老兵達
「申し上げます諏訪西方衆が小笠原に寝返ったと言うことにございます」
板垣が亡くなり息子が後を継いだが経験が乏しいのか動揺を押さえられず離反が相次いでいる。
流石に見過ごすことはできず兄上は7月に入り出陣した。
「御館様はなぜ上原に入らずここで待っておられるのか」
「このままいけばさらに離反が続き諏訪を失うことにもなりかねん」
大井森に帯陣したまま動こうとしない兄上に家臣達は心配をする。
「だいぶ家臣達も焦れてきたな信龍」
「小笠原勢もさぞかし暇をもて甘し烏合の衆がもめているでしょう」
上機嫌に兄上は、
「そろそろ上野城へ入るかな、仁科も小笠原とたもとを別れたと知らせが来たしな」
そう言うとようやく入城をすると軍装を解かせず夜半に塩尻へと兵を進めた。
「典厩よ信龍を連れて塩尻峠の西側にいる諏訪勢に奇襲をかけよ」
そう言われて本隊と別れて進む、
「信龍心配ない兄がついておる」
そう言って信繁は励ましてくれ敵が眠る陣の前に到着した。
「気持ちよく寝ていますね」
無警戒にも程があるほど静まり返り立ち番の足軽も眠たそうにあくびをしている。
そうして待っていると右後ろで喚声が上がり本隊が奇襲を始めたと言う事がわかると信繁が立ち上がり、
「討ち取れ」
そう言うと寝静まった敵陣に突入した。
小笠原勢は何が起きたかわからないまま殺されるか着の身着のまま逃げ出していく、首を上げよと叫び襲いかかる足軽達、夜が明ける頃にはすべてが片付き戦利品をと思っていると数が少ないと騒いでいるが大勝なので収まる。
兄上に合流すると嬉しそうに頷き、
「農耕が終われば再度出兵する」
そう言うと信繁と板垣に後を任せてあっけなく甲斐へと戻った。
「おかえりなさいませ」
菊地があきれた顔で出迎えてくれる。
「お届け物到着しましたが量が多く部屋からも倉からも溢れております」
塩尻峠で放棄された鎧兜や太刀を奇襲のどさくさに紛れ川の民に武田にふんして戦いに参加させ箱に納められていた物を運びだし良いものは運びいれそれ以外は他の土地で商人に売り渡しており、就任祝いに頼んだことが思った以上に大成功でかなりの貯蓄が出来たが良いものは300もあり館の部屋を圧迫している。
「独り身だし気にしないから、本当に良いものは倉へそれ以外は高値で商人に売ってね」
そう菊地に伝え半分は道の整備と治水や倉の増設を行い残ったお金は堺へ送った。
秋になり収穫が始まる。
苗同士を離したお陰で植える量は少ないが苗からとれる米の量は比べ物にならなほどで見回ると皆驚いて収穫をしており豊作以上のとれだかだった。
誤魔化そうとするものもいたがおおむねきちっと納めてきており4対3対3だが実質は4対3対8であり5割増しのとれ高で増設した倉に納めきれなかった。
豊作のお祭りを行っていると評定が開かれることとなり躑躅ヶ崎へ顔を出す。
「予定通り諏訪から佐久へ出兵する」
大勝により周辺豪族の勢力が弱まり村上になびいた佐久を配下におさめるための出兵となる。
士気は旺盛のまま諏訪経由で佐久にはいる。塩尻での大敗は多くの家臣や主人を亡くしているため抵抗はするものの次々と落として半月ほどで吸収してしまいそのまま小笠原の本拠地である林城の手前にある小城に到着すると、
「ここを小笠原の抑えとする。典厩よ勘助と共に城を建て直せ」
前の領主は戦死して跡継ぎがいなかったため空き家となっている城を前線基地として整備を任せると甲斐へと戻った。
河原で長老から周辺諸国の話と金山のとれた量の報告をもらう、
「北条も大変だ、農民が田畑を捨てて逃げ出してるって話本当なら」
河越で勝利したはずの氏康だが何かをミスして領民が多数逃げ出したと聞き流民をこちらに誘導してくれるように頼む、
