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上杉政虎

この年は北条にとって嵐がきてそれを耐え忍ぶしかない年であり上杉景虎の名を関東に広め軍神としての名を欲しいままにした。

関東管令である上杉憲政が北条から関東を追われ景虎に泣きつきそれに答える形で三国峠を越えて出陣してきた。


北条の里見攻略による援軍依頼もあり秋口に攻めこんだのだが、沼田や厩橋を次々と落とされ武田にも援軍要請が来る。

「北条は弱兵だな、たかだか1万に満たぬ兵に城を次々と落とされるとは情けない」

武田の重臣達は鼻で笑っており重大に考えていない、

「兄上、これ以上関東を取られれば佐久もですが危険です」

「わかっているが越後勢の目的が上野なのかさらに南下をするのかわからぬうちは動かせぬ」

勘助が進み出て、

「里見への援軍、関東管令就任をするため鶴岡八幡宮へ、そして小田原城を攻めると考えては」

そう言って説明をしていく、

そこまで突き進めば数年はかかり田植えの時期をと言うのが皆の考えで上野を押さえて雪が積もる前に撤退をするのではと言うのが意見なので北条に隣接する小山田を先ずは援軍に向かわせ私は松山城への使者となった。


「信龍殿かよう来てくれた」

氏康は疲れきった顔で迎えてくれ現状を教えてくれる。

「関白からの書状により伊豆相模以外の者が越後に旗をなびかせておる。古河公方の書状もようをなさない、どうしたら良いものか」

ひどい状態であり、さすがの知恵者氏康も頭をかかえている。

「嵐が来たら氏康殿はいかがなされますか」

そう言うとしばらく考え、

「小田原城に籠城の指示を我等も準備が出来次第戻ると」

そう言うと武田の更なる援軍を氏康は私に伝え松山城から撤退を開始した。

私はしばらく残り情報収集をしたが小太郎の、

「越後勢は一万に満たなかったはずですが豪族が合流して今や4万を越えてさらに増えるもよう」

そして越後が動く前に桶狭間が起こり今川義元が信長に討たれているので今川からの援軍は難しいかと感じていた。

川越城や古河御所も包囲されたが氏康が籠城を選択したため守りを固め防いでおり景虎は厩橋城で年を越した。


「年明けに佐久は国境線沿いまで幸隆が兵を率いて向かえ、我らは富士吉田経由で小田原に向かうと」

正月早々兄上が方針を決める。現状はどうなのか聞かれたので、

「敵は十万の兵となり迂闊に手を出せばこちらも火傷を老いかねません、氏康殿も籠城を選択したので小田原城は早々落ちないと考えます」

「それでは我らが援軍に向かっても無駄と言うか」

重臣達が文句を言うので、

「敵はしょせん烏合の衆です。戦いは正面からすれば景虎の力出せましょうが、領主と主力不在の関東に牽制を入れれば長期の対陣出来ないと思います」

「信龍の考えわかった。今川も当主がなくなったが氏真が兵を率いて出陣すると知らせが来た。器量を推し量る良い機会でもあるので出陣の準備を、信龍は各領主を不安にさせよ任せる」

