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言葉って難しい

週一投稿と言いたい人生だったorz

一万PV達成しました。ありがとうございます。

これからもマイペースでやっていくので、暇な時にチラ見する程度の軽い気持ちで見に来てやってください。


(7/14)何となく気に入らなかったので色々変更しました。先に読まれた方、申し訳ありません……。

 


 新しく言語を学ぶ際、既に母語を覚えているのといないのではその習得難度に大きな差が生まれる。

 それは母語を土台とした理解に原因があると考えられるだろう。

 母語を覚えていなければ発音や意味など、受け取った言語に関する情報をダイレクトに理解することで言語を習得できるのに対し、母語を覚えてしまうと受け取った情報を一旦母語に変換した上で、あるいは該当する母語に結びつけた上で理解し習得することになる。



 つまりは母語を覚えていない状態では存在しない、変換や結びつけるという追加のプロセスが挟まるために、新しい言語の習得難度が上がってしまうというわけだ。



 このプロセスの発生を避けることができれば新たな言語をより簡単に習得できるのだろうが、それは困難を極めるだろう。

 というのは、人間には未知の出来事に遭遇すると既存の概念によってそれを理解しようとする習性があるからである。



 例えば、ウィルスや細菌という概念がなかった時代では疫病をもたらすのは大抵、神か自然という超常の存在であった。

 これは昔の人間が疫病という未知を悪神の災厄や神の試練、という自らが理解し得る既存の概念で理解しようとした結果として生まれた認識だ。

 もちろん、この認識は現在では偽であり、細菌やウィルスにより発生すると認識されている。

 ただ、ここで重要なのはその認識が真であるか偽であるかはではなく、既存の概念を用いて未知の理解が行われたということだ。



 この時、疫病の原因は別に神でなくとも良かったはずだ。

 何か目に見えない原因により、熱が出て人が死ぬ、近づいたら感染する、死体を焼くと広がりにくいなど、疫病とはこういったものだという、もっと直接的な、ゼロから積み上げた経験則的なもの。

 そうした、既存の概念に基づかない理解でも良かったはずだ。

 だが、そうはならずに既存の概念である神による理解がなされた。



 このような習性は人間が高度な学習能力と知能を持つ生命体であって、知識や経験から真実に近い推測を導き出せるからこそ存在するものだ。

 しかし反面、既存の概念により理解するという習性が存在することにより、遭遇したに未知に対して『これはそういうものだ』と直接的に認識することが難しくなる。



 そして、このような習性は言語という未知を理解する際にも遺憾なく発揮される。

 人間は新しい言語を習得しようとする際に自らが知る既存の概念である母語を基礎として新しい言語を理解しようとしてしまうため、どうしても前述のプロセスが発生してしまう。

 故に、新しく覚える言語の習得難度は難しいものになるのだ。



 さて、そろそろ何故俺がこんなまどろっこしいことを言い出したのかと思う人もいるかもしれないので簡潔に状況を述べよう。



 俺は赤ん坊であるが元日本人の転生者。

 第一言語は日本語、つまり既存の言語がある。

 ならば、新しく言語を習得する際にはどうであるか。



 つまり、そういうことだ。(絶望)



「■■■■■■■■♪」



 俺を膝に載せ、上機嫌で絵本を読む母さんの手元を見ながら俺は思っていた。



(……全く読める気がしない)



 姉さんたちの襲撃(主にマリー姉さん)からおよそ二週間後。



 メイドさんから何らかの沙汰を言い渡された姉さん達は部屋にやって来る頻度はがくんと落ちた。

 あれから二回ぐらいしか来ていないから会えるのが週一とかそんな制限だろう。



 そして、何故かは知らないがその代わりに母さんがやって来る頻度が増えた。

 母さんは俺の部屋に来るときにはだいたい絵本を持ってきて、読み聞かせてくれる。

 母さんがいるときは鬼畜な歩行訓練もなくなる上、早く言葉を話せるようになりたいと思っていた矢先の絵本はまさに渡りに船といった感じだ。



 しかし、都合良かったのはここまでだった。



 目の前の絵本にはドラゴンに囚われた姫を騎士が助けに行くために装備を整える場面が描かれている。

 白色で目立つように書かれた数行の短い文章の背景には騎士がドワーフらしき、長く髭を蓄えた小太りの老人に対して真摯に頼み込んでいる姿がある。

 絵から推測するに、伝説の鍛冶師か何かに竜殺しの剣を作ってもらえるように頼み込んでいるのだろうと思う。

 しかし、その科白や描写を書いてあるだろう白文字は楔形文字で象形文字を書いたようなな形をしており、全く理解することができない。



 そう、全く理解できないのだ。



 前世で日本語と英語(高校レベル)しか読めない人間が楔形文字や象形文字を見たところで読めるはずがないのは当然のことだからそこはまだいい。

 だが、問題なのは無意識の内に文字の形や発音を覚えるといった基本的なことではなく、絵から文字列が意味するであろうことを予想して文字を解読することに注意がむいてしまっていることだ。

 当然、素人がまともに解読など出来ようはずもなく、結局、まるで意味がわからないまま無駄に数日が過ぎてしまっている。

 つまり、言葉を覚えるにあたって前世の意識が思い切り足を引っ張ってしまっている。



(うーん)



 母さんの音読をBGMにどうしたものかと悩む。

 足を引っ張っている前世の意識をどうにかしたいが、俺としての意識が存在する以上どうにもならないし、どうにもできない。

 もし、このままいつまで経っても言葉を話せずに時間が過ぎてしまえば、意志疎通ができないままに勝手に進路を決められて、言葉を上手く話せるようになる頃にはもう『政略結婚が決まってます』、なんて事になるかもしれない。



 それだけは絶対に避けなければならない。

 俺には野郎と結婚する趣味はないのだ。



 しかし、具体的にどうすればいい?