「信龍様は忙しいですな、我らもお手伝いしますので」
そう言ってもらい感謝をしながら各地の情報を聞いて過ごし菊地に指示して領内の整備に努めた。
翌年、去年は義元が年末に三河を平定したと知らせを受けあと10年かと考える。
義元が亡くなればこれから結ぶ三国同盟も瓦解するがその前に川中島もあるしと考えながら年賀の挨拶を躑躅ヶ崎で兄上に行う。
太郎の元服も行われることになる、
「小虎、元服では先を越されたが嫁は先に貰うぞ」
元服すると義信となる太郎がやって来て胸を張る。
「もう少し独身でいたいからな、領地をもらってやることが多すぎて」
「ふん、負け惜しみか母上も楽しみにされているからな楽しみだ」
「ひとつだけ、他国の姫との結婚はその国との仲が悪くなれば離別される。必要以上の情を持つな太郎」
「お互いが争わぬようにするのが我らの婚姻ではないか」
「平和ならそれもいいが親子とて油断のならない世の中、三条の方様を悲しませぬ真似はするなよ」
「おう」
伝えたものの情にあつい太郎が兄上との問題を起こしてしまうのを悲しみながら御祝いに戦利品で一番良い太刀を送った。
元服が無事すむと兄上に呼ばれる。
「信龍、名代として京へ将軍家へ赴いてくれ」
唐突に言われたが京の状況も直に見たいので了承する。
書状や贈り物などを準備すると当然の様に河原の民である杜代と野呂が案内を買う、
「小虎様が虎になった、嬉しくてよう」
野呂が泣くので、
「だから残念なことに野呂の背中には乗らなくても京へは行けるぞ」
そう言うと残念がり杜代が、
「成長されたのだから喜ばなければな」
そう言うと馬を先導してくれ向かう、駿河を経由して東海道を進むが義元は不在で太原雪斎に始めて会うことになり長慶寺を訪問する。
五十も過ぎた落ち着いた様子の僧侶であり、実質今川がここまで大きくなれたのも太原雪斎の力と言っても間違いない亡くなった後桶狭間が起きたのだから、そんなことを考えながら、
「お初にお目にかかります。一条信龍と申します」
雪斎は感情を表に出さずにたんたんとした表情で、
「噂は聞いておる。執政の太原雪斎と申す。今回は公方(将軍)様に名代として向かわれるとかご苦労なこと」
「それもありますが姉上(義元の妻、定恵院)の様態もかなり悪いと」
「そうか、もしもの時は長子である義信様に義元様の娘をと考えております」
これが義信を苦難の道に送る原因なのだが反対する根拠もないので頷く、
「信龍殿は気になることでもありますかな」
「雪斎殿の健康です」
少しだけ眉をあげ、
「私の健康とはどの様なことでしょうかな」
「今川は雪斎殿で成り立っていると私も思いますし、勘助も常々雪斎殿が亡くなれば侮る敵に倒されるともうしております」
「山本勘助か、親戚なのだがあの姿で義元殿によういられず武田に仕官して安心しておったのだが、その様な評価をしたのか」
その言葉と裏腹に平然としており、
「しかし敵と言っても北条か尾張の織田だが」
「うつけと呼ばれた者もおります」
少しだけ思い出し笑いをする雪斎が、
「人の評価は正しいとは限らんと言う事だな、しかしそれを言って警戒させれば」
「そうならないのが義元殿かと、生きておられる間だけですな」
そう言いきると笑いだし、
「死んでからの心配をしても始まらぬと言う事、何れは誰も死ぬからな」
そう言って会談が終わり東海道を進んだ。
「いつかの小僧、久しぶりだな元気にしてるか」
振り向くと相変わらずの出で立ちに笑顔がこぼれ、
「大うつけとはよく呼ばれたもの、平手殿の苦労が忍ばれる」
信長でありこの頃の姿は懐かしく嬉しくなる。
「じいも気苦労が耐えないが何しに来た」
相変わらずのぶっきらぼうに、
