(1)出逢ってしまった。
これは、よくある“青春の一ページ”とやらの話だ。
誰しも、この恋愛はなんてドラマチックなんだろう!なーんて、思ったことがあるのではないのだろうか。
だって、この平凡な私ですらそうなのだ。
これは、ある一人の女の、大事な大事な、ある一人の男との思い出話である。
十七歳。“永遠の十七歳”という言葉を聞いたことはあるだろうか。「何歳ですか?」「永遠の十七歳でーす」うん、古いのか、こんな言い回しは。だが、私にとって、“十七歳”は特別な年だった。
高校二年生。ある男に出会った。まあ普通にクラスメイトだ。
クラス替え、人見知りの私はドキドキと不安でいっぱいだった。
彼は私の席の二つ斜め後ろ。一目見た時からカッコいいと思っていた。タイプど真ん中だったのである。
化粧を確認するために開いた鏡越しに、目があった。あえて言わせてもらう。よくある勘違いなどではない。本当に目があったのだ。
実は直前に付き合い始めた彼氏がいた。三つ上の、社会人だった。まあ彼氏もタイプだった。身長も高く、ノリもよく、私が知らない世界も多く知っていた。まあ若干ヤンキーではあったが。
こんな場だが言わせてもらおう。私は頭がよかった。勉強が出来た。中学では上位に入っていた。だがね、第一志望校には落ちたのだよ。笑うでない。推薦では自己PRも小論文もディスカッションでも満点だったのに、だ。…ただちょっと、他の受験生より換算内申が低かったのだ。
そりゃもう落ち込んだよ、一般入試で絶対受かってやると思っていたよ。
でもダメだった。第一志望校での高校生活しか考えられなかった私の落ち込み様といったらそれはもう…。あとは察してくれ。
他は挑戦校として大学付属の私立高校を二つ受けていた。偏差値でいえばこちらのが上だ。片方は塾の先生に、遠回しに落ちるだろうことを言われていたが、受かったのだ。
二校は対照的だった。もう片方はきっちりとした真面目な校風。化粧・ネイル・ピアス・染髪、絶対禁止。スカートの丈・髪型も細かく決められていた。化粧をしていないか、コットンでのチェックが不定期に行われているなんて噂もあった。本当かどうかは知らない。
落ちると言われた方は、本当に自由だった。前述のことは全てOK、全て自由。そして私服でもOK。校則は、数十字。要約すると、『うちの高校の生徒だということを自覚して行動しろ』それだけ。
見た目ギャルやヤンキーがめちゃくちゃ頭よかったりするのである。
二校で迷っていたのは、真面目校の制服が学ラン。それだけだ。結果、自由な高校を選んだ。
話が逸れてしまった。だがまあ大事なことだ。もう少し聞いてくれ。
そんな私は見た目真面目、メガネ、といういかにも勉強が出来そうな風貌であった。プラスぽっちゃりしていた。そんなやつが、入学後、いきなり自由そしてマンモス校で十組以上あるクラスのうちの、一番派手なクラスにぶちこまれてしまったのである。
私は人見知りだった。そんな私に話しかけてくれた子がいた。だが初っぱなから失敗したのである。若い子向けのブランドなんて全く知らなかった私は、あろうことかおばさん御用達のメーカーと間違えてしまったのである。その子はそんなこと気にせず私のことを気にかけてくれていたが、その周りの子達に一歩置かれてしまった。まあ仕方ない。派手な子達のグループに、メガネでぽっちゃりの流行を知らない人見知りのやつがいるのだ。無理がある。
そのグループを離れ、少し大人しめのグループに入れてもらったが、その子達でさえ派手グループとも普通に仲良くしていた。私は事実上孤立した。いや、自分からも壁を作ってしまった。一年間は本当に辛かった。本当はあの第一志望校に入るはずだったのに。どうしてこんなところにいなきゃなんないんだ。通学の電車で、第一志望校の名前が入った鞄を見る度惨めな気持ちになり、毎回泣きそうになった。
一年生の途中で、ある習い事を始めた。それが、自分を変えるきっかけとなった。
その習い事では、私の見た目など気にもせず、皆仲良くしてくれた。というか、見た目派手な子、見た目真面目な子、様々な子がいたし、年齢も幅が広かったが、皆仲良く過ごせた。すぐにコンタクトにし、運動もするようなものだったので、痩せていった。
コンタクトにし、痩せたことで学校のクラスでも色々な子に話しかけてもらえたが、何せ自分から壁を作っているのだ。学校で過ごす時間の辛さは変わらなかった。だが週に一回の、その習い事のために何とか乗り気っていた。怖い先生もいたが、皆で団結して頑張ったのも本当に良い思い出だ。
