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上野と業正

「穴山もだが小山田もしつこいと言うか何様だ」

お互い嫌がらせが続いており、さほど問題にはならないが大元を味方なので叩くわけにいかずに細かい小競り合いが続いており神経をすり減らされる。

「脅せばすむ話ではないですか」

小太郎が実行は別に楽勝と言う事なのだが兄上の手前手を出せずにおり改めて武田は一枚岩にも程遠いと感じさせられる。

そんなことをしていると勘助が珍しく館に顔を出して私に会いに来た。


「穴山の娘を嫁に迎えろと、兄上からか」

勘助は家中の揉め事を無くして一枚岩にすべく同族になれば穴山からの嫌がらせが無くなると言い断りたいが当主が決めたことなので従うしかないが問題は、

「たしか年頃は小山田に嫁を出したはず、養女かな」

「いやその娘にございます」

どうやら流行り病で旦那が亡くなり最近戻ってきたと言うことらしい、

「わかったと兄上に伝えてくれ」

そう言うと数日後には穴山から小枝と言う娘が送られてきて祝言をあげることになった。


「小太郎本当なのか」

兄上等が祝言を終わって帰ると小太郎が苦笑しながら呟く、

「間違いありませぬ懐妊している様子にございます。本人も自覚がある様です」

何の冗談と言いたくなるが政略結婚で家中の間で立場的に弱いが穴山の企みは産まれてきたのが男なら次期当主にすればこの土地が手にはいると言う浅はかさであり月齢が合わないのをごり押しするのかと思いながらも、

「まあよい、その代わりやりたい放題させてもらう」

滅亡するのはわかっているのだからそれも良しとおもいながら身重の小枝の元に出向き形なりに結ばれ離れに館をたててそこで生活させるようにしむけた。

懐妊がおおやけになりその翌年血のつながらない息子が生まれると穴山に対して金山を祝いに寄越せとわがままをと押して、穴山もいずれ自分の物になると言うことで祝いとして差し出してきた。


息子が生まれた年、春も未だ遠い季節に田植えが始まる前に兄上の号令の元に信濃へ出陣をする。夫婦の仲はすでに冷えきっており表面上は穴山とは友好だがこれを続けるのが苦痛で外で派手な立ち振舞いが増えていった。

