京と父上
大井を攻め滅ぼした翌年は諏訪頼継との戦いに備えて謀略を行っており一気に決着をつける算段らしく勘助や板垣が動いており、前年の水害で田畑や道がひどい状態なのもあり兄上は積極的に勘助と動いていた。
「小虎、乗れてきたと言っても体が追い付いていないようだな」
時々ついていくが体は同年代の太郎よりも大きいがまだ5才であり馬に乗るのも紐を伝って上に上がらなければならず小太刀も大太刀並みの大きさ、
「すくすく育ちます、はやく色々な物を見てみたいです」
「それと金山は産出量が大したことがないので正式に任せる」
そう言われようやく自由な金が出きると嬉しくなり、
「ありがとうございます。兄上の力になれるようにがんばります」
そう言って改修が終わったばかりの上原城へ到着した。
「親方様お待ちしておりました」
城主である板垣が出迎え勘助が途中からだが手を加えた城を見て回る。
特徴的な作り方で色々と話をしながら歩き回り広間に入った。
「信方そして勘助よくやった。まだまだ改善の余地はあるが何れ要所の守りで城が必要になろうそのときは頼むぞ」
そう言ってねぎらい、
「周囲の豪族もこちらに助勢するとしてきた。信方頼むぞ」
周辺の土地を確認して甲斐へと戻った。
久しぶりに河原に行くと金口が待っており報告をしてくる。
「指示された周辺を試掘しましたところもう一ヶ所同じような量で産出しましたので宜しいでしょうか」
そう言いながら不純物を取り除いた金を渡してくれた。
「結構な量だね、3ヶ月分位か」
本来はここから必要経費を引いた分なので半分以下だが技術を他の一族に教えると言うことで負担してもらっているので多い、
「これを元手に堺の天王寺屋の主津田に投資を頼みたいけど宗久でなく先代かな、何とか堺に行きたい」
そう言うと長老がお礼をかねて堺までのお手伝いをしましょうかと聞いてくれたので喜びながら躑躅ヶ崎に戻った。
「小虎、その方いくつだ」
甘い兄上が許してくれると思って書斎に飛び込み話をすると呆れたように言われる。
「数え年6になりました」
頭に手を当てて、
「我が子太郎も強がってはいるが未だ母親が恋しい、それが当たり前なのだが小虎お前は気にもせず一人で突っ走る」
そう言われて成人したつもりで動きまわっていると言うのを気がつかされうなだれる。
「らしいといえばらしい、よし三条の代わりに三条西公頼にご機嫌伺いをしてまいれ、その年なら公式でなくてもよかろう」
そう言うと三条の方をお呼びになり話をする。
「小虎が私の代わりにお御父上様に会いに行ってくださると、ありがとう」
いつもの優しい三条の方は深く頭を下げてくれ私も頭を床につけ、
「太郎の事も含めて話をしてきます」
そう言って準備を始めた。
河原の長老に躑躅ヶ崎に着てもらい兄上が話をして金子や贈り物を引き渡し、護衛に誰を連れていくかと言う話になったが頼継との戦いがあるため断り甘利を心配させる。
「お前でも心配だとはな、面白い」
普段笑わない飯富がそれを見て大笑いして餞別をくれ出発した。
河原の民で杜代と言う名の男が先頭に立ち野呂と言う明るくいつも笑ってる男が私を背負い、他数人が荷物を担いでついてくる。諏訪から美濃へと抜け、寝るところは河原だが民がおり出迎えてくれ食事を食べさせてくれる。
これだけのネットワークに驚きながら久しぶりに見る琵琶湖を見つめた。
「湖畔を渡れば京だ、今晩はここでゆっくりして明日入ることになります」
杜代が説明してくれ私はすぐ近くの観音寺の楽市を見てみたくなり連れていってもらう、
「真似したくなるような規模だよな、甲斐もしてみればといいたいけど利権で無理かな」
