寝て起きたら
生涯を閉じたと思ったら神のいたずらかまたもや転生、むさいと言うか洗練されてない髭もじゃのおっさんが出入りしており、これまた口よりも鉄拳が飛ぶような主が父親とはと思っているとどうやら甲斐の国主信虎と聞いて信玄の父親かと思いながら動かぬからだにもどかしさを感じる。
それからようやく歩き始め、侍女の目を盗んでは躑躅ヶ崎の館を探検していると抱き上げられた。
「こりゃ父上に起こられるぞ小虎、相変わらず抜け出して歩き回るのが好きだな」
長子である後の信玄である晴信兄さんが嬉しそうに話しかけてくる。
「にいたん大好き」
必殺の笑顔で返すと兄上はメロメロになりながらも、
「ようやく雪がとけて出陣するため皆が殺気だっておる。奥へ戻ろうか」
そう言っていると、
「若、信虎様がお呼びにございます。至急広間に」
兄上の守役である板垣が声をかけ丁度私を探しに来た侍女に私を渡すと言ってしまった。
小言を貰いながら奥へと連れ戻される。
今回の戦いは父親の信虎と村上義清と諏訪頼重(去年姉様が嫁にいったらしい)と共に海野(真田かな)を攻めるということらしく、この頃は義清と仲が良いんだと思いながら書院に入り込み孫子などを読み、庭を探検しながら体力をつける。
父上の書院は読み物も少ないので兄晴信の所に入り込み読んでいたある日、
「義元が了解したか、夏にでも実行にうつす」
ふすまの向こうで何か重要な話をしているらしく本を読みながら聞いていると父親を追放すると言うことらしく、そう言えばそんな話もあったんだよな、弟の信繁を溺愛した傍若無人な行いの父をということを、話が終わったらしくふすまが開き晴信が私がいるのに驚き抱き寄せると、
「今のを聞いていたのか」
そう難しい顔をするので、
「虎はにいたん大好き、今までもこれからも」
そう言って笑顔で返すとホッとした顔で、
「すまぬことをするがこれは民のためでもある」
苦渋の顔をするので手を伸ばして頭に手をおきながら、
「よしよし」
そう言うと嬉しそうにおろして、
「その年で小虎は本が好きだな、自由に出入りしていいぞ」
そう言って出ていったのを思い出した。
館の前で戦勝祈願を行いそれを見ている。
甲斐は土地も貧しく毎年のように釜無川が氾濫をおこしており、父上は重税をかけ怨嗟の的になっており晴信も家臣も諌めたが聞く耳をもたなかった。
「進軍」
武田の本隊が出発する。
途中で豪族が合流して後年の上田城へとむかうらしかった。
隊列の後ろを見送るのを横目で見ながらチャンスとばかりに正門を抜け外を始めてみる。
斜面が広がり、昔に城巡りと討伐で炎上した事を思いだしていると後ろから抱え上げられた。
「小虎様、相変わらずですね」
そう言われて見上げると兄晴信の正室である三条の方であり、私が生まれたとしに長子義信を生んでおり侍女にだが一緒に世話になっており母親が出産時に亡くなってしまい母親の代わりをしてくれている女性であり、美しく優しく神仏の信仰があつく明るい女性でよく声をかけてくれる。
「とら~」
よたよたしながら太郎(義信)が抱きついてくるのをひりぎりささえ、
「たろうあぶないよ」
そう言うと素直に頷き、
「あそぼ、貝殻であそぼ」
そう言いながら奥へと引き戻されてしまった。
貝殻あわせをしながら話をする。京から甲斐に来ての苦労はあるようだけれどもそれを見せずに笑顔を絶やさない三条の方は、
「三条西実隆も亡くなられ数年父上も気落ちされておると手紙に書いてある。京での生活も厳しく何処かを頼るかもと」
周りの京から一緒に来た侍女と珍しく悲しみにくれているので、
「たろうの母様、あにさまにたのんでみる」
そう言うと嬉しそうに抱き寄せてくれ
「小虎様はいつも太郎の事を気にかけてくれありがとう」
