1. アルバイト
わたし 佐藤美貴 18歳 大学1年生 牢屋に入っています。
----------------------------------------------------------
セミの鳴き声がコンビニエンストアの店内まで響く中、雑誌コーナーで立ち読みをしている女性。
髪はセミロング、焦げ茶色で化粧は濃く、ヒョウ柄のワンピースにホットパンツ。
一見すると夜の商売をしている印象を受ける。
そんな女性が雑誌コーナーの求人誌を見ており、傍目からはキャバクラなどを探しているのではないかと思われる。
(ないなー)
女性は求人誌をパラパラとめくる。
(んー)
佐藤美貴 18歳 大学1年生は夏休みのアルバイト先を探していた。
(やっぱり手っ取り早く稼ぐにはキャバしかないかなー)
希望に合った求人情報が無く求人誌を雑誌コーナーに戻そうとするが、破格の求人情報を見つけ、雑誌コーナーに戻すのを手に止める。
(時給5000円、短期歓迎、貴方の都合の良い時間でOK、仕事内容は臨床試験、これは新薬とかの試験に付き合うだけのお手軽バイト!)
美貴は求人誌を持ってレジに行き帰宅する。
閑静な住宅街の一軒家に住む、美貴は自分の部屋から携帯電話で先ほど見た求人情報に、ベッドで仰向けになり電話をかけている。
「株式会社スマイル、受付の石井です」
「求人誌を見て電話したんですけど」
「臨床試験の求人で間違いないでしょうか?」
「はい、それです」
「担当者に繋げますので少々お待ちください」
携帯電話からドナドナの保留音が流れる。
美貴はドナドナに合わせて鼻歌を口ずさむ。
「ドナドナードー・・・」
「お電話代わりました、担当の佐藤です」
(聞かれた!恥ずかしい・・・しかも佐藤被り)
担当者は若い男性の声で落ち着いた喋りをしている。
美貴は佐藤被りを何度も経験しており、氏名を伝える時の面倒臭さに飽き飽きしている。
「求人情報を見て電話しました」
「はい、伺っております。では面接をしたいと思うですが、ご希望の日にちはありますか?」
「学校があるので無い日か、学校終わりだったらいつでも大丈夫です」
「学生さんでしたか。それでは明日の13時はいかがでしょうか?明日ですと土曜日で学校はありませんよね」
「大丈夫です」
「ありがとうございます。持ち物は履歴書を持って来て下さい。その他は特に必要ありません。弊社の場所はご存知でしょうか?」
「はい、求人誌に書いていますので」
「はい、では・・・失礼しました。お名前お伺いしてよろしいでしょうか?」
「佐藤美貴です」
「あっ、同じ佐藤ですねー奇遇ですねー」
「はい・・・」
「私も佐藤なんで佐藤さん被り何度もしてきたんですよー、佐藤被りした時、なんか照れますよねー」
担当者は落ち着いた喋りから一変、気さくに話しかける。
(あー・・・だから嫌なんだよー。このパターン今まで何度もしてこっちは飽き飽きしてんのにー)
「・・・・失礼しました」
担当者は美貴の反応の薄さに納得したのか、話を切り上げる。
「では明日の13時にお待ちしておりますのでよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
電話は切れ、フーッと息を吐く美貴。
(よしっ!電話終わり)
美貴は求人誌と一緒に購入した履歴書を取り出し、ベッドの上で記入をする。
志望動機の欄でペンを止める美貴。
(どーしよこれ・・・素直に書けば金ってことになるけど、それじゃあ落ちるよねー
うーん・・・いや逆に、逆に素直に書いて行ってみよう!
金がなんでって聞かれたら貧乏設定で行こう。うん行ける!イメージOK!)
志望動機欄に大きく金の一文字だけ記入する。
(あとはー)
履歴書の証明写真欄に目をやる美貴。
(写真準備するの忘れてたー・・・面倒臭い・・・)
証明写真がないか机や引き出しを探すが見つからず、ベッドに倒れこむ美貴。
(あー・・・今から撮りに行くの面倒臭い・・・あっ!)
机の引き出しからプリクラを取り出す。
(懐かしーこれ去年、海に行ったときに撮ったやつだー)
女友達と撮ったプリクラを見て懐かしむ美貴。
丁度良いプリクラがないか探すが、ひとつひとつのプリクラに懐かしさを感じ、手が止まる。
(・・・・!っお!これ良さそう)
女友達とペアで撮ったプリクラを手にする。
17才イェーと記載されており、ナースのコスプレをしたプリクラである。
(ごめんねー)
ハサミを手に持ち女友達と美貴の間をハサミで切る。
切り取ったプリクラを履歴書に貼り付ける。
(よし!これで完成!)
再びベッドに倒れこむ美貴。
(もう受かりましたね!完璧ですね!はい!)