町は賑わっており後年信長が導入したのも頷ける規模であり、自分も領地が持てたらしたいが周りの領主が許さないだろうなと保守的な武田にため息を覚えながら堺で高く取引されそうな物を大人買いで買い叩きながら河原へ戻った。
「しかし道中といいかなり買われましたな」
野呂が呆れながら美濃で油や針を購入した私の小山の荷物を見上げる。
「お金がほしいからね、安いところで購入して欲しいところで売り抜く、多目に買って値引かせる商売の基本だよ」
自分で自画自賛していると、
「商人だったのですか、納得しました」
そう杜代がいい笑うと、
「堺でいかがなされるのですか」
野呂が聞くので、
「貿易をしている豪商に投資してお金を増やす、それとこれから産出された金も同じようにしていくので野呂覚えておいてね」
「と言うことは毎年堺までと言うことですか」
驚きとこの遠さに顔をひきつらせるので、
「無論途中で特産品を購入して京などで売るように、越後の布でもいいな」
そう言うと絶望した顔で、
「尻の毛まで抜かれます」
そう言って杜代に慰められてた。
翌日数隻の船で湖面を渡る。
涼しく景色を眺めながら楽しんでいるとやな臭いが徐々にしてきており、京側に到着するとさらにひどかった。
「三条様に引き渡す物だけ持っていきます。それ以外は指定があればお届けします」
物騒な状況であり預かってくれると言うので頼むと京へ向かった。
「ひどいな焼け野原に近いな」
京の都は応仁の乱で荒れ果てており亡くなった人も打ち捨てられており臭いもきつい、三条様も今は寺に仮住まいしており挨拶に出向いた。
「そうかそうか甲斐からわざわざそんな幼子がよく来てくれた」
左大臣である三条も他の公家と同じで疲れた様子だが喜んで迎えてくれる。
「武田晴信が弟小虎にございます。三条の方の名代として挨拶に参りました」
そう言いながら武田からの贈り物の目録を読み上げ渡すと喜ぶ、
「日々の暮らしも困っていたところ助かるぞ、京では品物を買いたくとも物がなくて困っておる。去年尾張の織田が内裏に寄進されたのだが必要な物が買えずに困っておる」
「購入したいものとは」
「日用品、油や布や針等色々とな」
そう言われて手持ちにあるのが近くに有ると言うと三条は喜びながら内裏へと私を連れていった。
「この幼子がですか」
担当の役人は三条が連れてきた私を見て呆れる。
内裏に向かうときに杜代に頼み購入した代物を届けるように伝え待っていると次々と運び込まれ代金をいただく時に予想以上の値段が提示されたので割り引く、
「これでは儲けはあるまい」
三条が言うので、
「いえいえ内裏のためになら喜んで」
簡単に言えば裏道、山道を通り抜け関所を通過せずここまで来ているので通行料を全く取られてないため必要がないと言うことで覚えめでたく、
「これからも頼みたいのだがなんとかならぬかな」
三条殿に言われ任せてくださいと言い切ってしまった。
「どのくらいの物量になるかはわからないけど三条の方の父上から頼まれれば無下に出来ないからね、運賃は貰っても通行料を取られなければかなり安くなるし窓口は商家に頼むよ」
そう言って川端道喜と言う御用達の商人であり、内裏のために尽くしてくれていると話を聞き紹介状を貰うと出向いた。
「左大臣様から、甲斐からよくこられました」
丁寧な挨拶と共に奥へと通される。
「私も今の現状を憂慮しており何とか希望を叶えたいと思っていますが難しいのです」
内裏が信頼をおいているただ一人の商人であるが、店構えも衣服も質素であり利益をさほど出さずにと言うことであるが正規では必要経費が膨らんでしまう事に頭を悩ませていたので、
