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風間の小太郎

ようやく駿河から帰国するが兄上に南信濃の木曾氏へ初めて主将として出兵するように命令を受ける。

信春(馬場)を副将に諏訪衆と兄典厩の兵と共に三千程で進み、私の両脇には信綱と虎綱(高坂)が従っている。

出発に際して義信も出陣を願い出たようだが兄上は許さず不満そうな顔で見送られた。

諏訪で合流して高遠方面に向かう、

今年はまだ雪が遅いので助かってはいるが早めに決着をつけるようにと言われており高遠に入ると評定を開いた。


「木曾はまだこちらがこの時期に攻めてくるとは思っていないので速攻で攻める」

そう言うと馬場が、

「主要な道は一つしかなく進めば直ぐに知られてしまううでしょう」

「たしかに、なので別動隊を私と信綱それぞれに五百ずつ率いて間道を抜ける。信春は残りを率いて進んできてくれればいい」

そう言って事前に河原の長老から間道の場所を記した地図を広げて説明をしていく、

「わかりました一日遅れで出発をします」

そう言って先鋒として私と信綱がそれぞれ道案内を野呂と杜代に頼み出発した。


「信龍さまよおんぶしましょうか」

野呂が心配そうにこちらを見る。馬さえ進めない道なので歩きなのだが相変わらず心配性の野呂が聞いてくるので笑いながら、

「怪我したら頼むよ、野呂が見事に案内してくれるから心配はないけどね」

そう言うと大きく頷き進む、一日目は途中で休み二日目にようやく谷間の城下町と館が見えるところに到着した。

「向こうの尾根づたいに杜代がおりてきているはずですよ」

野呂が教えてくれる。

館の位置等を確認して機会を待った。


真夜中に兵を進めると信春の率いている武田勢が来たと知らせに来たのか早馬が走り館に向かう、

早馬が到着するのと同時に予定通り私は攻撃を仕掛け、谷の反対にあるにある木曾の家臣の家を信綱が襲った。


「この騒ぎはなんだ、反乱か何だ」

建物から出てきた男に虎綱が襲いかかり捕縛する。

「武田の奇襲だ、降伏しろ」

そう言うと呆気なく同意した木曾義昌、

「信春に知らせよ、降伏したとな」

翌朝、損害も出さずに占領してしまい知らせを聞いた信春が嬉しそうに入城してきて、

「さすがは信龍様、御館様も喜んでくださいますぞ」

そう言って誉めてくれ、周辺の豪族に集まるように命令を下す。

木曾領の苗木は遠山氏の美濃岩村とつながっており、そこまで落としておこうと思い木曾の兵も組み込んで美濃の境を越えることに決める。


「信春、木曾の豪族をまとめさせ先鋒として岩村に向かわせよ」

1日おいて直ぐに命令を下す、

「信綱は督戦して早々に降伏させよ、籠城の準備をさせなければ降伏してくるはずだからな」

「こんな時期でもありますし、ここを時間をかけずに落とせたのが良かったですな」

虎綱が嬉しそうに書状を書いてくれ甲斐へと知らせる。

苗木から岩村までの道を木曾勢が急ぎその後を進むとたいした抵抗もなく岩村城を取り囲むことができた。

「あの時よりもまだ規模が小さいか、たしかあの辺りが搦め手だったな」

秋山が城主の時の前世の記憶をたどり信綱に攻めさせ打ち破るとすぐに遠山は降伏をして来た。


「これで美濃の蝮とうつけもが動かないわけないよな」

美濃に楔を打ち込んだ形の岩村城であり遠山も表立っては降伏しているが斎藤とはやり取りを続けざる終えないだろうしそれをどうこういえない、処理を終え戦利品と奴隷を確保すると甲斐へと雪がちらつくなか帰途についた。



