海
その年の冬、
「信春(馬場)は信龍と共に先鋒で駿河へ攻めこめ、駿府の今川屋敷を押さえよ」
信玄の号令と共に駿河へと侵攻を謀る。
「信春何をうかない顔をしている。薩埵峠にこもられたら面倒だが半数以上を寝返らせている。戦わずして進もうぞ」
そう言うと信春は首をふり、
「いいえ、心配しているのは今回の侵攻に私心があってはならぬのです。」
私は珍しく決意した顔で言うので促すと、
「婚姻を破棄してまで攻めこむのです。今川の財宝を手に入れれば全ての者もが不信を抱くことになりましょう」
そう言われて今更なんだがと思いながらも表面上は信春に同意して離れると小太郎を呼び、
「薩埵峠で負ければ今川館ももぬけの殻となろう、財宝は隠密に運びだし火をかけよ」
悪どいと考えながらも命令をして富士宮を越えて駿河に入った。
そこから駿河に入るには薩埵峠を抜けるしかなく当然今川も全力で守っており難しい、
「今川家当主にございます」
峠から見下ろすように武将がこちらを睨み付けており、
「その方一条か、武田は信義なく攻めてくるとは犬畜生にも劣る」
私は進み出て、
「氏真殿か、同盟とはお互い力あって成り立つものであり、親の仇討ちあまつさえ松平に独立を許すとは不甲斐ない、東海道の弓取りと言われた父が泣いておるぞ」
挑発をすると氏真は怒り攻撃を命令するが周りに止められる。
「何時でも相手になろう、せいぜいその首洗っておけ」
挑発を行ったが朝比奈が必死に止めて陣へと戻っていった。
「書状を出して寝返りさせよ」
小太郎に何通もの書状を渡すと今川方の武将に連絡を取る。
「信春、直ぐにでも退却を始めようそこを追撃して後は任す」
「信龍様ありがとうございます」
騙すことに少しだけ悩むが小太郎が知らせを持ってくる。
「北条が今川に援軍を送りました」
目の前の今川がとどまる限り北条との挟み撃ちになり危険なので味方は慌てて騒ぎ始めていると信玄が到着した。
「何を騒いでおるか、北条はわしが押さえる」
そう言って落ち着かせたので今川に専念していると返事が来たので、
「駿河へと繋がる道を遮断するそぶりを見せるだけで良い」
そう伝えて出陣の準備を整えると今川の陣が動き始めた。
左は海、右は崖だが海側の今川勢が引き始め退路を断とうとしているらしく山側の今川勢が退路を始めたので信春に追撃を命じる。
峠を一気に上り詰め信春が追撃を始め薩埵峠の城を落とすと氏真は部下を見捨てて逃げ始め崩壊し、私は今川の武将達を吸収して今川館に向かった。
「煙が上がっております」
左手に清水の港でありその山の向こうに町があるが火を放ったらしく大きく煙をあげており今川勢も動揺しているが気にせずに東海道を進み灰塵とかした駿府へと到着した。
「氏真は朝比奈と逃げたようにございます」
小太郎から氏真の正室であり氏康の娘でさえ慌てて逃げたため歩いてと言うのも報告を受けていたので、
「その事を氏康に知らせよ、怒るであろう武田の所行を」
あえて氏康を起こらせて積極的に行動を起こさせるようにしむけ私は煙が立ち上る町のかたずけを寝返った今川勢にさせ信玄の到着を待った。
「信春火を放ったと言うか」
到着して現状を見た信玄の落胆は激しく厳しい顔で信春を見る。
信春は私に説明したのと同じように盗人ではないと言うことを言うと私を見たので私も自分は差し置いて頷くと信玄は同意して、
「信龍を駿府城代とし信春を補佐とする」
そう言うと周辺の城を手に入れるように命令していった。
「信龍殿申し訳ない」
「気にしなくて良いい、親方様を思っての事だし城を造り変える良い機会だ」
そう言って周辺の山から木材を切り出させ新しい城を造るために手配を行った。