「すごいいでたちですな、上方の鎧でしょうか」

昌景が物珍しそうに気いてくる。数年に一度鎧を新調しており新しいのが届けられたので早速身につけ出陣したのだが、

「これが南蛮の技術ですか、しかし目立ちますな」

南蛮の技術で刀位は跳ね返せる程であり他の将も代わったと聞き付けたのか現れては驚き表面の固さに驚き戻っていく、

「まあ後方のだからね、このくらい目立たないと存在感ないしね、ところでおふるだけど手直しして使うかい赤だけど」

叔父である昌虎の赤備えは赤で統一しているが昌景はまだ黒いのを着けている。

「一軍を任せられた時のお祝いとしてお願いします」

「認められてからと言うのかい、十分認められてると思うんだけどな」

そう言うと嬉しそうにしながらも叔父上にと言うことをつぶやき兄上の元へと顔を出した。


「急な高熱で寝込んでおられるのか」

集まった家臣もざわついており兄である典厩が皆に説明をして明日まで熱が下がらなければ躑躅ヶ崎へ戻ると伝え一晩明かすこととなった。

「何事も無ければよろしいのですが」

私は近くの農家で一泊することにしていると様子を聞きたい重臣達が入ってくる。

「何れにしろ典厩と勘助が側にいるから何かあれば知らせてこよう」

幸隆が落ち着かない家臣に言いながら私が持ってきた酒を振る舞い落ち着かせようとしており朝方に典厩から、

「今回の遠征は中止だ、但し信龍は諏訪と与力をつれ北条への援軍として上野へと向かうようにと兄上からの命令だ、頼むぞ」

「わかりましたが兄上はかなり悪いと言うことですか」

そう言うと典厩は、

「大事を取ったまでの事、北信濃は私と昌虎で牽制するから安心して援軍に向かえ」

そう言われ頷くと三千程の兵を率いて佐久経由で上野へと向かった。


「ようこられた、上杉憲政は沼田へと逃げたが長野業正がしぶとい」

北条綱成、北条の先方を幾度も務めた武将で黄色い旗印で戦場を幾度も駆け抜けており敵としては厄介だが味方なら頼もしい男であり今回の北条の主将を勤めていた。

「すいません予定よりも少なくやはり手強いですか」

業正は上野の豪族をたばね憲政が逃げた後も戦い続けており破格の約束で降伏をすすめるが首を縦にふらず北条も手を焼いているようで、

「牽制もかねてだが実際業正がいる限り難しいと考えます」

当主である氏康にいたずらに兵を損なうなと言われているようで私たちと合流した後も奇襲や伏兵に悩まされることになり、春前に北条からは兵を引くようにと言うのが小田原から来たらしく撤退してしまった。

「ようやく兄上のおでましだな」

体調が良くなったのか後詰めとして体調が回復した兄上が甲斐を出陣したと知らせが来た。


「武田の本隊が来たと聞きつけ業正は沼田氏等に援軍を呼び掛け2万ほどが集結中とのことです」

小太郎が教えてくれたことを兄上が到着した評定で知らせると小山田が、

「信龍殿は奥方を迎えられ呆けた様だな、何もせずにおられたようだが」

確かに1ヶ月以上小競り合い以外決戦を避けてきた、

「確かに我らが戦い後ろから見ておればよろしいかと」

穴山も同調して言い重臣たちも新たな領地獲得のため大きく頷いた。

「信龍よ後ろの備えを頼むぞ」

佐久との補給線をしっかり守るようにと兄上から言われ我慢をして頷くと後方へと下がった。

「小山田も穴山もせいぜい苦労するがよい」

負けろとはさすがに言えずに座ると小太郎へ情報を集めるように指示を出す。

業正は地の理を生かして奇襲をかけてくるのがわかっているので後方を遮断されない準備を行いながら本隊の動きをながめることにした。


「また釣られて横槍を食らっている。うち捨てられた戦利品などかまわず追撃をすれば良いものを足が止まったところを又蹴散らされている」

高台から見回せる場所では戦いが続いており武田勢が押し込むがその横から伏兵が現れ勢いを削がれ押し返される。

しかしそれを蹴散らしていく勢いが武田勢にはあるので業正は引かせ戦利品を漁り始めると一気に反撃に出た。

「昌景、動きたいのはわかるが統制がとれていない、これが現状の武田だが何れは」

そう言っていると穴山勢が沼田勢に蹴散らされ本陣から撤退の陣太鼓がならされた。


「上野の連中はまともに戦う勇気もないのか、逃げてばかりで決着もつけられんわ」

「誠に、これほど臆病者だとはな北条がこの様な相手に手こずるとは」

「明日は必ずや業正の首をあげて見せようぞ」

兄上は厳しい顔でそのやり取りを見ており勘助がいくつか策を提案するが重臣は消極的な事に異議を唱えるので昌虎が一部を伏兵として後方へと向かわせ包囲殲滅を提案すると皆同意してしまった。