「それはこちらも助かります。そちらの必要経費をのせても3割ほどです。距離が長くなればなるほど関所を通過する数も増えっそのたびに税金を取られます。」
早速河原に出向きその一族の長老に話をする。
内裏のためと言えば直ぐに同意してくれ川端と直接話をさせると一番の目的である堺へ稼いだお金と共に向かおうとしていると津田宗及は大徳寺にいると教えてもらい向かう、
禅寺であり京にも影響力がある臨済宗の寺で宗及は禅の修行をしていると言うことだった。
名を名乗り通されとそこは茶室であり若き頃の宗及が座っており、私がこれほど小さいと動揺したようで、
「茶の心得もあります。体は小さいですが」
そう言うと謝罪され茶をたててくれる。
この体では初めての茶であり苦いと思いながらも頂くと、
「何方かから、三条の方からですか」
勝手に推測したので否定せず笑顔で答える。
「天王寺屋の次期当主としてお願いがあります」
「修行の身とは言えどの様な事でしょうか」
そう言われて南蛮との交易の投資をしたい、金は毎年金山からとれる分を送る。これからなのだが紀州の根来寺の僧、津田算長が南蛮からの武器を手に入れたと言う話を聞いたので利益で産み出したお金で支払い甲斐に送ってもらいたいと話す。
投資の話はわかりましたが南蛮の武器とはと聞かれたので、堺でも話は伝わっているはずだと言うと直ぐに堺へ確認の人を走らせた。
「父上には私が紹介状を書きましょう」
書状を貰うと大徳寺を後にした。
「堺、懐かしいなすごく懐かしい、うんうん」
思わず口に出してしまい杜代が変な顔をするのを笑ってごまかす。
天王寺屋に迷わず向かうと店の者に書状を渡した。
「主人がお待ちですこちらへ」
そう言われて通されたのは茶室であり、始めてみる男性が主でありその隣には懐かしい顔がいる。
「甲斐の武田晴信が弟、武田小虎にございます」
挨拶をすると主であるつだが挨拶をして茶をたててくれる。息子から聞いているのか着いた早々であり目利きをされていると思いながら作法にのっとり茶を楽しむ、
「誰から習われましたか」
主から聞かれたが織田信長とそこの千利休とは言えず、
「戦火を避けてこられた都人に習いましたございます。名前は言うことはできませぬが、それと千与四郎殿ですねお会いしたいと思っておりました」
いきなり切り出したが利休は驚かずに、
「なぜ私だと思われましたかな」
そう言われて堺の商人で若者とあげるなら津田殿か千殿と聞いており津田殿とは先日お会いしたのでと答えると、
「なかなか情報に長けておられるようですなその若さで」
そう言うと本題に入る。
「これをすべて預けると言うことでよろしいのですか」
年利は40%を越えるが難破して失敗してもそれ以上の利益が出ると言うことでありお願いをする。
「根来寺の津田算長殿ですか、鉄砲を取り入れたと言う話確かなようですが交渉はこれからだと言うことですな」
ここから出る利益で鉄砲を買いたいし、現状鉄砲は猟銃の扱いで戦いに投入されるのはもう少しあとなので海とも山ともわからぬものに唾をつけておいて優先してあとで送って貰うと言う算段だった。
「それでは証書を取り交わしましょう」
こうして金を増やす算段を終え天王寺屋に一泊すると紀州の根来寺へ向かった。
「なんだ、算長殿に会わせろ、帰れ帰れ」
根来寺に来たのだが門の僧に件もほろろに会わせてくれない、
「武田小虎だ、鉄砲の件で算長殿に会いたいと言ってくれればいいから」
まだちびの私を馬鹿にしながら結局会うこと叶わず海岸に出てきた。
「坊主の頭が固いのはいつの時代も同じか」
杜代は横で苦笑しており、野呂はこの地の仲間と渡りをつけて泊まれる算段をしてくれている。
