7. 街
道中で何度も太郎のからかいを受け、より一層この仕事を早く終わらせて、太郎との関りを切りたいと思う美貴であった。
太郎の道案内では腰の位置まで生えた茂みや獣道など人が通るような道ではなく、これも太郎のからかいではないかと疑うが、反応するのも馬鹿らしくなり太郎の案内通りに道を進んでいく。
白い煙、狼煙が見える。
「あれ、狼煙じゃん。ってことは街だよね?」
「ええ、そのようですねー」
(こいつ、本当に道分かってて案内したのか?)
「もうちょっとですから、がんばりましょう」
「・・・あんた、普通のことも言えるのね」
「なにを言ってるんですかー、僕は美貴ちゃんと仲良くなりたいだけですからー」
「あー、はいはい」
呆れる美貴。
「僕だけ美貴ちゃんって呼ぶの不公平ですから、僕のこと太郎くんって呼んでもいいんですよ?」
「キッモ!」
「酷いなー、僕だって傷つきますよー?」
「はいはい」
太郎とのやり取りをしていく内に狼煙があった付近、街までたどり着く。
美術館にある近世ヨーロッパのロココの絵から出てきたかのような錯覚を覚える、美しい街並みである。
ロココ建築、ロココスタイルの衣装、売り子達による活気のある声、初めて見る美貴にとって目に広がる光景は驚愕であると同時に感動であった。
「なにこれ!すごいすごい!」
「そうですねー」
「本当にこれがVR!?すごい!」
目の前の光景にただただ感動する。
「とりあえず街中に入ってみましょう」
建物、店頭に並ぶ食べ物、行きかう人々の衣装が目に入る。
行きかう人々を見て目が留まる。
「えっ」
「どうしましたー?」
「だって・・・えっ?」
「アハハハハハ・・・・ハハハハハハ」
豪華なドレスを着たブタ、売り子のブタ、馬車の手綱を引くブタを見てその違和感、可笑しさに笑ってしまった。
「だって!ブタが・・・・アハハハハハ」
「ブタさんの街って言ったでしょ?」
周りを気にせず大笑いをする美貴。行きかうブタ達は美貴を怪訝な目で見る。
そこに一人のブタが美貴に近づいてくる。
華やかな刺繍が施された上衣にキュロット、衣装だけでも位の高さが伺える。
「お嬢さん、どうかしましたか?」
「アハハハハハ」
美貴はそのブタを見て更に笑いが増す。
「・・・ハハハ、ねえねえその頭どうなってんの?」
美貴は笑いながらブタの頭、カツラに指をさす。
「ブタがカツラとか・・・もうハイセンス過ぎぃー、アハハハハハ」
「なっ!なにを無礼な!」
「もしかして地毛ー?アハハハハハ・・・・あっ、やっぱりカツラだー、アハハハハハ」
美貴はブタのカツラ触れ、そのまま手に取ってしまう。
手に取ったカツラを自分で被って笑い出す。
「ムムム・・・なんと無礼な娘だ!衛兵!衛兵!」
大声で叫び衛兵を呼び出すブタ。美貴達の周りにはブタ達で溢れていた。
ブタ達の間を縫うように衛兵の格好をした2人のブタが現れた。
「どうしました?」
「この無礼な娘を捕らえよ!私のカツラを盗んだのだ!」
「えっ?なに?」
2人の衛兵は美貴を無言で見る。衛兵同士でアイコンタクトをしたら、すかさず美貴の両腕を捕らえる。
「ちょっ、なに?離してよ!」
「大人しくしなさい」
「えっ!なに!?太郎!これどういうこと!」
「・・・・・」
「ちょっと太郎!なんとか言いなさいよ!」
「・・・・・」
太郎に声をかけても反応はない。
「いいから来なさい」
美貴は衛兵2人に両腕を抱え込まれるようにその場を離れていく。
「ちょっと!離して!イヤ!」
美貴は暴れるがそれでも衛兵2人の手から逃れることはできない。