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エピローグ




 セラヴィンさんの妻になり、ニルベルグ王国の王妃となって、季節がいくつか巡った。

 王妃としての日常は目まぐるしく、毎日が駆け足に過ぎていく。

「ここまででいいわ」

「はい、王妃様。おやすみなさいませ」

 私は追従する侍女を寝室の扉の前で下がらせると、自らの手でドアハンドルを引いた。

 ――キィィイイイ。

 セラヴィンさんと共に公務に励む、忙しくも充実した今に、私は幸福を感じている。とはいえ、こうして一日の終わりに夫婦の寝室に足を踏み入れた時は、ほっと肩の力が抜ける。

 セラヴィンさんと過ごす夫婦の寝室の先は、改築をして扉一枚隔てた向こう間に子供部屋が続く。そんな家族だけの空間は、王宮内にあってまさに気の置けない我が家といってよかった。

 ……でも、さすがにもう子供達は眠っているわね。

 ――バタンッ。

「お母様おかえりなさい!」

 私が子供部屋に続く扉に顔を向けるのと、五歳になる長女が飛び出してくるのは同時だった。

「あらアシェリー、まだ起きていたの」

「ねぇお母様、これってどうしたの!? これ、すごくきれい! 私が貰っちゃだめ?」

 パタパタと駆け寄って来る長女のアシェリーを抱き上げれば、アシェリーは私に向かって矢継ぎ早に言いながら握り拳を差し出した。

 小さな指がゆっくりと開かれて、中から現れたブルーグリーンに、懐かしさや愛しさやあらゆる感情が浮かび上がる。

 かつてのペンダントと同じ意匠で小物入れを誂えて中にしまい、文机に大事に保管していた。実に数年振りに目にしたそれは、セラヴィンさんと、そして今まさにくりくりとした目で私を見上げるアシェリーの瞳によく似ていた……。

 目の前でキラキラと輝く三つのブルーグリーンの眩さに、私は目を細めた。

「そう、アシェリーはこれを見つけたのね。……だけどそうね、私がこれについて説明する前に、まずは聞かせてくれる? どうしてお母様の文机にあったはずのこれを、あなたが持っているの?」

「ち、違うの! 勝手に開けたのはシシリィよ! シシリィがお母様の文机を空けてぐちゃぐちゃにしちゃったの。これもシシリィが放って、中から出ちゃったの。私は元通りに整えようとして……でも、これがあんまり綺麗で。……勝手に取っちゃってごめんなさい」

 アシェリーは尻つぼみに言いながら、しょんぼりと俯いた。

 シシリィは悪戯盛りの三歳で、目が離せない。アシェリーはそんな妹の後片付けをしようとしてくれたようだった。

「そうだったの、アシェリーは片付けようとしてくれたのね。ありがとう」

 私は肩を落としたアシェリーをそっと抱き締めて、感謝を伝えてその額に口付けた。アシェリーはホッとしたように微笑んだ。

「このトンボ玉はね、あなたの亡くなったお祖父様が作ってくれた物なの。……そうね。これが全ての始まりで、これのおかげでお母様はお父様と出会って、あなたとも出会えたわ」

 キョトンとして私を見上げるアシェリーは、私がした抽象的な物言いが分かっていないようだった。

「要するに、お母様にとってとても大切な物って事ね。だけどアシェリー、これからこれはあなたの物よ。あなたが大切にしてくれたら嬉しいわ」

「ありがとうお母様! 私、大切にするわ!」

 セラヴィンさんによく似た淡い金髪をサラリと撫でて言えば、アシェリーはそれはそれは嬉しそうに笑い、小さな手にキュッとトンボ玉を握り締めた。

「さぁ、それじゃアシェリーもうおやすみなさい」

「はいお母様!」

 アシェリーは太陽みたいな笑みを残し、トンボ玉を握り締めて子供部屋に戻っていく。私はそんな愛しい我が子の背中を微笑んで見つめていた。


「リリア」

 愛しいその人の声にハッとして見上げれば、いつの間にかセラヴィンさんが私の向かいに立っていた。

「セラヴィンさん、おかえりなさい」

「ただいまリリア。なにか考え事かい?」

 私が大好きなブルーグリーンの瞳を見つめて微笑めば、セラヴィンさんが大きな手で優しく頬を包み込む。

「幸せだなぁって、そう思っていたんです。……セラヴィンさん、私、セラヴィンさんに会えてよかった。それから、こんなにも可愛いアシェリーやシシリィにまで会えて」

 セラヴィンさんはブルーグリーンの双眸を細くして、蕩けるように微笑んだ。

 大好きなブルーグリーンが滲むくらいに近付いて、反射的に瞼を閉じれば、唇に柔らかな感触が落ちる。

「俺も同じだ。君との出会いから、俺はずっと幸福の中にいる。リリア、君に会えてよかった」

 ゆっくりと瞼を開けば、鮮やかなブルーグリーンが私を見つめていた。

 大好きな故郷と同じブルーグリーン。

 このブルーグリーンが繋いでくれた。そうしてこの絆は、また脈々と次代へと繋がっていくのだろう。

 絶えず繋がっていく幸福な未来を思えば、熱く胸が詰まった。





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