途中彼氏が出来た。初カレというやつだ。前述の彼氏とは違う人だが、これまた三つ上、大学生だった。見た目ちょっと変わったとは言え、まだまだ地味な私に彼氏が出来たことをよく思わない子達がいた。わざとなのか何なのか、すぐそばで悪口を言われたこともある。
「なんであんな子に彼氏が出来るのに、私達には彼氏ができないの?」
知らねえよ。聞こえてるわ。せめて聞こえないところで言ってくれよ。
まあその大学生彼氏とはすぐに別れた。フラれた。友達の付き合いで男性アイドルのライブに行くので揉めた。それでフラれた。
でも両思いになり、恋人同士になれたことは、少しばかりの自信へと繋がった。
さあ漸く話を戻そう。
忘れた人も多いだろう、もう一度言う。
二年生になる直前、彼氏が出来た。三つ上の社会人ヤンキーかぶれだ。コンタクトにし、どんどん痩せていき、また彼氏もでき、そのまた彼氏が面白かったのだよ。イケメンだしタイプだし、テンション高いし。週一回の習い事も相変わらず楽しかった。定期的にクラス替えもあったが、最初のメンバーでもよく集まっていた。
そのうち化粧をし始めた。本当に少しずつだが。髪の毛もいじるようになった。コテを買い、巻いたりした。
その甲斐もあってか、三つ上の彼氏がいたことに今度は注目してもらえたためか、二年生のクラスではすぐに馴染めた。そして忘れてはいけない、“彼”との出会いだ。
彼氏のことはちゃんと好きだった。いや、すごく好きだったし楽しかった。でも“彼”のことを自然と目で追うようになった。
ある日、授業で舞台を観に行くことがあった。そのまま現地解散になるので、多くの人が私服で来ていた。“彼”もだ。なんかもう面倒だから平野とする。忘れるなよ、『平野』だ。
平野は、薄いイエローのカットソーに、ホワイトのパンツを履いていた。ああ、なんて似合うのだろう。今でも忘れない。本人は忘れてるがな。でも本当にかっこよかった。既にクラスの女子と打ち解けていた私は、前に『クラスの男子で誰が一番良いか』という話題が出た時に、平野を挙げていた。その日も勿論こそこそと騒いでいた。
「本当かっこいいどうしよやばい」
と頬を赤らめる十七歳の私。わあ可愛い。
「いやあの服はわからないわ。まあスタイルはいいな。」
という他の女子。
でもな、少し後に知ったが、彼を狙っていた女子は他にもいたんだなこれが。でも先に一人私が騒いでしまったから、私の印象が強くなってしまったようだった。
その後、学校へ向かう途中で話しかけられたり、教室で話したりすることがたまーにあった。もう心臓が爆発しそうだった。そんな日は一日中にやにやしていた。もう一つ言っておくぞ。相変わらず鏡を通して目が合っていた。勘違いでは決してないからな。その証拠に、授業中や休み時間も、ちょくちょく鏡を通さなくても目が合っていたのだ。
本当にかっこいい。タイプど真ん中どストレート。声もしゃべり方も好き。おっと勿論彼氏のことは大好きで大事だったぞ。まあでもな、そんな彼氏も徐々に会えなくなっていったのだ。
ヤンキーかぶれだった彼氏は、本格的なヤンキーになっていき、仲間との遊びに忙しくなっていった。電話する約束もよくすっぽかされた。悲しかった。
そんな時、学校行事の実行委員に私はなった。これはチャンス!と平野と話す機会を増やした。やはりいつ見ても何度見ても、かっこよかったなー…。
夏休みに入る前、思い切って連絡先を聞いた。幸せだったなー…。まあ、委員だったからクラス全員の連絡先を集めていたんだが。
夏休みとは言えど、行事の準備があったので、ちょくちょく学校には来ていた。平野の参加率の高さといったら…。なんて有難いことか。色々な意味で。
ある日のお昼、皆近くのスーパーに買いに行った中、教室に平野と二人きりになった。とてもとても緊張した。私は挙動不審になりながら、朝買っておいた、みかんゼリーを頬張る。みかんが沢山入っている、ゼリーだ。そして平野が言った。
「美味しい?」
ああなんて素敵な一言だろうか。私は幸せいっぱいに
「うん!」
と答えた。
なんだその答え方。ああ、途中で変わることのないみかんゼリーが、物凄く甘く、物凄く美味しいではないか。
あろうことか私は家に帰って母親にその話をしたのだ。「その時の幸せそうな顔といったら…」と、その後何度もからかわれた話は、まあ今はいいや。
私は勇気を出して、平野に連絡した。メールだ。本当にどうでもいいことだ。平野の忘れ物ではないことはわかっていたが、平野くんのじゃない?っていう、連絡したかっただけのただの口実だ。
だが、その日から平野とメールが続いたのだ。忘れ物をしてくれたやつ、本当にありがとう。
メールが続くにつれ、なんと一緒に勉強する約束をしたのだ。ついでにボーリングもしようかと。ああ、今でもはっきりと思い出せる。あの日のことを。