4.デート
本日3話目
割合に近くに、大型ショッピングセンターがある。友だちと遊ぶときにもよく行く場所だ。
「えっと。向こうのお父さんとは、仲が良かったんですか?」
施設内で、雑貨屋さんを見ながら、ついて来てくれているディーゼさんに尋ねてみる。
なお、ここは私の好みのお店だけど、ディーゼさんは私の好きなものを知りたいと言ったので、ディーゼさんもこの店で良いはず。
「仲が良いというよりも、しぶしぶ世話を引き受けてくれている感じでしたね」
「しぶしぶ?」
なんだかすみません。
私が手にしたアクセサリーを見て、ディーゼさんはその隣のアクセサリーを手に取り、手のひらを寄せて私に合わせるようにした。
「こちらよりそちらが好みなんですか?」
「そっちも可愛いけど、この丸いのが可愛いの」
「丸い方が好きなんですね。じゃあ、こちらは?」
「それは、太すぎて可愛くないです」
教えると、ディーゼさんはパチパチと私をそのアクセサリーを眺めてから、おかしそうに笑う。
「そうでしたか。好みがきっちり決まってるんですね」
「そういうわけじゃないですけど・・・。じゃあ、ディーゼさんは?」
尋ねてみると、ディーゼさんは店内を見回す。
この店で聞いたのは失敗だったとすぐに気づいた。女の子向けの店だ。
だけど、真剣に考えているようで、真面目な顔になる。
「正直に言います」
「はい」
どうぞ。
ディーゼさんは、目の前のアクセサリーからゴールドを指した。
「この色は・・・嫌いです。自信に溢れていて。人には無い高みを目指す人がつけている」
えっ。
驚いて顔を見たけど、気づかないのか、ディーゼさんは真顔のまま、指を動かした。次はシルバー。
「これも、好きではありません。1番目では無いと知っているのに、自分の価値も分かっていて、人を傷つける」
何の話を、しているんだろう。
それから、ディーゼさんは、皮を指した。
「これも。嫌いです。私が何者かを、ずっと知らせる」
「大丈夫ですか?」
心配して問いかけると、傷ついた犬みたいな瞳だった。
どうしよう。ちょっと怖い。
ディーゼさん、病んでいる人?
「あの。好きなものは? 好きなものを教えて欲しいです」
少し情けない顔になってから、ディーゼさんは幸せそうに薄く笑った。
「花が好きです」
いや、そういう話じゃ・・・。
「道に、人の目に留まらないところで咲いているような、素朴なありふれた花が好きです。分かり合える気が、してしまう」
私はカァと赤面した。自分の名前と同じだから、私の事を言っているのかと勘違いした。違った。
私の赤面は、お見通しだったようだ。
「ハナちゃんも、大好きです。同じ名前ですね」
「なんか、今の意地悪でした」
としか言えない自分は、全然だめだ。
「意地悪なんて心外だ。ハナちゃんは一目惚れで、花が好きです」
道に咲く花だって分かるけど、それでも名前を呼び捨てて言われたのかと思ってドキッとする。
ディーゼさんはにニコニコしている。
動揺が、筒抜け。そう気が付いたらもっと顔が赤くなった。
こんなにドキドキして大丈夫だろうか。
***
ディーゼさんが病みそうで怖いので、アクセサリー売り場から離れることにした。
文房具とかに行こう。うん。
辿り着くと、ディーゼさんはアクセサリー売り場より品物に興味があるようだった。
「面白いですね。回すんだ」
と言いつつ、捻じってボールペンの芯を出したり引っ込めたりしている。
「押すタイプもありますよ」
「こちらの世界は、ペン先を収納したがるんですね」
などと言われた。そうかもしれない。ちょっと考えてから気が付いた。
「収納しないと、ペンケースの中に色がついちゃいます」
「ペンケース?」
「あっちにあるかも」
いくつかあるペンケースを見せると、ディーゼさんは筆箱の事でしたか、と納得したようにうなずいた。
「こちらの世界は、内部でものが動くからですね」
「そちらは動かないのですか?」
「そもそも、空間に全部放り込みますからね。人間は、固定して持ち運ぶようですが」
ん?
何か今違和感が。
脳内で、今のディーゼさんの言葉を思い返して再生した。
あれ。人間って言ってる。他人事のように。
「ディーゼさん?」
「はい。ハナちゃん」
「人間じゃないの?」
「え」
困ってじっと見上げると、ディーゼさんはキョトンと見返し、それから分かりやすく、しまった、と表情で語った。この人、全て態度に出過ぎだと思う。
「えーと。そっか・・・そうですよね」
「え、待って、どうして言い淀むの!?」
不安になって腕に手をかけると、ディーゼさんが驚いて、それからまた顔を綻ばせた。手を置かれたことが嬉しいみたい。どれだけ幸せ沸点が低いんだろう、この人。
え、待って、人間ではない!?
