の人間とは異なっていて面白いと思ってしまったのも事実だし、二十四時間お試しってのも事実さ」
あー、言い方の問題で、別に嘘を言っていたわけではないのか。それより…。
「二十四時間お試しってなんだったんだ?」
「二十四時間っていうのは変革して、世界へ徐々に魔素が行き渡る時間だね。二十四時間で人間も動物も完全に魔素が馴染む。そして本来地球にはいない生物も徐々に産まれる。だからお試し期間。二十四時間経たないと魔化しきらない動物もいるし、自然発生の数も少ない。人間もスキルが取得しにくかったり、死ぬ可能性もあるし、体に不調を感じやすい。そして生き物を殺傷することに関しての忌避感や感じる痛み、親しいものを亡くしたりした悲しみが薄れる」
「…なんでそんなことしたんだ?」
「それは肉体と精神の感覚の一部を鈍くしたことかい?」
「ああ」
「そうしないと壊れてしまう人が多いから、ね。ただでさえ適応できなかった人間が多いのに、適応できた人間が狂ってしまったら困る。まあ精神干渉はしたけど、狂ってしまうほどのショックを緩和して、正気を保てる、程度のものだから害はないよ」
「いや…あるだろう。親しい人が亡くなっても、お前が干渉したせいで悲しむことすらできないとか、最悪だろ」
「…確かにそういう考え方もあるか。でもあの時はそうするのが一番だと思ったし、僕らは後悔しないよ。僕らが後悔して一個人に対して罪悪感を覚えていたら、それこそ僕らが発狂してしまう。だから許して欲しいわけではないって言ったよね? 結局僕は、僕らは世界にとって最善だと思うことをしただけだ。………恨んでいるかい?」
「いや? 俺は親父もお袋も生きてるしな。クー太たちに会えたし、どちらかといえば感謝してるぞ」
「そうか…。そうだね。君はそういう人間だったね」
…なんか失礼だな。まあ実際、身内以外には結構薄情な方だと思うからなんも言えないな…。
その後もいくつか質問をしていると、邪神が呆れたような雰囲気になった。
「まだ、あるのかい?」
「そりゃ謎だらけだからな」
「うーん、そうかもしれないけどさ。どうしても今聞いておきたいことは?」
「…どうしてもってのはないな。話を聞けるとは思ってなかったし、わからないならわからないで、あまり支障を感じていなかったってのもある」
「じゃあ、他の質問はまた今度にしようか! この先、君と会うことは確実にあるだろうしね」
なんか急いでんのか? いや、こうやって俺と会話しているだけでも力を使っているなら、あまり長々と話していたら支障がでるのだろうか。
「まあそれもあるね。それに結構な時間が経っているから、あまり長居するのは君としても避けたいでしょう? てことで、そろそろ送るよ?」
「わかった。異次元世界とかダンジョンに行きたい時はここに来ればいいんだろ? ここに来たいときはどうすんだ?」
「さっき渡した石…ここに戻ってくる石だから『帰還石』とでも呼ぼうか。それに魔力を込めれば良い。込められなくなるまでね」
「了解した」
「じゃあ、【精霊化】してくれるかい?」
この空間から出るのに必要なのか? 異次元世界に行くのに必要とは聞いたが。
まあ、そう言われても…まだ試したことがないしどうすればいいのやら。そう言うと、コツを教えてくれたので言われた通りにやる。
すると、体の重さがなくなるような、周りに溶け込むような不思議な感覚を感じた。
「成功だね。雷をベースに風と炎を纏っているね」
体を見ると【雷纏】した時とは違い、腕も胴体も雷でできていると言った感じだ。雷の体の上、つまり服があった部分には火が纏わり付いている。
「風?」
「パッと見わからないだろうけど、風も纏っているよ。うん、さすがだね!」
なにが流石かはわからないが、無事【精霊化】できた。顔がどうなっているのか少し気になるが。
「じゃあ送るよ。君には期待している」
「期待されても困るが…。ちなみにお前の名前は? あと何の神なんだ?」
「僕は、ニヒリティ。なにも司っていない。狂った創造神から分離した正気な神さ」
元創造神? だからリーダーぽかったのか。
「了解。じゃあニヒリティ。次があるかはわからないけど、またな」
「うん。またね! マコト君、ありがとう。……それと、ごめんね?」
なにが? そう聞こうと思った瞬間、浮遊感を感じ、森の中に戻ってきていた。
「城じゃないのかよ…」