翌年、そのまま駿府で年を越していると氏康が動いたと知らせが来る。
娘が徒歩で逃げたと言うのを聞いてかなり怒っているらしく氏政に4万もの兵を引きいらせて相模を出陣したと、
「御館様に至急知らせよ」
甲斐へと戻っている信玄に知らせ薩埵峠に向かい籠城の準備を始め各武将に城からは出ずに本隊を待つように伝えていると信春が知らせを受け遠江から単身戻ってきた。
「掛川城は北条の援軍も入り、更に徳川が不穏な動きをしています」
徳川との共同作戦だが明確な線引きをしていないのでそれがお互いの不信につながっており、ついに徳川が北条と和睦をして娘婿を氏康が助けるのを手伝うようでその対応もありここに来たと、
「御館様そのつもりであったのなら遠州でやりたいようにすれば良い」
そう言うと信春は私を見て、
「信龍様はなぜそう投げやりなのでしょうか」
二人だけにたまたまなってきたので私の態度を察して聞いてくる。
「色々なことが嫌気をさしてる。兄上を裏切るきは更々ないが武田の今を考えると納得出来ないことが多すぎて、投げやりと言われればその通りだ」
「どうされたいのです」
「どうもこうも、ただ言われた通り動くだけだ、今はただそれだけ」
湧いてくる怒りなどの感情もなく答える私を心配してくれるが私はもういいと首をふって信玄が到着すると駿府の工事に没頭した。
「景虎と同盟を結べと」
「そうだ、今長尾(上杉呼ぶには位が上になるので許せない)に北信濃を攻められれば苦しいからな」
「それで景虎が断れない将軍を織田を使い仲介させてと言うことですか」
信玄は頷き使えるものは何でもと言う姿勢に心の中でため息を吐きながら了承して岐阜へと向かった。
海路を西へ進み懐かしい津へと上陸して尾張を横断して岐阜へと入る。
前年に将軍義昭を伴い上洛して頼もしい力を見せつけており心が揺れ信長の前に座る。
「久しぶりよ信龍、仲介をと言うことだが」
「景虎との同盟をお願いしたく、将軍の名をかりて」
不敬な言い方だが茶室で二人なので気にすることもない、信長は笑いながら茶をたててくれいただく、
「相変わらずな言い方だが嫌いではない」
私は懐から本を取り出して前に置く、信長はそれを手に取りしばらく見て閉じた。
「信玄にも見せてないようだな」
前世の弟としての記憶からの知識を記しており早合の作り方や硝石の生産等が書かれており武田で知識が共有できればもっと強くなるはずなのだが、
「武田にその土壌はありませぬ、あるのは石が転がる不毛の土地でいくら頑張ろうと実を結ぶ事もありませぬ」
「家族は」
「無理矢理でなおかつ子には血の繋がりさえもありませぬ」
「くるか」
私は首を横にふり、
「武田滅亡をこの目で見届けるまでは」
そう言うと仲介を了承して将軍からの書状を待ちながら色々話をして過ごすことができた。
「死ぬなよ」
率直に言ってくれる信長に笑顔で礼を言うとそのまま日本海へ抜け敦賀から海路を越後に向かう、迷いは吹っ切れ結果的に裏切りになるが後悔してはおらず春日山に入城した。
「我らと同盟を結びたいと」
景虎は将軍からの書状を読み終えこちらを見る。
「率直に言えば北条と事を構えるのに上杉に動かれれば苦しい状況にございます」
あえて率直に言うと村上が、
「我らの土地を返して貰うため好都合ではないか、同盟など結ぶ必要なし」
他の家臣達も次々と賛同していく、
「一条殿、どうしてかな」
家臣を制して景虎は聞いてくるので、
「義にお願いするしかないと、先年に今川と北条が塩止めをしたさい上杉殿は同意せずに武田に塩を売ってくだされた」
私をしばらく見つめると、
「わかった。苦しんでいる相手につけこむような事は出来ぬ了解した」
感謝をしながらにらみあっている薩埵峠へと急いで帰国をした。
