第3話(残酷描写あり)
残酷描写ありです。苦手な人は気を付けて気を付けてください
夜も明けて、人々が動き始めるころ。王城の寝室で、小さな命が一つ、哀れにも吹き消されました。
「愛しの王子様、あなたを騙した悪い魔女は、私が地獄へと叩き落としておきましたわ。どうか、ゆっくりとお休みくださいね」
人魚姫はうっとりとした表情で呟きます。人魚姫の元の色さえも分からないほどに、血で塗れたドレスは彼女にこれ以上ないほど似合っていました。
人魚姫は王子の骨に頬擦りします。骨に付いたお姫様の血液が、べっとりと人魚姫の白い肌を濡らしました。しかし、人魚姫は気にすることもなく、王子の残骸を抱擁し続けます。
「あぁ、私の人生でこんなにも素晴らしいこと発見をするなんて。私はとっても幸運ですわ……そうだ、」
人魚姫はナイフを取り出しました。王子の腹を切り裂き、お姫様の右胸を穿った、あのナイフです。
「このナイフをプレゼントしてくださった、私のお姉さま方にも、この素晴らしい発見を少しでもおすそ分けしてあげたいわ」
人魚姫は脳裏に自分の姉たちの姿を思い浮かべました。その姿は、気高く、美しく、常に人魚姫にとっての憧れでした。
「さて、待っていてくださいね。お姉さま」
人魚姫は思い立つとすぐに、王子の骨を持って海まで向かいました。途中、幾人かに声をかけられたような気もしましたが、人魚姫が微笑みかけると、皆黙り込んでしまいました。
「お姉さま、お姉さま! どこにいるのかしら!」
人魚姫が海に向かって大声で呼びかけると、間もなく、人魚姫の五人の姉が海から顔を覗かせました。
「生きていたのね、人魚姫。良かったわ、私たちの可愛い妹!」
「えぇ、それと、私はとっても素晴らしいことを発見したのですよ!」
人魚姫は自分のドレスの裾を破いた布に包んだ、王子の骨を姉たちに見せました。
「誰かを殺すことって、本当に楽しいのですよ!」
その言葉に、人魚姫の姉たちは自分の耳を疑いました。あんなにも優しかった自分の妹が、これほどまでに狂っているとは、思いもしなかったのでしょう。
「魔女も、王子様も、王子様を騙した悪い女も、みんなみんな、このお姉さまから貰ったナイフで、バラバラにしてあげましたわ!」
人魚姫は幸せそうな顔で叫びました。
「だから、お姉さまたちにも、この幸せをおすそ分けしてあげますわ!」
人魚姫は迷いなく、海へと飛び込みました。ドレスが吸い込んだ血が広がり、人魚姫が飛び込んだ周りは、すぐにどす黒く変色してしまいました。
しかし、人魚姫は忘れていたのです。
人魚姫はもう、人魚姫ではないのです。
人魚姫は、ただの人間となったのです。
人魚姫だった人間は、みるみるうちに、海の中へと沈んでいきました。
彼女は泳ごうとしました。しかし、以前と違う二本の足は、前の尾ひれのように上手く動いてくれません。人間の肺は、水の中で呼吸することはできません。
彼女の姉だった人たちは、彼女を冷たく見下しました。彼女が必死にもがいても、誰も助けてはくれません。
人魚姫は、人間となり、生きるために狂い果てました。
一目惚れのため、命を投げ捨て、正気までも捨てるのか、人魚姫のままでいて、その想いを一生胸に秘めるのか。彼女にとってはどちらの方が幸せだったのでしょう?




