第二節
中々文章が上達しませんが、頑張っていきます!
柳谷が目を覚ましたのは深い森の中だった。青々と茂る木々に風のざわめき、微かな鳥の音が空気を駆け抜けている。特段不思議な所はない。ただ一点、10代後半の男子が枝と蔦に絡まり逆さ吊りになっている事を除けば。
吊られた男柳谷は考えていた。謎の男、謎の空間、謎の森。謎が謎を呼びもはや謎のごった煮状態だ。
しかし答えを提示してくれない問題に時間を割く事よりも、どうやって怪我ひとつ負わずにこの木から降りれるのかを考えている。今日の課題です。
目覚めた当初は驚いていただけだったがだんだんと自分の状況の不味さに気づく。
(あぁ頭に血が集まってきた。頭がボーとしてきたよ。酸素不足だなこれは)
血潮の反逆に脳内鉄分がビートを刻み新たなパラドクスが駆け巡る最中を走りながら感じるひと時のパトスと燃え上がる……
(よくわからないことが浮かんできた……とりあえず上の枝にのるか)
蔦の強度を信じて腹筋を利用しながら上の硬そうな枝に手を伸ばす。幸いにもそれなりの強度の蔦だったので切れて途中で落ちることは無かった。
枝を掴むと腕の力で身体を引き上げ、別の枝に掴まりながら絡まった蔦を解いていく。ナイフなどは持っていないが、そこらの枝をへし折り簡単な梃子を見繕う。絡まった枝の間で使うと楽に外れてくれた。
(昔、裏山に遊びに行った時の経験が役に立ったな〜。よく高い木に登って園長がびっくりしてたな)
着地点に注意を払いながら木から降りる。幸いにもこの森は山林のような傾斜は無く、平地に近い地形であった。
降りてみたので現状を分析する。いくつかの題はあるが、まずここはどこなのかから始めてみる事にした。
(考える中でパターンとしては3つ。その1、拉致されて遠くに連れてこられた)
だがそれは無いだろう。臓器売買にしろ人質にしろ、ここで柳谷を自由にさせている理由はない。倒錯趣味の変態による拉致か、漫画で見かける金持ち賭博のデスゲームの会場という可能性は無くはないが。
(その2、単に俺の夢である)
今のところ最有力だろう。変な男と話したら見知らぬ森の中なんて夢の世界のお話と考えるのが妥当だ。とりあえず前に本で読んだリアリティチェックというのを行なう。明晰夢を確かめる為に行う行為で、夢と現実を確認する為の作業らしい。
1つ、手を合わせてみる。夢の中なら高確率で手がすり抜けてしまうらしい。両手をゆっくり合わせるとキチンと重なってくれた。
2つ、ジャンプしてみる。夢ならゆっくりと落ちる事が多いが、これもいつもと変わりない。
3つ、味覚や嗅覚を確かめる。夢なら感覚が鈍くなるらしい。取り敢えず近場の草の香りを嗅いでみると、いつもとなんら変わりなく青臭さを拾ってくれた。
リアリティチェックの結果はここが夢ではない事を示した。ならば残った3つ目が説得力を増す。
(あの光のドームで見たように、別の惑星かなにかに移動してきてしまったってのか?荒唐無稽で馬鹿馬鹿しいがこれが正しければ説明がつく事が多いってのも確かだよなぁ。まぁ確実なのは……)
野生動物を刺激しないように、できるだけ静かに森の中を歩き始める。近くに川が見つかればそこを下っていき人里に着けるだろうし、小屋の1つも見つかるかもしれない。
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森の中を歩くのは楽だった。日本の森林のように鬱蒼と草や低木が生い茂るわけではなく、広葉樹と芝が続いている。歩くのには楽なのだが、日本の森に慣れている柳谷にとっては少し不思議に感じる。
40分は歩いただろうか、小さな広場のように開けた場所に出た。軽く休憩を取ろうと思い腰を下ろすと、広場の向こう側の木の側に何かが突き立っていることに気がつく。杭を突き刺したかのように真っ直ぐに突き刺さるそれは当然低木には見えない。
(!もしかして人工物!?)
確かめるためにその何かに近づく。何かが突き立っているのは木陰で、雑草も妙に多く視界が悪い。おまけにその表面には多少苔も生えていたので、一見しただけではそれが十字状の何かにしか見えない。確かめる為に棒の一番上を掴み、引き抜く。そこまでしっかりと刺さっている訳ではなく、軽く引き抜けた。引き抜いたそれをまじまじと眺めてその正体を確認する。
「なんじゃ……これ?」
それは驚愕の一品だった。柳谷の足ほどの大きさのそれは、鞘に包まれたロングソードだった。冗談のような一品だがズシリとした手応えがその西洋剣が装飾品ではなく、実際に使われていた実物だという実感を与える。鞘から引き抜くとさらに混乱が増した。錆びが混じり表面が霞んであるが、しかしこのロングソードは金属の光沢がある。何百年来の遺物ではない。
(別に目利きが出来る訳じゃないけど、この剣は新しいぞ!?!手入れはされていないから錆びが出てるけど、これ古くても数十年ぐらいのものだ!)
