158苦痛な時間
それでこそ俺ってどういうことだよ。馬鹿にされてんのか?
…でも、あれだな。大勢の前で発言するの苦手な人にとったら、会議とかで心の声拾ってくれるのは助かるな。
「じゃあ後細かい話や質問はここに一緒に来た神と話してほしい。その前に、君ら人間組で少し話してみると良い。それぞれに国がどんな状況なのか、どんな魔物がいるのか。後は皆、理由は違っても魔族や魔物を倒すことは同意してくれているみたいだからね。共闘を頼むこともあるかもしれないから自己紹介くらいはしておいてよ。僕らは一旦席を外すから」
そう言って一人、また一人と消える神たち。そして人間十人が残された。
えー。そういうの本当いらない。やめてくれ。
ガタッ。
椅子を引く音と共に黒髪で初老くらい…四、五十くらいに見える男性が立ち上がった。
「中国出身のリーウェイです。よろしく」
その後に続くように金髪の女性が立ち上がる。三十代くらいだろうか。
「アメリカ出身のアメリアと申します。以後よろしくお願いします」
最初のリーウェイさん? が名前だけの自己紹介だったからかその後に続いた人たちも名前だけの自己紹介だった。
そして残るは後一人。何を隠そう、残る一人は俺だ。うん。立ち上がるタイミングが掴めなかったんだよ。
「日本出身のマコトです。先程は私のせいで雰囲気が崩れてしまい申し訳ない」
それだけ言って着席する。中国、アメリカ、イギリス、オーストラリア、タンザニア、モロッコ、インド、ドイツ、日本の出身者がこちらをジッと見てくる。
そう。日本人が俺以外にもう一人いたのだ。パッと見俺と同じくらいだと思われる。染めているのか明るい茶髪で、整った顔立ち。目は俺の気怠そうなものとは違って力強い。
まあそんなことはいい。それよりもだ。何故、俺を見て何も言わない。謝っただろ? あー、くそ。面倒だな…。
「人の顔ジロジロ見て、なんだ。居心地悪いし、注目されんの好きじゃないし、言いたいことがあるなら言ってくれ」
黙ってるのも居心地悪く、視線を逸らし俯いたりするのはなんとなく癪なのではっきりと言う。それに反応したのはアメリカ人の女性だ。
「気を悪くさせたのならごめんなさいね。ただ、さきほど神が色々言っていたでしょう? だからどんな人なのかなって思ったのよ」
「別に普通の日本人だ。謙虚で推しに弱く、周りに流されやすい何処にでもいるようなね」
「そんな人がここにいるとは思えないわよ」
そんなことないだろう。まあ神が個性が強いとかなんとか言ってはいたが。
「…ただの面倒くさがりな人間だよ」
それだけ言うと俺は頬杖をついてそっぽを向く。癪だとか言っていつまでも目線を合わせていたら、会話しなきゃいけなくなりそうだからな。チャチなプライドは捨てる。
これ以上の会話は勘弁ですよーという態度と雰囲気を全力で放つ。
すると女性…アメリアだったか? アメリアは肩をすくめ隣にいたオーストラリア出身の女性に話しかけ始めた。
助かった。
正直話はしたい。どんな魔物がいるのかとか聞きたい。物すっごく聞きたい。だが、個別で話すならまだしも、対して知りもしない大勢に注目されながら会話とか勘弁だ。それにどんな魔物がいるか聞いても、飛行機が出ているのかもわからないし、いや、出てないだろうし。海外に行けないのなら聞いても仕方ないと思う部分もある。
それぞれが会話を始めた。職業はなんだ、住んでいるとこはどんな状況だ、食料は、仲間は、そんな話をしている九人をぼんやりと眺める。たまに日本人の子…ジン…なんとかリョウタだっけか? 彼がチラチラ見てくるのが気になるが…。
早く帰りてぇ。
十五分ほどだろうか。神たちが戻ってきた。
「少しはお互いを知れたかな? さっき説明し忘れていたことがあってね。今回のスタンピード…とは違うか。僕らが嗾けたのだし。嗾けていない国もあったけど、ここにいる人たちの国には魔物に襲わせているから説明するね」
邪神がそう言った途端人間組が皆邪神を睨んだ。この場がピリピリとした雰囲気となる。
…俺を除いてだが。