「景虎は同意したか」
そう言って黙りこみしばらくすると、
「信龍よ信長をどう思う」
唐突に聞かれて少しだけ考えて、
「上洛を果たしこれから益々勢力を拡大していくと思います。同盟としては頼もしい限りですな」
わざとそう言うと書簡を渡してきて中を開くと将軍義昭からでありこの頃はまだ関係が良好なのか信長を誉めて力を貸すようにと書いてある。
「どうされますか、このまま同盟を保ち駿河と遠江を押さえ北条を討ちますか、氏康も健康がすぐれず嫡男氏政に今回任せているようですし」
嫡男と聞いて少しだけ顔をしかめる信玄は、
「伊豆や相模もだが上野も視野にと考えてはおるが」
信玄はゆっくりと西の方を見るので、
「西上され瀬田(京の手前にある橋)を目指しますか」
途中でついえると知っているがあえて聞いてみる。
「この命を考えれば早めにだが北条を何とかせねばならぬな」
「氏康が亡くなれば、その後の事を考えれば再度同盟か不可侵をと言ってくるのではないでしょうか」
「何時ものごとく先を見透かした様に言いおってから、まあいいわ先ずは兵を損ねずにこの現状をおさめなければならぬ、よし一度引いて秋に小田原を落とす」
そう言うと重臣達を集めて撤退を指示して一部城を取られたが甲斐へと戻っていった。
駿府の新しい城は簡素ながらおおむね完成してそこを根城にして甲斐の自領は代官に任せることにした。
安部川の河原には上無しの民がおり挨拶に出向く、
「向こうの長老から話は聞いております」
前世で家康の家臣であったころ駿府を改築したときに何度か会っており懐かしい気持ちを押さえながら焚き火のところまで案内されて座る。
「これよろしければ」
焚き火にかけられた鍋からお椀にうつされた食事を住人の若い娘が渡してくれ私は嬉しく思いながら一気に食べてお椀を渡し、
「美味しい、もう一杯貰えないか、お腹が鳴っておるのでな」
そう言うと笑顔で嬉しそうに頷くと鍋によそいにいく、
「身分があるかたなのに気にせずに接していただきありがとうございます」
そう言って酒をついでくれて一気に飲み干す。
「それで来たのは城代となったので挨拶と」
そう言って女娘が嬉しそうに持ってきてくれたごった煮を礼を言いながら食べ、久しぶりにほっとした気持ちで月を見上げた。
翌日、街割りを行って少しずつ戻ってきた活気を感じつつ見回る。
「乱暴はお止めください」
前には早々お目にかかれなかった兵の狼藉は毎日起こっておりうっぷんばらしに捕まえては捕まえて牢に入れているが、
「酒の相手をしろっていってんだ、その後のもだがな」
そう言って笑う何処かの足軽頭なのか数人の足軽をつれており相手は河原であった娘とその父親なのか必死にお願いしているが、
「うっとうしいわ」
そう言って父親を殴り付け私は慌てて駆け寄ろうとするが、娘を連れていこうとするのを止めていたが苛ついた足軽の一人が短刀を抜いて父に突き刺した。
悲鳴が上がり頭は部下の始末に舌打ちしながら泣き叫ぶ娘を連れていこうとしていたので抜き打ちで短刀を持つ足軽を切り捨てると、
「狼藉を働くとは、我らは武田家重臣小山田家足軽頭根津孫六と知ってか」
足軽頭が言った瞬間首を飛ばした。
「何処の家の者だただでは済むと思っているか集まれ」
仲間なのか路地からも数人の足軽が出てきて取り囲んで何か言おうとした足軽の首を跳ねると足軽達は短刀を取り出して切りつけてきて乱戦となる。
「逃がすな囲め」
そんなことも気にせずに視界に入った者を片っ端から切り捨てこちらも手傷をおってはいるが痛みも忘れ声をあげ逃げようとした者も切り捨てていくと後ろから両手をまわされえらい力で締め付けられ持ちえあげられる。
「信龍殿、正気を戻しください」
