第五節
書きだめ連投します!
主人公のキャラが薄い……
数時間の飛行の後、飛行する車両は緑豊かな盆地に着陸した。草原と森が続く大地には村も無く工場や事務所のような建物が転々と建てられている。
その盆地の外れの小さな事務所にこの車両は着陸したが、ここで訓練が行われるのだろう。ハルクスエ、バベッジ、神崎、荒木、スズラと共に降りると車両はすぐさまホバリングを開始し飛び立っていった。
「ここは?」
「ここが俺達の拠点だよ。まぁ中に入ろうぜ、風呂くらいはあるしな」
中は田舎の町役場を連想させる、何とも派手さに欠ける内装だった。今降りた6人以外の人影はなく少し寒々しい雰囲気すらある。
一階の奥は畳張りの部屋で中央にはちゃぶ台。町役場を通り越して公民館的だ。ハルクスエがちゃぶ台の上にあるポットから湯呑みに湯を注ぎ、昆布茶らしきい香りの飲み物を飲んでいる。ちゃぶ台の上には煎餅と湯呑みが備え付けられているので、なんとも所帯染みている。バベッジとスズラは二階に向かったようで今は4人だけだ。
「なんかエラく日本文化だらけだな。昆布茶とか一体何がどうしてこの世界にあるんだよ」
「まぁ俺ら以前にもちょくちょくとこの世界に来てる日本人はいるからな、結構伝わってるらしいぞ」
「そのお陰様でこの世界の料理や文化は多少駆逐されちゃったけどね。まぁ私にはなんら係わりのないことだから気にしてないけど」
時計らしき物も掛けてあるがその時計も十二進数時計で秒針や分針も六十進数だ。ここまで元の世界に似ているとあまり別世界感が沸かないが、その分順応も楽そうだ。今の時刻は16時48分、まだこの世界に来てから一日も経っていないが、中々濃い日であったと思われる。
「今日の夕飯は荒木が当番だよな。そろそろ下準備しなくていいのか?」
「忘れてた。肉とか買ってねーな、ハルさんちょっと山から猪か鹿ぐらい仕留めてこれないか?」
「自分で行きなよ。その神威継承なら楽勝でしょ」
「えぇー!?肝捌くの嫌いなんだけどなぁ、まぁ当番俺だしな、しょうがないか。確か山葵と生姜はあったな」
そうボヤきながらも降ろした荷物の中から狙撃銃を持ち出し外に向かう。ハルクスエは昆布茶を啜りながらどこからか取り出した新聞を読み始め、神崎は荷物を部屋に置くと部屋から退室しようとする。
「トイレ?」
「いや、トレーニングだ。明日からお前も参加するし、軽く慣らしておくか?」
「そうしますか」
到着して早々にこの建物、事務所を出て左手に回り建物の裏に出るとそこそこの広さのトレーニング場だった。ジムなどで見かける筋肉トレーニング器具に鉄棒などの見慣れた道具や、丸太やら巻藁、案山子などの古武術練習に使う道具も設置されている。
「とりあえずプッシュアップとエアースクワット30回を3セット、腹筋と背筋も同じく3セットだな。あとは片手懸垂を左右五回ずつ。どのトレーニングもじっくりと時間をかけてやれよ」
「へーい」
「軽く返事してるがこなせるか?一般高校生が行うにはちょっとばかりハードだと思うが」
「どうせ明日からはもっとキツくなるんだろ?選択肢がないなら素直にやっておくのが吉だよ」
そう言いながら柳谷は地面に伏せ腕立てを始めた。一度上下するにも時間を掛け筋肉に負荷をかけていく。時間をかけながら行うとなると、30回でも十分に体力を消耗するのだが、柳谷は愚痴も言わず黙々と取り組んでいる。
「なぁ柳谷、パワーの反対ってなんだと思う?」
「なぁ………ハァ…んだって?パワーの反対って?…ハァ」
同じ様相で腕立て伏せを始めた神崎、だがその顔に疲労は無く街中で世間話でもするかの様な軽快さを保っていた。