そう言って評定は終わり、私は小太郎に噂をたてて領内の不安を略奪と共に行うことを命令した。



2月に入り景虎が動き出す。

「古河御所そして松山城までも簡単に落ちるとは」

数万にふくれた兵力差があるとはいえ速攻で落とす景虎の手腕に武田も驚いており南下している敵に合わせて出陣をする。

一万程で兄上が率いて向かい、佐久からは3千ほどで上野を伺う。

景虎は関東勢を率いて酒匂川で陣をはって小田原城を包囲した。


「景虎め管令に就任して上杉政虎と名乗ったようだな、付け入る隙も無いわ」

兄上は小田原城を包囲する上杉勢を見つめている。

「おかげで北信濃は手薄で海津城も予定通り築城をしており夏前には完成する予定にございます」

勘助が報告をして来たあの海津城に私は川中島の戦いがもうすぐそこに迫っているのを感じながら援軍として合流してきた氏真が本陣に来るのを待った。

「氏真殿ようこられた」

兄上が明るく出迎える。

「義父である氏康殿の窮地何としても出陣しなければならないと思いまして」

あのふくよかでもっさりした感じは同じだが目にしわがより精神的にきつそうだ、

「ごくろう、義元が亡くなられ大変だろうが何かあれば武田も御助力しようぞ」

義信が兄上を差し置いて立ち上がり慰労するのを私は、

「義元殿の仇討ちするなら助力いたしますが」

「老身達も言うてくるが無用、先ずは国内の安定が優先」

「しかし岡崎勢も不穏な動きをしていると」

「信龍、氏真殿が言うておられる事間違いではない、何かあればこちらが御助力すればいいのだ」

そう言って二人で出ていった。

「けじめと言うなら仇討ちと独立を計ろうとする岡崎を潰すのが優先と思いますが」

兄上にふると黙って目を閉じ他の重臣も同意する。

義信の守役である飯富は義信の後を追っていき長期化するこの現状に皆ため息をはいた。


そしてこの出陣前に関東の動きと同じくするのが現れる。

「今井信甫が謀反の動きをしていると」

年末に近くなったある日小太郎から火急の知らせが来る。

跡絶えた勝沼の後をついだはずだが、何を不満にと思いながら兄上に知らせると共に今井の館へと近習などを率いて向かった。


小太郎が今井が居るところに先頭で走り姿が見えたところで降りると鉄砲を準備した。

「頭を低く、近くまでよるぞ」

10人だが皆鉄砲を持っているので負けることはないので静かに近づいた。

「明後日には知らせが来る。晴信に一泡ふかせてやるわ」

今井がそう言って振り向いた瞬間私は鉄砲を構えて立ち上がった。

「誰に一泡だと言うのですかな」

私が現れて動揺している今井に狙いを定める。

「信龍様何ようでしょうか銃口を向けるとは失礼ではないでしょうか」

猛将ではなくどちらかと言うと与力として兄上の手足となって働いていた今井は落ち着いた様子でこちらを見返す、

「越後との話は明日と言うことか、申し開きは兄上の元でされるがよろしいかと」

そう言って縄で拘束していく、

「この様な非礼が許されるのかはなせ、はなさんか」

そう言っていると兄典厩が馬で現れ、

「信龍、知らせを受けて兄上から使わされたが誠か」

今井を見ながら言うので、

「越後との謀でしょう、書状の一部も手に入れております」

そう言うと大人しくなる今井を典厩と共に躑躅ヶ崎へと入り、兄上の元へと引き出した。


「越後とつながっておるというが誠か」

兄上が今井の詰問を始める。しかし当然否定して私の証拠を見ても偽りだと言う。

「晴信様、もしや早とちりでは無いでしょうか今井もこうもうしておりますし」

小山田は昔父上と甲斐の覇権を争うのに今井と組んでいたのでとりなしをする。飯富も同じで口を濁し後日再度証拠を吟味してと言うことになった。

「相変わらず家臣の顔色をうかがわなければと言うことか」

見慣れた光景に気落ちこそしないもののこれが最強の武田なのかと思いながら数日を過ごしていると躑躅ヶ崎へ呼ばれた。


「今井は上野へ落ち延びた様にございます」

勘助の報告にとりなしをした小山田等は、

「殿の恩を忘れおって譜代として恥ずかしくないのか、我らが直ぐにでも討伐いたします」

威勢の良いことを言うが結局今井の領地が気になると言うことらしく兄上としては直轄として代官を派遣すると伝えた。

こうして年の瀬を迎えながら館で一人考える。

武田は兵としては一人一人強いが統制はとれておらずあの後年の戦いがいつ出来上がったのかと、もうそろそろ川中島の戦いもあるがまとまる気配はなく勘助や兄典厩が戦死するのがわかっていてその後の武田を率いる晴信を誰が補佐をするのか、馬場や内藤では穴山や小山田が言うことを聞くとは考えられない、そんなことを考えていると兄上から呼び出しがかかり顔を出した。


重臣達が並び兄上が入ってくる。

「話は他でもない、私は父を追放して武田を率いてきたが毎年戦い続けており領民からの不満が出ているのも知っておる。そこで仏の力をかりて領民をいくつしみ戦い抜こうと考えて出家することに決めた」

