閑話 母
今回はマコトの母視点です。
父の方の閑話と一部被ります。
次話は本編です。
中野 瑠璃(母)
洗濯を済ませ外に出ると素振りをしながら辛気臭い顔をしてる夫を見つけた。
まったく…心配だからってそんな不機嫌そうな辛気臭い顔されたらこっちも気分が落ち込むわ。まだマコトが出て行って一日と少しなのに先が思いやられるわね。
「あなた」
「ルリか。どうした?」
「そんなに心配?」
「……顔に出てたか?」
「難しい顔をしてたわよ」
「そうか…。心配にもなるだろう。マコトに助けられ守られここまで来て、ここにきて更に守られながら訓練とレベル上げをして、余計に思うんだ。あいつはあんなに戦いに明け暮れ、あんなにも強くなっても何も変わらない。心が麻痺してしまっているんではないのか?我慢してるんじゃあないのか?そんなことばかり考えてしまうのも仕方ないだろう」
別にマコトは無理してやってるわけじゃあないし、どちらかというと色んなしがらみが少なくなって以前より楽しそうでしたでしょうに。
「大丈夫よ」
「大丈夫って…。マコトの楽観的というかのんびりしたところは本当お前似だよな…」
「別に楽観的…楽観視しているわけではないわよ?私はマコトを信じてるし、あの子は適当なところも楽観的なとこもあるけど馬鹿ではないんだから」
「そうかもしれないが…」
「マコトは別に戦いばかりの殺伐とした生活を我慢してるわけでも、心が麻痺しているわけでも、何も考えてないわけでもないわよ?きっとね。
それに心を許せる仲間がたくさんいるんだからそんな心配は不要よ。確かにテイムって能力がなくて、独りぼっちで戦い続けていたらいくらあの子でも壊れてしまったり、あなたのいう通り麻痺していたかもしれないけどそうじゃないでしょう?だから大丈夫」
「うむ…」
歯切れが悪いわねぇ…。
「まったく。そんな辛気臭い顔してないで訓練してきたらどう?いくら言っても心配になるのは変わらないんでしょう?ならマコトの負担が少しでも減るように頑張ればいいじゃない。私もマコトの負担にならないようにレベルは少しでも上げるし、マコトが帰ってきた時のためにここでの生活が少しでも快適になるように頑張るから」
私の言に対しすぐに返事はなく、一度瞳を閉じだと思ったら先程のような悩ましい顔ではなくなったようだから気合でも入れ直したのでしょう。
「じゃあレベル上げに行ってくる。そういえばメイちゃんとミミちゃんは?」
今更なの?とは思ったけど口にはしないけど…うちの男はもう少し周りに興味を持った方がいいと思うわ…。
マコトも全然メイちゃんとミミちゃんのこと気にかけてあげないし…。
「彼女達はもう外に行きましたよ。レベル上げと食べられそうな野草や木の実を探してくる、と」
「そうか…。じゃあ行ってくる」
「はいはい。気をつけていってらっしゃい」
まったくあの人は…。そんなに心配しなくたってあの子は以外としっかりしてるのに。
まあ確かに適当なとこはあるけどね…。
まああの子なら大丈夫でしょう。
それよりももっと居住環境を良くしたいわよね。
あの人のオーガさん…シュキさんに頼んで土を耕して貰って野菜を育てる場所を作りたいけど基本あの人と訓練してるしねぇ…。やる気になってるのに訓練相手を奪っちゃ可哀想よね。
私も食べられそうな物を採りに行く?それともレベル上げをしにいこうかしら?
えー、っと。今レベルいくつだったかしら?
すてーたすおーぷん?
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個体名【中野 瑠璃】
種族【普人】
職業【テイマー】
性別【女】
状態【 】
Lv【6】
・基礎スキル:【解体lv2】【料理lv4】【剣術lv1】
【精神耐性(大)lv2】【裁縫lv3】
【歌唱lv1】【威圧lv1】
【水球lv1】【火球lv1】
【テイムlv1】
・種族スキル:【無特化】
・特殊スキル: 【ステータス鑑定】
・称号: 【適応する者】
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そうそう。たまに手が空いた時に数匹魔物を倒すだけだからまだ6なのよね。
それで…ふふ。マコトと一緒のテイマーにしちゃった。
確か…武闘家と解体士、下級水魔法士、下級火魔法士とかがあったんだけど、やっぱり息子とお揃いってのはいいわね。男の子だからかお揃いの服とか買っても着てくれないし…女の子がいたらそういうこともできたのかもしれないけど…。
それにしても…マコトもあの人もメイちゃんもミミちゃんも私に魔物を倒させないようにしてるような気がするのだけど…というかしてるわよね?