「信龍よくやった。岩村まで落とすとはな」

正月の挨拶に間に合い躑躅ヶ崎の館の大広間で兄上から感状を貰い願い出ていた木曾周辺の鉱山開発を許される。

木曾にはそのまま支配を許したが実質は代官を派遣して実権を握ることとなりその一貫で許された。

信春や虎綱も加増され、信綱は兄上の近習に昇格することができた。

兄上が心配して飯富昌景をつけてくれた。

「源四郎とお呼びください」

口少なげだが兄上からの信頼も上々で重臣の飯富とは叔父甥の間柄であり、後年の赤備えと言えばこの人が最初と思いながら、

「信龍でいいよ、頼りにしてるよ」

そう言って一晩のみ明かして領内のことなどを話した。


年が明け遠山が武田に寝返ったと知った美濃の蝮である斎藤道三が娘婿の織田信長に援軍を頼み出陣したと知らせが来る。

私と昌景と諏訪衆、後は義信も出陣の許しが出て木曾も合流して五千程で岩村へと援軍に向かった。

出発にさいし兄上は義信に、

「信龍が上将だ、何事もよく聞き従うこと」

そう言うと元気よく、

「はい、叔父上と共に蝮をくびり殺してきます。朗報をお待ちください父上」

わかっているのかい私が指揮官何だよと思いながら出陣した。


「信龍、道三は蝮と呼ばれているが毒でもあるのかな、まあ美濃の弱兵がいくら来ようと相手にはなるまいよな」

遠足にでもいくつもりかと浮かれている義信をみながら、

「もとは商人で、国主まで登り詰めた男であり誰にでも出来ぬことをする者で恐れから蝮と例えております」

「商人が国主にとはけしからんよな、このまま美濃を蹂躙してしまおうか」

若者はいいなと思わずじじくさく考えながら、

「苗木は絶対守るけど岩村は固執しすぎると信濃の戦いに影響するから、割譲して手を結ぶのが最良かな、兄上とはそう話しているし」

義信は少しだけつまらなそうにしながら、

「先ずは仕掛けさせてくれ頼むよ」

そんなことを言いながら岩村城の手前の山の上に布陣している美濃と尾張の兵を見下ろす場所に陣をしいた。


八千程だろうかこちらより数では勝っているが岩村城に割かなければならず同等と考えていい、

「ここで牽制をしたいけど一人やる気満々だし」

義信を見て皆笑う、

「先ずは鼻っ面をひっぱたいてやればいいのさ」

相変わらずの強気に、

「先鋒源四郎(昌景)と兄上の与力、左翼義信と諏訪衆、右翼木曾衆、中央はわたしがすすむ、交戦したのち昌景は後退して両翼で包むこと、ただし誘いに乗らなければ昌景は一気に突き崩せ、義信は後退するまでは我慢すること、勝手に動けば甲斐に帰すからね」

