ケース1 エピローグ
ちょっと短いです
「……で、探偵さん。それからどうなったのかしら?」
いつものバー、いつものスツール。すこぶる美人なマダムの前ではあったが、私は苦い酒を舐めていた。
「どうもこうも、成功報酬はまだ受け取れない、ってことさ」
「あら、深雪ちゃん帰らなかったの?」
「帰ったさ。だが和之氏のフリル好きを治すまで、結婚は無期延期だとさ」
「延期なら良かったじゃない。破談じゃないんだから」
「それがそうでもないのさ」
私は肩をすくめてみせた。
「彼女、頑張っちゃってね。誰の力も借りず、『私が和之さんのフリル好きを治すんだ!』だとさ」
「それじゃ、この一〇〇万円は預かっておくわね」
「依頼主に返すんじゃないのかい?」
「あら探偵さん、深雪ちゃんが勝つって思ってんでしょ?」
「そりゃ、まあね……」
私は残りの酒を煽った。代金を支払って席を立つ。
外に出ると、冬の寒さが襲いかかってきた。
ウィナー・テイク・オール。勝者が根こそぎいただく。藤井和之は、やがてすべてを手にするだろう。
ルーザー・テイク・ナッシング。そして私に、成功報酬はまだ無い。
都会の孤独と噛みつくような寒気が身にしみたが、それも時間の問題だ。
相思相愛、若い二人が互いの溝を埋めるのに、それほど長い時間はいらないだろうから。