そういえば今回の暴走は支配して襲わせていたんだったな。確かにそれについて聞いていなかったな。
「まず、魔物が増え過ぎた国、国民全体を見て成長速度が遅い国、レベルアップをしない人の比率が多い国に行った。一つのコミュニティ、もしくは個人で行動していれば個人に。それぞれに適当だと思う数、頑張れば倒せる強さの魔物を誘導して襲わせた。戦闘の意思のない者は怪我はさせても殺さないようにしていたから、死人は少ないと思うよ。もちろん死んだ人もいるけどね」
殺す気はなかった? ……ならメイたちにレベル上げさせてやればよかったかもな。
「ちなみに、魔力樹が成長し続けるのは魔力を吸っているからって話は以前したね? 僕らが一時的に成長を止めたけれど、魔力樹の成長をこれ以上止めるのは難しい。今の魔力樹だとレベル一くらいの、魔力がほとんどない人間は容易に取り込めてしまうから、周りにレベルをあげていない人がいたら手伝ってあげて欲しい」
え? まじで? まさか藤堂たちもこのままだとやばい? いや、レベル一ではないが…レベル上げも手伝った方がいいのか…………黒蛇や狼たちに任せるか。
「なんだかんだで僕らはこうやって干渉しているけど、一番初めに声をかけた時に言った、力を使って余裕がないというのは事実なんだ。基礎スキルをあげたり、声を届けたりするくらいならまだ出来る。けれどそれもいつまで出来るか。だからこの世界の魔物を出来るだけ減らして、魔族たちがいつ来ても対抗できるようにしておいて欲しい」
そういえば、魔族がテイムできるかどうかの答えはもらってないな。
「くふっ…。ごめん。それで…」
なんか全員が俺を見たが、邪神が笑ったのを勝手に俺のせいにするのは気に入らない。
「もし、二つの世界で魔族を退けられたら、できる限り復興の手伝いをすると誓うよ。死んだ人を生き返らせることはできない。魔力や魔法、スキルを無くすこともできない。そして自然発生する魔物を消すことも無理だ。だが、以前と同じような生活水準が保てるようには手を貸す。だから、君らも手を貸して欲しい」
あー、うん。俺的に全然嬉しくはないな。いや、もちろん生活水準が戻ることはいいんだが、また国や社会に縛られて、歯車の一つとして生きていく自信はない。仮に復興しても山に結界張って生活だな。【物質複製】ってスキルも手に入れたし、食事に困ることはないだろう。魔石もあるしな。
「できる限り手伝いましょう。ですが自分の身と仲間や家族の身が一番なのは理解していただきたい」
「私もそうね」
リーウェイさんを筆頭に皆が賛同していく。ああ、正義感があって、人ができているんだなーなんて思っていたら全員が俺を見た。
え、なに?
「マコト君…」
邪神がまた笑いながら人の名前を呼んでくる。
あ、手伝ってっていう話に対する返答か!
「誠心誠意、努力はする」
「うん、それで充分だよ。ありがとう。じゃあ解散だ。さっきも言ったけど、聞きたいことがあるならこの後それぞれ担当の神と話してくれ。じゃあ今日はありがとう。君らが未来を切り開くのを期待している」
邪神がそういうと、ここに来た時のような浮遊感を感じ、真っ白な空間にやってきた。
「…ここは?」
「僕の作った、君の為の空間だよ」
「俺のため?」
「そう。ここは僕らの世界マギアと地球の中間地点。さっき異世界行きたいって言っていたでしょう? だから特別に連れて行ってあげるよ。マギアからここへ、ここから地球へ。またその逆も。それができるアイテムを貸してあげる」
そう言って拳大の虹色の石を渡された。綺麗だな。
いや、そうではなくて。
「なあ。なんか特別にとか、俺だから、ってのが多くないか? なんでだ? さっきの九人にはそういうのはないのか?」
「あ、言ってなかったね。心根が善性な世界のトップ十と言ったけれど、彼らはまだ一度の進化しかしていない。レベルも五十程度だよ」
「は…?」
進化一回で、レベル五十? 俺は…。
「あの中では君がダントツで一位だね」
おお…。
誤字報告ありがとうございます!