私はその声を聞いて動きを止めて、
「離せ」
「落ち着いてください、切る相手ももうおりませぬぞ」
そう言われたが視界は赤く染まっておりよく見えずにいる。
「もうやめだ」
刀を放り投げると地面に刺さり信春はようやく腕を離した。
目を擦るが回復しないので腰から瓢箪にいれた水を頭から浴びて顔を洗う、
ようやく視界が晴れるとそこには十人以上が倒れており信春は私の傷を確認して止血して部下を呼んで私を駿府館に送ってくれた。
怒りが収まり政務を取りながら信春が信玄に報告をしただろうと思いながら、どの様な罰でも受けると言うことを決めていたので待っていたが数日1週間たってもなにも言われず怒りがこみ上げてくる。
「信春、御館様はなぜ何も言ってこぬ」
「1つは小山田の家臣に原因があること、もう1つは小田原攻めが控えておりいらぬ不和を出したくないとの配慮にございます」
「わかった」
納得はしていないがこれ以上馬場に言っても無駄なので領内の見廻りに出かける。
「信玄、感謝をすると思ったか、馬鹿にするのもいい加減にしろ」
小太郎以外がいない人里離れた場所で大きな声を出す。
「3才の子供でさえ自分のした悪さを叱られないと言う屈辱を忘れたか」
「もう少しすれば家は転がり落ちる。その時にただ見ているだけでいようぞ」
滅亡に繋がる甲州征伐に向け家臣もだが勝頼を孤立させ長篠での大敗を自分の手で作り上げてやろうと決めて館に戻った。
「出陣する」
今川に侵攻したことにより北条とは敵対関係になり小田原城攻めとなる。
今回出陣前の評定で私にもふられたので、
「この兵力で小田原が落ちれば北条の命脈はつきたと考えられます」
まずそんなことはないのだが、先走る重臣達に歯止めをかけるために意見を言うが今回は少し違う言い方をする。
「信龍殿は勝てぬともうされるか、そんな弱気で一手の大将が勤まりますな」
家臣を切られた小山田が悪意のある視線で言うので、
「落とすことが難しい、あの景虎でさえも数万の兵で落としきれない城を攻めるよりは上野と遠江をしっかり押さえることが寛容かと」
そう言うと信玄が、
「信龍、口を慎め」
そう言われ黙って平伏して終わった。
駿河では信春が北条氏政と対陣しておりその隙をついてあわよくばと言う作戦なので成功する可能性があると言うことで私が異を唱える事があってはならないことで結果が、
「一族筆頭は信廉様にそして後陣で待機せよと言うことですか」
心配してくれる皆の言葉も苦痛でしかなく感情を出さないようにしながら不満を鎧の派手さにかえ滝山城へと進軍した。
今までは無かった事だが信玄とは一度も陣中でも行軍でも話をせずに小田原に到着する。
皆、喜びいさんで略奪をし始める。
主要な町などは総構えと言う城の中に取り込んだ巨大な城郭の一部になるのはこの後の話であり火を放ち城内を挑発して回るが北条は動かずに堅守するかまえであり時間だけが過ぎていく、
「北条め意気地の無いことよ、出てくれば氏康親子の首を並べてやる」
評定では小山田をはじめ重臣たちが挑発しても出てこない北条の悪口を並べ立て翌日また同じように挑発するしかないので罵詈雑言を並べ立てるのをただ見つめていた。
「信龍殿、なにか考えておられるようですが」
「昌景(山県)か、何を言っても北条にとっては台風が来たからやり過ごせばいずれは晴れるから相手にされてもいない」
昌景は横に座り高台から城内を見て、
「確かに城内は慌てている様子もなく整然としておる様子」
「氏康は病にふせているが家臣が力を合わせて氏政をもり立てておるのだろう」
北条の兄弟の中のよさはうらやましいと思いながらも自分が喜怒哀楽がわいてこない自分に冷めたのをどうすればと思っていると、