「将軍への御目見えです。ところで御父上が体調を崩されているとお聞きしましたが」
横を向いて信長は、
「だからどうした、お前には関係ないだろう」
「今亡くなられたら評判しか鵜呑みにしない家臣が何をするか心配です」
少しだけこちらを見て、
「どうにでもなる。しかし優しいなお前は身内以上に」
そう言われて動揺しながら、
「そうだ、戦いの戦利品ですがこの大脇差あげます」
そう言って腰につけていた物を差し出すと礼を言いながら、
「お返しに干し柿だ」
そう言って荒縄でぶら下げていたものを渡してくれ礼を言った。
「またこいよ」
そう言って別れる。来年には織田を継ぎ弟を倒し義元を倒すそんな修羅場をへとも思わないのだろうと思いながら京へ向かった。
「甲斐の武田か、ようきたな」
足利第13代将軍である義輝に目通りかなう、しかし京ではなく朽木谷であり三好に京を追われてここにいる。
私より少し年上であり少し前に父親である先代将軍を亡くしている。
剣だけに生きればだが将軍と言う物に取りつかれしがみついている覇気だけはある青年に挨拶をする。
「甲斐国主である武田晴信が弟一条信龍にございます。将軍様におきましては逆賊に京を追われていると聞きささやかですが進物をお受け取りいただければ幸せに存じます」
型通りの挨拶をしながら進物に飛び付くかと思ったがそうではなく頷き、
「武田も早く上洛をして幕府の一翼を担ってくれ」
「はい、北条もおり信濃では村上が我らの事を虎視眈々と狙っているのでもうしばらくはかかります。申し訳ありません」
幕府が追いやられたときと腹黒く考えながら茶を頂き太郎に一字頂き義信と偏偉を頂き京を経由して堺に到着した。
左大臣三条にもご機嫌伺いをすると公家から呼ばれたが一週間で堺に向かった。
「お元気そうですな、鉄砲も生産が徐々に上がり始め専門の工房を持つ商家も生まれました」
津田や利休が出迎えてくれ近畿や西国の話をして投資の利回りの話をする。
大友が肥後を占領したとかポルトガルと言う船が着いたと言うことなど色々話をしてくれる。
情報は金と一番自覚しているのは商人であり、今の話も知らせても問題ない物だけを積極的に教えてくれる様で重要なのは秘匿するのも商売と言うもの、
「私なりに鉄砲を改良したのですが見ますか」
そう言うと目を細目て頷くので前においた。
「いりいろ説明したとおりですが一番の改良は火薬をいれる皿に蓋をつけ雨が降っても濡れにくいということです」
「これは金になる話ですが我々によろしいのですかな」
そう言われて、
「貸しと言うかお願いがあります」
頷くので、
「鎧兜をいくつか運び込みました。これを1年に1度堺の技術で改良していただき送ってもらえれば」
怪訝な顔をするので、
「大将たるもの派手で家臣の戦意向上になるならと歌舞伎者です」
いたずらそうに笑うと同意してくれ茶会を開いて送り出してくれた。
京を通りすぎ観音寺経由で寒くなってきている北陸を進む、
小谷城下をぬけて越前へ入る手前敦賀で白髪の武将に呼び止められた。
「すまないがどなたかな」
厳しい顔だが優しく聞いてくる。
「甲斐武田家家臣、一条信龍ともうします。将軍に御目通りした帰りにございます」
そう言うと老人はうなずき、
「それはご苦労様、金ヶ崎城主朝倉宗滴と申す」
宗滴と言えば朝倉のなかでも良将と言われた武将で本来はあの義景の父でなく宗滴が継ぐはずだったのだが、
「朝倉宗滴殿ですか、お噂は聞いております。朝倉は宗滴殿で保たれていると」
そう言うと苦笑しながら、
「いえいえ、私は朝倉の一将でしかありませぬ、しかし私の噂話など何処で聞かれたのですかな」
歴史の本とは言えず、
「京の左大臣三条殿が兄の義理の父でありその時に出入りしていた公家から聞いたのです」