そう言うと元気よく返事をして水晶山を降りて岩村城の南側に陣をしいた。


斎藤道三も平地におりてきて目の前で陣を構えると陣太鼓を鳴らさせた。

義信の前は信長で同数程であり木曾の前は美濃三人衆である稲葉が構えており先ずは中軍がぶつかった。


源四郎の隊は一丸となり中央から切り崩しそこを与力が楔を打ち込んで行く、左翼の義信も士気旺盛だが我慢しており織田と戦っている。

その間にも斎藤の先鋒を見事切り崩すと源四郎は中軍におどりかかった。

必死に押し止めようとする敵にわざとなのだろうが源四郎の勢いは衰え限界点まできたかのように撤退を開始する。


斎藤勢は押し返せるとふんで釣られ始め源四郎の読みに感心しながら両翼が閉じていくのを見ていた。

「義信様が遅れております」

粘り過ぎて引くタイミングが遅れて源四郎との間に信長が切り込んでくる。

「包囲が中途半端になったな、被害が拡大するまえに引かせろ」

源四郎の一部の部隊が信長の隊列の横から楔を打ち込み動きが止まったタイミングで引きの陣太鼓を鳴らせた。

斎藤勢も信長もあっさり引きあげるとそれぞれが合流してきた。


義信は申し訳なさそうにしており私は、

「わかったかい、目の前で勝てばいいんじゃない横との連携がとれなければ全体で負けるんだ、源四郎が敵の行動を遅延させたからさほど被害はでなかったけど」

「すまない相手に釣られてしまった」

「あれが義元殿が言う尾張の大うつけだ、噂は当てにらならない証拠」

「義父が言っていた」

そう言って義信は振り返って信長を見続けた。

「源四郎、道三に話し合いを申し出たいが行ってくれぬか」

「初戦で決着をつけられなかったのは痛いですが、越後とのことを考えれば手打ちにした方が良いかな、すぐに始めましょう」

そう言って道三に話を持ちかけると直ぐにのってきて城下外れの寺での会見となった。


「小虎が武田の大将か」

入ってくるなり声をかけてる。

「吉法師があそこで分断してこなければ勝てたものを」

そう言うとお互い大笑いしていると、道三や源四郎そして義信がポカンと見ているので、

「前に京から戻るときに尾張の河原で石合戦をしていたときに会ったのです」

「そうだチビの分際で面白いやつだった、どうだ鉄砲は」

そう言われ3匁半の新しい鉄砲を持ってこさせると改造も含めて会見そっちのけで色々聞いてくる。

道三は笑い茶を準備させ源四郎は静かに待っており、信長に負けた義信だけがやきもきしているのをあえて無視する。

「岩村は返してもらい東側は割譲、それでいいかな」

最後に信長がそう締めくくると私も頷いた。

細かいことは道三と源四郎に任せその夜は夕食を共にして酒を飲む、


「武田の一族とはな、しかし田舎大名に連なるにしては先見の明があるな」

「田舎は田舎ですが富士が見えますし、兵も強いですよ」

「それだけと言う顔をして言うな、しかし甲斐もだが確かに強いがそれだけだな」

「しかしそちらも大変そうですね、清洲を落としたもの落としたもの佐渡や権六が言いたい放題」

「知ったようにいいおって、それでは何か驚くようなことを言ってみい」

「驚いた場合はお願いを一つ聞いていただきたい」

そう言うと信長は頷く、

「近いうちに道三の息子が家臣にそそのかされるということ」

「仲が良くないとは知っているが、わしになんの利がある」

「道三は平手殿や私と同じ吉法師が大うつけではないと知っており何かあれば肩入れすると言うことです。吉法師との会見の後、子供達が下るだろうと言っておられましたし」

信長は大笑いして、

「色々と知っているようだがまあいいだろう、何が希望か」

「もし事を構えたときにお願いを聞いてください」

「わかった」

こうして楽しい時間は終わり兵を甲斐に引き上げさせた。


「もめております」

領地に帰ると新たに加増を受けた土地の揉め事に振り回される。

甲斐でも特に保守的であり武田なにものぞと言う気概が残っており周囲との協調性はなく土地や水の事でもめている。

その度に役人を派遣するが収まらず私が出ていくを繰り返すことになりストレスがたまっていった。

「いっそう重税を課して逃げ出すように仕向ければ土着では無くなるから解決出きるのではないかな」

乱暴な言い方に源四郎が苦笑して、

「民と言うよりは穴山が後ろで手を引いていると言うことでしょう」

自分達が欲しがった土地が私に与えられたので関係がかなり悪化しており嫌がらせでしてくるのはわかっているが兄上からは自重しろと言われている。