そう言うと頭の被り物を外して頭を丸めたのを我々に見せ驚かせ、

「武田徳栄軒信玄と名乗る」

そう言って神仏の手を借りなければならない不安定さを感じながら出陣の準備に入った。


「信龍、その方は北信濃に向かい幸隆と合流して政虎の注意を引き早々に撤退させるようにせよ、合わせて海津城の出来を確認して報告をせよ」

与力と共に富士吉田から棒道を通り佐久経由で善光寺へと向かう、

「信龍殿お待ちしていましたぞ、我らだけではなかなか落とすには難しいですからな」

幸隆のと合わせて5千で出陣しており副将は兄上と一緒に剃髪した原虎胤改め清岩、

「野尻湖の近くにある割ヶ獄城を先ずは落せば上杉も驚き動揺するでしょうぞ」

心機一転した清岩は剃った頭を撫でながら笑いそれに同意して移動をする。

越後との境にありこれを落とせれば上杉勢が動揺するのは当然なのだが中々の要害であり損害を少なくと思っている私が躊躇するのを笑いながら清岩が攻め手を請け負い城攻めが始まった。


「主がおらぬ城など落ちたも同然、すすめやすすめ」

清岩が先頭に立ち突き進む、敵からの反撃も中々で私は鉄砲隊に前面に出て援護するように命令をする。

敵からも必死の反撃で石や矢がふりそそぎ清岩の手勢も投げ返している。

数日しても落ちる気配はなく何か次の手をと考え始めていると清岩が、

「いくつか守り手にもほころびが見受けられます」

私を安心させる様に微笑みを満たして明日正面から私が攻撃をするようにお願いしてきたので了承して翌日を迎えた。


「鉄砲隊は反撃を押さえるため門上部に向け攻撃せよ、昌景は兵を率いて門を打ち破れ陽動とはいえ突破しても構わぬぞ」

私は鉄砲隊を率いて門に通じる道の両翼に展開を終えて昌景が突撃を開始するのを待った。

陣太鼓が鳴らされ昌景の号令と共に突撃を開始する。

守備側は昌景達が近づくのを待っており私はそれを見ながら鉄砲を構え命令した。


「放て」

私は引き金を引き絞り顔を出した兵を撃ち抜く、悲鳴と共に顔を出した守兵の上杉方は倒れその下を昌景が突撃して門に丸太で一撃を加えた。

門はきしみ城内から怒号が飛び門下の昌景を攻撃しようとし、それを鉄砲を撃ち込み防ぎながら清岩を待った。

「搦め手を落として清岩様城内へ侵入しました」

小太郎が部下からの報告を伝えてきたので鉄砲隊を前に進ませ木の盾ごと向こうに潜んでいる敵を撃ち昌景も正門を破って突入を果たした。

城からは煙が上がり攻撃が続いており残った兵で周囲に展開させ逃げてきた敵を捕まえる様に伝えた。

一刻程で本丸に清岩勢が突入を果たして攻城戦は終わる。敗残兵は首を切られるか捕虜となり私は戦功の報告と恩賞を与えていると清岩が苦しそうに戻ってきた。

「不覚にも敵の槍を受けてしまいました」

清岩は苦笑しながら部下に支えられて座るのをあわてて医者を呼んで傷口を見せるように言い、

「今回の一番は清岩じゃな、早く元気になれ上杉が戻ってくる前に」

そう言うと頷きそのまま運ばれて行った。

兄上に知らせると共に城を修復して兵を入れ、知らせを受けた本隊の到着を待った。


「本隊が遅いですな」

向かうと知らせを受けてかなりたつがまだ信玄率いる武田勢は現れず落とした城を拠点として越後側に略奪に入る。少し早いが米を収穫して嫌がらせをしたりしてると小太郎から知らせが来た。