「信龍殿ならこの城をどう攻めますか」
すでに落とされたことを知っているので、
「どこの城でもだが、農兵ではなく全て足軽にして補給を絶やさず囲えば援軍が来ない限りは落ちる」
「農閑期だけではなく常時戦えるからと、確かにそうですが兵糧が莫大に」
「そこは銭で他から買えば良いだけ、銭はと言うなら金が流通しやすいように関所をやめれば流れやすいところに流れてくる」
「信龍殿の町がそうですな、通行税はとらないのでそこを通って駿河と躑躅ヶ崎を行き来する商人が増えたと聞き及んでおります」
「水と同じように流れやすいところに自然に流れるだけだ、周りがどうこうできるはずもないのを気がつけば結果的に豊かになれる」
「確かに、関所をやめると身銭が入らなくなるのでみないやがりますが信龍殿の町を見ると何となくはわかります」
「現状は無い物ねだりと一緒だ、ところで赤備えはどうだ」
義信の事で叔父にかわり継ぐこととなって苦労をしているだろう昌景に聞くと、
「まだまだですが悠長には構えていれませんので」
「そうだな、そうも言ってられないが重臣は気がついてない昌景も含め」
そう言うと昌景は厳しい顔つきになり聞いてくる。
「もう少ししたら氏政の兄弟が北から挟み撃ちにするために下りてくるだろう」
「だから城内も整然としているのですな」
「数万で城内と挟み撃ちに川越の夜戦の再現になるぞ」
「すぐに御館様にお知らせを、向かいましょう」
急ぐ昌景に、
「私は城内の様子が気になる。先に行って知らせてくれ、昌景の功にしてくれて問題ないこの程度」
そう言うとなにか言いたそうにしていたが一礼すると本陣へと急いでいってしまった。
「と言うことだ、ただちに陣を引き払う」
報告を受けた信玄はすぐに家臣を集め小田原から撤収すると伝え昌景に先鋒を任せると伝い相模川の西を北上していき、私はしんがりで最後尾を進み撤退の後を氏政が出陣してきた。
街道近くの林に兵を潜め氏政が率いる2万の兵、こちらは2千程でまともにやりあえば全滅なので策をめぐらす。
街道を進んできた氏政に左右の林から旗をふらせ正面の丘に隠れて待機していたのを陣太鼓の音と共に御旗に似た旗を立てさせると氏政は驚き方円の陣に構えなおしたのをみて命令したとおりに撤退を開始して進軍をおくらせ三増峠で北条氏照が率いる軍と対峙した信玄に合流した。
信廉に報告をすると左翼の後詰めに入るように言われて箕輪城代の浅利が中心となり北条勢と対峙する。
敵は黄色い旗をたてた綱成、強敵であり味方だと安心できるが敵にまわると緊張を覚えながら積極的でない自分に気合いを入れ直し後方に展開した。
陣太鼓が鳴らされ動き始める。
決して侮っている訳ではないが重臣達の慢心を感じられ、それが兵にも伝わっており綱成も感じておるのか激突の瞬間引かせ浅利もわかっているが勢いでつけ入ろうとしたところ正面が別れその先には鉄砲が並びこちらを狙っていた
「最高のタイミングだ」
思わず使ってはいけない言葉を漏らしてしまいながら発砲と共に先陣きっていた浅利の姿は消え崩れたところに綱成が号令を叫び斬り込んできた。
浅利の部下もその他の武将も必死に建て直しをはかるが綱成が先手で次々と反撃を潰し左翼を崩壊に導いていく、
「信龍様、御館様から西上野衆を救えと」
「わかった」
槍を持ち緩やかな上り坂を上り、
「北条勢の真ん中に楔を打ち込め」
命令すると単騎で駆け抜け綱成の横から馬ごとぶち当たり槍を繰り出す。
「誰かと思えば信龍殿か、面白い槍ごちそういたそう」
綱成は笑いながら槍を連続して繰り出し私は防戦になる。
「輝虎がいない上杉には押し返されていたとは思えないな」
「ぬかせこんなに前に出てくるとは何を考えておる」