良い匂いに包まれながら嬉しそうに私は頷きつたない文字で手紙を書いた。
「たろうもかく」
私の横で太郎も父に向け騎馬の絵なのだろう手紙を書いて一緒に送ることになり嬉しそうに頷いている。
留守役に手紙を三条の方様が頼んで兄上のもとへと届けてもらうことになった。
戦いは上田城を落とされ海野が関東菅領上杉を頼って逃げていき父と兄は無事躑躅ヶ崎へ帰還した。
「諏訪の婿はよく戦ったが野心が無さすぎる。味方としては取り込みやすいが逆に敵にもすぐ話をしそうだな」
父上が帰還するなりそう言って黙りこむ、嫁に出した娘を気づかってなのだろうか諏訪家も正反対の性格である頼継がいるため不安定なのを心配しているようで兄上が、
「気分転換に前から誘われている事をされてはいかがですか」
「そうだな、しばらくは動きもあるまい」
そう言うと娘婿の義元へ書状を書くと駿河へと向かった。
兄上が見送ると直ぐに動き始める。重臣を集め指示を出すと次々と館を出ていき国境に向かった。
館の広間では兄上が報告を待っており帰還の予定は今日であり難しい顔をしているのを見ていると重臣達が戻ってきたことを知らせた。
「成功にございます。国境を越えることかなわないと考えになったようで駿河へと引き返していきました」
飯富虎昌が報告をすると血を流さずに行えたことを兄上は喜び配下の者を躑躅ヶ崎へ集まるように伝えた。
家臣が集まり始め広間に入る。
何で集められたのかとお互いで話をしていると兄上が入ってきた。
「皆の者よう集まってくれた」
当主であるはずの信虎ではなく晴信だけが現れ挨拶をすると皆驚き見つめている。
「本日より武田の棟梁は晴信が継いだ、父上は駿河の今川へ隠居してもらった」
そう発言すると驚きヒソヒソと話をしておりしばらく兄上は黙っている。
「静かに」
重臣の一人甘利が静めながら、
「我ら重臣も晴信が当主としてあおぎ納めることに異論はない、皆は誓紙を差し出し新たな門出としようではないか」
そう言っていくつかの話をして解散となった。
奥で太郎と遊んで太郎は寝てしまうが私は本を読みながら兄上が戻るのを待っていると夜半に顔を出した。
「三条よ待たせた。小虎も一緒か」
少し疲れた顔をしたが兄上は座ると経緯を三条の方に説明する。
「それでは義父は無事に駿河に入られたと、本当に良かったです」
実の父のように無事を喜び優しい御方だと再度認識させられる。
「小虎も支持をしてくれ助かったぞ」
何をしたわけでもないがあの時の好意が兄上を安心させたと言うことらしいので、
「なにか願いはあるか」
そう聞かれ、
「たくさんのあつまりのときにしずかにしてるからいさせて、それとはしりまわりたいから」
「小虎もかわっているがよかろう、兄の後ろに座っておけ、騒げば甘利に放り出されるがな、それと教来石景政をつけよう」
そう言って三条の方と奥へと消え私は明日からの生活に嬉しくなりながら寝床で丸くなった。
数日後、
「小虎様にございますか、教来石景政と申します」
護衛と稽古を兼ねて兄上がつけてくれた家臣であり、兄上の初陣で同じように初陣として参加して功をあげた青年で、有名じゃないけど兄上の配慮に感謝をしながら、
「たのむよいいたいこといってね」
そう言うと真面目に頷くので大丈夫かなと思いながら翌朝から周りを散歩し始める。
先ずは朝起きたら躑躅ヶ崎の後ろを守る要害城までよたよたしながら歩きゆっくりとおりてきて体力をつける。
さすがにまだ3才なので疲れたらおんぶしてもらい館に帰ることも多々あり三条の方も心配をしており兄上を苦笑させる。
午後は兄上の部屋から本を持ってきて景政と読みながら話をしてわからないところは兄上に聞きに行ったり重臣を捕まえて聞く、甘利等は私の姿を遠くから見つけるとまわれ右をして行ってしまった位聞きまくっていた。