「幸隆に会ってくる」

何とか打開策をと思い躑躅ヶ崎の西にある真田の屋敷に向かった。


「戸隠の忍とは」

まあ忍びは召し抱えている事を隠しておかなければならないので当然の結果だが食い下がる。

「戸隠に忍の里がああるのは知ってるし大っぴらに言うつもりは無いので数人で良いから」

「もしいたとしても少数なのでご希望には添えないと、申し訳ありませぬ」

やんわりと言われてしまい謝ると屋敷を出て河原に出ると民の輪の中に入った。


座るとお椀に何時ものごった煮と酒が出てくるので飲む、

何時来ても暖かく美味しい食べ物で出迎えてくれる皆に感謝をいっていると長老が横に座った。

「何か色々荒れておいでですが」

「穴山の悪事を防ごうと思うが忍がいなくてな、伊賀は遠いし戸隠は真田から断られた。何処かに居ないかな実働部隊と各地の情報を伝えてくれる規模の、金なら払えるのに」

そう言うとしばらく考えていた長老が、

「我らの同族に忍びはおりますがよろしければ」

そう言われ飛び上がり、

「同族って、帰化した一族だから風間(風魔)か」

そう言うと驚き何故風間かと聞いてくるので、

「傀儡まわしや知識は朝鮮のものだろう、よしわらもそうだし、風間もそうだろう」

そう言うとあきれたように見るので、

「誰にも言ってないし言うつもりもないからね」

慌てて言うと長老が笑い明日また来てくださいと言って行ってしまった。

いきなり核心を言ってしまって不味かったかと思ったが、今さらだなと思いながら翌日にもう一度河原に向かった。


「こちらにございます」

何時も賑わう見世物小屋の中へ通される。

中は片付けられちょっとした空間が出来ておりそこには男達が並んでおりその奥に大男が座っている。

試すつもりかと思いながら男達を見ると一人だけ小男で仕立ての良さそうな服を着ており座っている。

外れたら笑おうと思いながらその小男の前まで進むとそちらに向いて頭を下げ、

「風間小太郎とお見受けした。私は一条信龍、武田の一族に連なるものだよろしく頼む」

そう言うと小男以外は驚く、

「何故私が小太郎だと」

顔色も変えずに聞くので前も話したよなと思いながら、

「噂の大男で牙がある何てのは本当の姿を隠す噂で小男でこの中で一番身なりの良い者を選んだだけです」

そう言うと感心したように頷き、

「風馬一族を率いる風馬小太郎です。長老からお聞きしましたが我らを雇いたいと」

「はい、北条に雇われているのはわかりますが忍が必要で臨時ではなく常時でお願いします」

そう言うと他のものが驚く、

「常時と言うことはかなり金がかかりますが、そう甲斐と木曽にある金山の利益すべてとなりますが」

流石によく知ってると言うことで同意して、

「しかし北条に仕えてはいるが問題はないのか」

疑問にあることを聞くと、

「早雲に仕え3代目ですが私自身は一度も顔を出したことはありませぬ」

そう言って北条には影武者が仕えているということを教えてくれた。

翌日から私のそばを風間と言う名前で小太郎が仕えてくれる事となった。


数日すると揉め事が収まり反対に穴山でもめていると噂に聞く、

「流石だ頼むよ」

金山からの収入は無くなったが堺での南蛮貿易で莫大と言って良いほどの儲けを生んでおり気にはならない、何より情報が甲斐にいながらにして入ってくるのが嬉しかった。

「美濃で斎藤道三と息子との争いが発生しました」

「越後で領地争いで家中が二つに割れどうやら当主景虎嫌気をさして当主の座を捨てて京へ向かったもよう、大騒ぎにございます」

すぐさま躑躅ヶ崎へ知らせると幸隆がすぐさま動き景虎の家臣大熊朝秀が不在に反乱を起こした。


「善光寺周辺の豪族の切り崩し成功しております」

幸隆が評定で報告をする。

兄上はすでに義元に仲介してもらった停戦は家臣一同の申し入れと言う脅迫に破棄と言う立場をとる。

「勘助、どうしたら良いだろうか」

圧力に屈してしまった兄上は迷いが生じているようで私を含め3人の時に切り出してくる。

何をどうしたらということがわからないが勘助はすぐ気がつき、

「善光寺へ出ると言うことですな、今回はわざとそちらではなく深志城へとお入りください、それで景虎に対する敬意と言うことで向こうも収まると思いますが」

家臣の突き上げで決断したとはいえ武田の当主として約定を違えると言うことについて良心の呵責があるようで家臣の手前景虎に書状を出すわけにもいかず勘助に相談したと言うこと、

