その11
「この学校周辺での鑑賞を控えていただきたいだけです。それ以外の場所でしたら、私が口をはさむ筋合いではありません。存分に楽しんでください」
「とは言いますが、南高校の制服を一度にこれだけ鑑賞できるのは、やはりこのポイントしか……」
「そこですよ、〇〇さん!」
ズビシと指を差す。
「あなたの究極とするセーラー服は、数をそろえていなければ魅力を発揮できないものでしょうか? いや、違う!!」
考える隙を与えずに、すぐさま畳み込む。
「よその制服の中にあっても、あなたのセーラー服は光り輝くに違いない! いやむしろ単身、様々な近代制服に囲まれてこそ、真価を発揮するべきでしょう!」
私に挑発されたと思ったのだろうか。趣味人氏の瞳は、好戦的な色に輝いていた。
「なるほど探偵さん。私の存在はあなたの仕事の邪魔になる、ということですね?」
「有り体に言えばそうです」
「だがしかし、私としてはストーカーが憎くて仕方ありません」
「その無念は、きっと私が」
君の無念はわかる。だが、理解してほしい。ここはプロの現場だ。素人は、私たちプロフェッショナルが仕事を終えたあと、平和な世界を楽しんでいただきたい。
「それでは仕方ありませんね」
趣味人氏は一度目を伏せて、それから空を見上げた。私に目を戻すと大きくため息をつき、となりの電柱を指差した。
「では探偵さん、あの老人はおまかせしてよろしいですね?」
その電柱には、三脚にカメラを据えた井上翁が貼りついていた。鬼の速写でシャッターを切っている。ハアハアと息も荒い。
膝から力が抜けそうになったが、ソフトをかぶり直して自分を保つ。
キャメルを新たにくわえ、スマートとはほど遠い乱暴な動作で火を着ける。私は靴のカカトを鳴らして翁に近づいた。撮影に集中した翁は、私に気づかない。シャッターを押す指が止まったと思ったら、次なる被写体を探しているのだろう。レンズを左右に振っている。
一発くらい殴ってやろうか? すでに射程距離に入っている。悪くないアイデアだ。
だがキャメルを捨てたところで、翁は振り向いた。
「いけませんなぁ、探偵さん。ワシに後ろから近づいたりして、抱き締めようっていうんですかな?」
「死角から近づいたのに気づかないでください、気持ち悪いですから」
「まあ、探偵さんが相手ならキスくらい許してもかまいませんがね」
「いや許さないでください、本当に。ノー・サンキューです」
妖怪なみの危機察知能力を発揮した翁を相手にしていると、件のミスター・趣味人が背後に迫ってきた。気配でわかる。
まったく、次から次へと面倒くさいものだ。私の周辺には、どうしてこうもイカレた連中が多いのだろうか?