宗滴は少し考え、
「と言うことは国主の弟ぎみか失礼した」
そう言うと頭を下げてくるのでこちらも一礼して、
「気になされないでください、若輩者ですから」
「色々京などの話も聞きたいので今宵の宿を提供したいのだが」
そう言ってくれ了承すると金ヶ崎城へと入った。
「港を見下ろす景色のよい城ですね」
敦賀の港が眼下に広がり京への交通路として栄えており人々が行き交っている。
「北陸そして奥州の海路の要所だから朝倉の重要な拠点となっており、もし城を取られれば」
目を細める宗滴、
「失礼ながら義為(朝倉義景)殿は将軍の覚えめでたいですが政治と軍事は宗滴殿が行っておられるようですが今川の太原殿と同じで亡くなられたときの反動が大きいのではと考えておりますが」
「今川の黒幕と言われた男と同じ評価をしてもらえるのは光栄だ、しかし今川と違い一族が結束しているのでな心配はしておらぬ」
「そうですか、宗滴殿がおられる限りは朝倉家も安泰ということですね」
そう言いながら紹介状を書いてもらい義為に会うことにした。
「小京都と自慢するだけはあるな」
灰塵に帰した状態しか記憶にないので多数の人々が行き交う町並みに頷く、
「すごいですね京から逃げてくる人が多いとはいえ公家もちらほら見えますし」
杜代が驚きながら店頭に並べられた品物を見る。
「野心がなければここで満足してしまうのも頷けるよな」
そう言いながら朝倉の館に入った。
「その方が武田の弟か」
義為の言い方に少し苛ついたので、
「一条近衛少将信龍ともうします。宗滴殿に補佐をされている義為殿ですね、お初にお目にかかります」
そう言うと立ち上がり睨み付け、
「義為愚弄するか、近衛少将などと自称していつだけであろう」
怒鳴り付けてくるので、
「しつけの悪い犬に吠えられればそうなります。ちなみに内裏には拝謁済みです」
そう言うと面白くないのか座り横を向いてしまい、
「なにようか」
「特には小京都を見に来ただけのことにございます」
そう言うと立ち上がり出ていってしまった。
覇気もあるが短慮で判断力がないなと思いながら追い出されるように出ると北上する。
「ここからは一向衆の国ですよ、任せておいてください」
杜代が言い、
「上無しですからね行動には気をつけてください、信龍様ならそんなことはないでしょうけど」
そう言いながら加賀に入ると寺の一向衆の坊主が指示を出しており、勝手に決めていく坊主に農民の反感はたまっているように見える。
不穏な現状を感じつつ越中を経由して越後に入ると武田が村上に砥石城で破れたと聞き、砥石崩れが起きたかと驚きながら春日山に入ると景虎に会ってみたかったが、小笠原を林城から追い落とし村上と戦っていたのであきらめて躑躅ヶ崎へ帰還した。
「信龍ご苦労、聞いておるか」
兄上は疲れた顔でおり私の他には勘助がいるのみ、
「相変わらず家臣の統制が取れていないと言うことですか」
「申し訳ありませぬ、晴信様の指示により撤退を開始したものの統制が取れず各個に行動を開始したところで村上勢に攻撃を受け被害は1000人を数えます」
「村上が高梨と和議を結び駆けつけてきて急ぎだがまにあわなかった」
兄上もだが勘助も今回のことではかなりの精神的にやられており穏健派の横田が亡くなったのもかなりきつい、
「兄上、一つお願いが」
私が言うと頷く、
「譜代もありましょうが新興の勘助もですが真田をお使いください、砥石は地元であり血族も入っていましょう。驚くほど簡単に落とすこともできましょう」
「それは家臣が武功をあげられないと言ってくるのが目に見えている。勘助どう思うか」
兄上は勘助にふると、