「そうしかあるまい、他にしておくことは」

「特にないかと、これで察すれば良し、駄目なら怒りにうち震えた長尾勢との死闘となりましょう」

「兵の損耗は兵法でも下の下だからな、信龍何かあるか」

私に気を使って聞いてくれたので、

「善光寺のおさえとして大きな城を築城してはいかがでしょうか」

兄上は続けろと目で言う、

「長期戦の様相を最近の戦いでは見受けられますので一万人程が入れる城を造ればかなり優位になるかと」

兄上は勘助を見る。

「それは良いと思います。周辺の豪族に対してもおさえが効きますし」

「わかった。信龍よ勘助と共に調べ何時でも築城を開始できるように手配をおこなえ、深志城ならば景虎の目も眩ませられよう。城の名前も考えておけ」

そう言って海津城の築城が開始された。


「大熊は越中から越後へと兵を進めるようで、長尾の家臣団は景虎に裏切りをしないと言う証文を提出して景虎は戻ってきたようです」

私は勘助と城を築城する前段階としてその手前にある長尾の葛山城を包囲しており、風間に城内に対して景虎不在で援軍が出ぬと言うことを伝えさせる。

動揺をしているようで後は水を絶てばと言う話になり馬場に場所を伝えて攻めさせた。

昨年、武田に対する備えとして急造した城であり、援軍が来るまで持てば良いと言う考えなのでそこが弱点だった。


「進め、水を絶てば数落ちるぞ」

攻城戦が始まり信春(馬場)が先鋒で指揮をとり、勘助は正面から悟られないように攻撃を行う、

急造とはいえ攻めずらい城であることには代わりはなく正面は苦労している。

2波目まで見事に押し返され3度目の波状攻撃が開始された。

しばらくすると裏手から喚声が上がり、

「水を絶つことに成功したようです」

待ちに待った報告に本陣の皆が喜び信春が戻って完全に破壊したと報告があり兵を引かせた。


「あれをご覧ください」

数日後、幸隆が城内の一角を指差す。そこには馬に桶から水をかけて洗っている様子が見てとれる。

「あれは、水じゃないな米だな」

敵も水が断たれたと言うことを悟らせたくないのか、わざわざ見せており焦りが逆に手に取るようにわかる。

「数日そう三日後に総攻撃を仕掛ける信春先鋒で頼むぞ」

入れ替わり立ち替わり馬を引き出しては米の水で洗うように見せかける努力を敵は続けていた。


「合図を」

私が言うと攻めの陣太鼓が打ちならされる。

馬場勢が正面から攻撃を開始しておりその両翼は勘助と昌景(飯富)に率いられて攻撃をしている。

最初は押し返していたが時間がたつほどに反撃は少なくなり、水が無いと言うことがどれ程疲れを増幅させるかと言うことで馬場が城内へと突入して手はず通り内部の反乱と共に葛山城を手に入れた。


「信龍様も忍を使われるとは、お見事です」

勘助が誉めてくれ嬉しく頷く、真田も佐久等の豪族を率いて入城してきて長尾に備えると勘助と幸隆を連れて善光寺平に向かった。


「さて場所はどこが良いと思う」

朝靄の中で風間が用意してくれた簡易の地図を広げる。

「山の麓がよろしいかと思いますが、あまり近くても山をとられ中を見られるのは」

いくつかの候補をあげるが、

「水が不便いございます。一万人を長期に城内ですござせるには」

水は籠城する上で一番大切であり、水を絶てば城は何時でも落とせるので慎重に風間に調べさせ勘助と幸隆が確認をしていていくと豪族の館の場所が最良と言うことでいずれ準備しだい築城を行う事になりようやく出陣してきた景虎に備え、兄上に援軍を頼んだ。


兄上は計画通り深志城へと入ると積極的には動かない、

「虎綱到着しましたぞ」

幸隆は勘助と共に佐久や周辺の豪族を引き連れ兄上に合流する。代わりに春日虎綱が援軍として葛山城へとはいった。

春日が後年高坂を名乗り海津城城主として入るのはわかっていたので城の縄張りを相談する。兄上や勘助そして幸隆に鍛えられておりいくつかの提案をしてきたのでそれを加えて作製をしていく、

「しかし今回は何故善光寺でなく深志城へと入ったのでしょうか」

虎綱がふと聞いてくるので、

「一つは大熊に対しての約束と一番は怒りにより結束している敵とは戦いを避けるということだろう」

「それでは重臣達は納得しないでしょう」

兄上の側近として肌で感じていることを率直に言ってくれる。

「確かに穴山や小山田が言ってくるが勘助いわく各々に出撃させていく様なことを言っていたからな、こちらも昌景と共に牽制に出るだけにする予定だ」

葛山城は主戦場からかなり南であり景虎も兄上のいる深志城に向かうはずだと言うことで三回目の川中島の合戦の火蓋が切られた。


「上野原で小山田勢が長尾勢との戦いに入ったもよう」

「山中を飯富がおさえたもよう」

「板垣勢広原から撤退」

風間からの情報を地図に記していくと点での取り合いであり連携をしている様子がない、

「連携すれば引き釣り出して包囲せん滅とか取れるけど、兄上は勘助の言うとおりに今回は無理せずと言うことかな」

こちらにも村上が2000程を率いて善光寺に入ったと風間が知らせてきたので昌景と虎綱と共に1000を率いて出陣した。


朝靄の中を善光寺へと突き進む、先導は小太郎が勤めてくれ霧で全く方向がわからない我々を導いてくれる。

「あの者は何処を進んでいるのかこの状況でも迷いもなく信龍様の家臣でしょうか」

虎綱と昌景は感心したように小太郎の後ろ姿を見つめる。

「ああ、地形に精通しているものを雇ったんだよ」

通常は土地の農民に案内をさせたりしているが個々の能力はばらばらで明日の天気さえもおぼつかない、地形と天気を知ることが出きれば勝率は上がるので二人も安心をして3つに別れ村上夜営をしている場所の目前に到着した。