「難しいな、同じ過ちを何度繰り返せば気がつくのか勘助」

歴史と違い圧倒的な指揮力は未だになく勘助が積極性を引き出してはいるものの、

「後は晴信様に従えば常勝となるとわかればですが」

「信龍にも気を使わせている。すまない」

兄上が頭を下げるのであわてて、

「武田が勝てばそれが兄上の力となります。兄上についていくのみです」

「典厩といい信龍といい過ぎた弟だが頼むぞ」

そう言って翌日に備えることになった。


早朝、小山田と穴山勢が朝日が上る前に動き始める。

「焦らなければ良いのですが、自分で向かいたかったのですが」

勘助がいつの間にか横に立っており見送る。

「確かに譜代は父上を追い出し兄上を当主に据えたのだが、何れは馬場や高坂等が中核になれば戦いも変わると思うが歯がゆい」

「何処の大名も同じでございます。晴信様は辛抱強く粘りにねばっておりますれば」

「実を結ぶのは」

勘助が戦死してからだろうと思いながら兄上から始めるので勘助は戻るようにと伝令を受け行ってしまった。


昌虎等の譜代の重臣が鶴翼の陣ですすむ、別動隊に割いているが元々の兵数は勝っているので問題はないと思うが、

「昌景、上野勢が少なすぎないか」

昨日の戦いから1万5千程はいるかなと思っていたが見た限り1万程であり5千が単純に足らず昌景と話して小太郎を呼ぶ、

「確かに小幡勢が見えませぬ、沼田勢の旗も」

「兄上に伝令を、伏兵が向こう側にもかなりいると」

そう伝えて昌景に、

「これで総攻めで数で押しきり、伏兵も全面攻勢と我らの後詰めで押さえれば勝機はあるが、それと伏兵の小山田と穴山が慌てず敵の背後にまわりこめればだが」

「それよりも伏兵が右翼にまわっておりますので左翼を前進させ敵を右翼側に押し込み、我らを空いた左翼にいれれば伏兵にも十分対応できるかと」

さすが山県と思いながら昌景に兄上へ進言するように言い含めて送り出す。


織田なら勝手に動いても信長が気がつきそれを使い行動してくれるが武田では一門とは言え発言力はさほどないのもあるし、何かある場合の後詰めなので命令がなければ動かすことも出来ずにストレスがたまっていった。

「ムカデが動いたか」

旗にムカデを描いた兄上直属の伝令であり各将に命令を伝えに向かっており、左翼の幸隆に進むように伝え、私が入る代わりに本隊から内藤を向かわせたようでこのタイミングで伏兵が現れてくれば半包囲が完璧な包囲にといるはずの方向を見つめ続けた。