多分今のマコトを除けば私が一番そういうのに慣れてる…という言い方はおかしいかしら。子供の頃は飼っていた鶏や豚を父が鶏を絞めたりしてたし、それを手伝っていたから血とかに耐性はあるから気にしなくてもいいのに、って思うのだけど…。まあ言ってないからかしら?昔から温室育ちだと思われるのよねぇ…。
不思議ね?
さて、と。マコトは二週間くらいで帰るとは言ってたけど…あの子気まぐれだし、食べる物を採りにいったほうがいいかしら?
一人でも森を抜けて街に行くくらい強ければいいんだけどまだそんなレベルではないし…。街中にあまり多くの魔物達を連れて行くのは街にいる人を怖がらせてしまうかもしれないし…。
うーん。
どうしようかしら。昨日に今日の食事分のパン…パン擬き?牛乳もバターもないし、焚火のところでフライパンで調理したパン擬き。ベーキングパウダーとか砂糖に塩とかはあったんだけどね…。まあとにかく食べられるものは作ったし、洗濯も終わったし…お風呂の掃除は…あんまり頻繁にすると周りの土が崩れそうだからやめときましょうか。
本当、買い物に行ければいいんだけどねぇ…。この小屋の内装ももっと綺麗にしたいし…。
やっぱり採取かレベル上げ?それとも少数…影に入れる子と目立たない身体の小さい子を連れて街へ買い物に行けるかしら…?もちろんオーちゃんは連れて。
そうね…。そうしましょうか。
それで…その途中でテイムもしちゃおうかしら?狼とか狸とか鼬鼠とかもふもふしてる子がいいわね!
「オーちゃん!お買い物に行きましょ!」
「わふっ」
後は…外で小屋の見張りをしている子達の中から連れて行く子と伝言を頼む子を選びます。
えーっと今いるのは…大黒毒蛇コクイチ君がいますからコクイチ君に何匹か連れて行かせてもらいましょうか。
「オーちゃん通訳お願いね?」
『お任せください!』
他の魔物達はテイムされている子なら私の言葉は伝わるのに私がオーちゃん以外の言葉を理解できないからどうしても間にオーちゃんに入ってもらわないといけないのが少し不便よね…。
コクイチ君にとりあえずお願いしてみます。
『ご主人様!コクイチさんと大黒蛇数匹がついていくそうです!』
「あら、いいの?コクイチ君は留守を任されているリーダーでしょう?」
『ここの守りは他に残っているケンタ殿と魔犬と森狼達に任せておけばいいそうです!それよりご主人様の…マコト様の母であるご主人様の護衛の方が大事だそうです!』
「そう?ありがとうね。それじゃあケンタ君伝言お願いできるかしら?夫とメイちゃんとミミちゃん誰かが帰ってきたら私は少し散歩に行ったって言ってもらえる?」
「ワンッ!」
「了承ってことでいいのかしら?」
『はい!』
「ならよかったわ。それじゃあ行きましょうか」
狼のオーちゃんに乗り、影の中にコクイチ君とその部下の大黒蛇五匹を連れて移動します。
昼前に出発したのに森の入り口についたのは太陽は天辺を過ぎて結構時間が経ってますね…。
時計くらい持ってくれば良かったかしら…。でもこっちに来る時に腕時計持ってこなかったのよね…。
「オーちゃんありがとう。魔物と会わなかったけど、避けて移動してくれたの?」
『はい。魔物と戦った方がよかったですか?』
「そんなことないわ。でも帰りは時間があれば戦ったり魔物を探したりしたいからその時はお願いね」
『かしこまりました!』
その後はゴブリンやオーク、オーガを倒しつつスーパーについたけども私の出番は魔石を取る時くらいで、たまに遠距離から魔法を撃つくらい。
