142 蟲
翌朝。
今日は何処かに行く予定もないのでアキもクー太達も起こさず、起きていたハクとラックを部屋から連れて昨日の続きをする。
何度か練習して土壁を作る魔法は出来たが数十人が拠点を作ったり、家を建てて畑を作る程の範囲を覆うのは大変…というか時間も魔力もかかりすぎる。
とりあえず城門の正面を除いて左右に二メートル程の柱を等間隔に作っていき、ラックに【鋼糸】で侵入避けを作ってもらう。
長さも太さもある程度自由自在のようで柱と柱の間に二十本のワイヤーのような【鋼糸】を張ってもらう。
糸と糸の隙間は大体二十センチで、更に下の方は斜めにバッテンのように【鋼糸】を張って貰って潜れないようにしておく。
城門の左側を畑を作る場所、右側は住居を作る場所とする。左右の区画の出入り口は城門のところのみにする。
つまり、城壁から十メートルくらいのところに畑区画と住居区画への入り口を作り十字路のようにしておいた。
門番とか欲しいな。ゾンビかスケルトンをテイムするか?オーガでもいいか?
まあそれは追々だな。
「ご主人様〜疲れたのー」
「お疲れ様。ありがとうな」
「なでなでしてほしいの!」
「はいはい」
撫でるのは良いがもう少し身長が低いとやりやすいんだがな…ラックの身長俺と同じくらいだし。
「明日か…レベル上げしておきたいが…ここら辺の魔物じゃな…皆の獲物取ることになるし。どうするか」
「遠出しますか?走るかリーフさんに乗って飛べば日帰りでも結構移動出来ますよ?」
「そうなんだが…藤堂達が来るだろ?待っていた方がいいかな、と」
「メイやお父さん達に任せればいいの!」
「うーん…なら聞きにいくか」
親父達に任せても良いか聞くと即答でOKだった。一応クロ達には影の中で護衛しておいてもらう。
「んじゃアキ達を起こしにいくか」
部屋に戻るとクー太とラン、フェリ、アメリ、クシハ、レイの六匹が寝ていた。
クロとドライとビャクヤは……。
「影の中か?」
『ん。おはよう』
『おはよー!』
『おはようございます!』
お前達….。
「いつからいたんだ」
『私は昨夜から?』
『さっき?』
『ついさっき影に入りました!』
そういや、クロはずっと影の中だったか。
「ドライ、藤堂達のことちゃんと送り届けてきてくれたか?」
『問題なかったよー!』
「ありがとな」
…ドライは寝てないんじゃないのか?藤堂達の拠点まで行ってから様子を見て、戻ってきてと…。まあ元気そうだからいいか?
あちらがどんな状況だったか軽く聞いてみたが、弱そうな人間がたくさんいたよー、と大した情報はないようだった。
「エリンとサンクとシスは?」
「クレナイさんのとこでは?」
「そうかもな」
髪の毛を一本抜いて霊狸を召喚する。
「クレナイに手が空いてたらアキの部屋に来るように伝えてきてくれるか?」
『わかりました!!』
これで良し。
全員を起こす。やはりアメリを起こすのに時間がかかった。普通に起こしてもびくともしないし、強く揺さぶっても中々起きなかった。
アメリの中の野生はもういないな…。
多少苦労して起こした後アキの部屋に行くとそこにはアキがいなかった。
「あいつどこ行った?つか本当にちゃんと起きたのか?」
「アキちゃん偉いですね」
「偉いが…探すの面倒だから寝ててよかったんだが…」
これで探さず出かけたらせっかくちゃんと起きたのに置いていかれたーってまた拗ねるだろうし、宣言通り起きたことはちゃんと褒めてやらないとだしな…。
また髪の毛を一本抜き、霊狸にアキを探して呼んできてもらう。
「クレナイとアキ待ちだな。どこ行くか。山を挟んで反対側まで行ってみるか?」
「鷲獅子のところもいいの!」
「鷲獅子は狩るよりテイムしたいんだよな。まあ狩り行ってもいいが」
皆とどこ行くか話し合っていると部屋の扉が開きクレナイとクレナイの肩に乗ったアキが入ってきた。
『ご主人!!今日ちゃんと起きたのです!』
「お待たせしました」
「おう。アキ偉いぞ。クレナイ。エリンとシスとサンク知らないか?」
「皆外にいます。今はリーフ殿といるかと」
「そうか。今日はレベル上げに少し遠くまで行こうかと思ってな。アキとクレナイも来るだろ?」
「是非」
『行くです!』
「といっても全員で行動してたら効率が悪いからある程度分散しての行動になるが。だからエリン達を連れていくのはやめておこう。クシハとレイは悪いが今日は留守番しててくれるか?」
『わかった…』
『お留守番?わかりました』
「良い子だ」
『次は僕も連れてって?』
「もちろんだ」
『私も次は一緒がいいです』
「わかった」
クロ達も連れて行きたいな…というか【制限解除】持ちは連れて行きたい。それプラス、それなりの強さのアメリ、ドライ、ビャクヤも。リーフは…留守番かな。
そうなると親父達の護衛だが…コクイチ達に任せておくか。
「クー太とラン、ハクとビャクヤ、クレナイとアキ、クロとドライ、ラックとフェリ、アメリとグレイで行動だな」
『グレイも一緒ー?』
「連れて行くつもりだ。それと、今日はここを起点として山を時計回り…左側に山の反対側目指して狩りをしながら移動。俺の位置がちゃんと把握できる距離で狩りをしてくれ。んで魔圧が合図な。合図したら集合、夕方になったらどこにいても帰る。日付が変わる前には帰ってきたいからな」
『わかったー!』
『ガンガン狩るわよ!』