突然の喚声にようやくと遠目で見つめるが現れる様子も無いので小太郎を見ると、

「伏兵同士がと言うことでしょう、果たして突破して後へまわりこめますかな」

他人事のように冷静に言う小太郎に焦りと怒りが出そうになるが更に小太郎が、

「左翼の外から敵の伏兵とその後方にも」

突出している幸隆の横と後方に業正の伏兵が時間差で現れて最初のは内藤が割り込み佐久勢を率いる幸隆がそのまま本隊へ斬り込んで行く、

「昌景は未だ戻らないか」

私は本陣へと向かわせた頼りになる副将が不在と言うことで一抹に不安が残るが本隊に向かう敵の伏兵を迎撃するために丘を下り迎撃をした。


「小幡勢か、二手に分けて敵を迎撃したいが」

阿吽の呼吸で任せられる将がいないので正面からまわりこみ迎撃する。

「武田一門の一条とお見受けするする。西上野衆小幡推参」

それだけ言うと馬上から槍を繰り出してきてそれを迎撃する。

「ちょ、ま、やばい」

思わず口に出てしまうほどの槍さばきであり南蛮鎧に当たり音が鳴る。

この鎧で良かったと考える暇もなく落馬をしないように少しずつ下がりながら耐え続けていると、

「敵本隊撤退し始めております」

良いタイミングで小太郎が知らせてくれ小幡も一別をくれると、

「晴信の首と思うたが奇妙な鎧に防がれたわ、また会いまみえ様ぞ」

こちらからすれば二度と会いたくないと思いながら追撃するのを止めて元の陣へと戻った。


「追撃を開始したようです」

小太郎が安堵して水を飲んでいる私に知らせてくれる。

ここぞとばかりに業正に襲いかかり首をあげようとしており兄上の本隊も前進を始め私もそれに続いて動く、

「申し訳ありません、副将である私が戻るのが遅れたため危険に会わせてしまい」

昌景がようやく戻り私の鎧の傷に絶句しながら馬をおりて頭を下げるのを、

「兄上に言われたにだろう問題ない、その為の鎧もしっかり身を守ってくれたし、ただし二度とごめんだけど」

苦笑して騎乗させると兄上を追った。


「さすがは業正、我らの追撃をことごとく跳ね返している」

本隊に合流して兄上の元へと顔を出す。

業正は自らしんがりを務めており次々と襲いかかる武田勢を撃退しており晴信も驚嘆して、

「業正がおる間は上野に手を出せばかなりの痛手になる」

そうつぶやき昌虎が反撃を食らうのを見て引きの陣太鼓をならさせた。


業正はそのまま居城である箕輪城に籠城をを行い武田は包囲をした。

「躑躅ヶ崎に似て緩やかな斜面に規模を大きくした城と言うことだがすぐに落とせよう」

譜代の重臣は追撃戦で手痛い反撃を受けたのを忘れて戦後の戦功での領地の確定に忙しい、

「とらぬ狸の皮算よだな、このくらいの規模なら落とせないとは言えないが業正が居るから難しいだろう昌景」

「何れにしても早く落とさねば越後からの援軍が来ると言うことですな」

小太郎から業正から越後の長尾景虎に救援を求め応じたと聞いており兄上にも伝え評定でも話に上がったがその前に落とせると考えているようで無視されてしまう。

「撤退を遺留なく速やかに行える準備をしておいてくれ」

表だってすれば他の将から言われかねないので内密に行っていく、1ヶ月分の兵糧を残して佐久の領地内へとひっそりと移動させることにした。


翌日からそれぞれの攻める門を決めて陣太鼓と共に総攻撃を開始する。

正門は昌虎が攻め、裏手に当たる搦め手は伏兵で損害が大きく再戦の機会を与えられた小山田が攻撃を行い、幸隆の佐久衆や兄典厩の諏訪衆がそれぞれで攻撃を開始した。

弓や石を投げ牽制しながら堀の前の柵を破壊して堀へと飛び降りて進む、しかし城からは反撃がなく木製の城壁や門まて取り付いた瞬間、

「武田を追い落とせ、生きて返すな」

ここまでも聞こえる老人、業正の声でありその瞬間武田勢は怯んで動きが止まった瞬間、城内から石や矢そして液体が降り注ぎ至近にいた足軽が悲鳴をあげ転げ回る。

「怯むな、これを破れば奴隷などが思いのままぞ」

督戦している将から叱咤の声を受け足軽は体勢を建て直し取り付くが同じように手痛い反撃をくらい悲鳴をあげて逃げ惑う、一度引いて体勢を立て直すこと数回におよんだがことごとく撃退され初日は終わった。

翌日、もう一度同じ持ち場で猛攻を加える。

普通なら落ちてもおかしくないと思わせているのか侮っているのか単調な攻撃であり兄上も難しい顔をして攻城戦を見ており勘助と話をして早めに引かせると評定を開いた。


「明日、正面から総攻めを行う、ただし陽動であり敵の目をそちらのそらし時をみて搦め手から攻撃をして城を落とす」

武将達は頷き同意していくが晴信が、

「搦め手に典厩と信龍をあてる」

そう言うと小山田や穴山もだが重臣達は異議を唱え兄典厩の妻の実家である大井と昨日今日と後詰めであった穴山が当たる事となり私はその後で加勢をすると言うことに決まった。

