156 邂逅
本編です!
「何が起こったんだよ…。なんで誰もいないんだ。くそ。クー太…ラン…」
「やあ! クー太君でもランちゃんでもなくて申し訳ないけど、僕ならいるよ!」
突然声が聞こえ、ハッとして顔を上げると目の前にはぼんやりと光る白い人型。
「お前…誰だ」
全然気が付かなかった。すぐさまいつでも動けるように構える。
「いやだなあ。忘れちゃった? って言っても直接会ったことはないか。ほらほら、僕の声に聞き覚えないかい?」
声…?
「ない」
「な、ないの!? 本当に!? ショックなんだけど!?」
「ちっ。お前がクー太たちになんかしたのか?」
クー太たちを纏めてどうにかできる相手など勝ち目はないだろう。だが、今、物凄く苛立っている俺としてはそんなこと関係ない。返答次第では殺す。
「待って待って! 物騒だよ? 冷静になってほしいな?」
「ほしいな? じゃねぇよ。あいつらに何した」
「だから、冷静になりなよ。彼らに何かしたんじゃない。君を別の空間に隔離したんだ。彼らなら君のことを探し回っているけど、無事だよ?」
クー太とラン…皆が無事? 俺がなにかされただけ…?
「なら、いい」
「えっ。いいの?」
「一番大事な物は無事ってなら構わない。俺一人ならなんとでもする」
「はあ。もう少し自分を大事にしなよ? 君は僕にとって、僕らにとって希望の一つなんだから」
希望ってなんだ。僕らって…つかなんでこいつと真面目に会話してんだ? 人間じゃない。仲間じゃない。ならとっとと殺せば…。
「だから待ってぇ! 物騒な考えは一旦中止して!」
なんだ…? 殺そうとしたはずなのに、殺さない方がいいと思ってしまった。
「お前、なんかしたか?」
「やっぱり効きが悪いなあ。まあ話を聞いてほしいから精神干渉したけど、油断すると飛びかかられそうだね。じゃあ早速説明するね」
「ちっ」
「こらこら。一応、神様だよ?」
「あ?」
神? 神って邪神? 確かに、そう言われると聞いたことのある声だ。
「思い出してくれた? 君が話しをちゃんと聞いてくれればここから出してあげるから」
言いなりになるのは癪だが…早く戻らないといけないし。クー太たちは無事だろうか…。強そうな魔物がいると言っていたし…。
「ああ、君の拠点に向かっていた魔物たちは隔離してあるから大丈夫だよ。今、あそこら辺一帯に魔物はいないから」
「……わかった。それでなんだ」
心読まれたか? 顔に出ていたか?
「やっと聞いてくれる気になったんだね! じゃあこの契約書にサインしてもらえる?」
そう言って差し出された紙を叩き落とす。
「ええ!? なんで!?」
「話を聞けば帰すっつったのに契約書ってなんだ。邪神なんかと契約なんぞしないわ」
「そんな無体な…。せめて内容を読んで見てよ。悪くないよ?」
何故か読まないといけない気がしてきた。また干渉された? だが自覚できてるってことは完全に精神干渉を受けてるわけでもないのだろう。なんとか耐性を上げないと。
とりあえず契約書を受け取り、読んでみる。
【魔法契約書】と書かれた紙にはご丁寧に甲乙の定義から始まり、第一条から第四条まで書かれていた。
要約すると。
・第一条
神の指定した場所で、神からの話を聞く。
・第二条
契約書に署名した時点から、神の作った空間を出るまでの会話内容、行動内容全てを他言無用とする。
・第三条
第ニ条に反した場合、契約書に署名した時点からの記憶を全て削除する。
・第四条
契約に同意した場合、神が願いを聞く。願いの内容は『 』。
「いや、意味わからん」
話を聞けばいいだけ? 他言無用で、それを破ったら会話内容の記憶がなくなる。そして契約に同意すればなんか要望に応えてくれる?
