表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

第十四話 追跡と格闘

  秘 境 2   − 追跡と格闘 −

 

 日本の出入国管理局でマリエが出国したことは弁護士を通じてなんとか分かった。しかしアメリカ、それもSEDONAへ行ったかどうかまでは当然情報開示してもらえなかった。とはいえ、忽然として姿を消したマリエはもうケビンの元に向かったとしか考えられない。春樹は、マリエを捜して連れ戻すべく数日前から二階堂と一緒にSEDONAに来ていた。しかし、ケビンが以前いた場所にはすでに姿はなく、マリエが一緒なのかどうかも掴めないでいた。

 以前世話をしてくれたマフィアのダグに頼むまでもなく、しかたなく春樹は二階堂と二人で以前ケビンの居場所を見事言い当てた占い師のパティの元を訪ねることにした。


 パティは、いきなり訪ねて来た二人を見ると、《あぁ、あんたたちか》という面倒臭そうなそぶりで睨みつけた。指の部分が切り取られた黒い革の手袋の先には、殆どフィルターしか残っていない吸いかけのタバコが挟まれている。彼女は玄関口で吸い殻を捨てると魔女には定番の先の尖った靴で捩るように踏み消した。そして顎をしゃくって二人を家の中へ入るよう促した。以前と違ってツンと鼻を衝くような饐えた異臭が立ち込めている。二人とも《ウッ》と声にならない叫びをあげ顔をしかめた。

「また、例の男の居場所かい? 居なくなったのかい、この前の所は。今回はちょっと高いよ」

 パティはそう言って、にこりともせず手袋から飛び出た親指と人差し指を擦り合わせて見せる。春樹は辟易しながらも分かっていると言わんばかりにすかさず百ドル札二枚を取り出した。

「NO」

 一瞥したパティは歯牙にもかけようとしない。春樹はもう一枚取り出して見せた。

「NO」

 パティは面倒臭そうに片手を広げて春樹の目の前に突き出した。春樹は呆れたふうに目を剥く。そして舌打ちすると、《足元をみやがって》と日本語でつぶやきながらしぶしぶ五百ドルを手渡した。パティは一枚一枚嘗めるように新札を透かして確かめる。そしてやおらニヤッと笑うと彼らをスウェードのカーテンで仕切られた奥の部屋へ案内した。

 パティはどっこらしょといった感じで小さな身体を椅子に身を沈めた。人差し指で二人にも座るよう促す。彼らが椅子に座りかしこまるのを確認すると、カーテンと同じパープルのスウェードでできた覆いを徐に取り払った。黴びの粉が飛び散ったようで春樹は顔を背けた。パティは以前と同じようにしばらくテーブルの上の水晶玉を無頓着になで回しながらじっと見始める。濁った咳払いを数回繰り返す。

《ウーン》と唸った。前回に比して随分と歯切れが悪い。

「どうした。早く教えてくれ」

 パティの悠長な動作に春樹のイライラとした焦燥は既に頂点に達していた。パティは春樹の言葉を遮るように突然耳障りな呪文めいたものを唱え出した。

「女が一緒のはずだ」

「なに、女が一緒?どうしてそれを早く言わん!」

 春樹の言葉に叱責するようにパティーは素早く反応した。

「ウーン、今回はその男の気を感じない。何か強いエネルギーがバリアーになって完全に気を消し去っている。悟りを開いて無我の境地に入った人間は気のパワーを持つ。この前はかなり弱かったが、今はその男の生命力とともにものすごく増殖している。それだけではない、強力な愛のパワーも感じる。ウーン・・・・・・」