「あのー」
と、明らかにディーゼさんは、言い淀んだ。
それから、恐る恐る、と言ったように顔を覗き込んできた。
「ハナちゃんに嫌われたくないので、先に確認したいのですが、タクマさんは、向こうの世界の事を、どうハナちゃんたちに話しているんですか?」
「え・・・」
私はとっさに店の外に目を遣って、施設内の人の少ない端っこのベンチを探す。あった。
「向こうで」
と引っ張ると、コクリ、とディーゼさんも頷いた。
「あ。その前に。お土産に、ペンとか、欲しいですか?」
「お土産?」
「はい。異世界に来た記念に」
「・・・ハナちゃんに無事に会えた記念に?」
嬉しそうに尋ねられる。
私は頷いた。
「それでも良いです。助けてくださって有難うございます。その記念に。感謝にお土産です」
「色々混じっていますね」
とディーゼさんは笑い、それから急にじっと見つめてきた。
ドキリとする。ずっと優しい顔して、『好きです』って訴えてると思う。
赤ちゃんの写真って。それ、きっと初めに見た写真が私の写真だったからっていうだけだよね。
なのに、助けに来てくれたんだなぁと、思う。
お父さん。ディーゼさんの面倒をしぶしぶ見てて、大正解だったよ。
あれ、違うお父さんなんだっけ。ちょっと複雑なお話だ。
「僕、ハナちゃんの、笑っている写真が欲しいです。できれば、贅沢だけど、僕に笑ってくれている写真があれば、もう幸せでそれだけで生きていけると思います」
「・・・目標がものすごく低い気がします・・・」
それだけで生きていけるって。なんでだ。
なのに、ディーゼさんは本気で驚いたようだった。
「低いなんてそんな! 本気です、本当にそう思っています。本当に、ハナちゃん、」
と言いかけて、ハッと確認して来る。
「写真、くれますか?」
「はい。でも、」
と私の返事に、ディーゼさんは不安そうになった。
私は笑った。
「プリクラ一緒にとりませんか」
プリクラ、とディーゼさんが不思議そうに呟いた。
***
ディーゼさんに、丁寧な日本語を教えたのはお父さんらしい。
私の赤ちゃんの写真に本気で一目ぼれしたディーゼさんにお父さんは怒り、それでもディーゼさんが食い下がったので、お父さんは基本的にディーゼさんにダメ出しを続けたのだという。
言葉遣いが駄目だ、ハナの婿にできない、とか。
その辛気臭い面が嫌だ、ハナが幸せにならない、とか。
この世界の文字すら読めないヤツにハナはやれない、とか。
数々の、私ならそれ心が折れるかも、と思う父のダメ出しを、ディーゼさんは『与えられた課題』と考えて、全てこなしていったそうだ。
結果、今の丁寧な物腰のディーゼさんの出来上がりである。料理だってゴミの分別だってできちゃうらしい。
それでいて、初めの赤ちゃんの以外に決して写真を見せなかったという父の鬼畜っぷり。
酷すぎる。
しかしきっと私への愛ゆえだろう。
さて。その父は、プリクラはディーゼさんに教えなかった。
まぁ、そうだよね。教える機会も無かったんだろう。
「これが、プリクラです!」
機械が並んでいるエリアにディーゼさんを連れて行き、私はドヤ顔でプリクラ機を紹介した。
「箱だ」
とディーゼさんは感想を述べた。
箱ではありません。プリクラ機です。
ちなみにディーゼさんは嬉しそうだ。このエリアに来るまでに、『写真が一緒にその場でとれます』と教えたから。話だけで、すごく喜んでくれた。
ちなみに、人間じゃないかも疑惑は、先にプリクラを取る事にしたので後回し中。
***
お気に入りの機械があるので、それで撮る。今日は並んでいなくてすぐに入れた。
「声でどうしたらいいか教えてくれるんですけど、早いから、頑張って声の指示についていってくださいね」
「え。うん。分かりました」
ディーゼさんが緊張している。
私は励ました。
「大丈夫です、この機種、あとで書き込みもできるし加工も色々できるから!」
「え? え、うん」
意味が分からなかったようで、不安そうになる。
ディーゼさんは、本気で不安に襲われたのか、確認してきた。
「写真を撮る機械なんですよね」
「はい。プリクラという写真です」
「うん」
「大丈夫です、あとでスマホで撮ってプリントアウトもしますから」
「え。写真の話だよね?」
困惑しているのを、私は励ますように頷き、お金を投入した。
『はぁ~いぃいい☆ 用意はいぃい~?』
始まりの音声に、ディーゼさんが驚いたように一歩身を引いた。
***
楽しかった。ディーゼさんがものすごく焦っていたので、笑ってはしゃいでしまった。
出てきた画面にディーゼさんが驚いて嬉しそうになったのも分かった。でも、書き込みはちょっとしかできなかった。書き込みした部分の写真が消えてしまうのが勿体ないから消さないで、と頼まれてしまったのだ。盛るのが楽しい機種なのに残念だけど、お願いですと言われたから頷いた。これはディーゼさんへのお土産というか感謝の品だったっけ。ちょっと忘れてしまっていた。
出てきたプリントに、ディーゼさんは驚きつつ、ちょっと残念そうに見えたので首を傾げてみたら、
「小さいです」
と嬉しいのだか悲しいのだか分からない混じった顔で呟かれた。ごめんなさい。普通の写真のサイズより小さいね。
「あの、普通の写真も撮ります」
「はい。ありがとうございます」
と、ホッとしたようになって、改めてプリクラを眺めて、今度はきちんと嬉しそうになった。それから苦笑した。
「目が変になっていますね。そのままでいいのに」
「目が大きいから可愛く見えるの」
「そのままで一番可愛いと思います」
「・・・」
ナチュラルに次々と褒めて来るのでつい言葉が詰まってしまう。
また優し気に見つめられてから、ディーゼさんはプリクラを眺めた。
「・・・も、です」
「え?」
「ディーゼさんも、そのままの方が、カッコいい」
顔が真っ赤になっている自覚はあったけど、頑張って教えた。教えた方が良いと思ったのだ。
返事がない。
真っ赤っかの顔のまま、ちらと見上げると、泣きそうになってこちらを見ているディーゼさんがいた。感動している!? 嘘だぁ。
「会えて、僕は幸せです」
と、真っ赤になって、ディーゼさんは言った。
「僕は、ハナちゃんがいると知る事が出来てから、ずっと幸せに生きて来れました。ハナちゃんが、花のような人で、本当に僕は幸せです」
そういって、涙をぬぐう様子に、またドキドキしてしまった。