「一つ考えがあります。信龍様を主将に真田を副将として砥石へ向かわせるのです。与力を加えて2000もあれば十分かと」
「信龍に憎まれ役になれと申すか」
兄上が危惧するので、
「兄上構いませぬ、砥石が落とせればよいですし、新参者が武功をたてれば次回も使いやすくはなるでしょう」
「しかし信龍お前はどうする」
少し考え、
「私は兄上と出陣の時は基本的に手柄をたてられない後陣にすれば反論を押さえられるかと」
「日陰者になるというか、すまぬ」
そう言ってくれ真田を呼び出した。
「信龍様何用でしょうか」
真田がやって来て座る。
私は茶をたてながら、
「砥石のこと、調略の手はずはあるか」
そう言うと驚きながら、
「矢沢綱頼、我が弟で侍大将をしております。しかし重臣が了承しますか」
功を取られてはならんと真田の意見を潰しておりそれを心配してくるので、
「信濃先方衆と私の兵そして兄上の与力のみの出陣」
それだけ言うと顔が明るくなり、
「それは本当でしょうな、なればすぐに連絡を取り合いましょう」
そう言って出ていく、攻めるのは雪が溶ける春先であり兄上にも後積めを頼むと幸綱の返事を待つことにした。
翌年、
「諏訪は典厩が押さえておるが佐久は昨年の事もあり不安定である。そこで信龍を主将で信濃先方衆をつけて佐久の押さえに向かえ、無理には攻めるなよ」
牽制の為と聞いて重臣や家臣も異論を唱えず決まる。評定後も私に入れ替わり釘をさしにきて、
「軽々しく戦って砥石城を落とそうとは考えないように信龍様」
「村上は狡猾な輩、陣を固め誘いに乗らぬように」
「真田は新参者、注意してくだされ」
「信濃先方は何時寝返るかもしれませぬ寝首をかかれないように頼みますぞ」
そう言われて送り出された。
「失敗はできませぬ」
決意を言葉に出す幸綱に、
「失敗すれば私が笑われるだけ、心配するな自信をもて」
そう言って励ましながら佐久へと到着して陣をしいた。
「さて、先ず味方を騙して敵を油断させないとな」
幸綱に兄上の与力はここで守らせ、寝静まった頃に出発して奇襲をかける。
信頼できるのは信濃先方衆の一部と私の直属の部下と兄上にお願いした馬場と内藤のみ800ほどで動き始めた。
砥石とはよく言った城で2面は砥石のような石がそそりたち、ここを去年上ろうとした武田は上から石やお湯などを上から落とされひどい損害を受けている。
幸綱の案内で砥石城下に到着すると合図を送った。
静かに時間だけが過ぎ内藤が焦り始める。馬場は私を信頼しているのか静かに待っていると喚声があがり城門が開かれた。
「突入せよ、中の味方が城門を開いてくれたぞ」
そう叫び幸綱と共に走り始め城内へ突入する。
村上勢は混乱しており、逃がすための搦め手から次々と脱出をするか逃げ出しており太陽があがる前に決着をつけた。
「幸綱、城の焼けた部分の補修を始めよ、村上が出てくる前に」
奇襲と言っても焼けた部分があり急がせる。
「内藤、備中(小山田)に内山城へ後詰に入るように頼んでくれ」
与力の大将である小山田に頼み村上へ備えた。
「村上勢5000がこちらに向かってきます」
未だ全ての修理は終わってないが何とかなるところまでは終わらせており午後に現れた敵に幸綱に指揮を任せた。
こちらの修繕の状況に村上勢も手出しができないようでそのまま夜に、夜襲があるかと夜を徹して守ったが攻撃もなく次の日には撤退を開始した。
「追撃をなさいますか」
幸綱にいちを聞かれたものの当初の目的は完了したし村上勢は乱れも少なく戻っていくので矢沢に任せると躑躅ヶ崎へ幸綱と共に戻った。
「信龍そして幸綱よ見事であった」
兄上が大いに誉めてくれ家臣達はしてやられたと言う顔をしている。
「私は何もしておりませぬ、幸綱がすべてお膳立てをしていただけたので」
