149 不完全燃焼
連続投稿二本目です。
クレナイたちとのやりとりの最中にも手足を動かし魔物を吹き飛ばしていく。数が多い…。魔法は出来るだけ温存しておくか。
【爆炎】や【魔装】などは使わず、徒手空拳。【雷球】や【風刃】の使用も控えて、たまに使うだけにしておく。
「いてっ」
目の前に迫ってきた猿を蹴飛ばすと頭に何か落ちてきた。
「なんだ…?」
オークを蹴り飛ばしながら、頭上を見ると木の幹の上にリスがズラーーッと並んでいた。
おいおい…。あんな数のリスがいたのか…。
近接戦闘系のスキルを上げたいからあまり使いたくなかったが…。
「【魔圧】」
バタッ。バタバタバタ! ボトボトボト!
目の前にいたゴブリンと狼たちが倒れ、頭上のリスたちが落ちてくる。
【地操作】でリスたちを囲む檻を…というよりも箱を作り閉じ込め、ゴブリンたちは放置だ。何故なら、いちいちトドメを刺す前に、後続のオーガやオークに踏み潰されていっているからな。
「にしても何匹いるんだろうな?」
ゴブリンを十匹、二十匹と倒しても、その後ろからは今度はオークが十匹、二十匹と。なんか、正面いる魔物たちが俺に向かってきている?
クー太たちは…と、左右を見ると魔法が弾け、魔物が吹き飛んでいる。これくらいの魔物なら心配ないな。
ちょいちょいスケルトンや猿やオーガの進化種、幻狼らしき魔物も混ざってくる。上からは相変わらず投石ならぬ投木の実があるが、数は多くない。
足元からは小さなたぬきが…。
「っ! 蹴り飛ばすところだった…」
咄嗟に振り上げそうになった足を抑え、首根っこを掴むとぎゃあぎゃあと鳴くたぬき。
クー太たちみたいに可愛くない。牙を剥き出しにしているからかはわからないが。だが…。
「うーん…。クー太たちのせい…? おかげか…?」
なんにせよクー太たちの影響で、たぬきが一番好きな動物にランクアップしてんだよな。だからたぬきだけはどうも蹴り殺したくないと思ってしまう。遠くから魔法を撃って倒すなら気にならないんだが。
「お前、俺にテイムされるか?」
《対象は別の支配下にあるためテイム不可能です》
…はあ?
ちょっと待て。不可能って…まじで? もしかして捕獲したリスたちも?
「うっわあ。最悪っ! だなっ!」
八つ当たりするように向かってきたオーガを思い切り蹴飛ばすと、パンッという音と共に吹き飛んだ。
「なんかすごく嫌な感触がした…」
…じゃなくて! まじでテイムできないのか? この襲撃が収まればテイムできるようにならないだろうかか…。
とりあえず、このたぬきは掴んでしまったし、リスたちと同じように【地操作】で檻を作って閉じ込めておく。
「テイム…できないのか…」
なんかやる気が…。モチベーションだだ下がりだ。帰って寝ていいだろうか?
「そういうわけにはいかないよなあ。はあ…」
物凄くやる気が下がったが、その後も向かってくる魔物たちを蹴散らす。正直、猿と狼、蛙、それとゴブリン、オーク、オーガばかりでやる気は下がる一方だ。
一時間以上は経っただろうか。結構長い時間戦っていたが、続々と現れていた魔物が消えた。見渡すとクー太やランが見えるくらいに起き上がっている魔物はいない。
この数だと魔石の剥ぎ取りが面倒だな。なんて考えていると皆が集まってきた。
『強いのいなかったー』
『楽しくないわ!』
クー太は残念そうに、ランは少し憤慨している? 二匹とも不満のようだ。
「お疲れ。これで終わりなのかね? 巨人も鹿もいなかったし、虫系の魔物もあんまり見なかったな」
鳥の魔物もだ。集まってきた、クー太、ラン、アキ、フェリ、ラックの五匹に聞くと俺と似たような感じらしい。
ハクやアメリたちは距離が離れているのかこっちに来ないが…ハクたちが相手にしてるのは城壁の反対側から回ってきたやつだよな。てことは街の方から来た魔物だし、こちらよりゴブリンとかが多い気がするな。
不完全燃焼だなーとクー太たちと話していると、バサバサという音と共に巨大鳥がやってきた。
「器用だな…」
そう。木々にぶつかることも、折ることもなく器用に木々を避けながら飛んできた。
『お主らのところに鳥系の魔物は来たか?』
「お疲れ様。いや、俺らは見なかったな」
『そうか…』
どうも巨大鳥は気落ちした感じだ。
「そっちもいなかったのか?」
『ああ…木々の上から探していたが、我の配下の気配はなくてな。少し窮屈だが、木々の間を飛びながら探してみたのだがやはりいなかった』
ふむ…。この近くに、ここ以外人間がいる場所でもあるのだろうか?
