第一節
一度は別垢で連載してましたが諸事情によりアカウントを変更しました。
3日に一度投稿を目指していきます!
それは暑い夏の昼下がり、ツクツクボウシが声を鳴らし陽炎が空気を満たしている。
この暑い日は家で西瓜でも食べているのが上等だろうが、その少年は御構い無しに炎天下の道を歩いている。片手にはビニール袋を持ち、暑さの中を気だるそうに歩いてる。
(世間では夏休みだって言うけど、なんでこんな日に限って夏祭りの準備を手伝わなきゃならねぇんだ。前日の夜にやれば楽だろ)
県庁所在地から山越え谷越えのこの地方都市には古くからの神社が多い。夏になるとそこを拠点に夏祭りが開かれるのだが、この少年はその準備に駆り出されている。
この不運な少年は柳谷風磨。洒落には一銭も使わない主義の少年は、古着のシャツにくたびれたジーンズを履き街を闊歩していた。軽くついた筋肉と平均身長を少し上回る体格が多少の威圧感を感じさせるが、どこか覇気のない顔をしている。
「今年度の失踪事件数は、この半年間だけでも昨年度の三倍という異常な数字です。特に若年層の失踪が多く、ある高校では一つのクラスの生徒全員が失踪するなどの集団失踪事件も起きており……」
通りかかった電気屋の展示用テレビからニュースが流れている。世間を騒がしている謎の失踪事件がトップニュースとして取り上げられている。こんな怪事件が起きているのにのうのうと街を歩いているのはこの失踪にもう慣れてしまったからだろう。最初の三ヶ月は多少の興味もあったが、それからは奇妙に慣れてしまった。1クラス丸ごとの失踪は世間的には話題になったが、その頃はあまりニュースも見ていなかったし周りの人間と関わることも少なかった為に知り得ていることは無く興味も薄い。
道を曲がり、建物の中に縮こまって流れている川に架けられた橋を渡ろうとする。
「やぁ、君が柳谷君?」
突然、後ろから声を掛けられる。見知らぬ声、不審者ではないかと注意しながら振り向く。振り向くと同時に缶コーヒーが投げられていた。驚きながら缶コーヒーをキャッチする。
「歩きながらで構わないけど少し話をしないか」
男に眼を向けてみるとなんともミスマッチな男だった。厚手のコートにマフラー、頭に中折れ帽を被った大男という格好もこの夏に合っていないが、そもそもの雰囲気が異質だった。写真に合成されたかのようにどこか周囲の雰囲気から浮いている男だ。こんな怪しさの化身のようなヤバイ男とは普通、関わらないのが一般常識だと思われるが、何故か警戒心が沸きおこらず不思議と親しみを覚えた。
「はぁ……なんですか?」
男がコーヒー缶を開ける。大して美味くはない黒い水を感慨深そうに口に含む。人に勧められたものを断るのは失礼だと思い柳谷も少し遠慮がちに缶コーヒーを飲み始める。ブラックコーヒーのようだ。
「そうだね、もし将来の夢が正義のヒーローって人はどうやって夢を叶えられると思う?」
「はぁ?よく……わかりません」
「ハハハ……まぁそれはそうだよね。いきなりこんな事聞いたって答えられるわけないか」
そう言いながら男はコーヒー缶を近くにあったゴミ箱に放り投げる。外れる事なく入った空きカンは他の缶とぶつかり合い、軽い金属音が聞こえてくる。
正義のヒーロー、誰もが憧れるその姿だが現実にそんな人間はいない。誰かの命を助ける人間は沢山いる。救助隊、医者、警察官、自衛隊、セラピスト、宗教家……挙げればキリがない。しかし、子供の頃に夢見る正義のヒーローはその姿とは少し違う。理想にいる彼等は、現実の困難に立ち向かう人間ではない。彼等はひたすらに輝いていた。そうなる事が必然のように、数多の煌めきを持っていた。
「じゃあ貴方はなんだと考えるんですか?」
「そうだね、うーん……ありきたりだけど誰かを助ける、とかかな?」
その異質な雰囲気とは裏腹に、飛び出た答えはシンプルだった。突飛な狂人的言動か、それとも世界の真理でも答えそうな男だったが、その答えは万人が抱くものだった。
「ちょっとした質問だけど、英雄の条件とは何だと思う?現実にいた英雄的行動を行った人間や、叙事詩やお伽話のキャラクターでもいいし、君達の年代に身近なものだと漫画やゲームでもいい。そんな彼等の条件とは一体なんだろうな」
少し乾いた笑いを浮かべながら柳谷に問いかけてくる不審者の男。そして男はその乾いた笑いの中に少しだけ自嘲するような寂しさも放っている。そんな雰囲気に呑まれたのか、柳谷も答えを脳内で探し出す。
英雄とは
