プロローグ
……なんて綺麗なんだろう。
キラキラと光を弾くブルーグリーンのまあるいトンボ玉は、お父さんから貰った大切な宝物。私は指先に摘まみあげたトンボ玉を、目の前でクルクルと翳す。
「……だけど、セーラのブルーグリーンの瞳はこれよりもっと綺麗だった」
宝物のトンボ玉は元々ふたつあったのだが、そのひとつは昨日、友人になったセーラにあげた。
セーラは貴族だが、私たちは身分の垣根を越えて、すぐに友人になった。
「私、セーラの瞳が好き。ううん、私、セーラが好き!」
昨日のセーラとの一幕を思い返せば、自ずと頬が緩んだ。
「リリア、お父さんたちが帰ったわ。すぐにお夕飯よ、降りていらっしゃい」
「はーい」
階下からお母さんに呼ばれ、私はトンボ玉を机の引き出しにしまうと自室を出て、食堂に駆けおりた。
「わぁ、美味しそう!」
食卓には既に、温かな湯気を立てる一家五人分の夕食が並んでいた。私が自分の席につくと、作業着から着替えたお父さんたちも、揃って食堂にやって来た。
「おかえりなさいっ! お父さんたち遅いよー! 私もうお腹ペコペコ!」
「リリア、疲れて帰って来たお父さんたちにそんな言い方をしてはいけませんよ」
私の第一声が、お母さんに窘められた。
「いいよいいよ、マルグリット。ごめんよリリア、今日は注文品の作製に時間が掛かってしまったんだ。だけど明日は早く帰れるからな」
「うんっ!」
お父さんはそう言って、私の頭を優しく撫でた。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんも、お父さんと同じように優しく笑い、私の頭を撫でてくれた。
「いただきまーす!」
家族全員が食卓について、夕食が始まる。
「へー、今晩はタラの芽のフリットか」
お父さんの弾んだ声に、お母さんは嬉しそうに目を細めた。
「ええ。前にタラの芽をお出しした時、あなた随分と喜んでらしたから。時期には少し遅いんですけど、もしかしたら、まだあるんじゃないかと思って探しに行ってみたんです」
お父さんが早速タラの芽のフリットを頬張る。
「お、美味い」
「よかったわ。おかわりもありますから、いっぱい食べてくださいな」
お母さんがお父さんに向かい、それはそれは幸せそうに笑う。
私もお父さんも、お祖父ちゃんお祖母ちゃんも笑う。
家族で囲う食卓は、いつだって笑顔に溢れていた――。