 パティは憔悴しきった表情を浮かべる。

「おい、もういい。分からないんだったら金返せよ」

 春樹は、たまらず怒鳴った。

「うるさい、黙っとれ、若造。私に分からないものはない」

 彼女は痰を絡ませながら一括した。

「ウーン・・・・・・」

 黒いレースの下の額にうっすらと汗を浮かべ、再び目を細めて水晶玉を凝視しだした。さっきと違って真剣さが漂い、パティの全身から異様なオーラが醸し出されている。

「こいつ、いかさまじゃないか」

 二階堂が春樹に日本語で言う。だがその言葉が終わらないうちにパティが奇声に似た声を発した。

「オー、見えるぞ! 滝が見える。女の影も写っている」

「本当か、どこだ、そこは」

 春樹が勇んで叫んだ。

「ウーン、まだよく分からん」

 パティはまた黙り込んでしまった。春樹と二階堂は、瞬きもせずパティの次の言葉をじっと待った。

「オー、鳥だ。鳥が見ている。素晴らしい楽園だ。美しい。空から舞い降りるぞ」

 突然パティは魔物に取り付かれたかのようなかすれた声で告げた。春樹たちは何のことか分からず、パティの気が狂ったのかと思ったほどだ。するといきなりパティは立ち上がりマントを大きく広げて一回転しながらその場にドタリと倒れ込んでしまった。

「おい、どうしたんだ。だいじょうぶか」

 春樹は驚いて、マントを被ったまま床にうつ伏せで微動だにしないパティに声を掛けた。「まさか死んだんじゃねえだろうな」

 二階堂が恐る恐る近寄ってマントに触ろうとした、その瞬間、勢いよくパティが立ち上がった。

「そうだ、この風景はあそこ以外にない」

 今度は確信したように自信に満ちた声色で断言した。

「ど、どこだ。分かったのか」

 あっけにとられながら春樹はメガネの奥の鋭い目を光らせた。

「ああ、あの場所ならあいつらが居ても不思議ではない」

「どこだ、そこは」

「あんたらに言ってもどうせ分からんよ。車ではとても近づけん所じゃ。そこに行くには馬に乗って行くか、空からヘリを使って下りるかしかない。だが馬なら丸一日はかかるだろう」

「馬かヘリだって! バカ言え、そんなもので行けるか。ふざけるのもいいかげんにしろ」

 二階堂もとても無理と言わんばかりに手と首を大袈裟に横に降った。春樹はもう我慢の限界とばかりに切れてしまった。そして再び金を返すよう要求した。

「馬鹿もん、わしはお前達にちゃんと場所は告げた。だがそこはおまえさんらだけでは到底行けんぞ。わしは金の分だけは仕事はする。だからお前さんらがどうしても行きたきゃヘリで行くんだな。わしが案内して一緒に行ってやっても良いぞ」

 パティは春樹に協力することでもっと多額の金が取れると踏んだ。春樹と二階堂は顔を見合わせた。春樹は御殿場の乗馬クラブで何回も落馬の憂き目に遭ってる自分の姿を思い浮かべた。二階堂に至っては競馬に興じても馬に乗った経験など一度もない。

「ここまで来たら、女の言うとおり、もうヘリで行くしかないですぜ」

 二階堂が春樹に決断を迫った。春樹は困惑気味にパティのほうを振り返った。

「SEDONAの空港へ行きゃ、ヘリはチャーターできる」  パティは初めてにっこり笑った。ヤニでベッタリと黒ずんだ前歯が一本抜け落ちている。

春樹は返す言葉もなく神妙に頷いた。もう黙ってパティの指示に従うしか術がない。



 吹き渡る風にそよぐ木々の緑が時に深く濃くなり、時には浅く淡く見える。

 そのまま地上に降りて来ているような晴れ渡った空の下、滝壺でケビンとマリエは入浴を兼ね、衒うことなく生まれたままの姿になって水浴びを楽しんでいた。

「何か音がするわ」

 マリエが切り立った壮厳な岩壁のうえの方を見てケビンに叫んだ。

「ヘリの音みたいだ。こっちに来るぞ。マリエ、早くあの岩陰に隠れよう」

 二人が慌てて岸に上がったとき、岩場の向こうからけたたましい爆音と共にヘリが姿を現した。

「今、人影が見えなかったか? あそこだ、ほら」

 ヘリの中から春樹が微かにケビンらしき後ろ姿を捕らえた。

「あの木の下に馬がいる。二頭いるぞ。二人はあの付近にいるに違いない。どこか近くに下りるところはないか」

 春樹は近くの開けた場所を選んで着陸するようにパイロットに命じた。ケビンとマリエは岩場に脱ぎ捨てていた服を急いで着た。そして離れた木陰に繋いでいたアパルーサとモルガンの裸馬のいるところに走った。

