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1.命の恩人

※別作品「異世界で生きるのは難しい、ので」の続編にあたります。読まなくても分かるようにしたいです。分からなかったらスミマセン。

たくさんの人たちがいて、たくさんの素敵な出会いがあって。

でも、それは物語で、または、特別な人の話で。

実際は、普通の私には普通の事しか起こらないんだろうなぁ、なんて。

ちゃんと分かってる。

はずだった。


***


いつも通りの通学路。横断歩道ですらない。

そんなところに車がスピードを落とさずに自分に突っ込んでくる。

立ちすくんで、動けない。

持っていた鞄を落とすことも、声を上げる事も。


茫然と、向かってくる車を凝視するしかなかった。

夢なんかじゃない。避けられない現実なのに。


「ハナッちゃんっ!」

ドンッと誰かがぶつかってきた。ドッと倒れる。


ドン!

車が向こうで何かにあたった。誰かが悲鳴を上げた。


私は空を見ていた。青い空。


「ハナちゃん! 大丈夫、ですかっ!?」

私を抱えた人が身を起こして、私も身を起こす。

泣きそうな顔で、見た事のない真っ青な髪の人が、覗き込んできた。

この人が、助けてくれた。


向こうでワァワァと騒ぎが起こっている。

そちらを見る。前が建物に埋まったようになっている車。周りの人たち。


ものすごく、すぐ、もう、死んでいた。私は。


「ハナちゃん、ハナちゃんでしょう? 泣かないでください。泣かないで。助かったよ。良かったね」

流れてきた涙をぬぐいながら、心配そうに泣きそうな真っ青な髪の人を見る。

「だれ、ですか?」

一言目は、それだった。まず謝らなくちゃいけないのに、気づかなかった。自分の事しか考えられなかったのだ。


「ハナちゃん、でしょう?」

相手は相手で、私の質問なんて聞いていなかったようだ。

私は、コクリ、と頷いた。

「島崎、花です」


「シマザキ タクマさんが、お父さんだ」

えっ、と顔を見つめる。

「お父さん、知ってるんですか?」

「はい」

クシャリ、と青い髪の人は笑った。


「ハナちゃん、良かった。僕、一目惚れしたんです。助けられて、良かった」

泣きそうに嬉しそうにその人は言った。


誰だろう、この人。

私はそう思ったけど、助けてもらったことに、やっときちんと思い至れて、

「ありがとうございます、ありがとうございます」

と泣きながら繰り返すしかなかった。


***


青い髪の人は、明らかに日本人では無かった。

ディーゼと名乗った彼は、心配しながらも私を立ち上がらせてくれた。


事故も起こっているし、パトカーも救急車も到着した。

ディーゼさんは、警察の事情聴取の間も心配して傍にいてくれた。


警官にはディーゼさんと知り合いなのかと聞かれたので、正直に首を横に振る。

「偶然、助けてくれて・・・」

「そうか。本当に良かったね、島崎さん」

警官が気遣っていたわりの言葉をくれた。名前を呼ばれたのは、先ほど事情聴取で教えたから。


何かあれば連絡が来るみたいだけれど、今は帰って良いみたいだ。

巻き込まれかけたけど、回避できてケガもしていないから。


ディーゼさんは心配した。

「お家まで、送ります」

「えっと・・・」

「心配です」


そういえば、この人は、父親の知り合いなのだった。でも・・・。

「悪い事は、絶対にしません」

「悪いことって・・・」

困った。とはいえ本当に心配してくれているのが分かる。


「あの、お父さんと、どういう知り合いですか?」

「えっと・・・」

ディーゼさんは困ったように首を傾げて、少し考えたようだった。

「昔に、迷子になった時に、拾ってもらって、少し世話をしてもらっていました」


そんな話、父から聞いたことはないので、目を丸くしてしまう。


ディーゼさんは懐かしむように微笑んだ。

「タクマさん、単身赴任で、えーと、フクイ、に行っていたでしょう? その時です」

「あ、なるほど・・・」

確かにこの人は父の知り合いのようだ。今は広島だが、最近まで父親は単身赴任で福井県にいたのだから。


「えっと、じゃあ、あの、ありがとうございます・・・」

「はい」

ホッとしたように、ディーゼさんは笑った。


***


家までは少しの距離だ。

玄関に来た時に、改めてお礼を告げた。

「本当に有難うございました。命の恩人です」

と言った途端、自分で事の重大さに気が付き直した。


死にかけた。

急に泣きそうになって口を引き結ぶと顔が真っ赤になってしまう。

勝手に出てきた涙を慌てて拭うのに全然おさまらない。


ディーゼさんが気遣うようにゆっくりと抱きしめてきた。驚いたけど、どうしようもない。こっちも涙が止まらないのだ。

「大丈夫。もう助かりました。もう大丈夫。本当に、良かった」

言い聞かせるような言葉は、まるでディーゼさんへの言葉のようにも聞こえる。


「私の事、知って、たんですか?」

と顔を上げて尋ねたら、困ったようにはにかんだように笑われた。