 眉間にシワがより、本を眺める視線も鋭くなる。

 絵本はさっきのページよりも進んでいて、場面はドラゴンと対峙する騎士が睨み合っているところだ。

 やはり、この本一番の見せ場なのだろう、ドラゴンは鱗の一つ一つが丁寧に書き込まれており、口端から漏れ出る火の粉とその威容はまさにドラゴンといった様子で大迫力である。

 これからドラゴンと騎士の殺し合いが始まるんだな、というドキドキ、ワクワク感を高めるようないい絵だ。



 しかし、いくら絵本が盛り上がりを見せたところで文字が読めないという事実は変わりはしない。

 迫力のある絵を背景にした無慈悲な文字が改めて現実を突きつけてくるようで、表情も苦いものになる。



(どうする……)



 考えても思考は空転するばかり。

 何とかしなければ、でもどうやって、と焦りばかりが募る。

 思考のどん詰まりで煩悶しているうちに、急に音読が途切れて吹き出したように母さんが笑いだした。



 何故、と疑問に思っていると、母さんは眉間を親指で優しくむにむにしてくる。



 突然なんなんだと思い、母さんの顔を見ると誰かを真似するような仕草で渋い顔をした後に再び笑い始めた。

 それでやっと分かった。

 母さんは俺の渋い表情を見て笑っていたのだ。

 少し眉間にシワがよっていたかもしれないが笑われるほど変な顔をしてしまっていたのだろうか。



 母さんはウフフフフと楽しそうに笑いながら、眉間ついでに頬をぷにぷにし始める。

 言葉は分からないが多分『サレアのほっぺたは柔らかいわねー』みたいなことを言っている。

 俺が真剣に悩んでいる一方で、暢気なものだ。

 そんな母さんの様子を見ているとこちらも毒気が抜かれたみたいで、悩んでいたのがどうでも良いことのように思えてきた。



 思えば、文字が読めないという事実に焦ってうまく頭が回らなくなっていたのかもしれない。

 そう思い直して、深呼吸して心を落ち着ける。



(すぅ、はぁ、すぅ、はぁ……、よし。)



 少し冷静になったところで頭が回り出したのか、ふと、新しい考えを思い付く。



 いっそのこと、文字は後回しにして発音だけ鍛えるのはどうだろうか。

 海外留学などで普段からその言語を耳にする環境に置かれると新しい言語の習得が早まるという話も聞くし、効果のほどは知らないが前世においてもそういう類の教材はあった。

 それを考えればこの方法もアリなのではないだろうか。



 そう思うと、考えたところで他の策も思い浮かばない現状、ぐだぐだと足踏みしているよりはその方が断然いい気がしてきた。

 ダメだった時は……まぁ、そのときだろう。

 とにかく当たって砕けてみよう。



「あー(バシバシ)」


「■■■■■」



 絵本叩いて先を読んでもらうように促すと、意図を酌んでくれた母さんは名残惜しそうに頬から手を離して音読を再開する。



「■■■■■■■、■■■■■■」


「あーううーああ、あーあいああ」



 俺は母さんが呼んだ部分をひたすら鸚鵡返ししていった。

 意味は分からないがやっていればそのうち言葉のニュアンスがつかめるようになる、と信じたい。



「■■■■■■■■■■」


「あーああうういあいあ」


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」


「おおおあーああいいああうーあーあーい」


「■■■■■■■■■」


「ああおーいあううい」


「■■、■■♪」



 鸚鵡返しを続けていると、母さんが楽しそうな様子で頭を撫でてくる。

 母さんの体温が低いというよりも、俺の体温が高いのだろう、髪の間をすり抜けていく細くひんやりした指がとても心地いい。

 眠くなりそうだ。



「■■■■■■■■■■■」


「あーあーううおあおいう」


「■■■■■■■、■■■■■■■■■」


「おーあーうういい、おあおい……ーあ」


「■■■■■■■」


「おー……ああー…」


「■■■■■■■■■■■■」


「あー…………うー……………………」


「■■■■■■■」


「あー…………………」



 母さんは俺の頭を撫で続けている。

 指が髪を通り抜けていく度にだんだんと眠気が強まっていく。



 駄目だ、心地良いのと安心するののダブルパンチで意識がもうろうとしてきた……。



「■■■■■■」


「………………………」


「サレア?」


「………………………」


「……■■■■■■■♪」



 意識をほとんど手放して微睡む俺を母さんはベッドに移動させ、メイドさんに後を託して部屋を出ていった。



 そこで俺の記憶は一旦途切れることになる。



 眠ってしまった俺が目覚めたのは深夜で、母さんはいなかった。

 練習する機会をなくして損した気分になったが、頭に残った母さんの手の感触を思い出して幸せな気分にもなった。



 ちょうど深夜だし、操作力の強化訓練をしよう。

 今日はなんとなくだが、いつもより上手くいきそうな気がしている。



 予感は的中し、その日は魔石の操作に初めて成功した記念すべき日になった。



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