「信龍くさるなよ」

兄が気を回して言ってくれ頷きながら、

「早く兄上中心でまわることを願います」

そう言って陣へと戻り不満を忘れるように休んだ。


陣太鼓が鳴り響き喚声が上がると正面から箕輪城を攻め始めており、大井と穴山と共に林の中で待機している。

合図は4度目の陣太鼓が鳴り響くのと同時であり、城の様子を見てみると元々少ない城兵が2度3度鳴り響く度に城兵は少なくなっていく、

「昌景、少なすぎやしないか」

正面で落とすつもりでの総攻であるが減りかたが気になるほどであり昌景も、

「わざとさそっている様にも見えますが、露骨すぎて判断に迷います」

空城の計でもないが大幅に減らすことによりわざと警戒させ攻めるのを躊躇させるというのも考えられ大井と穴山を呼んで城兵の事を話すが一蹴され穴山が、

「総攻めの効果にございます。さすがに業正も全力で防がなければ守れまいと考えたのでしょう」

そう言うとそれぞれは戻っていった。

もうすぐ4度目の陣太鼓がなるので昌景と隊を2つに分けて備える。

「なったぞ、突撃一気に落とすのだ、我らの武勲とせよ」

穴山と大井は競うように突撃をして搦め手を落とそうとしている。

「城兵の反応が薄い」

「しかし大井はいざ知らず穴山は無視するでしょう、それと城外に伏兵がいると考えればあの少なさ合点がいきます」

「2重3重の罠か、業正の事を兄上もかっていたが敵だと恐ろしいな」

「傍観しているわけにはいきません、私が後方を警戒するので信龍様は大井勢の援護を」

そう言って騎馬を昌景が率いて私は足軽と弓兵を率いて城攻めを始めた味方の援護に向かった。


「言わんこっちゃない」

業正の作戦は引き込んで敵を叩くと言う策を好んで使うのか急斜面の搦め手に穴山勢が取り付きたいした反撃もなく登ると壁を越えて「一番のりは穴山が家臣長塚仁左衛門が貰った」と叫び中へと飛び降りた。

数人が壁を飛び越え中へはいるがいっこうに搦め手の門が開け放たれず喚声が上がり壁の向こうから味方の首が投げ返され石を上から投げつけられ悲鳴が上がった。

「下がるな敵の勢いは一時的なものだ、ここで気持ちが負ければ搦め手は落とせぬぞ」

穴山が叫び攻撃の手を緩めさせないようにしておりこのまま行けるかと思っていると城外の北側に喚声が上がり敵の伏兵が現れた。


昌景が騎馬を率いて迎撃をする。

どうやら相手は沼田勢で昌景は兵力は少ないが機動力を生かして正面からでなく斜めに駆け抜けて勢いを削いでいく、

「これなら穴山の総攻撃の時間も稼ぐことが出来よう」

そう言ってふりかえると動揺した穴山が挟み撃ちになるのを恐れ引き上げを叫んだので伝令に伏兵は押さえるのでそのまま続行をするようにと向かわせた。

「穴山の愚か者、変なところで臆病になり逃げ出すとは、一緒に戦うには信におけぬ」

私は大きな声で叫び奮戦している昌景に無用な損害をこれ以上出さないように引き上げさせ本陣へと戻った。


「信友(穴山)勝手に兵を引くとはどう説明をする。答えによっては許さぬぞ」

晴信は穴山に珍しく怒り穴山もなにも言えずにおり、他の重臣達も今回の陽動で損害を出して勝手に撤退をしたのをきつく攻めた。

「戻り次第信君(信友の嫡子)に家督を譲れ」

珍しく信友も同意をして下がった。

「活躍したそうだが負け戦ではな」

兄上から言われ頷くしかなく昌景の奮戦も無駄となり翌日から攻城戦を続けた。


「これで6度目か」

兄上の体調は穴山の件から日々悪くなり長尾景虎が越後と上野の境である三国峠を越えたことが伝えられると甲斐へと兵を引くことを伝え、私がしんがりを務めながらの撤退を開始した。

「金山衆が城からでてこちらを追撃し始めました」

小太郎は淡々と報告をしてくる。

「業正の方も一枚岩でないか」

こちらも追撃を受けることを想定しており地理に詳しい幸隆の援軍を借りながら撤退をしており、業正も越後の援軍が到着しておらず被害を増やすのを嫌い豪族を押さえていたが抜け駆けが起こったということが伝えられた。