「幸綱の功は主将たる信龍の功でもある。領地の加増をする」
真田にも旧領の一部回復を諏訪の領地と共に言い渡した。
「しかし真田が1日で落とすとは」
難攻不落と言われた砥石城をわずか1日で落としたと言うことに古くからの家臣は驚いておりこの件では黙っている。
これで譜代の家臣を押さえられればと甘い考えをするが、筋金入りなので諦め自分の新しい領地のことを考え始めていると駒井が顔を出して、
「実は穴山殿から早川上流の金山帰属の申し入れをしてきたのです」
穴山の領地に隣り合ってるとはいえ兄上に正式に許可をもらっているので家臣に書類を取りに行かせ穴山との話し合いをすることになった。
「あの土地は我らの物であり信龍殿とはいえ勝手に掘るとはいかがお考えか」
そう言われて父信虎の時代に戦い穴山が負け取られた領地と言うことを文章として出すも、
「武田家から妻(信虎二女)をめとったときに返してもらっている」
そう強固に言う、話し合いは平行線をたどりもう一度場所をもうけると言うことで終わる。
後日兄上に呼び出され、
「信龍すまないが金山を穴山に渡してくれ」
そう言われて勘助しかいないので、
「兄上は武田の棟梁ではありませぬか、言われたことについて従いますがバラバラの家臣を何とかできないのでしょうか」
兄上も疲れた顔で、
「わかっておる。負け戦はこちらの命令に従わない者達が勝手に動いたことだが」
黙りこんでしまう。
「元々晴信様は家臣に担がれ当主についたのでございます。排除するのは難しいかと」
勘助が言いさらに、
「利で釣るしかないとお伝えしたのです。具体的には新しい領地は家臣に与え、感状や褒美は戦いの即日に与えるなどということです」
勝ち続けるなら良いが負けたときにどうするのかそう思いながら、
「例えば躑躅ヶ崎から本拠地を諏訪に移し家臣にも集住させ命令は絶対と言うことをわからせればよろしいのでは、従わなければ火をかけるぐらいの苛烈さで」
勘助は少し考え、
「恐怖で人を従わせればいつかは謀反を起こされましょう」
「それは利でも負けたときに勝てない勢力が現れれば瓦解するのではないのか勘助」
「そうですがその為に外に家臣の領地を与え守らせようとすれば良いのではと」
お互いの話を聞いて兄上は、
「勘助に任せておる。信龍の言うことも一理あるが甲斐そして武田の現状を考慮したならばそれが良いと思う」
確かに甲斐は尾張と違い貧しい比べようもないくらい、なればこそ勘助の利と言うものにあっているという気もするが兄上を絶対君主として行動できればもっと違った物が見えるのではと思ったがいちれいして、
「兄上、勘助言い過ぎました申し訳ありません」
そう言うと兄上は笑い、
「気にするな私を思ってのことだろうからな、信龍の熱くなるのも見ものであったな勘助」
そういわれ私は顔を真っ赤にしてしまうと勘助が、
「絶対は無いですからいずれ次の世代に、そう義信様に代替わりすれば家臣との新たな関係が生まれるやも知れませぬ」
そう言われて頷いた。
「来年の夏に引き渡すということですな」
兄上から言われたので引き渡すことにしたが来年まで待ってほしいと言い、穴山に兄上から了承させる。
金口を呼び出し、
「すまないが来年の夏でいくつかの金山を引き渡す。ついてはそこに人を集中させ取れるだけ取り渡さなくてもよい金山に運ばせてくれ、今とれている金で必要な経費を落としてもよいから」
そう言うと河原の民に頼み冬場も掘りましょうと約束してくれたので、
「夏には坑道は埋め戻し排水用のも、建物などの施設も移設をしてきれいにしてくれ」
そう言うと面白そうに頷いて河原の長老と話すために戻っていった。
河原の長老と話し合いを行い頼むと最後に、
