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04話 「調査開始」

 それから幾ばくかの月日が流れた、ある日の通勤時間。

 この数日の間で、遥は無事に転入手続きを済ませ、今日にも駆の学校へ転校してくる予定となっている。一応、これまでの進捗状況については、この間会った際に連絡先は交換してあったため、ある程度の状況は把握していた。

 因みに、手際は良いのか既にこの世界の元の人格が所有していた携帯電話は解約済みで、新たに携帯電話を購入し、再契約したとのこと。現代社会に対して中々の適応力があった。

 現在は、その遥と、今後についてのメールのやり取りを行っている。


『取り敢えず、今日そちらへ転入する予定。打ち合わせ通り、私は駆の遠い親戚という設定で良いんだよね?』


『それで問題ない。何かあればその都度こちらでフォローする』


 この世界で、遥と共に人類社会終焉の原因を探っていく以上は、ある程度、駆と遥との間で一緒に行動できる時間を確保しなければならない。

 よって、初対面であると認識される駆と遥が、転入早々から一緒に行動することを不自然に思われないように、月並みではあるが、親戚という設定を使うことにしたのだ。

 その上で遥は、閉鎖的な田舎の集落から上京して、都会の学校へ進学してきたということにし、慣れない都会暮らしを、親戚の者としてフォローするという状況を違和感なく演出する狙いがあった。加えて、この世界と向こうの世界とのジェネレーションギャップを、ある程度は誤魔化せるだろうと見ている。


『了解。具体的な予定については会って話しましょう。また学校でね』


『OK、また学校で』


 お互いに、今どきの高校生にしては珍しい簡素で味気ない文章であったが、これはこれで無駄がなくて良いと思う。

 最寄りの駅を下車して、残りの学校までの道のりを徒歩にて通勤途中、背後から駆を呼ぶ声が聞こえた。そこには、たまたま登校時間が重なった明の姿があった。


「おーっす。ついこの間、丸一日学校をサボって女の子侍らして遊び呆けた、駆君ではないですか。」


「おう明。今の言葉のチョイスに、あからさまな悪意を感じるんだが、気のせいか?」


「それはお前の内面の問題だな。そうやってお前自身の性根が歪んでいるから、世界そのものも歪んで見えてしまう。気を付けろよ」


「おい、ちょっと待て。その理屈はおかしいだろ」


 出会い頭のこうした茶番劇は、もはや二人にとっての慣例行事であった。まあ実際、あと数年で人類社会が滅亡するというヘビーな現実を知ってしまった今では、色々と悩むことや思うことも多い。そうした中で、明とのこうしたやり取りは適度な息抜きとなっていて非常にありがたい。


「そう言えば、今日俺たちの学校に新しく転校生が来るらしいってよ」


 風の噂なのか、明は既に転入してくる遥のことを聞きつけていたようだ。駆はそれに頷く。


「ああ、知ってる。一応、俺の遠い親戚に当たる子だ」


「えっ!? そうなの? 何、そのベタな展開」


 思わぬ俺と転校生との関係に目を丸くする。


「そうなんだよ。元々、未だ部落差別が後を引くような、時代錯誤な田舎で生活していたらしくてな。当然、都会の生活や常識にも色々疎いようだから、必要に応じて俺がフォローしてくれと頼まれたんだ」


 話しながら、比較的違和感なく事情を説明できたと思う。これで、明を通じて、自然と駆と遥の間柄が広まることで、既成事実を構築するのが狙いだ。


「へー。ということは、その転校生はお前を頼って、わざわざこの学校に転入することにした訳か?」


「…………まあ、当然、それだけが理由ではないだろうけどな。一部の理由としては妥当かもしれないけど」


 俺の言葉を受けて、明はフムフムと頷く。

 そんな明の態度に苦笑いしながらも、俺は一応予防線を張っておくことにした。


「あまり邪推してもらっても困る。今言ったように、俺とその転校生――遥っていうんだけど――の間には親戚である以上の、意味深な関係はないよ」


「女!? お前の親戚って可愛いの!?」


「お前、今人の話聞いてた?」


 馬耳東風である。

 そのような明の様子に駆は、これから多分に脚色されるであろう駆と遥の関係についての質問、もとい詰問される未来を想像し、憂鬱な表情を浮かべるのであった――



 因みに、遥は、駆とは別のクラスに配属された。

この学校に、遥という転入生がやってきたことと、駆とその遥が親戚関係にある、という事実は、瞬く間に学校中に伝播したため、駆としては必要以上に好奇の視線に晒されずに済む分、多少なりとも一緒のクラスとならなかったことに、内心感謝していた。