ゴブリンならまだしもオークやオーガは私とオーちゃんだけでは勝てないとコクイチ君に言われたので(オーちゃん経由で)初めに魔法を撃つだけで後はオーちゃんとコクイチ君達が倒してしまった。まあ…無理してお夕飯が作れなくなったら困るので大人しくしてましょうか。
「スーパーもぼろぼろねぇ…」
外観は蔦に覆い尽くされ、店内も魔物か人間かはわからないが荒らされ棚が倒れ、商品が散らばっているのが見える。
お店に入ってまずはエコバッグを探す。最近は何処にでもエコバッグが売っているのにマコトはなんでレジ袋で持ってきたのかしらね?レジ袋よりたくさん入って破れにくいのに…。まあそこまで考えていなかっただけでしょうけど。
目的のエコバッグはすぐ見つかったのでエコバッグを広げその中に大量の折り畳まれたエコバッグを入れていく。メイちゃん達が採取したりする時にも使えるし、他にも使い道はあるでしょう。
その後は調味料や缶詰め、トイレットペーパーやティッシュペーパー、歯ブラシや洗剤。あとはアキちゃんがナッツを欲しがってたからナッツ。オーちゃんや他の子達用にビーフジャーキーやサラミ。それとまだ食べられそうな食品…カステラとか袋入りのドーナツとかは賞味期限も平気だし、クーちゃんやランちゃん喜んでくれるかしら?
店内を一通り見て周りお店の倉庫も覗き込み必要なものをエコバッグに突っ込んでいく。
『ご主人様…』
「なあに?オーちゃん?」
『その…袋が十…二個に、その紙類をどうやって持って帰るのでしょうか…』
あら?ほんと。大きいサイズのエコバッグが十二個もパンパンになってるわね?
「うーん…。オーちゃんが首に掛けて持っていく?」
『ご、ご主人様…流石に二つ、三つかが限界です…』
「三個首に下げて私のこと乗っけられる?」
『うーん…はい。それは大丈夫です。ただ首に二つも三つも下げれば私の首が大変なことになるので…。ご主人様が背中に乗る分は問題ありません!ただ速度は遅くなりますが…』
まあオーちゃんはハクちゃんみたいに大きくないから仕方ないわね。普通の犬や狼だったら背中に乗ろうとも思わないし。近所で見る大型犬よりは大きいけど…いえ、あまり大差ないかしら?でも以前、乗ってくれって言われて乗ったら余裕そうだったしやっぱり魔物なのね、って感心したわね。
「コクイチ君達の影には入れられないのかしら?」
『………影の中に仕舞うのは無理のようです。ただ身につけた状態…持ちながら影の中に入ることはできるけど移動が難しい上に、戦闘があった時すぐ出て来れないから困るようです』
「うーん…なら影の中じゃなくて普通に荷物持って貰おうかしら?戦闘はきっと大丈夫よ。それでコクイチ君達それぞれ二個ずつ運べるかしら?」
『持てますが魔物が出たら荷物は置いて後回しにさせて頂きます。って言ってます!』
「それでいいわ。よろしくね。それに魔物は私が魔法で頑張ってみるわ」
オーちゃんに二個、コクイチ君が二個。他の大黒蛇が二個ずつ…。五匹いるうち四匹はエコバッグを持っているが一匹だけはトイレットペーパーなど紙類を三個…。
「私が紙類を抱えてオーちゃんに乗るわ。コクイチ君は紙類を持ってた子に荷物を任せれば手が空くでしょう?そしたら戦闘は私の魔法とコクイチ君で出来るしそうしましょ?」
『了解だそうです!』
これで問題解決ね!オーちゃんと大黒蛇五匹で十二個の袋は持てるし、大変だけど私が紙類を抱えて魔法で援護。……ん?抱えなくて片手で持っていられるわね?少し邪魔だけど重たくないわ。レベルのおかげかしら?