「幸隆、この先で伏兵がしやすい場所はどこか」

幸隆は私よりも老練で苦労人であり、知略をもって切り抜けてきた古強者で兄上の家臣の中でも信頼をおいていた。

「赤城山の麓を抜け浅間山に程近い所に左右が狭くなったところがあり、その両側の森は深く隠すには都合が良いかと」

優しく孫にでも言う様な顔でこちらを見て伝えてくる。

「昌景、幸隆と共に急ぎ向かい左右に別れ兵を伏せよ、私は牽制しながら下がりつつ合図と共に両脇から追い落とせ」

私は鉄砲を久しぶりに油紙から取り出して火縄などの準備を行いながら撤退を続ける。

「あと半刻ほどで金山衆が追い付きましょう」

小太郎の情報に頷きながら兵士を先にいかせ一番後から目的の場所を目指した。

「あそこか」

そう呟くと同時に後で喚声が上がり、騎馬の将を先頭にこちらへと向かってくる。


私は馬をおりると火縄に火を付けて早合を装填して薬皿に火薬を入れ火縄を鉄砲に取り付け構えた。

相手は未だ300m程の距離があり私は騎馬の上の武将のお腹に狙いを定める。

頭を狙えば目標は大きく上下しているので外す可能性もあり転生前の教えを思い出しながら相手の顔が至近まで近付くのを待った。

「コトッ」

引き金を絞り火縄が薬皿の火薬を爆発させそれが早合に包まれた火薬に引火、そしてその爆発で三匁半の弾が撃ち出される。

視界は火薬の煙で真っ黒になるが風が強いのですぐに視界が開けると、そこには始めて聞く鉄砲の轟音に混乱してさらに自分達の武将ももんどりうって地面へと落ちるのを見て混乱の極致となり、さらにその音で両方から昌景と幸隆が飛び出して挟み撃ちにしていった。


再度早合を装填して射てる状態にしたがその必要もなく次々と討ち取っていく、

「後方から業正の援軍、一刻程で到着します」

小太郎の報告に昌景と幸隆に知らせ戦利品もほどほどにて撤退を完了させた。

「敵は200程が死傷しこちらの損害は怪我人のみですが、すごい音ですな敵もあれほどの混乱を起こすとは」

幸隆が鉄砲を見ながら感心している。

「これを大量に運用できる経済力がある大名が全てを平定できると思う」

「それは何故でしょうか」

幸隆は興味があるのか聞いてくるので、

「金があれば土地が貧しくとも他から買い入れることもできるし、何より人が集まる」

譜代の重臣達に何度か簡単な経済を説明したが何を言っているのか理解してもらえなかったが幸隆は自分なりに考えて質問してくる。

「結局我らも食べ物に困るので隣国に攻め入り奴隷などや略奪で金を稼いでいるから」

「しかしどうすれば流通するのでしょうか銭が」

「品物の流れ銭の流れだから港を持つ事により大量に品物が運べる。それと各豪族が街道に関をもうけているが税金を取ればその分売値が上がり結局自分達に不利益になるそのお金で値上がり分を支払わなければならないからな」

甲州法度では関をおくことは禁止しているが隠れてまだまだおいており、晴信の立場が弱い分法を破るものがまだまだいるので経済はさほど改善していない。私のところも自由に商売を奨励しているが周辺の町が貧乏なためさほど発展はしていない、ただし周囲からみればかなり発展させているのだが、

「近畿を押さえることが一番のはやみちだけどね、甲斐からは遠すぎる」

「雲をつかむような話ですが信龍様の町は活気が他とは違うと言うのがわかります」

そんなことを言いながら佐久へ撤退を終え甲斐へと戻ると、評定が開かれ信友は来年にも息子信君に家督を譲るといい、私は金山衆の武将首をあげていたので甲州金をいただき自領へと戻った。


「そうか生まれたか」

家臣から昨日生まれたと聞かれたが血の繋がりがないのがわかっているため他人事のように聞くと兄上に知らせた。

「これで一条家も安泰だなでかしたぞ信龍よ」

兄上は喜んでくれ内心はどうであろうと礼を言い穴山から返還された金山をフル稼働させるために金堀衆を呼び寄せ頼んだ。

今年も日照りが続いており川下との水の取り合いが激しくなっており、均等に分けるために時間で水門を開けたりと忙しく働きながらその年は過ごした。

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