評定が急遽行われることになり重臣達が集まる。
私は兄上の後ろに座りその横に景政が座ると重臣たちは一瞬苦笑したが案件が案件なのですぐに厳しい顔に戻った。
「関東菅領上杉の命により長野業政が海野の所領を取り返すため出兵してきたのだが」
虎昌が報告をおこない一呼吸おいて、
「諏訪が勝手に手打にして領地を返して戻ってしまった」
甘利が怒り板垣は黙って目を閉じゆっくり目を開くと、
「いずれにしても我らはまだ代替わりをしたばかりで兵を出すのも困難かと、ここは自重する他ありますまい」
他の者も発言をして最後に兄上が、
「佐久を盗られるのは苦渋だがいずれと言うことだ、それよりは諏訪だな」
そう言うとゆっくり見回し、
「今回勝手に上杉と交渉した事は許せぬ、義兄と言えども相応の事を受けさせようぞ」
背中から見ても兄上は怒っており体制が整い次第諏訪に攻めこむと言うのが伝わってきた。
その後は主だった者は退出して飯富と板垣それと甘利で細かい事を話始めるが私と景政が残ってるのを甘利が気にするので兄上が、
「こないだの功で何が欲しいと聞くと参加させてくれと、気にすることはない」
そう言うと飯富が笑いながら、
「虎泰は小虎に色々聞かれて答えにつまるから苦手で逃げ回っておる。その名を知られた備前守も形無しだな」
そう言われて顔を赤くした虎泰は、
「ただ座ってるだけでは小虎様も退屈だろう、諏訪との戦いの前に何をするかな」
意地悪区言うので、
「なかのわるいのをなかまにしてたおして、そのなかまをたおすのがいい」
そう言いきると甘利は口をあんぐりあけ他の者は大笑いで頷き、
「そうだな高遠の頼継と周辺の豪族を引き込む、板垣任せるぞ」
そう言うと大笑いで甘利に、
「知らぬことは知らぬで良い、小虎もわかっておるから気にせず話しかけてくれ」
そう言うと苦笑して甘利がこちらを向くと、
「お手柔らかに、槍等は喜んで教えましょうぞ」
私は笑顔で、
「ししょうおねがいします」
そう言って頭を下げるとさらに笑いが大きくなった。
翌年、雪深い中も雪をかき分け要害城へと日課の散歩を続ける。
三条の方も心配され色々温かい服を準備してくれており、太郎も一度一緒に向かった。
その日は特に寒く、周囲の山々も雪化粧で真っ白になっており、太郎も我慢図よく歩いていたが雪に足をとられ転んでしまう。
泣きそうになるが私を見て泣きそうになるのをこらえており、城の者が雪を踏み固めてるとはいえきつく私から見ても限界と思ったので景政を呼んで背負わせ館へと戻る。
「とらは平気なのに父上に怒られる。くやしい」
景政の背中で泣きそうになるのを必死にこらえている太郎に、
「まいにちあるいてるから、たろうはすごいよここまできたんだから」
「ほんと」
顔をあげる太郎に、
「ちちうえからもほめられるよ、ぜったい」
そう言うと頷き景政に下ろすように言って残りを自分の足で歩いて館に戻った。
三条の方は玄関まで出てきて我が子太郎を待っていてくれ太郎も母を見つけて走りだし腕の中へ飛び込んだ、
「しろへいけなかったけどなかずにがんばったよははうえ」
そう言うと我が子をいとおしく抱きしめ、
「武田の棟梁となるのですから厳しくしなければならないのですが」
そう言いながら頭を撫でられていると景政が、
「母上がおられなくて寂しくはないですか」
「かげまさがいるからだいじょうぶ」
そう言うと嬉しそうに頷き中へと入った。
「お金か」
体が動くようになって先立つ物が欲しくなる。
黒川金山もだが南側にも産出する場所があるはずだが認めてくれるのかと言うと別であり、水銀を使った金と異物のより分けもまだ海外から知らされる前かなと思いながら河原に住む人々に会いたいと思いながら遅い雪解けの春を待つことになった。