表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Loser3,柳風の別世界傭兵書記  作者: 西山ァ!
序章:馬酔木と朝顔
4/24

第四節

打ち立てた目標まったく守らずです……

気長に見守って下さい

 魔獣の体が悪臭を発しながら黒煙を上げている。炎などで燃やしてはいないのだが、なぜ黒煙を上げているのか。見た目でもわかる通り、普通の生物ではないだろうが。

 柳谷はそこから離れて腰を下ろしている。息も絶え絶え、足腰もおぼつかない。剣は既に手から離している。力任せに振り回したせいで刃はズタボロになり、最後の突きで切っ先も欠けている。


 (水………水が飲みたい……死ぬかと思……たぁ……クソ……どういう場所なんだよ……あんな怪物がいるなんて)


 いくつもの幸運が重なり魔獣を倒せたが、もう身体がくたびれてしまった。半分這いながら川に近付いて水を飲む。清水の冷たさで靄がかかっていた頭が冴えた。フラフラと立ち上がり魔獣に殺された遺体へ向かう。


 「南無阿弥陀南無阿弥陀……お陰で助かりました。厚かましい話ですが、遺品を使わせて頂きます」


 これまた追い剥ぎや死体漁りみたいな話だが、死体から武器を拝借する。片刃剣とその鞘をベルトで肩に掛ける。そしておかしなものを手に取ってみる。()()()()()()()()()()だ。それも昔の海賊が使っていたような弾込め式や、火縄銃みたいなものじゃなく、外国の映画で見かけるサブマシンガンに銃にとてもよく似ているものだ。

 よく見れば他の装備も変だ。この遺体が着ている服は現代の軍人のようだ。どことなくラフな雰囲気もあるが、水筒に双眼鏡に発煙筒、ジャンズさんの鎧と比べれば柳谷が知っている戦闘服のイメージに近い。ジャケットには企業のロゴマークのような模様がある。この遺体は何者なのか、そのロゴに書いてあった。


 「……ウェストコット警備会社ぁ?つまりこの人は警備会社の社員?」


 警備会社、そう聞いて思い浮かべるのは警備カメラを使ったセキュリティや夜間の警備しか思い浮かばない。何故こんな重装備なのか、なぜ魔獣に襲われたのかが結びつかない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 柳谷はいくつかの幸運が重なり生き残れた。木に登っていた事、剣を持っていた事、不意打ちに成功した事、既に魔獣が怪我を負っていた事。そうした綱渡り的奇跡が重なったおかけで一人で生存している。

 だが、ここである問題が発生した。魔獣との戦いの最中、魔獣や柳谷が何度も大声を出した事だ。それは静かな森に響き渡り、柳谷達の存在を知らせていた。


 柳谷のいる河原から103m、それは接近していた。仲間の安否を確かめるためか、それとも敵を排除する為か。鋭い爪、ワーム状の頭部、盛り上がった筋肉、異形の人型が柳谷に向けて接近していた。それも、先程のように手負いの一体ではなく、万全を期した群となり、周囲を警戒しながら。


 「……え?え?え!?」


 柳谷は気づいてしまった。先ほどの魔獣の歩みに似た音が集団となりこちらに向かっていることに。


 (嘘嘘嘘嘘嘘嘘ぉ!?おいフザケンナ!なんでなんでなんで!?!?おいおいやめろバカ!)


 柳谷が万全なら先に逃げ出し、隠れるという手段はあったかもしれない。しかし、先程の一戦で消耗している柳谷にそれは不可能だ。この体力で森に逃げ込んでも息を切らして見つかる。肉片になるのが数十秒遅くなるだけだ。



 (………ハハァ、なんだかなぁ。なんか意外と劇的に終わるってわけじゃないのかな……)


 しかも当然戦う事は絶望的。武器はあるものの、それを振るうだけの体力はない。戦局は絶望的、戦力差は絶対。その現実に勝てる道理はない。

 無論、高レベルストレスによるパニック障害ではない。むしろ、柳谷の心は殉教者のように落ち着いていた。

 人は死に直面した時に主に二つに分かれる。死を受け入れるか、それとも死に抗おうとするか。病気などで長期的に死と向かい合う人間は死を合理化し、受け入れようと努力する。だが、今の柳谷にその時間はない。だが柳谷は非常に落ち着いている。

 

 柳谷は生存を諦めている。座り込んだまま指一本動かさなずにいる。死というのに直面した事はある。また、()()()のように何も出来ない自分。彼は決して強い人間ではなく、ヒーローのように諦めない事なんて出来ない。彼は現実を受け入れ、諦めた。