神のメリットがわからん。なんか裏がある? 内容に意味なんてなくて、ただの罠?
「そこに書いてある通りだよ! 疑わないでほしいなあ」
「それは無理だろ。こんな世界にして、何百何千何万の人を死なせて、愉快犯のように魔物けしかけて。悪意しか感じないだろ」
「あー、まあ君らから見たらそうなるし、まあやってることもその通りなんだけど…契約書に同意してくれればそこら辺も話すよ」
「話だけしてどうすんだ」
「話を聞いてもらって、君の意識が変わればいいなと思っているし、頼みたいことあるよ」
「拒否権は」
「頼み事に関して? 断ってくれてもいいよ。でもまあ、協力せざるを得ないと思うけど」
「なんだよそれ」
「まあそれに関しても契約書を書いてからだね! それと第四条の空白は君が決めてよ。出来ることと出来ないことはあるけど」
「何が出来なくて何が出来んのかわからん」
「んー、両方ともたくさんあるからねぇ。言ってみてもらって出来るかどうか答えるよ。世界を破壊してくれとか以前の世界に戻せとか、死者を生き返らせろとかは無理だけど。ああ、でもゾンビやゴブリン、人型の魔物に変化した人間の意識を戻してくれっていう内容なら出来るよ。人数制限はあるし、肉体は戻せないけどね」
……これで身内が死んでいたりしたら今こいつが言ったようなことを願うんだろうが…俺にはどうでもいいな。
「じゃあお前を殺せるスキルをくれと言えば?」
「あげられるけど、多分、君なら訓練次第で僕を殺せるくらいにはなるよ?」
「…じゃあいい。なら今日襲ってきた魔物たちをテイムできるようにしてくれ」
「君のことをこの空間に隔離した後に、君の言うところのアナウンスを人間たちに流したんだよね。魔物の暴走は終了! おめでとう!って。その時点でテイムは可能だよ」
「………ならさっき隔離したって言っていた魔物をテイムさせてくれ」
「あはは! 君って本当わかりやすいね! 君がそう望むのをわかっていたよ。元からあの魔物は君にけしかける為に誘導したんだ。ただ世界中で僕が起こした騒動が治まったのがあのタイミングだったから、戦う前に君を連れてきてしまった。だから後で戦ってテイムしたいだろうな、って思って隔離したんだけどね。これは僕からのサービスだから契約書に書く必要ないよ」
……こいつ。
「なんでそんなサービスだとかするんだよ」
「隔離した魔物に関しては…ああ、これに関しても契約書を書いてもらわないと話せないや」
「チッ」
他になんかあるか…?
「クー太かラン。もしくはクレナイかハクに俺は無事だと、俺が戻るまで指揮は任せたと伝えてくれ。もしくは伝達系のスキルをくれ」
「それを伝えるだけでいいなら契約関係なくやってあげるよ? 連れてきたのは僕だしね。それくらいのアフターケアはするさ」
「…じゃあ頼んだ」
「オッケー! お父さんとお母さん、後メイちゃんとミミちゃんだっけ? その四人と君が一番大切にしている初日にテイムした子たちに伝えておいてあげるよ」
………なんかただのいい奴なんだけど。まじでなんなのこいつ。邪神のくせに。
「ひどいなぁ。僕にだって色々と事情があるんだよ?」
「心読むな。じゃあ邪神からの干渉を一切受け付けないスキルをくれ」
「残念だけどそんなスキルはないなぁ」
「作れよ。スキルってお前が作ったんだろ」
「うーん…それに関しても契約したら話してあげる」
こいつが作ったんじゃない…? じゃあ誰だ? こいつ以外にも神がいるのか…? そういえば最初に『僕ら』って言っていた気がする。
「ほらほら、そーゆーことは契約すれば話してあげるから! 欲しいものを決めてよ!」
「そう言われたって、すぐに思いつかないんだよ」
これまで、わからないからと考えることを放棄していたことに関する情報とか?