「ケビン、随分逞しく元気になったようだな」

 二人が馬の手綱を木からほどこうとした、そのとき木陰の奥から春樹の声がした。彼の手にはダブルアクションでレボルバー式のコルトが握られている。ギャングのダグに頼んで事前に二階堂が用意させていた小型のピストルだ。ケビンは奮然としてマリエを庇うように彼女の前に立つと春樹を鋭い眼光で見据えた。

「ケビン、お前さんには忠告してたはずだ」

銃口をケビンに向けながら春樹は恫喝した。

「マリエさん、迎えに来たよ。さあ、帰ろう。あなたは、こんな死に損ないと、こんなところにいるべきじゃない。僕と一緒に帰りましょう」

 春樹は顔を少し引きつらせながら、一転気持ち悪いほどの猫なで声でケビンの背中に寄り添うマリエに声をかけた。マリエはケビンの制止を振り切って視線を刺したまま春樹の前に出た。

「いやよ、私たちに構わないで、ほっといてちょうだい」

 揺るぎない色を見せてキッパリと言った。ピストルを握り締めた春樹の手が小刻みに震えているのをマリエは見逃さなかった。以前、春樹がラスベガスやハワイでの観光客向けの実弾射撃の経験を自慢げに話していたことを思い出した。だがマリエは彼には自分を撃つことは出来ないと確信していた。

「マリエさん、そんなくたばり損ないのジジイなんかほっといてこっちへおいで、さあ」

 言い負かされた格好になった春樹は銃を手に恐る恐るマリエの元に近寄った。そして片方の手で無理やり彼女の手を掴もうとした。その瞬間、マリエのしなやかな体裁きに彼の体はもんどり打って地面にたたきつけられた。マリエは、掴みかけられた春樹の腕を逆に掴むと、相手の動きを利用して一旦自分の方に引き寄せ関節をひねり上げて瞬時に投げ飛ばしたのだ。そのまま春樹の腕の静脈をしっかり押さえ、拳銃を奪い取ると思いっきり森の方に向かって投げ捨てた。

「な、なにをするんですか、マリエさん。ぼ、ぼくはあなたのフィアンセですよ」

 あまりの痛さに今にも泣きそうになって春樹はマリエに腕を離すよう懇願した。

「この、あま!」

 二階堂が、春樹の軟弱さを見るに見かねてマリエに向かって突進して来た。マリエは、腕の関節をねじ上げながら春樹を立たせると、もう一度思いっきり投げ飛ばした。春樹は背中を強打したらしく苦しそうに呻く。同時にマリエはつかみ掛かろうとする二階堂の腕を再び軽やかな体裁きでかいくぐると彼の急所に蹴りを入れた。その間、予期せぬマリエの反撃に面食らったパティは、持って来た水晶玉を大事そうに抱えて木の陰で腰が引けたままわなわなと震えている。