 しかし、それはあくまでも気休めに過ぎなかった。

 案の定、これらの事実を聞きつけるや否や、噂の是非を根掘り葉掘り聞いてくる始末である。俺自身が転入した訳でもないのに大した人気ぶりだよと、内心でそんな皮肉を抱いて、駆は、浮足立つ同級生をあしらうのに、多大な労力と精神力を要したのであった。

 一刻も早く、この状況が終息することを願うばかりだ。




 放課後。駆は待ち合わせ場所を図書室に指定した。

 今日一日はとにかく質問攻めに辟易したので、なるべく人目のつかない場所での話し合いを望んでいたためであった。

 やがて、遥も図書館にやってくる。


「おう、お疲れ」


「いやー、本当に疲れた。色々聞かれて、ボロが出ていないかが心配だよ………」


 遥もまた、この世界の住人を演じることによる疲労もあいまって、疲れた様子を見せる。まあ、こればかりは色々悩んだところで詮無きことだ。ある程度は割り切っていくしかないだろう。

 雑談もそこそこに、遥が先に本題に入る。


「それで、今後の予定はどうするの?」


「正直、人類社会終焉のはっきりとした推測は立てられないというのが現状だな。

 というのも、現段階では終焉が訪れる予兆も、原因も何一つ感じられない。率直に言って、帰納的推論で効率的に原因を探っていくことに無理があると思う。

 である以上は、この際どんな些細なものでもいいから、手当たり次第に情報をかき集めるしか方法はないだろうね。」


 言いながら、正に砂漠の中で一本の針を探すような状況に、うんざりした思いを抱く。


「成る程ね。具体的な方法はどうするの? まさか地道に聞き込み調査っていうのは、時間も人手もあまりに足りないと思うけれど」


「流石にそこまで非効率なことはしないよ。それをするには、時間がいくつあっても足りないし。

 基本的な活動としては、パソコンのような情報端末を使って、世界各国の紛争や事件を、ニュースサイトや匿名掲示板などから調べていくしかないだろうね。

 最悪、どこに真実が隠されているか分からないから、噂や都市伝説の類の情報であっても、状況に応じて把握しておく必要はあるかもしれない」


 結局は、無難な方法に行き着く訳だけど、と締めくくる。

すると、遥から質問が投げかけられた。


「………ごめん、パソコンって何?」


 ………成程、確かにそこから説明しなければならないのか。

肉体と魂の干渉という、現代社会を優に超えた科学技術をもつ一方で、人類間での相互通信システムのような技術は発達しなかったのだなと思いながらも、遥の問いに答えるため口を開く。


「………正式名称は Public Control (パブリック コントロール)。通称PC。

 本当ならパブコンと略すのが相応しいのだろうけど、語感が悪いためか、一般的にはパソコンという略称で親しまれているな。

 無知で愚鈍な大衆を、如何に手のひらで操るかということに主眼が置かれて開発された装置で、巧みな情報操作で世論をコントロールし、洗脳・教唆・扇動といったあらゆる手段を用いて、愚かな民をその手中に収めて支配する端末のことを指す。

 まあ、使用者の使い方次第で毒にも薬にもなるシロモノだよ」


 情報というものは、いつだって誇張され、或いは多少の脚色を経て伝達されるものだ。それが意図したものか、そうでないかの違いがあるというだけで。

 そう。俺はちょっとしたボタンの掛け違いから、結果的に語弊を生むような情報伝達をしてしまったに過ぎない。


――あまりにも露骨である。


「……何それ、穏やかじゃないんだけど。それ本当なの?」


 駆の説明を聞き、遥は眉を顰める。


「…………まあ、概ね間違ってはいないな」


 ミスリード誘う気満々であった。


「その概ね、っていう言葉が非常に気掛かりなのだけど。それと、駆君の前後の発言について致命的な齟齬があるように思えるのは気のせい?