仕方無しに河原へ移動すると聞いていたその土地の長老に慰められ食事をしていると鉄砲の発砲音が雷のごとく響き渡った。
「最近僧が奇妙な鉄の筒を用いて鳥を落としたりしております。最初の頃は雷が落ちたと大騒ぎしていましたが」
そう言われて野呂を呼ぶと背中に飛び乗り音の元へと走らせた。
「おう、河原の民か驚かせてすまないな」
紀州の川沿いの無理へ入ると僧が数人おりその中の一人は懐かしい顔で思わず、
「師匠ぅ」
と泣き叫んでしまう、前世での師匠だがいまはまだ少しだけ若い津田の師匠であり、私を泣かせたと言う理不尽な物事に慰めてくれ笑って済ませてくれた。
「鉄砲を知っているようだな、なにさわらせてくれだと」
笑顔でいいながら渡してくれる。
「鉄砲だ、ようやくさわれた」
多分はたから見れば危険で逝ってる子供であり体には大きすぎる鉄砲を抱いて何度もうなずいているがそれでも師匠は笑って見守ってくれた。
「鉄砲はほしくて根来寺まで親父に会いに来たけど追い返されただと」
それを聞くと師匠は怒り後でぶっちらばしてやると言ってくれる。
「それでお金を払うので今すぐでなくていいので鉄砲を売ってください、体が小さいのでまだ扱えないですし、いずれいくさで使用したいのです」
師匠は頷きながら、
「そりゃあ構わないけどオジキと同じことを言ってるな、僧兵に一人一丁持たせ武装化しろとしきりに言ってるからな、でも一発放てば次ぎすぐ射てないし命中率も悪いぞ」
「それはなんとでもなります」
そう言うと師匠は目を丸くして河原へ移動した。
色々なものが入った美味しいごった煮をお腹がすいた腹へ美味しく放り込み、師匠は酒をついでもらいながら話を続ける。
「確かに射つのを一人と再装填が二人いれば切れ目なく打てるな、でも火力は3分の1だぜ」
根来寺の僧兵は二千程で繰り返しはできるが数百しか射てず面制圧は難しいと言う、
「確かに、まだ試していないのですが早合が出来れば可能かと」
「早合って、おいおい持ってないのによく色々考えるな」
長老に紙と漆を準備してもらい弾と火薬を師匠から借りて早合を作る。
「後で使う物は小さくしていきます。これが重要なことです」
「そうか、汚れがたまるから装填量を少なくしないと銃身が破裂すると言うことだな」
問題点を的確に洞察していき翌日出来上がった早合で10発程速射して納得してもらった。
「この技術はしばらくは秘匿ということだな、わかった」
師匠は大きく頷きながら最低数年は秘匿しその後も根来寺の砲術の秘とすることを約束してくれ、
「小虎ほらよ、おれのお下がりだが礼だ」
私に身に付けている鉄砲と火薬を渡してくれ、
「何かあれば言ってくれ手を貸すからな」
そう笑いながら送り出してくれた。
紀州を出発して堺へ戻ると津田と利休が待っており茶室に入る。
「無事と言うか一丁手に入れられるとは早いですな」
私の物となった鉄砲を見ながら感心している。
「津田算正殿に話はつけておりますので数年後に購入をお願いします」
「わかりました。私共も繋がりが出来れば商いにも幅が出るので感謝のしようもありませぬ、よろしければ何かお返しをしたいのですが」
借りはつくらないと言うことであり私は、
「元服まで数年先ですがその為の鎧を派手なのをお願いしたいのですが」
「それは目出度い事の品を任していただけるとは、しかし派手というのは」
「与四郎殿なら死を連想させる黒一色と考えるでしょうがそこを曲げて生を連想させる歌舞伎者としての鎧をお願いしたいです」
利休に言うと少しだけ笑うと頷いた。
御見上をそれぞれからと堺衆の連盟でも貰う、情報の礼とこれからもよろしくと言うことで京へと出発した。
