一生
缶。私は缶。皆がそう呼ぶから缶。中身は葡萄のジュース。小さな店の隅っこに置かれている。周りも同じ葡萄のジュース。なのに周りは売れていく。何故だろう。私は一番前の列にいるのに、後の皆が売れていく。誰か私を買って。
でも私は買われなかった。私だけ。
やっと私は店の隅っこから抜け出した。私は運ばれている。ピッ、という音がした。やっとあの惨めな場所から出られた、嬉しい。
私はプルタブで蓋を開けられ飲まれた。ゴック、という音がする。
「不味いんだな、コレ」
投げられた。地面に当たると大きな音が鳴った。
何のために私は.......。
田舎の細い道に空き缶が捨てられジュースが溢れている。
「誰だよこんなところに捨てたのは。はぁ~、拾うか。」
家に持って帰り洗った。乾かすため日差しの良い場所に置くと、綺麗に見えた。
目でも悪くなったのかと思いながら寝た。
次の日もう一度缶を見た。やはり綺麗に見えた。よく見ると幻と言われた缶だった。
見ているだけで癒される。我ながら自分は可笑しくなったのかと思う。でも今までにない感覚だった。
大切にしたいと思っている。
「えっと、いってきます。」
僕はもう一度やってみようと思えた。
一生をかけて大切にしたいから。