「上杉政虎が春日山を出発して向かっているだと、関東を引き上げたとは聞いていたがこれほどとは」

さすが武神と言われた謙信かと関心もそこそこに城の堀を深くするように昌景に命令をして出撃させていた部隊を呼び戻した。

「4日後に本隊が到着すると言うことです。御館様から海津城に入り高坂と共に守れとの事です」

信玄と名をかえ御館様と皆に呼ばせはじめており私は善光寺に政虎が入ったと聞いて千曲川を横断して海津城に入る。


「信龍様感謝します。我々だけでは心もとないので助かりますぞ」

高坂は嬉しそうに出迎えてくれここで勝たなければと言う事で気合いを入れた。

政虎は善光寺に一部の兵と輸送隊を残して進んできており高坂と昌景を呼び、

「政虎の狙いは短期決戦で海津城を落とすと言うことかもしれない」

「御館様が到着してない今ならと言う事ですな」

高坂が厳しい顔をして考え昌景が、

「出鼻をくじくと言う事と噂で御館様が早めに到着するとすれば」

私を見ながら言うので、

「噂はたてられるが下手に手を出すと藪から蛇がでるかもな、逆にするか」

「逆とは」

高坂が聞いてくるので、

「門を開け放ち城内の者は静寂に音もたてず、城外は清められ整う。これ空城の計と言う」

そう言うと準備に取りかかった。

小太郎に噂を流す言うに指示して高坂と昌景が海津城の準備を行った。


「上杉勢見えましたな、このまま通りすぎてくれれば良いのですが」

私だけは鐘楼の櫓に立つと上杉勢が北から千曲川沿いを下ってくるのを見て、心臓の鼓動が早くなりはじめており先頭に白い物をかぶった武将がおり政虎だろうと思いながら目を離さずに見つめ続ける。

「あんなに離れているはずなのに目を離せば襲いかかってくる恐怖がわき上がる。ちびりそうだ」

そう言うと両横で座っている高坂と昌景は笑いながら、

「信龍様は怖がりだが逃げはしない、そして目立つのにそんな白光している鎧を身に付けている」

高坂が笑い、

「御歴々は何をさせてもそつなくこなす信龍様に嫉妬しておりますからな、自覚が無いようですが我等にとっては御館様と共に頼りにしております」

そう言って頭を下げるのを気配で感じ、

「褒めてもなにもでないぞ、まあこの戦いに生き残ったら高坂、この鎧をあげよう」

そう言っているとこちらに向かっていた上杉勢は方向を変えて目の前を通過する。


私は驚嘆しながら、

「見よ、政虎が誘っている。そんなところに隠れていないで追ってこいと」

高坂も昌景も立ち上がりそれを見る。

「どうされますか誘いに乗りますか」

家康ではないんだよと思いながら浜松で武田軍が目の前を誘う様に進むのを見て出陣する覇気は無いなと思い、

「臆病だからこそ生きてこられた、この誘い好奇だが戦いは御館様が来てからだ」

そう言いこの戦いが終わった後は兄上を御館様と呼ぼうと考えながら妻女山へと入る上杉勢を見ながら門を閉じさせた。


その夜は特ににぎやかに城内をさせようと酒を一杯だけふるまいすごさせ、山の上から見下ろしている上杉勢を挑発してみた。

「やはり動きませぬな政虎は」

高坂が妻女山のかがり火を見上げながらつぶやく、

「重臣の柿崎や宇佐美は反対しているであろう、手持ちの兵糧が少ないのに妻女山へ入るなど飢えるだけと」

「それでは政虎は何を狙ってでしょうか」

「正戦法では政虎が無類の強さを誇っていると思う、なれば海津城に刃を突き付け焦りを誘い決戦に持ち込む、妻女山は大軍をいれるには平な土地もあり水場もあるから、そして何より見通しがよくもし武田本隊が海津城にそのまま入ればと言うことだ」