京へ入り左大臣の三条へ別れの挨拶をすると今回の川端との件で内裏からお礼として懐剣を頂くために正五位下である近衛少将を頂き内裏の茶会へと呼ばれた。
「これからも頼むぞ」
声をかけていただき並ぶ公家の御歴々の前で好奇心にさらされながら茶をいただく、娘婿の弟繋がりの左大臣三条の面目も保たれる。さらに和歌に呼ばれ才能がさほどない自分なので前世での後年に読んだのを書きながら切り抜け帰る予定を3ヶ月も延ばしてしまう。
そしてここで思わぬ人物と再開をしてしまった。
「小虎ではないか」
京の宿泊は左大臣の仮住まいのお寺に寄せさせてもらっており、その日はたまたま誰からの誘いもなく兄上への手紙を書いて外に出ると呼び止められた。
まさかこんなところでと驚いてふりかえると父信虎が側室と驚きながら見ておりあわてて、
「父上上洛されたのですね」
少し老けたかとも思うが元気そうで憑き物が取れた顔をしている。
「義元の元にいても邪魔だからな思いきって上洛したわ」
そう言いながら強引に掴まれ宿にしている寺に入った。
「晴信は諏訪を降して高遠をも降したかさすが我が息子、しかし村上は手強いからな」
追放されたと言えど家を継ぐ息子を心配しているが、
「小虎言うなよ」
照れ隠しなのかそう言うとこづかいをくれ何をしてるのかと聞かれる。
「三条のお方の父上であります左大臣の三条様へ三条の方の名代として上洛しました」
そう言うと少し厳しい顔をして、
「まだ幼い小虎をいかせたと言うのか」
少しだけ怒った父上にあわてて、
「自ら望んだのです。京や堺を見てみたいと、その名目として兄上が名代として行くことにより今回のことができたのであります」
「そうか、しかし下男しかおらず護衛の家臣は誰が来ておる」
「諏訪との戦いがあるため断り、友人に頼み連れてきて貰っています。道中無事にこなし後は甲斐に戻るだけにございます」
父上は驚きながらも、
「そうか晴信が承知しているならこれ以上はなにも言うまい」
そう言うと私が京では茶会や和歌をたしなみ公家に出入りしているときき、さらに正五位下近衛少将を貰って内裏に参拝したと聞くと驚き、
「近頃幼子が出入りしていたと聞いてはいたが小虎か、そうかそうか」
嬉しそうにしながら夕食の支度が調ったので親子水入らずで食べよく昼に約束のある公家の家に向かった。
父上が8月には駿河へ戻ると言い、それに合わせて帰ることに決め挨拶に回る。自分が言うのも何だが可愛らしい私が甲斐へと帰ると聞くと残ってほしいと言いそれがダメだとせんべつに何かをくれた。
帰国の前夜に天皇の駕籠役をしている大男が訪ねてきて背中に乗ると飛ぶように走り駕籠役達が待機している囲炉裏のある小屋に入るとそこに自らがおられ動きが止まりあわてて思い出したように座ると頭を下げた。
「二人だけだきにせんでええ」
そう言われて恐る恐る顔をあげ優しそうにこちらを見ているのに安心をして薦められるままに囲炉裏の横に座った。
「ほんまの心は残っておらずか、罪深いことよ」
何を言っているか最初はわからずポカンと見ていると、
「3つの事柄が一つの灯火でのようだが押し潰されたり迷ったりはしていないのか」
そう言われてようやくわかり、
「それぞれと自分で思っていますし、亡くなった後になので特には」
「記憶はある。と言うことはずるができると言うことだな」
そう笑うので、
「はい、しかしそれが起こるのを黙ってみて失うのは辛いのです」
「そうか、知られれば自分はどうなると皆聞きたがると思うが」
「知っていたのは私と同じ業を背負った者のみです」
頷きながら、
「しかし変えたものもあるなその様子だと」
「はい、表向きは亡くなりましたが隠れ里で生を全うしてます」