「パワーの反対って言うと……スピードとか?」
「そう思うだろ?ところがパワーの反対は持久力、パワーとスピードは同じなんだよ」
「ハァ……ハァ……同じ?」
「例えば短距離走選手の筋肉には太く強靭な速筋が多い。速筋は瞬発力が高い筋肉なんだが、この瞬発力はパワーに直結すんだ。運動量は速度と質量で求められるだろ」
「ハァ……ハァ……あぁ……」
会話を続けながら腕立てとスクワットを繰り返す。疲れが見える柳谷に対して余裕を保っている神崎の話は続く。
「まぁこの世で最もシンプルな式と言ってもいい、速度×質量イコールパワー。この原理で言うのであれば攻撃力を高めるにはスピードと重量を鍛える事が大切になる」
腹筋運動を行いながらも筋肉談義は続いていく。相変わらず神崎は何一つ疲れがない。
「筋肉を鍛えるって事はそのまま体重と瞬発力を増すって事だ。当然、戦闘でも筋肉は重要だ。単純に攻撃力を上げるだけじゃない、筋肉を纏った五体は多少の負傷は気にならないしダメージがあってもコンディションを維持しやすい。戦闘で一番大切なのは攻撃力ではなく、いかにその攻撃力を維持するかとも言われるからな」
長々と続く筋肉談義、やれ広背筋だの上腕二頭筋だのについて聞かされる。神崎は筋肉博士なのだろうか、結局終わるまでにちょくちょくと筋肉話を挟んでいた。開始から一時間半近く、柳谷は疲労で倒れかかっている。
「筋肉は破壊、栄養補給、休養のメカニズムにより発達していくんだ。ただ闇雲にトレーニングしたところで筋肉が強くなるどころか身体が痩せ細るだけだ」
「ヒィー……ヒィー……ヒィー……筋肉はいいから助けてくれぇ……」
「大口叩いてたのに情けないな、明日からはこれをウォームアップ代わりにするんだから気張れよ」
トレーニング内容は簡単なものだが、一つ一つの動作に時間をかけ休みなく行ったからか、柳谷の足元はフラついて下手なタップダンスのようだ。
建物に戻ろうとフラフラと歩き出すと荒木が帰ってきていた。ズルズルと茶色い何かにロープを括り付け、それを引っ張りながら帰ってきたらしい。肩に狙撃銃を担いで歩いているが、鹿と合わせればその重量は米俵を担いで歩くのに相当すると思われるが、近場の山からここまで歩いてきたのだろうか。
「おぅす荒木、大物か?」
「おう、いい肉だぞ。バラすから後で倉庫前に来てくれよ」
「ハァーハァーハァー……なんだそれ?」
「鹿。この世界の鹿だから学名までは知らんが鹿だ」
成る程鹿、少し羊羹色が混じった物体は鹿だったようだ。頭部には角が生えているのでオスだろうか、その鹿の首の中央部には五円玉程の孔が開いている。
「柳谷がウチに入隊した記念だ、今日は鹿肉だぜ」
「スゲェーなこれ。荒木が仕留めたのか?」
「まぁコイツでな。この辺の山は鹿やら猪やら栗鼠とか食える動物が多いんだ。ハルさんもよく狩に行ってるよ」
牛豚鶏が基本の日本人だが世界各地では鹿を始めカンガルー、犬、ワニ、クジラ、オウム。人類が食物としてきた動物を挙げればきりが無い。だがその人類をもってしてもナマコを始めて食べた人間は異端だったのだろうか。
「まぁ飯の用意に時間がかかるかぁ。柳谷は裏の小屋に行って薪割っといてくれ」
「薪?魔術的な力でそれぐらい賄えないのか?」
「いや〜それが何故かこの世界じゃ薪もよく使うんだって。まぁ薪を使った方が美味いけどな」
郷に入っては郷に従え、働かざる者食うべからず。クタクタになった身体を引きずりトレーニングスペースのさらに奥、森の中の小屋らしき建物に向かう。
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