「ちなみに情報とかは契約した後でならいくらでも質問していいよ。色々と知ってもらう為に連れてきたんだからね」
本当、なんで俺なんだよ。
「じゃあ…創造魔法とか?」
「創造魔法?」
そういう魔法はないのか?
「魔力から菓子パンを生み出すとか、酒を生み出すとか。魔法スキルを作り出したりとか」
「あー、物質創造系のスキルか。【想像具現化】スキルで作れるけど、一緒なのは見た目だけだね。後は【物質複製】のスキルなら複製前のものがあれば味も見た目も同じ物が作れるよ。魔法を作るスキルはないね。そんな物ないし。スキル見ればわかるでしょ? 魔法でやりたいことしたいことを想像して、魔力の質をそれに合わせて、必要な魔力を使えばその現象は起こる。それぞれにスキル名は付随するけど、スキルで創り出すまでも無く、魔法ってかなり自由なんだよね」
「確かに…」
【地操作】で小屋を作れるしな…。
「それにスキル名も人によって違うからね。特殊スキル、種族スキルなんかは固定の名称だけど、基礎スキルは…例えば、君は【風刃】というスキルを持っているよね? 人によっては【ウィンドカッター】とか【ウィンドブーメラン】だったりするしね」
そういえば以前、その可能性もあるかもと思ったことがあるな。それでメイたちにスキルについて聞こうと思って…すっかり忘れてた。
「じゃあ【物質複製】スキルをくれ」
「りょうかーい!」
白い影が手を振ると契約書の空白欄に【物質複製】という名前が浮き出た。
「じゃあ後は名前を書いて、魔力を流してくれれば完成だ!」
はあ…。本当に良いのかね? 精神干渉は…受けてないと思う。だからこれは俺の意思だろう。
話は聞きたいし、スキルは欲しいのでサインし、魔力を流す。
契約書が光ったり浮いたりとそういったエフェクトは無く、スッと消えた。
「これで気兼ねなく話せるね! まずは【物質複製】のスキルをあげるね。それだけだと他の人と比べると割りに合わないから…【念話】と【想像具現化】もあげる」
他の人?
「良いのか?」
「良いよ良いよ。これでも足りないくらいだから他に欲しいものがあれば言ってね。釣り合いが取れるならあげるから。それに【想像具現化】スキルって、多分君が思ってるような凄い能力じゃないよ。もちろん特殊スキルだからかなり良いスキルではあるけど、具現化できる物に限度はあるし、魔力は相当使うし、食べ物なら味や栄養はないしね。爆弾とか拳銃を想像しても外枠しか出来ないし、部品、薬品をひとつひとつ具現化していくならそれも可能だけど、組み立てる技能が必要だし、部品一つ一つ具現化したら君の魔力量でも数日数週間は枯渇状態になるくらいだしね」
よく喋るなーこいつ。
「話聞いてる?」
「聞いてる。制約が多いんだろ。まあそれでも使いようはあるし感謝しておく」
「どういたしまして! じゃあ行こうか!」
「行く? てかさっき言ってた他の人ってのもなんだ?」
「君みたいな人間を。僕ら超常の存在が集めて話をしたいんだ。個別に聞きたいことがあるなら後で時間作るから」
「…わかった」
そう返事をした途端浮遊感を感じ、次の瞬間には図書館のような場所にいた。壁際には見上げるほどの本棚が左右前後に並び、本がぎっしり詰まっている。中央には大きなテーブルと椅子が…二十脚。俺がいる側には金髪や黒髪、禿頭の人間がそして反対側には隣にいる邪神のような靄のような人型が。
「さあ! 僕らが最後だ。そこに座ってくれ」
誤字報告ありがとうございます!
ちょっと展開が変わってきましたが、緩い目で読んでいただければと…。