「それはばれなければと考えるが、それが後の時代の事件に繋がるように修正される」
「申し訳ありません」
「気にする事はない、影響はあるが吸収もする。その気持ちがあれば」
そう言って立ち上がり、
「たのむ」
それだけ言うと行ってしまい、座っていた場所に飾りっけのない鞘におさまった太刀が置いてあった。
寺に戻り変えてしまったかもと言う罪の意識は軽くなっているが逆にこの残された太刀が何なのか考えながら翌日左大臣の老体に惜しまれつつ帰国へとついた。
途中品物を買っては売りのこづかい稼ぎをしながらもう一つの目的である尾張に到着した。
「あの悪がきか、河原で石投げ合戦でもしているぞ」
奇抜な行動はわかっていたが領民に聞いて帰ってきた答えに思わず笑みがこぼれる。
野呂に背負ってもらい河原にいくと子供たちがふたてに別れて模擬戦を行っており懐かしい顔も見える。
土手に座り込み見ているとやはり指揮と戦術の違いで一方的になり終わった。
「お前は誰だ」
柿にかぶりつきながら少年がやって来る
「小虎だ、お前こそ誰だ」
わかってはいるが聞き返す、
「吉法師だ、それはなんだ」
野呂が担いでいる鉄砲を指差してくるので手に取って見せる。
「鉄砲だ、南蛮からのをようやくてに入れたんだ」
誇らしげに言うと野呂に火薬と弾を装填させ空にゆっくりと飛んでいる鴨を狙わせた。
轟音と共に鴨が落ちてきて、後ろにいた子供達は雷が落ちたと悲鳴をあげて逃げ惑う。
「筒から火をふいて離れた物に当てるとは」
子分に鴨を取ってこさせ火を準備させると中からひしゃげた鉛の弾を取り出し、
「これが正体か、どうしたらこうなる」
そう言って聞いてくるので火薬を説明して簡単な構造を説明する。
「これなら弱い者でも強い者を圧倒できそうだな、何処で手に入る」
「手に入るのはまだ先だとおもいます。製造のしかたもこれからですし金額もこのくらいかと」
そう言うとあまりの高額におどろくので、
「大量に生産され始めれば安くなると思いますけど、私達が元服してしばらくしないとかもですね」
「そうか、おれが大人になったらこれで戦いを変えてやる」
そう言いながら焼き上がった鴨肉をほおばりもう一つも食えとつきだしてきたので食べた。
「名古屋城主織田信秀が長子吉法師」
「甲斐国主武田晴信が弟小虎」
そう言うと気にせず、
「これからもなんか面白いのがあれば教えてくれ、じゃあな」
そう言うと取り巻きと共に行ってしまった。
そのまま東海道を父信虎と下りながら今川領を抜けると駿府に到着する。
「信虎殿のご子息か、京では噂になっている稚児はお前か」
信虎が珍しく旅の疲れから風邪を引き私だけ義元の城代である関口親永に挨拶をする。侮った言い方をしておりさらに、
「北条との戦いにその方の兄上も出陣したようだが当てにはできぬな」
自分達が北条から領土を取り返せないのにこの言いぐさと思いながら、
「それでは、もし北条との話し合いがつき河東を取り戻せたら関口殿に何か頂きたいですな」
「小僧の分際で言い切るとは、わかったもし取り戻せれば望みのものをやろう、もししくじればわかっておるな」
「首でも差し上げましょう」
そう言って誓紙を取り交わすと兄上がいる吉原城へと野呂を走らせた。
「立派になって帰ってきたようだな小虎」
兄上は上機嫌で迎えてくれる。
「お元気そうで、兄上早速ですが私を北条幻庵の元に出向くことをお許しください」
兄私のいきなりの提案に苦笑しながら、
「めざとい小虎が何を考える」
「ひとつは義元に恩を返し恩にきせる。氏康にも同じで我らは信濃を取る」
「そして小虎も幸せになるか」
そう言われて笑いながら、