才能に溢れた人間か、それは違う。だが平凡な人間が条件でもない。
周りに恵まれた人間か、それも違う。そして孤独なだけでは務まらない。
産まれに特異な何かがあったか、それも違う。しかし、平凡な産まれだけではない。
人とは違う何かを見ていたか、それも違う。けど夢がなければ進めない。
何かを手に入れたか、それも違う。人は抱えるばかりでは落としてしまう。
「誰かに望まれた人間ですか?こうであってほしい、君はこうなるべきだと。自分が望んでもいいし他人に望まれてもいい。その物語を書いた作者でもいいしその作品の読者でもいい、とにかく何かの希望を実現した人間だと……思います」
そう答えた柳谷に大して男は少し頬を緩ませた。先ほどまでの乾いた笑いではなく、親愛を滲ませた優しい顔だ。
「あぁそうだな。そう、そうだな。そうさ、誰かに望まれなきゃ英雄じゃない。誰にも望まれない事をしたって、誰にも期待もされなくて、誰にも役割を与えられない人間は英雄にはなれない」
その優しい顔に何かが引っかかった。こんな男は知らない、しかしどこかでこの顔を見た事があるような気がする。満足感と喪失感、優しさと後悔に満ちたその顔に、どこか見覚えがある。
「すいませんが、昔に貴方と出会っていたんでしょうか。覚えていなかったら謝ります」
「いやいや謝る事はないよ。それに本当は俺が謝らなくちゃいけない。死んで詫びてもいいくらいさ」
「なんの事ですか?死んでも……」
瞬間、柳谷の周辺に円形の光の帯が出現した!まるで柳谷を世界から切り取るかのように出現した帯は徐々にその光量を増し、柳谷をドーム状に包み込もうとする。
「なっ……なんだコレ!?ちょっ……えっえっ?なに夢?えっちょっと待ってえっえっ?」
ドーム状の光を闇雲に叩いてみるがビクともしない。ガラスのような質感を持つドームは、外の風景を少しずつ侵食するかのように別の風景を映し出していく。
「あぁもう時間が来たか。もう少しゆっくりしてよいいのに。ほんと」
外界とは遮断され、風景が差し替えられる中でも男の声ははっきりと聞こえる。
「そうだな、先輩からの忠告だ 」
「一体……いきなりなんなんですか!?何か知っているんですか!答え、いや教えて下さい‼︎」
「君は決して英雄にはなれないし万人を救うこと出来ない。君は輝くことは出来ない」
まるで罵倒しているかのようなその言葉。だがその言葉の内容とは裏腹に、その男の声は柳谷への信頼に満ちていた。『大丈夫だ。君はきっと大丈夫だ』と。
「人は産まれた時にその能力は決定される。思考、努力する時間、身につく技能。当然知能体力もだ。そういう点でも君は決して大した人間ではない」
夏の地方都市は消え、周りには宇宙空間にも似た風景が現れた。星のような何かが光の渦を纏いながら暗く深い闇を漂っている。それ以外には何か小さな、光の粒がまるで小惑星群のように浮かんでいる。
「君の意思は決して強くない、すぐ挫けてしまうだろう。君は大切な誰かとの絆も失った」
光のドームが加速して砲弾のようにその空間を飛行していく。検討もつかない速度だが、不思議と苦しくない。
「だがだがそれがどうした‼︎例え君に何の力がなくても、誰かを守れなかったとしてもそれは関係ない!君は君を曲げるな!」
男の声が小さくなっていく。それと同時に加速されたドームは一つの星に着弾しようとしている。吸い込まれるようにして、その星に向かっていく。
「失敗したならやり直せ!力が無くても引き下がるな!誰かを護る資格なんてなくても護れ!ゼロどころかマイナスから進んだっていい!だって君は……」
声は途切れた。その瞬間ドームは白い粒子に囲まれた。周りの景色を眺める事は出来なくなった。
男は話している途中だった。だが、柳谷はその先を知っているような気がする。そして不思議と呟けた。その続きは不思議と知っていた、いやとっくに思い出せていた。その二回の言葉を。
「だって君は…………………始められるんだから」
光のドームは弾丸のように世界に突き刺さる。その瞬間、彼の意識は解けるように消えた。
さぁ、ここから先は苦痛と敗北に溢れた希望と願いの物語。この物語が行われるのは異世界、それは誰もが夢に見るファンタジーだろう、理想だろう。
だがそこに生きるのはファンタジーではなく、浅ましく欲深く矛盾に生きる人間達。
でも、そんな人間だから誰かを助ける。
希望になれる。
文学的には素人で酷い駄文だと思います。
酷い文章ですが、これから頑張っていきます!