「ケビン、逃げるのよ!」

 マリエの格闘の様子を出番も無くあっけに取られたままただ見ていたケビンは、我に帰ったように裸馬にまたがった。



 二人は、木立を抜け広闊な草原を走り、切り立った岩の間を縫うように巧みな手綱さばきで駆け抜けた。どれぐらい走っただろうか。馬も疲れてかなり鼻息が荒くなっている。

「オーレ!」

 マリエは手綱を引き、馬の速度を緩めた。

「少し馬を歩かせましょう。もう大丈夫、ここまでは追って来ないかも」

「そうだね。でもどうしてここが分かったんだろう」

 ケビンは息を弾ませながら後ろの方の空を見上げた。不気味な暗雲がかかり始めている。「魔法使いみたいな気味の悪いお婆さんが一緒だったけど」

 二人は《まさか》と言った表情で顔を見合わせる。マリエは不吉な予感を覚えて鳥肌立った。数分も経たないうちに再びヘリの音が聞こえてきた。

「またこっちへ来ている。しつこい奴らだ。行くぞ、マリエ」

 ポツリポツリと大粒の雨が落ちてきた。ケビンはアパルーサの馬の腹を思いっきり蹴った。マリエも続く。切り立った崖に挟まれ曲がりくねった狭い岩場で馬も歩くのがやっとという状態だ。河原が見えてきた。依然として頭上ではヘリの爆音がする。

「今、河原に出るのは危険だ。すぐ見つかってしまう」

 二人は近くにあった大きなパームツリーの下に身を潜めた。ヘリの音が消え雨粒が木の葉を揺らしながら叩く音だけが残る。

「よし今だ、あの川を渡って向こうの森の中に逃げ込もう」

 このままだといずれ見つかってしまう、と思ってケビンが提案した。川を渡って森までは広い河原を一気に走り抜けなければならない。

「OK、ケビン、ヤー!」

 マリエもそれしか方法がないと思いモルガンの馬の首筋を手綱で叩いた。二人が川に差しかかったとき再びヘリが爆音とともに近づいてきた。二人は身を屈めるように馬の脇腹を蹴り続ける。浅瀬を見つけ川辺に差しかかった。そのとき激しい雨音を裂くような何発かの銃声がした。

「オー、ケビン!」

 マリエの視線の先が馬ごと川辺にひっくりかえるケビンを捕らえた。

「ケビン、大丈夫?」

 ケビンは機敏に立ち上がった。濡れた腕から血が流れている。

「ああ、大丈夫かすり傷だ。だけど馬がやられたらしい」

「乗って!」

 ケビンは腕を押さえたままマリエの馬の後ろにしがみついて飛び乗った。マリエは馬に鞭を打ち全力で川を渡る。だが、ヘリはすぐに旋回して二人の頭上まで来ていた。やっと渡り切ったと思ったところで、再び銃声がした。

《ウッ》というケビンのうめき声とともに、マリエのおなかにしっかりと背中から抱き着いていた彼の腕の力がふっと抜けた。同時にケビンは背中から再び落馬した。

「ケビン! ケビン!」

 マリエは叫びながらすぐさま馬から飛び降りた。仰向けに倒れているケビンのもとに走る。何度も何度もケビンの名前を呼んで彼を抱き上げた。彼の背中に回したマリエの腕が深紅の鮮血で真っ赤に染まった。瞬時に雨で周りの河原が赤く色を変える。

「ケビン、しっかりして! オー、ケビン! お願い、死なないで」

「マ・リ・エ・・・・・・」

 消え入るような声でケビンが応える。目が泳いで視点が定まらない。

「ケビン、大丈夫? 一緒に夢を叶えるんでしょ。一緒に牧場を・・・・・・」

「あ・・・あ・・・、愛・・・してる、マリエ・・・・・・」

「愛してるわ、ケビン。これからも一緒に生きるのよ!」

 ケビンの弱々しい視線が虚ろな目から焦点なくさ迷う。喘ぐように何かを伝えようとしている。

「なに? ケビン。しっかりして。死んじゃだめ!」

 ケビンの身体は、まるで糸の切れたマリオネットのようにだらりと動かなくなった。

「ノーォー!」

 ぐったりしたケビンを抱き抱え、泣き叫ぶマリエの声が河原に木霊した。

 