「ビャクヤちゃんよろしくね」
『女王様!はい!』
「女王様はやめてね?」
「アキ頑張りましょう」
『わかったです!』
『クロさんよろしく!』
『ん』
「フェリちゃん!たくさん魔物倒そうなの!」
『ん…。……根こそぎ』
フェリ…根こそぎはやめてやれ。全員やる気満々だな。それぞれの掛け合いを見ながらクシハとレイを撫でてやる。モモンガがいたらテイムしようかね。クシハの遊び相手として。
「クロはコクイチ達に親父達の護衛頼んできてくれ。先にグレイのところに行ってる」
『わかった』
グレイが何処にいるかわからないので探しながら城から出たところにいるリーフに今日の予定と留守番のことを話す。少ししょんぼりしていたが今日は我慢してもらおう。日帰りだしな。
そして近くにいた剛力狸…タヌゾウにグレイを呼んできてもらった。
『どうしたっすか?』
タヌゾウと共にグレイがやってきたが…剛力狸のタヌゾウの方がガタイが良いな。後グレイの方が少し背が高い。
「今日山の反対側までレベル上げに行くから一緒に行くぞ。もうすぐ進化するだろ」
『そのメンツでっすか?』
「ああ。お前はアメリと組んでくれ」
『わかったっす!最強戦力で山狩りっすね!』
「おう。んでだ。何かあれば魔法でも大声でも何か合図してくれ。後は俺から離れ過ぎて移動するのを待って欲しい時とかな」
それぞれどんな合図にするか話したら早速移動だ。
俺は誰が何処にいるかはわからない。なんとなく近くにいる感覚と集中すれば音や匂いを感じられる程度。
だから合図がない限り、ひたすら進んで魔物を倒すだけ。今日は話し相手もいないのでサクサクと進んでいく。
一応気配を殺すようにして移動する。魔物に逃げられたらレベル上げができないしな。
赤蛇、緑蛇、魔狼、森狼、人面樹、大兜、大鍬形。
後は大猿、巨大猿、巨大な虫達…カナブンにコオロギ。ミミズにムカデ、ダンゴムシ、蛾…。
「巨大蜘蛛!!」
見た目真っ黒なタランチュラの大きいバージョン。サイズは大型犬…森狼達くらいだ。ちょっとテイムしたいが……いや、テイムだ!
手加減しながら蹴飛ばす。
「ギチギチギチ…」
あれ?普通に着地して威嚇してきたんだが…。
「意外と強い?なら死なないでくれよっと」
【雷球】で攻撃するとひっくり返ってピクピクしている。
「……キモいな」
軽く蹴飛ばし体勢を戻してやり、目を合わせる。
【タランチュラが仲間になりたそうにしています。テイムしますか?】
【Yes or No】
Yes。
【タランチュラが仲間になりました。テイムした魔獣に名前をつけてください】
「名前はガンマだ」
『了解』
声的にオスかな?
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個体名【ガンマ】
種族【大影蜘蛛】
性別【オス】
状態:【 】
Lv【5】
基礎スキル:【噛み付きLv4】【粘糸Lv3】
【物理耐性上昇Lv2】
【受け流しLv2】
【隠密Lv2】【暗殺Lv1】
種族スキル:【溶解液】【潜影】
特殊スキル:—
称号:—
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お、おう…。なんか普通に強いんだが…。二回進化してるし。スキルの確認は後で。
「よろしくな」
『……』
「どうした?」
『なんと呼べばいい』
「ああ。マコトか主人とか、ご主人様と呼ばれることが多いな」
『ならご主人と呼ぶ。ご主人…また戦って貰えるだろうか』
「ん?ああ。それは構わないよ」
『感謝する』
「とりあえず俺の仲間のところに行ってもらいたいんだが良いか?お前と同じくらいの強さのやつもいるから訓練しててもいい。ただ、仲間同士では仲良くな」
『了解した』
…………話し方かったいなあ!
「とりあえず案内役を用意するから俺の拠点に先に行っててもらえるか?」
『ご主人は?』
「俺は用があってな。夜には帰る」
『了解した』
んじゃ霊狸召喚!
「このガンマを拠点まで案内して、皆に紹介を頼む。拠点の場所は大丈夫か?」
『はい!お任せください!』
「じゃあガンマ。また後でな」
そう言ってすぐさま移動する。
あんま立ち止まってるとあいつらが心配して様子見に来そうだし。でもガンマがそれなりの強さでよかった。弱くとも大量に霊狸を召喚して送らせていたが、あれならここら辺の魔物になら負けないだろ。俺らが通ってきた道なら魔物はほとんどいないだろうし。
その後もミミズだのムカデを魔法で倒しながら移動する。ガンマより小さい蜘蛛もいたがそれは倒して進む。
「あ…初イノシシ!!」
魔法で首を落とし、少し気は進まないがお腹を捌いて魔石と内臓を取り出し【亜空間倉庫】へ。倉庫内の温度がどの程度かわからないが暑くはない、どちらかと言えば涼しいし、夜までに腐らないことを祈る。
「オーガ達に解体してもらおう。俺も覚えた方がいいが…追々だな」
そのあともイノシシしか出会わない。いや、イノシシ以外の匂いも気配も多少感じ取れるのだが、見当たらないのだ。わざわざ隠れている小動物系の魔物を探すのは手間なのでそのまま移動していく。
ドンッ!
「ん?」
音がした方を見ると一条の雷が見えた。
「あれは…クー太の合図だな」
正直クー太とランが苦戦する魔物なんてほとんどいないだろうからあまり心配はしていないが、念のため急ぐ。