お互い怒りなどはなくこんな事だと思いながら一騎討ちをしていたが、
「勢いを殺されたと思うたが後ろから伏兵か」
昌景(山県)が峠を迂回して北条の背後を取るのに綱成は気がつき家臣を集めしんがりを開始して味方を逃がした。
「追撃を」
「味方が壊滅状態だ他のに任せろ」
本来ならば追撃をせねばならぬが浅利の軍勢の救援をするために残った。
「浅利殿です」
見事に統制された鉄砲の一斉射撃で上振れしておらず胸に数発命中しており冥福を祈り手当てをしていく、武田勢は北条を追撃しており信玄の本隊だけはとどまっており信玄本人がこちらを見ている。
私は視線に気がつきながらも手当ての指示を出して最後尾で甲斐経由で駿河へと戻った。
この年は信長が将軍義昭を奉じて上洛を果たすと嫉妬をした信玄の西上をするための話し合いが躑躅ヶ崎で行われている。
「我等は織田との同盟と織田と同盟をしている徳川がいる限りは無理と思いますが」
「それを言っては始まらんぞ信龍殿、どうするかと言う話だ」
「それは信長殿の嫡子との間の婚姻の話まで決まったことを覆すと」
「場合によってはだ、そうした言い方そしなくてもよかろう」
「こんなことを繰り返せば皆、武田は信におけぬと」
それ以上言えば義信の事になるので話は止めたが黙って座っている勝頼に、
「何かあれば継がなければなたぬそなたはどう考える」
私にふられしばらく考え、
「御館様の決めたことに異論はございませぬ」
「そうか、それなら私も言うことはない」
下手なことを言えば兄のようになるとわかっているので勝頼はそう答え私は答えると沈黙した。
その後の話は何かあればと言うことで最後に信玄を皆が注目する。
「実は京の将軍より書状が来た、内容は信長の態度に我慢がならんと」
やっぱりと言うかもう送ってきたのかと思いながら内容を聞いていきさいごに、
「織田との盟約はあるが将軍家直々に上洛の命がある。来年先ずは徳川を攻める」
最初から決まっていた言葉に私以外は喜び評定は終わった。
「信龍殿には何か懸念がありますかな」
駿河への戻る途中で信春が聞いてくる。
「人には誰にも平等に命があり、今が良ければ後の者が苦労する」
「しかし我々には大義名分と言う名の目標が必要ですし、将軍よりのとなればわたりに船」
「その後を継ぐ、いや代理になる勝頼はどうなる。諏訪のままでは誰もが認めず、もがき苦しんだあげく家はばらばらになる」
「確かに義信様の後、御館様の雰囲気がかわられた」
「何かに固執をしているが棟梁である自らが解決しなければならないな」
「典厩(信繁)か勘助が生きておれば、信龍殿から申し上げてくれぬか」
昔を懐かしむように信春は呟きこちらを見るので、
「わかっておろう、わだかまりだ、こちらからするつもりもない」
信春も私の言葉を聞いて頷き無言のまま駿河へと戻った。
「氏康が亡くなったか」
これで新たな時代に移り変わりのひとつが起こり遺言で武田と嫌々ながら同盟を結ぶ氏政に同情をする。
人質として氏槻ともう一人が武田に送られたと聞き、もはや中枢からかやの外に追いやられたのを残念には思わずむしろ肩の荷がおりたと思いながら信春と出撃準備する。
「秋山が美濃に、山県が三河に、我らが先鋒として遠江へは御館様が本隊を率いていかれる」
馬場が主将で私は副将で駿府から出撃をする。
「犬居城の天野はすでに寝返りを約束したと伝えてくれ」
信玄が来るとわかり家康では到底たちうち出来ないと天野はすぐに了承しており後は浜松の北にある中根のそう二俣城の攻略でありそれが終わればあのしょんべんをちびって脱糞した戦いになる。
今は武田として戦い抜き運命のあの時を待つことにした。
