104 集落
鷲獅子達に襲われ一時間。
俺らが拠点にしてる小屋がある場所のような木々がないところも、森の境目も見えず、ひたすら樹海の上空を進んでいく。
「本当何もないな…」
『木はたくさんあるよー?』
「いや、まあそうだな…」
「しかし主様。結構魔物が固まっているところはありましたよ?」
「そうなのか?」
「はい。まあ上から見るとそこまで詳しくはわかりませんが、たまにものすごい数の魔物が集まっている場所がありました」
「ほー? 強いか?」
「いえ、そこまではなんとも…。ここまで離れている上、固まっていると個々の魔力を感知するのは難しいので…」
「まあそうだな。気落ちしなくていいからな?俺なんて魔物がたくさん集まっていることさえ気がついていないし」
「ありがとうございます」
にしてもそろそろ降りてみるか? 山はまだ見えてるがかなり離れているだろうし。でもなぁ…目印が何かあればいいんだが…緑一色だと何処に降りるか悩むし、またそこに行こうと思ってもわからなくなるし…。いや、降りた場所の木々を切り倒せばいいだけなんだけども。
「よし。クレナイ。次に魔物がたくさん集まっている場所があったら教えてくれ。そろそろ日も暮れてきてるし、身体も動かしたいからその近くに降りよう。リーフもそういうことで頼む」
「かしこまりました」
「わかった!」
「クー太達は大丈夫か? 窮屈だろう?」
『アキがじゃまー』
『そうね。アキが足元で寝てるせいで窮屈だわ』
『…うん』
アキ…お前まだ寝てんのか…。
とりあえずバックパックの中に手を突っ込みアキを掴み上げる。
「アキ。起きなきゃ当分飯抜きにするぞ」
『ご飯!?』
「殴っていいか?」
『……え!? ご主人暴力反対なのです!なんで突然そんなこというのです!』
「お前がずっと寝てるから」
『ね、寝てないのです!』
「ほー? ならずいぶんとリラックスしていたんだな…?」
『ア、アレです! 長旅なのでいつ敵が来てもいいように体力を温存してたのです!』
「ふむ…。そういうことなら許してやろう」
『よ、よかったのです…』
「ん? 何か言ったか?」
『なんでもないのです!』
はあ。こいつはまったく。まあいつ敵が来てもいいように。って言ったからな。次の戦闘ではアキに全てやらせよう。
『ご主人様! あそこに開けた場所があるよー? なんか建物もある』
「お。リーフ何か見つけたのか。どこだ?」
『この先真っ直ぐー』
言われるまで気がつかなかったが樹海にぽっかりと木のない場所があった。その上何かの建物跡とその周りにおそらく木や草で作られたテントみたいなものが見えた。
これ進化してなきゃまったく見えなかった気がする。
「ならあそこへ降りてくれ」
『わかったー』
さてさて。何があるかね? ここからでは生物は見えないが、建物跡の周りに色々あるので無人ではないとは思うが、人間か魔物か。
意外とその場所は遠く十分程飛び、やっと真上に来た。音や匂いを感じる事はできるがこれが人間なのか、なんの音なのかは判別がつかない。
『なんかいるよー?』
『そうね。オーガの…キコウ? だったかしら?アイツに近い匂いがするわ』
「ええ。確かにオーガの匂いがします」
「匂いはわかりませんが家…のような場所には三〜四匹ほどの反応があります」
『敵ですか!』
『敵….?』
『敵なのー!』
「クロ、ドライ。聞こえてるか?戦闘を考えておいてくれ」
クロとドライに声をかけると影から顔を出し頷いて影に戻っていく。
ちゃんと聞いていたようでよかった。
『ご主人様降りていいの?』
「ああ。頼む」
『わかった!』
リーフがゆっくりと垂直下降していく。下を眺めているとリーフの羽音に反応したのかテントっぽいものと建物跡から魔物が出てくる。
「オーガだな。というかこれオーガの巣のど真ん中に降りて行ってるのか? もう少し離れたところに降りればよかったか…」