「知らせますか」

「妻女山に入ったと言えば兄上もわかろうが伝えてくれ高坂」

高坂が書状をしたためる為に離れていき昌景と二人になる。

「何か言いたそうだが」

昌景に聞く、

「信龍様は今回おおいくさになると考えいるようですが」

私は少しだけ笑いながら、

「人の顔をよく見ているな、起こるだろうあの政虎を見て思うし占いの婆さんからも命を捨ていかなければ武田は崩壊すると」

「そうですか信龍様が言うならそうなることも考えねばなりますまい」

昌景は厳しい顔になるので、

「命をくれ、兄上は絶対守る。守りきれれば武田の力も強くなろう大勢が死ぬがな」

「行けと言われればこの命信龍様にわたします」

「すまぬな、私の配下になってだいぶ貧乏くじを引かせている。しかし生き残れば得難い物を得られよう」

「いえ、武田に無い考えは私にとっても勉強になります」

こうして数日後、信玄は直接海津城に入る下策はせずに塩崎城に入り千曲川沿いに包囲して上杉勢の兵糧を断った。

「半包囲したまでは良かったが政虎が動かない、さぞや重臣達も焦れて兄上も大変であろう」

当初兵糧を断たれた上杉勢が直ぐに動くと思ったが数日経っても動く気配がなく、兄上から海津城に入城すると使者が来て出迎えることとなった。


「さすが政虎よ、周辺を制圧して妻女山をとるとはな高坂や信龍ご苦労」

信玄が入城をして直ぐに評定が開かれる。妻女山から中の様子が見られており海津城の意味も半分しかなく武田としては焦るが上杉勢が動かない限りどうこうできない、

「無事に到着され助かりましたがいかがいたしましょうか」

「昌信(高坂)よあわてなくて良い、確かに見られてはいるが兵糧がきつい上杉勢の方が辛いはず、報告にある通り信龍が上杉勢の妻女山と善光寺の連絡と兵糧の輸送を阻害している。直ぐに動くであろう」

そう言って兵を休むように命令して解散となった。


「上杉勢は直ぐにおりてくるであろう」

「しかし攻めてくとも妻女山の麓まで軍勢を展開しており難しいと聞くが」

「何れおりてくれば戦い善光寺は我等の物となる」

重臣達は色々とそこかしこで話をしており信玄は消極的に動こうとはしなかったが、小太郎からの知らせを受けついに動き出すことになる。

「越後からの援軍を待っていると言うことか」

上杉方の使者を捕らえて書状を確認するとそこには越中等から兵をいれ越後の残った兵を投入して海津城を逆に包囲する事が書かれており、兵糧も妻女山の北西に位置する千曲川の対岸の支城横山城を使って運びいれている事がわかり自分の詰めの甘さを痛感させられる。

直ぐに兄上のもとへ向かいこの事を報告すると、

「具体的にどのくらいだろうか」

そう聞かれ三国峠から上野に出たときは一万七千だったと報告を受けていたので四千と答えると勘助(山本)を含め沈黙してしまった。


「やはり政虎見事、我等がしてやられたわ」

兄上は困った顔で見渡し、

「勘助と信房(馬場)そして信龍、上杉勢が政虎が動かなければならない様に策をこうじて明日皆に伝えよ」

それだけ言うと信玄は下がり三人残された。

「我等もまだまだだが御館様の信頼を損ねぬように策をこうじて決戦に挑み勝利しようぞ」

珍しく表立って気合いをいれてくる勘助に違和感を覚えながらも同意する。

「妻女山は堅牢な要害、表からせめても押し返されるだけ、どう引き出すかだが信龍様何か有りますか」

有名な啄木鳥戦法は勘助が発案するはずなので私は城からでて善光寺を狙うように動けば政虎も動くのではと伝えると信房は、

「それで動くなら今までいくらでも動く機会はあったはず、上杉としては目の前の八千と善光寺の五千そして越後からの五千が合流すれば有利になると知っておりますから消極的でない作戦を」

今度は勘助が、

「それなら上杉勢が強制的に妻女山からおりてくれば宜しいかと」

運命の決断が始まったと自覚するほどに興奮しておりその話を聞く、

「啄木鳥の様に木の一方から突っつき反対側に虫を追い出して食べる。これがこん策の要であり、我々は兵を半数に分け上杉勢を背後から追い落とし河原の本陣前へと誘導して挟み撃ちにする」

その言葉を聞いて思わず頷いてしまい信房からもそんなによろしかったですかと聞かれて耳を赤くして再度頷いた。

細かい打ち合わせを行うが一番気になったのは妻女山の南側、上杉からすれば裏手に抜ける道は険しく細いので八千の兵を動かすには時間がかかるが海津城城主である昌信(高坂)が道をよく知っているので馬場と協力して向かうことになり翌日の評定となった。


