ギルドへ
最近寒いですね〜
さっきからこの状況の説明を少女――ムゥというらしい――に聞いているが……。
全く理解が出来ない。
半分ぐらいは分かったような気がちょっとするが、無理。分かんない。
「ここまでの話、分かった?」
「いや、全然。全くもってわからない」
「はっはァ!この兄ちゃん、すっげーバカだ!」
クマの人形ごときに言われたかないわ。
ムゥは呆れたようにため息をついた。
「どうして私が一生懸命話してやってるのに、理解しないんでしょうね……。
あなた、人間なの?知性が全く感じられないわ」
「おい」
「いい?もう一度猿――ゲフン、あなたにも分かるように説明するから。
しっかりと理解しなさい」
「お前、サラッと猿って言ったろ!」
「だってあまり変わらないじゃない」
「てめぇ!」
――説明中――
「はい!分かった?」
「お、おう……。大まかにはな」
ムゥの話を簡単にするとこうだ。
①この世界は異世界で、ストーリーズ・ワールドという事。
まぁ、これは予想してた。
②ストーリーズ・ワールドは物語で造られる世界で、物語を守る世界である事。
ここら辺からよく分からん。
③ストーリーズ・ワールドの住人は、皆物語の守り人だという事。
④住人には、一人一人守る物語が決まってて、それに沿った外見をしている事。
ムゥとパディの場合は美女と野獣らしい。
てことは、ムゥが美女でパディが野獣か。
美女とか……(笑)って言ったら、何か笑顔を向けられた。……怖い。
⑤守り人は物語を守るための特殊能力を持っている事。
そして、特殊能力の強さはお話の有名度で決まる事。
つまり、有名度が高ければ高いほど、より力が強くなるという事だ。
⑥力が強い人々は、6,7人くらいでまとまっている事が多く、それを「ギルド」と呼ぶ。
ギルド名は、一番力の強い、ギルドマスターの物語名になる事。
と、ここまでが、この世界の大まかな説明らしい。
まあまあ理解出来た。
つーか、俺が理解出来なかったのって、ムゥさんが難しく言い過ぎるのと、パディさんが途中でうっさかったせいじゃないですかね?
でも、そんな事言ったらムゥにまた睨まれそうでやめた。
「説明ご苦労さん。お陰様でこの世界の事は分かったが、俺がここに呼ばれた意味が分からないんだけど。
その説明もしてくれるか?」
「その説明はマスターがしてくれるわ」
「マスター?ギルドマスターの事?」
「他に誰が居るのよ。私も結構有名な物語だから、ギルドにも入ってるの」
「美女と野獣か……ぶフッ」
俺が我慢出来ず、吹き出すと、ムゥは無表情だった顔を少し強ばらせた。
「パディ」
「すんませんしたァーーーーーッッ!!!」
俺はすぐさまスライディング土下座をキメる。
パディの正体は俺を襲ったクマだ。
また大きくなんてなられたりしたら……心の臓が……っ!
「分かればよろしい。じゃ、行こうかな」
「行こうって、こっからギルドは近いのか?」
「ガハハハハ!近いわけねーだろ!飛ぶんだよ、時間の狭間をな!」
「はっ……?それって、どういう……」
「準備完了。マスターに飛ばしてもらう」
なんか、俺の知らない所でヤバイ話が進んでる!
時の狭間を飛ぶって何?!ちょっと待って怖い。
「じゃあ、行くぞ!目ェ瞑って3秒数えな」
パディがそう言うので、俺は勢いよく目を瞑る。
そして数える。
1……2……3……
そして目を開けると。
「着いた。ここがギルド「不思議の国のアリス」のギルマス室よ」
可愛らしい、ピンクを基調とした部屋だった。
白とピンクのタンスの横には、白い机があり、向かい側にピンクのベッドがある。
壁紙は、ピンク地に白の水玉。
机の上には、可愛らしいドールハウスが置いてある。
もしかして……いや、まさかとは思うけど……ギルドマスターって……。
「遅かったね!ちょっといじめてみてとは言ったけど、時間をかけないでねって言ったの忘れちゃったの?」
やっぱりロリだった!
どんだけロリに絡まれるんだよ、俺。
「ごめんなさい、マスター。そこの猿が勝手にパディに殺されようとした上に、私の説明を一切理解しなかったのが悪いんです」
「断言した!猿って断言した!咳払いもしてくれなかった!
つか、全部俺が悪い訳じゃないだろ!」
「こら、喧嘩はダメだよぉ?仲良く仲良く」
別に喧嘩はしてないが、ギルドマスターが俺とムゥの手をとって言った。
ギルドマスターの外見は、いかにも「不思議の国のアリス」って感じで、金髪ロング碧眼に水色ワンピースと白地にトランプ柄が入ったエプロンをしているロリだ。
とどめは頭の水色リボン。
俺はロリコンじゃないが、可愛いと思ってしまった。
「私の名前は、アリス・ワンダー。「不思議の国のアリス」を守ってて、ここのギルドのマスターでもあるの」
「え……あー、俺は高橋シオリです」
「知ってるよ。私が呼んだんだもん」
「そうなんですか?」
「そうだよ〜?あんまり驚かないね?」
「はぁ。さっきからすごい事ばっか起きてるんで」
「へぇー大変だねぇ〜」
自分が呼んだくせに超他人事。
こんなんがギルマスでやってけてるのか?
そう考えて少し笑ってしまった。
すると、アリスはそれに気ずいたみたいで、怒ったようにほっぺたを膨らませる。
「何で笑ったの!アリスが小さいから笑ったの?」
「いや、そんな事は……」
「絶対そうだ!あのね、アリス、ちっちゃい子じゃないから!1865年に出来たから……もう100歳以上だよ!」
「ひゃく……っ?!」
まさかそんな年老いてるとは……。
ってことはムゥさんも?
ムゥの方を見ると、ムゥは、私?という感じの表情をつくって、少し考え込んだ。
「私は……1740年に出来たから、200歳以上ね」
年上だった!ギルマスより!
100年とか200年生きてる上に年取らないとか、最高じゃねぇか。
この世界の人は死なないのか?
また新しい疑問ができちまった。
早くアリスに聞かねば。ウズウズする。
「そんで、俺が呼ばれた理由、教えてくれないですかね」
「まあまあ、焦らないでよ。まずは、お茶でも飲んでマッタリしようかな。ね、シオリ?」
こうして、不思議の国のアリスよろしくお茶会が始まった。