「去年一昨年と北条では飢饉で民が離反して苦慮していましたが甲斐も今年、来年もさらにひどい飢饉になるのではと他の長老と危惧しております」
確かに小氷河期だったよなと思いながら食料を確保しないと、ジャガイモがあればなと考えたが無いものを考えてもしょうがないと考え長老に堺への書状を渡してくれと頼む、内容は預けている金を担保に南から食糧を買い占めてほしいと、損する気はなくそれを近畿や甲斐信濃に高値で切り抜けるようにと頼んだ、
「甲斐は堺から離れすぎてるから身軽に出来ないんだよな白髪が増えそう」
そう言うと長老は笑いながら、
「苦労が耐えませぬな、我々は自分達が消費する分だけ確保できればですから金儲けをしようとすれば白髪にもなりますな」
そう言われて確かにそうだなと思いながら不作になった田畑を見つめることになった。
「去年よりも更にひどいな今年は」
秋も終わり本来なら出稼ぎという主旨の強奪戦争は砥石崩れで損害が大きかったので中止となり、不作の自領で各将は年貢を搾り取ろうとしており農民が土地を捨て逃げてしまっており隣国の北条が農民の徳政令と税の軽減を打ち出しそちらへと逃げる民が多かった。
他国との境に隣接している穴山や小山田は関所をもうけて逃げる農民を捕まえては奴隷として売り払っているようで下品な顔で笑っている。
年貢の代わりにと甲州法度を破り勝手に関をもうけて金を稼ぐ者もおり兄上が苦慮している。
自分の領地では不作で私に入る分は殆ど無く食糧を調達して良かったと思いながら、必要以上に取り立てようとする配下の者に過剰分をきっちり取り立て、代わりに農民へ戻したりした。
商人が私の所ではそこそこ食糧を持っていると聞きつけ配下の年貢を高値で買い取り転売している。
あまりの高値に自分達が食べる分まで転売しており来年の分はどうするんだと思いながら駿河の商家の倉に運びいれた。
この年の冬は雪深く鉄砲をかついで猟を行ったがたいして収穫はなかった。
春になり夏になる。本来は盆地で蒸し暑いはずだが涼しく過ごしやすいが逆に作物は育たず大飢饉の予感がしている。
そんな最中に村上が圧力を強めた武田に対抗できずに葛尾城を放棄して越後の長尾景虎に助けを求めここに龍虎が初めて相撃つ事になり興奮が止まらない、
兄上は近習のみで出立して慌てて家臣団が追いかけていく状況であり兄上の気合いが皆に伝染しているようだった。
「長尾勢、善光寺から松代を抜け地蔵峠を越えてくるもよう」
お使い番であるムカデの旗をはためかせ報告に来る。
上田に集結した武田に緊張が走り、小山田を先鋒に兄典厩や板垣そして甘利が指示通りに峠からおりてくる長尾勢を三方向から押し包むように展開しており姿を待った。
「長尾勢にございます」
良いタイミングで現れ本陣の者は勝利を確信する。
おりてきて我らを発見した長尾勢はあわてて兵を展開させようとしたが場所がなく焦っている。
初戦は一方的かと見ていると小山田勢が動き始めた。
「左兵尉は何をしておるか」
思わず兄上が言い勘助が、
「勝利を自らで勝ち取りたかったのでしょう、いかがなさいますか」
小山田に釣られて兄典厩以外があわてて進み出て統率がとれず混乱をする。
そこを長尾勢が襲いかかり混乱に拍車がかかる。
「典厩へ混乱している小山田の側面を駆け抜け峠道に楔を打ち込め」
ここで勢いを押さえなければ押しきられると言う局面で命令を下していたが、
「本隊が出現したようです」
私が毘沙門天の旗を見つけそう言うと崩壊が進み兄上は撤退の指示を出した。
「撤退させよ、葛尾城を放棄する」
そう言うと急ぎ馬乗り移動を開始する。
「急いで引け」
次々と撤退を開始して初の戦いは武田の惨敗で終わった。