「わかった。その戦法で追い落とし勝利をつかもうぞ」

信玄は同意して勘助が説明と別動隊を発表しおわると異議が出る。またお前らかと重臣である小山田や昌景の叔父である飯富虎昌が本隊でなく別動隊にと言い出し結局八千だったのが一万二千となり策は決まった。

夜襲のため途中で食べる分の食事も準備しており途中でそれに気がついたが今更かと思いながら妻女山の山頂にいるであろう謙信が煙の量に気がついていることにため息をつきながら出陣の準備が整った昌信や信房そして信綱(真田)を送り出し仮眠をとると信玄を先頭に海津城を出て深い霧の中、八幡原に向かい移動を開始する。

「この霧何とかならんかのう、全て濡れて不愉快じゃ」

皆が思っていることを誰かが代弁する。前の隊を見失わない様にしんがりを任されている私は昌景と共に進み夜も明けきった頃に着陣をした。


「信龍様」

小太郎が声をかけてきて地面を指差す。兜を脱ぐと耳を地面につけ音を聴く、

「大軍、それも近い」

本来策は通りなら喚声があがり追い落としているが史実通り察知した謙信が山を下ったと思うしかなく直ぐに信玄の元へ向かった。

霧は徐々に薄くなってきて周囲も明るくなりはじめている本陣に入り報告をすると勘助は直ぐに察知して地面に耳をつけると絶望な顔をするが直ぐに感情を押さえる。


「信龍様の言うこと間違いありませぬ、目の前にすでに上杉勢がいると考えた方が」

そう言っていると一乗の風が吹いて霧をはね飛ばし視界が急に晴れた。

「あれは柿崎か、敵は目の前直ぐに動くぞ」

信玄が立ち上がり武将達は動く、私は勘助に、

「責任を感じているときでは無いぞここを支えていれば信房も急ぎくる」

そう言うと頷いて陣太鼓を叩かせ私は左翼に戻った。

「これが信龍様の言っておられた事ですね」

昌景は目の前に広がる上杉勢を静かに見つめた。


先鋒である兄典厩と柿崎勢が激突する。上杉勢は車輪の様に回転する車懸かりで武田勢は鶴翼で迎え撃つが上杉勢の勢いを翼が止められず両翼がしはじめる。

「穴山勢後退しております」

私の左である信君は猛攻を支えられず押し込まれており昌景に敵直江に横槍をいれて勢いを削ぐように言う、

「諸角殿討死、山本殿が援軍に入られました」

こちらもだが右翼も崩壊しており武将が次々と討死しておりとうとう、

「典厩様討死されました」

ムカデ衆からの悲鳴ににた叫びを聞きながら昌景を呼び戻し、

「ここを任せる。私は諏訪衆を立て直すため中央に向かう」

「別れは申しませぬ、御館様を頼みます」

私は近習だけを連れて崩壊しはじめた中軍に向かう、そこには兄典厩の配下であった諏訪衆等が戦っており嫡男の武田義勝が負傷しながら奮戦して辛うじて崩壊を免れていた。

「義勝、父上に怒られるぞ典厩の息子であろう」

私は義勝と戦っていた上杉の武将に横槍をいれ馬ごと体当たりをして落馬させると小太郎にとどめを頼む、

「叔父上、父上が信龍に兄上を頼むと申されておりました」

「わかった。諏訪衆よ典厩の気持ちわかったであろう今しばらく辛抱すれば後ろから援軍がくるぞ」そう言うと喚声があがり押し返し始めていたところに右翼が崩壊した。

「山本勘助、初鹿野忠次討死」

このタイミングかと思いながら戦っていると崩壊した右翼の中に白い物を見つけた。

「入られたか、義勝よここを支えろ私は右翼を立て直す」

義勝はかなり負傷しており馬に乗っているのもやっとなはずだが槍についた血を払い、

「父上に誉めて貰う為にもここは死守いたします。叔父上はお早く頼みます」

そう言うと上杉勢に切り込んでいき私は右翼に一旦向かい襲いかかる敵を槍で払いのけ小太郎が横から鎧姿の武将となり私を援護してくれ切り抜けていった。