「はい。写真で、タクマさんに自慢されて、見せてもらったんです。僕は一目惚れしました」

「写真」

「はい。ごめんなさい、僕の方が勝手に知っていて。勝手に、すみません」

その言葉に、慌てて首を横に振った。父が見せたのだから、ディーゼさんが謝る事では無い。しかも自慢って。酔った時にでも見せびらかしたのかな。それはちょっと嫌かも。


「ハナちゃん」

と、急に真面目な顔で見つめられる。

「はい」

なんだろう。でも勝手に期待して予感してしまって、ドキドキした。

まるでドラマみたいな状態に思えて。


「僕の、運命の人に、なってください」

言われた言葉に、ポカンと口が空いてしまった。それからカァと赤面する。

本当に、夢では無くて? こんなことが現実に起こってしまう?


焦ってどっと熱くなる。

どうしよう。これはどうしたら良いんだろう。


「ハナっ!!」

急に、母親が玄関から飛び出してきた。とても慌てていた。


***


そうだった。死にかけたんだ。


異常を察して、窓から見えた姿に飛び出してきてくれた母親に、自分の身に起こったことを説明しているうちに、また怖さがぶり返して泣けてしまった。

母も一緒に泣きだして、近所の人が驚いて様子を見に集まってきた。

事故が起こったのはこの近所だから、他の人たちも事故の音に何があったのかと窓から外を見たり様子を探っていたようだ。


皆が無事を良かったと言って慰めてくれる。

ディーゼさんにもお礼を言っている人がいる。


親子で改めて頭を下げてお礼を言った。

ディーゼさんは、嬉しそうに涙目になっていて、

「本当に良かったです」

と繰り返す。

良い人に助けてもらって、本当に良かったと思う。


「お兄さんは、どこの人?」

と、近所の佐藤さんがディーゼさんに尋ねた。

「えっと、ガイコク、です」

「外国の人。すごく髪青いのは、染めている?」

「えっと、あの・・・これは」

ディーゼさんは返答に困ったように、チラと私を確認した。不思議だと思う。


「あの、はい、染めて、います」

とたどたどしく、ディーゼさんは答えた。

なぁんだ、と近所の人たちも思ったのが分かった。


一方、母が急にハッとした。

「お礼。ディーゼさん、あの、ご飯でも。夕食、どうか一緒に」

あ。お礼。本当だ。

母は慌ててディーゼさんに話した。

「それから、主人にも連絡させてください。今から、電話してきます。どうか、夕食でも」

そうだ、と私も焦った。助けてもらったのに。何か返さなくちゃ。


「どうぞ、何も無いですけど、ハナを助けてくださって本当にありがとうございます」

母は言いながら、電話のために先に家に入っていく。その後ろ姿に、私は慌てて報告した。

「お母さん、ディーゼさん、お父さんと知り合いって。福井県で」

「まぁ!」

目を丸くして、ペコリとディーゼさんに頭を下げて、家の中に消える。玄関の戸は開けたままだ。


私はディーゼさんを家に招こうとした。

「どうぞ、あの、どうか、ご飯、食べませんか」

「はい。でも、あの・・・」

少し迷ったディーゼさんは、それでも、

「はい」

と返事をした。


***


「僕の事を、タクマさんは、知らないと思います」

「え?」

家の中、電話している母を傍で見ながら、テーブルに食事を並べていると、困ったようにディーゼさんは言った。

でも、写真を見たって言ったのに?


「話が、少し、難しくて・・・」

「あ、言葉が、分からないですか?」

「そういう意味ではなくて。その・・・困ったな。勢いで来てしまったから、説明を考えて無かった・・・」


携帯電話を少し離して、母がそっと申し訳なさそうに言ってきた。

「あの。主人なんですけど、御礼を言いたいと・・・。あと、すみません、主人はディーゼさんの事を思い出せないみたいで・・・」


コクリ、と頷いて、ディーゼさんは電話を受け取った。


***


「・・・・いいえ。きっと、あなたとは初めまして、なんだと思います。僕は・・・あなたの身代わりでこっちに来た、ノクリアという人の、息子です。はい。そうです。僕は、異世界から来たんです。・・・いいえ。身代わりでは無くて。・・・色々あって。ハナちゃんを、助けたかったんです。僕は、あなたに、頼まれました。あなたではないタクマさんに、頼まれたんです。世界を救ってやったんだから、俺を救ってくれって、タクマさんが言いました」


電話で、静かに話している内容に、私と母は驚いて顔を見合わせた。


「ディーゼさん、異世界の人だ」

「そうね。本物、よね」


「お父さんの知り合い」

「でも初めましてって言ってる。なんだろう。でもすごい。ハナ、すごいよ」


「ねぇ、お父さんの勇者の話。証人。すごい。すごい、すごい」

「すごい。ハナ、本物よ。異世界の人が、助けに来てくれた。お父さんの、恩返し? お父さんすごいのよ」


いつの間にか、私と母で、両手を握り合っていた。

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