「関口殿とこのように約束をしました」
「義元の一族のか、侮ったな」
そう言って大笑いして名代として飯富と共に送り出してくれた。
「武田小虎殿か、使者ご苦労」
坊主姿の幻庵が広間で迎えてくれる。
「会っていただきありがとうございます。つきましては河東の返還と和睦をお願いしたいです」
率直に言うと優しく幻庵が、
「誰かのいれ知恵でも無さそうだが、それでは北条としての利は無いのだが」
「それではこの話終わりにすれば川越の北条氏綱か北条幻庵いずれかを無くし今川や関東管令の何れにも利となるだけですね」
そう言うと幻庵が大笑いして、
「失礼しました。今川との事を武田にお任せします」
「ありがとうございます。北条は関東を、武田は信濃を、今川は三河を取れれば良いですね、三国同盟なんかがかなえばですね」
お互い書状の裏付けを書いて送った。
兄上に報告すると義元の元へ出向いてくれ北条の河東を今川に割譲すると言う話で決着がつき兵を引くことになった。
「その方が小虎か、誰が結ぶと申した」
関口の口の悪さがその上からと言うのもわかる。
「なんの事でしょう。子供のした事に目くじらをたてられるのですか」
大の大人が子供に言うのははたからみても大人げないと見えるが、
「子供と申すなら大人のしていることにしゃしゃり出るとは笑止」
「子供と武田が出てこなければこうもよい話にはなってないでしょう今川殿」
「我らだけでは無理と言うか」
「氏綱殿が亡くなって喜んでおられたようですが氏康殿にも遅れをとり援軍を求められた」
「小虎」
兄上が言う、
「義父(信虎)と言い晴信殿といい虎は虎か」
そう言うと大笑いする義元に、
「関口殿とかけをしたのですが停戦となり河東を取り戻せるかで」
そう言って誓紙を渡すと、
「ものの見事にやられたわけか、よかろうこの太刀をやろう」
そう言うと手元にあった豪華な作りの太刀を貰った。
「兼光、良いものを貰ったな」
柄を分解して見てみると名工の作とわかり喜ぶ、
「河東を取り返した褒美で一国兼光とします」
まだ体に対して大きすぎるのでと、床の間において朝晩見てにやついて兄上に呆れられる。
お金に絡んだものをと考えていたのでうれしく飾った。
躑躅ヶ崎に戻ると兄上が家臣を集め、
「前から話していたとおり諏訪の忘れ形見を迎えようと思う」
そう言うと諏訪に領地をもっている家臣は反対を行い絶対的な力を持っていない兄上は黙り混んでしまう。
「皆様は反対のようですが諏訪ひいては信濃を取ったときにご子息が諏訪の血を引いておれば民も落ち着くとこと思いますが」
勘助が兄上に賛成をするが他のものは寝首をかかれるなど言いたい放題でありあまりにも腹が立ち、
「兄上が寝首をかかれるならその程度と言うことです。あなた方の領地も諏訪が安定すれば北信濃にも貰えるのですから安心してください」
そう言うと家臣は乱暴な言い方に抗議してくるので、
「その程度ではないと言っているのです。どうなんでしょうか」
よい言い方ではないがこの際子供である私が強く言い分には角がたたないと思い言ってしまう。
「あまり言うでない、皆の意見も有ろうが諏訪を安定させることが武田の安定にもつながる」
そう言って決めることができた。
前から思うに武田の結束は歴史の本ほどに強くもなく織田の侵攻で瓦解したのも頷ける。勘助が来てくれたお陰で多少は風通しが良くなったがまだ全然と私は思う、
「家臣の不満を押さえるには戦い続けることでしょう」
勘助の言うことはもっともなことで、まとまらなければ外敵をつくればまとまると言うことだがこれも滅んだ原因と思うが兄上の態度に不満はあるが当主が決めたことに従うしかなかった。