「あそこに」

小太郎に言われて本陣へ切り込んでいこうとしている上杉勢を見つけて馬を走らせる。

乗っている馬は泡を口から出しながらも歩みを止めずもう少しもってくれと祈りながら信玄の近習と謙信の近習が戦う中を通り抜けて向かった。


「御館様をお守りしろ」

前では声があがり馬に乗った謙信が太刀で立ち上がった信玄を上から切りつけそれを打ち払う。近習は誰も動けないのを横目で見ながら、


「上杉政虎とお見受けいたす。武田信玄が弟信龍推参」

そう言って後ろから槍を繰り出し馬ごと体当たりする。

「ほう未だ覇気はあるようだな。だがこれを防げるか」

二人の間に入ったが太刀を避けきれず槍を両断されてしまい短くなった槍を両手に持ちかえるとそれで防ぐが馬がもたず前足を地面につけて横倒しになるのをあわてて降りた。

謙信からの太刀の勢いは衰えず防ぎきれない鎧が破壊されていく、兜にも打撃を受け出血したのか視界が赤くなりはじめていると誰かが謙信の馬に槍で攻撃してくれ謙信は、

「退けい立て直すぞ」

そう言って馬で行ってしまった。

「信龍大丈夫か」

信玄が言うのを頷いて、

「御館様がご無事なら、前戦を立て直します」

兜を脱いで小太郎に止血してもらい替えの馬に乗ると前戦へと向かう、左翼と中軍は辛うじて支えているが右翼は主将が討たれていたので混乱が収まらない、

「武田信龍見参、集まれ」

敵の目標になり兼ねないが再編するにはこうするしかなく私の首を狙うものを近習である風間(魔)の者達が次々と返り討ちにしていると昌豊(内藤)が合流してきた。

「名乗るとは危ないですぞ」

私に襲いかかる兵を槍で突き刺して並ぶ、

「ここを支えれば最後に勝つのは我らだ、命を惜しむな」

そう言うと集まった勘助の敗残兵や周囲のを吸収して組織的な反撃を始めたところに、

「援軍じゃ、別動隊が来たぞ」

待ちに待った知らせであり武田勢は息を吹き返し上杉勢は乱れる。

「最後だ突撃せよ、我等の勝ちだ。進め進め」

私はそう言うと馬を走らせ斬り込んでいった。


「申し訳ない、御館様は無事でしょうか」

信房(馬場)と戦場で合い私の姿を見て慌てて駆け寄ってくる。

「典厩や勘助、諸角、初鹿野が討死した」

信玄の無事を伝えたが典厩や勘助が亡くなったと聞いて信房もショックを受けており他の者に追撃を任せると本陣へと二人で戻った。


「ご苦労」

信玄は私達の顔を見てそれだけ言うと運び込まれた典厩と勘助の遺骸を見つめている。昌信も帰陣してきてあまりの状況と典厩そして勘助を見て言葉を失っており小山田や虎昌も戻ってきて言葉を失った。

しかし信玄は気持ちを切り替え戦功を確認しはじめる。これは勘助と決めたことでありこの戦いでも同じようにする。

「信君(穴山)その方の戦い見事である反物を与える」

次々と与えていき義勝が家臣に支えられながら来た。

「典厩の事残念である。信龍から崩壊した中軍を立て直したときいておる。横山城城代とする」

そう言うと10代の若者は頷き、

「父上は亡くなりましたが御館様が無事であること喜んでおりましょう。ありがとうございます」

そう言うとまた家臣に支えられてて行った。


「信龍、最後になったがその方の功抜群である。崩壊を防ぎ身を挺して私を守ってくれた。今井の領地を正式にその方の物とする」

感謝状をもらい昌景も貰うと戻った。

「死者は三千になろうかと」

小太郎からの報告にため息とようやく乗りきったと言う安堵で戦場だが鎧を脱ぎ捨て千曲川で水浴びをしたあと海津城へと帰城した。

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