 柳谷は笑った。ただひたすら笑っていた。それは危険に直面した脳が作り出す脳内麻薬で作られた、諦めと悲観の涙だった。その笑顔の中、子供の時の事を思い出していた。強かった園長、優しかった仲間達、人のいい商店街の皆。恐怖の中で楽しかった思い出を反芻する柳谷。

 そんな中、一つだけ異質なものを思い出した。海馬の内、途切れ途切れ、柳谷自身が忘れたい思い出が。


 「……でもいいじゃん。別にさ、………だってまた始めればいいじゃん。そうした方が……と思うし、私は………だな」


 その思い出は単なる走馬灯の映像だけではなく、幻聴が聞こえた。彼が恨んだ記憶だった。二度と触れたく無い(宝物のように輝く)思い出だった。

 湯だって、ぐちゃぐちゃの頭にそれは少しだけ響いた。


 (……………相手とはまだ距離がある。この距離で俺が先に気付けたのは大人数で移動しているからだ。当然全体で歩幅を合わせるのならまだ猶予がある。この距離の余裕を利用して川に逃げ込む!自分に襲いかかってきたヤツは最小の動作で妨害してとにかく走る!森に飛び込むのはダメだ!)


 柳谷は急に走り始めるのではなく、力を抜きながら体力を回復する。この木の下から川まで18mほど、走ればすぐだ。だが体力の消耗は激しく、河原の足場は安定しない。後ろの魔獣に追いかけられたら川に飛び込む前に捕らえられてしまうかもしれない。


 (やつらは既に俺の存在に気がついている。歩みが速くならないのは俺がこのまま動かないと踏んでいるからだ。息は荒く、消耗しているのはすぐにわかるだろう。それならそれを逆手に取り)


 居合切りのように身体を静寂から急発進さそる。全身の筋肉をフル活用して駆け出す!それとほぼ同時に魔獣達がかけだした。

 残された体力と精神をフルに使い全速力で駆け抜ける。しかし魔獣は素早い!柳谷が川まで8mの地点でもう森を抜けている。そのうちの一体が距離を詰めてきている。速い、このままじゃ川に着く前に死ぬ!咄嗟にサブマシンガンを構え、引き金を引こうとする。狙いを定める余裕は無い、身体を後ろに向ける事なく乱射する。


 (クソ!南無三‼︎)


 弾切れではなく、ちゃんと銃弾が飛び出てくれた。その銃弾は接近していた一体の体に直撃して転倒させた。この銃撃で既に弾は枯れたようだが十分な活躍だった。薬莢は排出されず火薬の匂いもしないが、柳谷にその事を気にする事は出来ない。


 しかし川に向けて走る事以外に意識を割く事になってしまった。当然、後ろの魔獣により距離を詰められた。川まであと5mだが、川に辿り着ける確率は30%もない。柳谷は焦った、しかし、ここで焦って後方の警戒を怠ったのがミスだ。


 「なぁっ‼︎痛ァッ‼︎」」


 背中に激痛が走る。何か硬くて重量のある物体をぶつけれれたようだ。痛みと衝撃でバランスを崩し、河原に転倒する。


 (クッソが!石か‼︎)


 背中に直撃したのは、河原に転がる石だった。ある意味、意趣返しとも言える。先ほど利用した投石を自分がくらう羽目になるとは皮肉だった。

 相当の衝撃だった。魔獣が投げたのだろう、あの筋力から投げられた石の威力、直撃した肩甲骨にはヒビが入ったか、それとも粉砕されたのだろうか。呼吸が出来ず、徐々に意識が希薄になっていく。剣を構える為に身体を起こそうとするが痛みで力が入らない。倒れてから2秒たたずに襲いかかる魔獣達。


 「死………!」


 恐怖に顔を覆ってしまう。死が訪れるのは1秒後?それともあの剛腕にいたぶられてから?








 否、彼が激痛に顔を歪める事は無かった。


 ダッ、と二つの着地音が響く。周りを見渡せば二人の人間、いや三人の人間がいた。その足元には魔獣の死体が転がる。今の一瞬で倒したのか。

  その三人は何者か、鋼のように頑強そうな男が一人、雷のように鋭い眼光の男が一人。そして()()()()()()が一人。


 「あっ………!?ええ!?え?何で?えっなっなっ何で?なんでここに?!??なんで助けが!?」


 翼の女は困惑の中にいる柳谷を見て、春の陽光のような笑顔で告げた。その手には剣、その瞳は蒼き炎を携えて。


 「もう大丈夫、私達に任せて!」


誤字脱字が怖いです………

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