エピローグ SEDONA 5
エ ピ ロ ー グ SEDONA 5 (再び 2006年 初秋)
三年余りが過ぎていた。マリエと男の子がいるエアポート・ロードの中腹にあるパーキング・エリアは、SEDONAの五大ボルテックスの一つに上げられ、とくに男性的・電気系エネルギーが強いと考えられている。
マリエの話に、男の子は一言も聞き漏らすまいと幼いながらも座ったまま真剣な眼差しで聞き耳を立てていた。ケビンと過ごした時間の痕跡がマリエの胸の底深く突き刺さったまま根付いている。
どれぐらいの時間が経っただろうか。マリエは、話終えても尚その余韻に浸っているかのように遠くの山を見つめていた。日本ではつるべ落としと言われるほど日暮れが早いが、ここではまるで白夜のようにゆっくりゆっくりといつまでも名残惜しげに夕陽が沈んでいっているようだ。空には茜色した綿菓子のような雲がポカリと浮かんでいる。辺りはようやく薄暗くなりかけ、景色は徐々に色を失いかけていた。
「マリエ」
マリエは誰かが自分の名前を呼ぶような気がして、我に返って後ろを振り向いた。だが気のせいかそこには誰もいない。
「マリエ」
今度は自分の名前を呼ぶ男の声がはっきり聞こえた。男の子もくるりと一緒に振り返る。木陰の暗がりに人影が見て取れる。マリエは立ち上がると警戒して男の子を引き寄せた。
「マリエ。私だ」
闇に溶け込んでいた人物は輪郭をはっきりさせた。彼は杖をついて足を引きずりながら片方の手を差し出しゆっくり近づいて来る。
「だれなの?」
マリエは亡霊でも見るかのように不安そうにつぶやいた。バラ色に染まった雲を引き連れ山間に消える直前の夕陽の光芒が、一瞬男の顔を照らす。マリエは思わず息を呑むように《あっ》と小声を発した。同時にすぐに喜びを伴った驚きの表情を見せる。
「ケビン? ケビンなのね! やっぱり帰って来てくれたのね」
マリエは、男の子の手を引いて喜色満面小走りに彼に近づこうとした。
(続く continuing)