先ずは犬居城に入り天野を吸収すると信玄本隊が到着して信春に別動隊で動かし天野の案内で先鋒として進む、高天神城と掛川城を孤立させる為に信玄の命令により付け城を1日で落としながら西へと方向をかえる。
「一条殿は良く道を知っておられるが」
天野が不思議そうに言うのを気にせずに昔の記憶と共に天龍川を渡って強硬偵察している家康本陣を狙った。
「かかれ」
信春が徳川勢に襲いかかり家康は退却をして忠勝(本多)と忠佐(大久保)がしんがりで馬場勢を迎撃する。
信春は隙の無い隊列で崩れかかった忠勝勢に襲いかかり崩しにかかるが、さすがは忠勝そうはならじと先頭に立ち襲いかかる敵を倒して踏みとどまっている。
「このままだと義兄(信照)は信玄に包囲される」
逃がすあまり退却する時を逃してしまいつつあり私は即座に小太郎とその配下をつれて大きく迂回するとその後ろに出た。
「鳴らせ」
私達に気がつかせるために声をだし物を叩いて知らせるとこちらを見た忠勝は即座に忠佐に言い撤退を開始する。
「敵の方が多い無理をするな」
本来ならばここで足止めをすればいいだけだが道の脇にそれて退却する徳川勢を見送る。
忠勝が最後に通りすぎるときに立ち止まり、
「武士の情けを心得ている者とみた、お名前を」
私は何故か名前を、
「小杉左近と申す。気が変わらぬうちに主君の元へ帰りなされ」
そう言うと忠勝は頭を下げ行ってしまった。
「信龍殿無事か」
「信春か、問題ない二俣を落とせば良いだけだからな敵を退却させればそれで良い」
合流をして懐かしい二俣城へと向かう、
「中根正照か、見物させてもらうぞ」
二俣城は天龍川と二俣川の合流地点にはさまれた城で北東の大手門からしか攻められず正面は上り坂で守りやすい、信玄もそれは感じたので降伏の使者を出すが拒絶され戦いが始まった。
「27000対1200か」
圧倒的であり10倍以上の兵力差なら力攻めで十分落ちるはずで武田勢は坂を登り正門に殺到する。
最初は走って上っていたが途中から速度が落ちてゆっくりになりそこを城から鉄砲や石や弓矢で攻撃され逃げ惑い味方同士で押し合い左右の絶壁から下へと落ちたりと統制が取れない、
「情けない、御館様の目の前で不甲斐ない働きをするな、こんな小城踏み潰せ」
重臣達が次々と督戦を行い三日三晩入れ替わり立ち替わり休み無く攻撃を続けたが落ちる気配はないまま1ヶ月が過ぎようとしていた。
「この様な小城何故落とせぬ、我ら武田の精鋭を持ってしても」
評定では地団駄をふみならし交代で攻め続けたが落ちる気配はなくどうするかと言う話になった。
「信龍、他人事と言う顔をせずに考えろ」
信廉にふられて面倒と思いながらも皆がこちらを見るので、
「3日くだされば城を落としましょう」
「我らが束になっても落とせなかったのを3日でですと」
小山田が胡散臭そうな顔で言うのを無視して上流へと向かい次々と木を切り出して筏を作る。
「まさかこれに乗ってと言うわけでは」
信春が手伝ってくれており目標の数を切り出して綱で繋ぎ準備をする。
「まさか無人で流すよ、上手くいけばだけど」
もう寒い季節で皆が肌を赤くしながら筏を次々と川に流し見送る。
「これで、そうか水を絶とうと言うのですな」
「正解、二俣城は水場がないから川の水を直に汲み上げてるからそれを絶てれば落ちるから」
すぐに下流に向かい成果を確認した。
「信龍見事だ、褒美を取らせる」
信玄自ら声をかけてきて小粒金をくれるのを黙って受け取り頭を下げ下がる。
「やはり駄目か」
「気にしないでくれ信春、命令があれば動く」
含む言い方に信春は、
「救われない、我らも同じか」
そう言うと行ってしまい二俣城は半月程で水が無くなり降伏をし数日後浜松へと全軍で動いた。