『ご主人様もう一度上がる?降りる場所変える?』
「いや、構わない」
『わかったー』
会話している間にも地面は近づきリーフは地上に降り立つ。
「ガァァァ!」
「テキダ!」
「シンリャクシャダ!」
「タタカイダ!」
あー。やっぱりこいつらも話すのな。話せるなら一応対話してみるか?魔圧してからだが。
「魔圧する。出来るだけ敵のみに向けるがまだ慣れないから覚悟だけしてくれ」
一応皆に伝えてから以前よりも少し弱めに魔圧を放つ。
「ギャァ!!」
「ガァッ」
「えー」
オーガ達は口々に悲鳴をあっさりと上げ膝を折る。
本当このスキル制圧向きだよなー。自分より魔力が少ない相手に限られるけど。
というかこいつら、個体によるが身長二〜三メートルあって、イカツイ顔しているのに見た目と能力が比例してないよな…。
まあいい。立ってるやつはいないな。
「言っている事はわかるか?」
「「「「…………」」」」
「わかるなら返事をしろ。返事がなければ問答無用で殲滅する」
返事がないのでそう言って魔圧をする。
『ご主人様?今回私達は平気だったけど多分オーガ達魔圧のせいで喋れないんじゃないかしら?意識保っているだけでも凄いと思うわよ?』
あー。確かに。俺が使役している奴らでさえ気絶していたしな…。
「これからお前たちが今感じている圧力を無くす。その代わり…襲いかかってきたら容赦はしない」
そう宣言してから魔圧を止める。
魔圧をやめた瞬間全てのオーガは膝をついたまま荒い呼吸を繰り返す。
さて…殲滅するのは簡単そうだが…テイムできるか?
テイムされろっ。
…………。
あれ? 何も起きない。
「ご主人様? テイムしようとされましたか?」
「ん? ハクよくわかったな」
「魔圧とは違う魔力が放出された気がして…。いえ。そうではなくご主人様は今テイムができないのではないですか?」
あ。そうだよ。つい半日ほど前のことなのに忘れていた。
「すまん。忘れてた…。テイムできないのか…。せっかく動きを止めたのに殺さなきゃいけないのか…」
「オ、オマチヲ」
建物跡から出てきたと思われる他のオーガより体格の良いオーガが話しかけてきた。
「あ?」
「ヒッ!?」
「あー。すまんすまん。んで?なんだ?」
「ワレラヲ、ドウサレルノ、デショウカ」
「どうして欲しい?」
「ワ、ワレラヲハイカニ!」
なんだ? オーガって強い相手には配下にしてくれって懇願するのが流行ってんのか?
「俺は今お前たちを配下にする能力が封じられているからな」
「オネガイイタシマス! キョウジャヨ! ワレラヲハイカニ!」
聞き取りづらいなぁ…。
「お前がここのボスか?」
「ハ、ハイ!」
「ならまた数日後にここに来る。その時逃げていたり、敵対行動を取れば全員殺す。しっかり俺のことを待っていたなら配下にしてやる」
「ア、アリガトウ、ゴザイマス!」
拍子抜けだな。というかこいつら本当に待ってるかね?
「お前名前あるか?」
「イエ…。アリマセン」
だよなー。喋れるしあるかと思ったんだがやっぱりないか。暫定的に何か名前付けておくか?いや、逃げたら無駄になるしやめとくか。
「そうか。じゃあここら辺に出る魔物…いや自分で見て回ったほうが楽しいな。とりあえずお前たちは俺らが戻ってくるまではいつも通りに過ごしてて構わない」
「ハッ!」
「じゃあ俺は行く。皆行こう」
『はーい』
『放っておいていいの?』
「テイムしてないからな…。問題はないだろ」
『大人しく待ってるかわからないの!』
「全員逃げてたらそれはそれでいいし、戻ってきた時に対抗するつもりなら…その時は経験値になってもらうだけだしな。ただ…喋る相手は少しだけやりづらいが…その時はその時だ」
オーガ達の集落? から抜け森に入る。
あいつらが掌を返して襲ってこない事を確認しつつ、そのまま飛んでいく。