『少し離れて様子を見てくる。縄張りに帰る前に一度ここに戻ってくる』
「了解。大丈夫だろうが気をつけて」
『お主らもな。どうも山の方も騒がしい』
ドラゴンと鷲獅子たちだろうか? 今の不完全燃焼具合だとドラゴンたちは大歓迎なのだが…。
そして巨大鳥は木々をかき分け上空へ消える。
「俺らも戻るか」
『むー』
『強いやつら探しに行きたいわ…』
クー太とランはどうしても不満らしい。
『わたしは満足なのです! 結構倒せたのです! 実はわたし結構強いのかもです!』
実はというより、アキは普通に強いぞ? 性格が戦闘向きじゃないだけで。ただそれを言うと調子に乗るので軽く撫でるだけにしておく。
『…けど、確かに歯応えなかった』
「確かに、なの。魔力もまだまだあるの!」
フェリもラックもか。まあそうだよな。これくらいなら俺たち…初日メンバーやリーダー格のメンバーがいなくても問題なかったかもな。
帰る前に閉じ込めているリスとたぬきに対してテイムを念じてみるが、結果は変わらず。
今更殺すのもなんなのでリリースすると、やはりこちらに牙を剥いてきたので、【魔圧】をして気を失わせてから放置する。
拠点まで戻ると、俺の魔物たちはほとんど戻ってきているようだった。これなら柵も何ともないし死者もいないだろ。
念のためリーダー格を呼び、点呼を取らせると軽い怪我をしてる奴はいるが、全員揃っているとのことだった。
「念のため警戒を続けてくれ。配置とかは気にしなくていい。ただ、あまり遠くに行かないことと、一応複数で行動するように」
『『『『はい!』』』』
近くにいる魔物たちにそう声をかけ、離れたところにいるやつらにも伝えるように言う。
「マコト!」
「マコトさん!」
これからどうしようかと思っていると親父とメイが俺を呼びながら駆けてきた。いや、ミミも一緒か。
「怪我はないか?」
パッと見問題なさそうだが、一応聞いておく。
「ああ。マコトも大丈夫か?」
「怪我はないが…」
「何かあったのか?」
「不完全燃焼?」
「………はあ。うちの息子はいつの間にか戦闘狂になってしまったな…」
親父にそんなことを言われるとは…。
「そんなことないと思うんだが…。メイとミミも大丈夫だったか? それとお袋は?」
「はい!大丈夫です!」
「…問題、ないです」
メイとミミは大丈夫そうだな。
「ルリは藤堂さんと避難してきた人たちの様子を見ている。不安そうにしていたからな。もちろん怪我なんかはしてないぞ」
ならよかった。だが…藤堂が連れてきた連中、レベル上げているんだよな? その上で今回戦闘には参加してない。それで不安になるって…こちらに頼ってきたくせに信じてないようで少し気分悪いな。
いや、不安になる気持ちもわかるが。
「なんでそんな不満そうな顔してるんだ」
顔に出ていたようで、親父からそう言われた。理由を言うと、そういうもんだろ、と少し呆れたように流された。
わかってる。藤堂が連れてきただけで俺と彼らにはほとんど接点もないし、よく知りもしない。信用や信頼が成り立つ仲ではないのは。だがいい気分ではないのは仕方ないだろう?
『ご主人さまー』
『ご主人様!』
いつの間にか小さくなって肩の上にいたクー太とランに呼ばれた。
「どうした?」
『多分…次の団体さんー?』
『強そうな気配がするわよっ!』
クー太は首を傾げながら、「多分ー」というが、ランは目を爛々と輝かせて、「まだ獲物がいるわ!」と言っている。