廃工場や倉庫に行った事のある人はわかるだろう、防錆処理をされていない、メンテナンスもされていない金属の機械は10数年で錆びが出てくる。金属製のワイヤー、鉄のパイプ、鉄骨。それらも錆びが来る。
その考え通りに行くと、この剣は決して古いものではない。つまり、別の惑星か世界か、それとも過去か未来かはわからないが、ここでは金属剣が実用されている。
まだなにか落ちてないかと、剣が刺さっていた木の裏を除くとこれまたトンデモナイものが見つかった。
「ギャアァァァっ!ヒ!?骸骨?」
そう死体だ。木の根を枕にし寝転がっている。よく見ればまだ骸骨化はしておらず、肉が残っている姿はどちらかと言えばミイラに近いイメージを受ける。錆びた鎧を身につけた骸骨、その喉には短剣が突き刺ささっており、胴から下の辺りの地面からは草が茂っている為、下半身を確認する事は出来ない。
手を胸の前で組み、祈るような姿の骸だ。その組まれた手の下には布に包まれた何かが置かれている。何か大切な物ではないか、興味を持った柳谷は死体に謝りながらその布を解く。
「すいません、ちょっと見させてもらいます。エーと、手帳?」
かなりボロの手帳が見つかった。試しに真ん中の辺りから開いてみる。表紙は掠れているが中の文字は意外と残っている。
手帳は当然日本語では無かった。梵字とアルファベットが混ざったかのような文字で、柳谷は産まれてから一度も見た事のない文字列、だが、何故か柳谷はその文章を読む事が出来た。何故読めるのか、その事を考える事もない。読めることが当然かのように。
(この人は村の衛士……衛士ってなんだ?用心棒や自警団みたいな人なのか?で、村の名前はウォールナッツ??変な名前だな。魔獣を倒しに……魔物!?野生動物とかじゃないのか!?)
読み解くうちに内容が理解できてきた。この本は日記なのだろう。この仏様の名前はジャンズ、村を外敵から守る仕事をしていたらしい。日記をつけ始めたのはありふれた日々を日記に残すのが目的だったらしい。盗賊を追い払ったりしてるので柳谷にとってはかなり衝撃的な内容だが、この仏様にとってはありふれた日常の一コマらしく、詳しくは触れられていない。やれどこぞの家に娘が産まれただの、どこぞの爺様の腰が悪いなど平穏な日々が綴られている。
だが、村の若者が魔獣と呼ばれる何かに殺されたらしい。その後も何人か犠牲者が出ており、村の人々は国家防衛軍と呼ばれる行政組織に要請して騎士団と呼ばれる集団を派遣してもらったらしい。このジャンズさんも騎士団を手伝い森の案内をする事になった。
ここで日記は終わっている。恐らく何かが有ったのだろう。この人はここで死んでいる。騎士団とやらが壊滅した可能性もある。
この森に恐怖を覚え辺りを見回そうとすると、ある事に気がついた。さっきは確認できなかったこのジャンズさんの遺体の下半身だ。
そも、確認出来るない。最初から無かった。下半身が切り取られているのだ。鋭いでねじ切られてたように、切断面は無茶苦茶だった。
血の気が引いていくのを全身から感じる。そして、柳谷はある推理をしてしまった。
(このジャンズさんの遺体が残っているって事はこの森に人が近づいてない……つまり、この魔獣ってのはまだいるんじゃないか?)
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その姿は怪物的と言える。濁った血の色の皮膚に不自然に発達した筋肉。人型のシルエットに見えるが、どちらかと言えばゴリラと爬虫類を混ぜたように見える。直立二足歩行のその生物の顔に鼻は無く、顔自体が不規則に生える牙が並ぶ円形の口そのものもだった。例えるなら人の首から上を取り払い、ワームを取り付けた姿。
そして、手には人の死体。特殊部隊のジャケットに似た服、手にはサブマシンガンに似た銃と片刃の剣を持つ武装した人間の死体だ。
それをこの怪物は嬉しそうに息を荒くして持ち帰っている。怪物の身体には銃創や切り傷が見受けられ、かなり消耗していると思われるがそのダメージを少しも気にしていない、異形の怪物。
この怪物と柳谷との直接距離、現在2863m。
かなりアクの強い話になった……
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