「せっかくの新調した鎧が朝霧でびしょ濡れだ」

小太郎に言うと笑いながら、

「すぐ乾かないと風邪を引きますぞ」

そう言って配下を展開させ視界が晴れるのを待った。


「見えてきましたな」

小太郎の呟きに私は太刀を抜くと真っ直ぐ上にあげ振り下ろした。

小太郎を先頭に私の騎馬が続き後ろから喚声をあげて敵陣に入る。

「敵襲、敵襲だ」

村上勢も素早い反応をしたが朝霧で至近まで接近しておりこちらの斬り込みに対応できず蹴散らされる。

「足を止めるな、止めれば命を落とすぞ」

私は叫び足軽の横を通りすぎたときに太刀を振り下ろし倒す、そのまま走り抜けると目の前に髭面の男がおり、

「武田か奇襲とは卑怯な」

そう言われ笑いながら、

「義清か、何時までも寝ておるから悔しかったら同じようなことをしてみろ一条信龍がお相手いたす」

そう言いながらお互いの太刀がぶつかり弾かれる。

抜けたところで昌景と虎綱に合流をして、

「損害は」

「双方とも有りませぬが、深入りした味方が数名取り残されております。虎綱、信龍様を頼むぞ」

そう言うと単騎昌景が敵陣へ引き返し私たちは斜めに再度敵陣を横断しながら昌景に合流して葛山城へと戻った。


「さすがは村上、混乱を最小限に抑えて反撃に転じるとは」

昌景が称賛し虎綱も頷く、

「今回は被害を最小限にと言うのを前提で奇襲をかけての結果だから敵を慎重に行動させると言うことで良しとしよう」

兄上への報告書にも敵の損害は100程でこちらは被害無しと書いて送った。

義清も奇襲に驚いたようでそのまま動かず抑えの役割に徹するようだった。


その後は周辺の豪族に対して敵対した相手を攻撃する。

あの戸隠も敵対をしており幸隆のあの対応も納得でき、兵を差し向けると越後へとほとんどの者が逃げたようで住民は少数だった。


秋口になり景虎がようやく引き上げ義清も合わせて下がったので海津城の築城準備を手配して躑躅ヶ崎へと戻った。

「信龍ご苦労、一つ虎昌と共に上原城に向かえ」

何事かと思っていると詰問状を渡され中を読むと板垣信方の息子で後を継いだ信憲が軍務を怠り、平時の領地についても酒をのみ遊び更けていると言うことが色々かかれており、

「所領と板垣の名を取り上げ平民へおとせ」

重臣の息子とはいえ余りの酷さに虎昌を含めた重臣もこの件を支持しており厳しい沙汰を私と虎昌に頼むと言うことですぐさま出発した。


「甥の昌景は今回もお役にたてましたでしょうか」

虎昌が心配はしていないが聞いてくるので、

「何時もの冷静さで助かっているよ、ただ取り残された味方を助けに単騎敵陣に突入するのは心臓に悪いけど」

そう言って笑うと、

「私の教えをしっかり守っているようです。それと義信様をどう思われますか」

義信の守役として虎昌がついておりどうやら美濃での事を気にしている。

「真っ直ぐなんだよな、こうもう少しひねくれないと当主として苦労するよ」

虎昌の真っ直ぐな気持ちを受けて育ってはいるが良い意味で愚直であり約束は守ろうとする。

「前の事に必死になる事があり度々申し上げておりますが」

「そうなんだよな、愚かな家臣に煽てられ兄上と対立なんて事にならなければ良いけど」

後日そうなるとわかっているので匂わせると、

「私も注意しますが信龍様も何かあればよろしくお願いします」

本人は必死なのだからあまり言えないが大切に思う虎昌に同意して了承した。


上原城に到着をすると昼間から酒の匂いをさせた信憲が出迎える。

周りを見ると信方時代からの古参の将達が苦々しい顔をしており広間に通されると私と虎昌が上座に座った。


「信憲殿、昼間から酒の匂いをさせているようですが冬に向けての街道の補修はお済みですかな」

到着をするまでの道も整備されておらず所々道がえぐれて水溜まりや削れて幅が細くなったりしているところが見受けられ、何度か指摘を受けているようだが改善されてないので結果こうなったのだが、

「なにぶん戦いが続き金銭に余裕もなくしたくてもできなかったのです」

悪びれた様子もなく虎昌と共に苛立たせる。

「それはどこも同じ、何のための城代かこの街道は北信濃や高遠に向かう重要な場所、譜代筆頭としての責務も果たしてはおらぬ」

虎昌が兄上からの詰問状を読み始め信憲は徐々に青い顔をし始める。

父の功績を自分達にも適応され、言いたいことが何時でも言えると勘違いしていたと言うことを伝えられ最後に私が、

「よって所領すべてを召しあげ板垣の名も取り上げる。室住虎登(信方の弟)がおさめよ」

呆然としている信憲をほっておき家臣は安堵の顔を浮かべた。

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