近くの河原に着陸したヘリを下りた春樹たちが銃を片手に走って近づいて来ていた。マリエは下唇を噛み締めながら視線をケビンから彼らに移した。降りしきる雨の中にケビンをそっと寝かせる。馬の首に巻き付けていた弓と矢をケビンの血で染まった手で取った。そして矢をセットすると片目を瞑りながらゆっくりと春樹に向けて構えた。

「やったぞ、やった。ついにケビンをやったぞ」

 春樹は怒気を込め半狂乱になったようにわめきながら走って近づいて来る。

「息の根を完全に止めてやる」

 そう言うと、恨み骨髄に達した春樹はケビンに向かって震える両手で拳銃を握り締めた。次の瞬間、渾身の力を振り絞りマリエの放った矢が彼の両方の手の甲を射貫いていた。

《ウヮーヲー!》

 春樹は獣のように泣き叫びその場に跪くように倒れた。矢が刺さったままの両手の痛みに耐え兼ねてのたうちまわる。鮮血が雨の中に飛び散った。マリエはすかさず春樹たちをけしかけていたパティの方にも狙って矢を放った。

「うわーっ、私の大事な水晶玉が!」

 パティの抱えていた水晶玉が粉々に砕け散った。パティはまるで喘ぐように叫び脚の力が抜けてへなへなと膝から崩れ落ちてしまった。

「このやろう!」

 二階堂が河原の濡れた石に足を取られながら春樹の銃を拾おうとした。 マリエは身の危険を感じ二階堂を矢で狙う。そのとき崖の上からすごい勢いで一頭の馬が降りてきた。それはまるで源義経が一の谷の戦いで急な坂を一気に馬で駆け下りたときのような光景だった。

「それ以上春樹に手を出させないわよ」

マリエが呆気にとられているうちに馬はあっという間に迫った。

「おー、レイチェル来てくれたのか。助けてくれー!」

あまりの痛さにうずくまっていた春樹は悲鳴と歓喜に似た声を上げる。

「レイチェル、あなたまでここに」

マリエは意外な人物の登場に面食らった。レイチェルは馬からマリエの弓に向かって鞭

を放つ。カウガールとして鍛え上げられたレイチェルの鞭捌きはインディアナ・ジョーン

ズ張りの巧みさだ。さらに馬上から執拗にマリエをその鞭で叩きつけた。女同士の格闘が

始まる。とはいえケビンのことが気になって先頭意欲を削がれたマリエは防戦一方だ。マ

リエはレイチェルの執拗な鞭攻撃を必死で掻い潜りながら、倒れているケビンの元に這い

つくばって近づこうとする。その間二階堂が銃を拾ってマリエの背中に狙いを定めた。目

線の先で銃口を見たマリエは半ば覚悟を決めた。


そのとき、《ホーホーホー》と言う谷間に木霊するような雄叫びが聞こえた。雨煙の中からフレッドが数人の仲間を連れ奇声を上げながら馬を飛ばして駆け付けて来た。

「ちくしょう、邪魔が入った」

レイチェルは刺さった矢で痛みに悲鳴を上げる春樹の元に走って、彼を抱き抱える。

二階堂はあわてて銃をポケットにしまうと、同じく春樹の元に走り痛みに泣き叫び続けている春樹をレイチェルと一緒に抱き抱えた。

「ちくしょう、おぼえていろ!」

 二階堂は悪態をつきながら春樹を担ぎ上げた。そして粉々になったガラスの前にへたり込んでわなわなと震え上がっているパティを促すと、四人で転がるようにヘリの方に逃げ去って行った。


マリエは喘ぎながらケビンの元に戻ると彼を抱き抱えた。

「フレッド! お願い、ケビンを助けて」

 降りしきる雨の中、ケビンを抱き抱えたまま泣きながらマリエはワラにも縋る思いで悲鳴にも似た叫び声をあげた。同時に、突然マリエは下腹部の耐えられないような急激な痛みを感じた。そして、《アーッ、ウーッ!》と叫ぶと自分のおなかを押さえ気を失ってケビンに折り重なるようにして倒れてしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