それでコクイチ君は荷物を持たずに済むから戦闘は問題なし。
後はまだ日が暮れるまでには多少時間ありそうだしオーちゃんとコクイチ君に狸とか鼬鼠でも探してもらいましょうか。
コクイチ君達に目的を伝え移動を開始し、さっき通ってきた道とは違う道を行く。戦力としてはコクイチ君がいれば充分だし私のレベル上げにも必要だしね。
「あ!待って待って!」
『どうされました?』
「あそこの建物にいきましょ!」
『あそこは…?』
「ペットショップよ!」
小さなペットショップ。建物は蔦に覆われているし、一部崩れているけど動物の看板があるからペットショップ…のはず。動物病院かもしれないし、動物がいるかはわからないけど寄ってみる価値はあるわ。
「じゃあ皆はここで待っててね。コクイチ君護衛お願いね」
入ってみるとペット用品が並べられ、奥に展示用のケースが見えたからやっぱりペットショップであってるはず。
ケースはほとんど割れているけど無事なケースもある。その無事なケースを覗いていく。
「うーん。いないわねぇ…。そういえばコクイチ君って魔物の反応が目に見えるんだったかしら?魔物がいるかわかる?」
言葉を聞き取ることはできないが私の言っていることは理解できるコクイチ君は首肯した。
「いるの?何処にいるのかしら?」
コクイチ君は一つのガラスケースの前まで行くと私の顔を見てくる。
「ここ?」
首を縦に振っているのでここにいるということでしょうけど…見えないわね。どこにいるのかしら?草が敷いてあり、寝床とトイレ、後は玩具くらいしか隠れるところなどほとんどない。強いて言うなら少し盛り上がってる草の中?
コンコン。コンコンコンコン。
ガラスケースを何度か叩いてみると盛り上がっていた草が動いた。
「そこにいるのね?」
反対側からケースを開けてもいいのだけど…逃げられたら嫌だし…。
根気強く何度も叩いていると草の中から顔が出てきた。
「あら…うさぎだったのね。出てらっしゃい。私と一緒に行きましょう?」
数分ほど睨めっこを続けているとアナウンスが鳴った。
《兎が仲間になりたそうにしています。テイムしますか?》
【Yes or No】
「Yesよ!」
《兎が仲間になりました。テイムした魔獣に名前をつけてください。二匹テイムしたことにより職業【テイマー】のレベルが上がります。職業【テイマー】のLvが上昇したため、基礎スキル【テイム】のレベル、個体名【中野 瑠璃】のLvが上昇します》
完全に姿を現した兎は真っ白の小さめの子。
「あなたの名前はラビットだかららーちゃん!」
『らーちゃん…?』
「らーちゃんよ!私はルリ。よろしくね」
『ルリ様…よろしくお願いします。あの…ご飯ありませんか…?』
「お腹空いてるのね。オーちゃん!ニンジン持ってきてもらえるかしら?」
『え!?あ、はい!』
オーちゃんの慌てた声が聞こえ少しするとニンジンを咥えたオーちゃんがやってきた。
「ありがと」
『どうされたのですか…?その子は新しい眷属でしょうか…?』
「そうよ!名前はらーちゃん。よろしくね」
『は、はぁ。かしこまりました』
ガラスケースの反対側に回りらーちゃんを外に出してニンジンと魔石をあげる。
今日はらーちゃんのことを仲間にできたし、寄り道せずに帰りましょうか。
「じゃあ行きましょうか。暗くなる前には帰りましょ」
移動速度はそんな速くないので、らーちゃんはもついて来れる速度で移動し、何度か戦闘もあったけど無事日が暮れる前に小屋に着くことができた。
「さてと。らーちゃんは皆とお話してらっしゃい。私はご飯の支度しちゃうわ」
まだ皆帰って来ていないけど完全に日が暮れる頃には帰ってくるだろうから夕食の準備をする。
一人で…コクイチ君達がいればだけど買い物に行けたし、人間は全くいなかったから今度からコクイチ君じゃなくても待機組を連れてまた買い物に行こうかしら。
あ、でも大きな物は運べないから、マコトが戻ってきたら冷蔵庫とか電気ストーブをお願いしましょうか。それと発電機用のガソリンも。
夕食をいつもより豪華にして済ませた後はらーちゃんのお披露目…。と思っていたんだけど、肝心のらーちゃんは外で魔物達とお話ししてるし、皆今日は早く寝るって言うから明日の朝にお披露目ね。
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