 何で、大衆操作なる情報端末で、人類社会終焉の原因を探ることができるのよ。話を聞く限りでは、専ら情報操作の機能に特化していて、情報収集をする機能は備わっていないように感じられたけれど」


「………………ごめんウソ」


 瞬殺であった――


「おい、駆君?」


「ごめんなさい。ちょっとした出来心だったのです」


 既に、遥は呆れ顔である。


「冗談は嫌いじゃないけど、TPOは弁えてほしいな」


「はい、仰る通りです。以後気を付けます」

 

 遥は、そんな駆の様子を、暫しの間ため息と共に見遣り、やがて口を開いた。

 それは、先ほどとは少しだけ異なる、幾分不安げな面持ちであるように感じられた。


「……ねえ、これってもしかして、私がこの間、無理に遊びに連れまわしたことに対する意趣返しなのかな?」


 駆は俯いていた顔を上げた。

 遥には既に、学校に無断で遊びまわった後の、事の顛末は話してあった。その時には、お互いに駆の失態を笑い合って、話はそこで終わったのだが、そのことに対して、遥なりの負い目や罪悪感があったのだろうか。

 当然、駆にはそのような意図はない。むしろ、あの一件は完全に駆の自己責任と考えていた。


 だが、そのような事実とは裏腹に、負い目や罪悪感というものは己の内側から生じるものだ。ありもしない責任を己に科してしまい、背負う必要のないものまで背負い、その重責に自らが苦しめられる。

そして、時にそれは、誰もが意図しない方向に当事者を追い詰めることもある。


 負い目や罪悪感というバイアスは、ありとあらゆる負の感情によって増幅され、より歪に形づくられていく。

そうした負の感情が、駆のちょっとした冗談に、そのような裏の意図があるという結論を導いてしまう程には。


 今、遥は、あらゆる負の感情で瞳が揺れている。ありもしない罪を背負い、その罪に押しつぶされる。それは誰も予期すらしておらず、その結末は誰にも救いをもたらさない。

 自らの心を抉るかの如しその自傷行為は、それは本当に馬鹿馬鹿しくて、駆はそんな不条理は認めないとばかりに口を開く。


「言っておくけど、あの時学校をサボって遥と遊ぶことを選んだのは、他でもない俺自身の意志が決めたことだ。遥の提案は、ただのきっかけでしかなくて、俺の決断には何の関係もない」


「でも、私が安易に自分の都合を押し付けたのも事実で、駆君の立場を考えていれば、あんなことにはならなかったでしょう。軽率な発言だったことには変わりがない」


遥の懺悔するような物言いに、駆は分かってないなとばかりに肩を竦めた。


「そうだな、確かに無責任な発言だった。だから、遥に責任はないんだよ。

 なら、遥は、一切の罪の意識に苛まれる必要はない」


駆のあっけらかんとした物言いに、遥は暫し呆然となる。

その思わぬ表情に、駆は小さく噴き出した。案の定、遥は、ムッとした表情をつくる。

深刻に思い詰めるかと思えば、その原因は主に馬鹿馬鹿しくて。全くズレていると思う。


 己の責任はいつだって己だけのものだ。無責任に転嫁していいものでもないし、もとより責任の移譲も、罪の擦り付けも大嫌いだ。

 だけど多分、こんな詭弁では、遥の罪の意識は消えてなくなりはしないだろう。


 だから、圧し掛かる重責だけは転嫁しても良いのではないかと思う。 

そうした苦しみや悩みを打ち明けて、分かち合い、共有することで、互いに理解できることもあるのだろうから。


「ちょっと、いつまで笑ってるの!?」


 いつまでも笑い止まない、けれどもそんな態度を悪いとは思うのか、必死に声を抑える駆の姿に、遥は頬を染めて抗議する。

 その二人のやり取りは、見かねた図書委員の生徒に、「他の利用者にご迷惑なので静かにして下さい」という注意を受けるまで続いたのであった――







 図書室のパソコンを借りて、情報収集を始めてから相当の時間が経過し、じきに日没を迎えるかという時刻となった。そろそろ切り上げて、帰宅しなければならない。

 駆はパソコンの電源を落とし、自身の荷物をまとめ始めた。遥も、そんな駆の様子と周囲の状況を把握し、それに倣う。

 駆は、遥の準備が整ったことを確認してから、図書室をあとにした。


 図書室から玄関口に至るまでの廊下を、駆は遥と共に歩く。

大半の生徒が既に帰宅し、静まり返った通路では、二人が歩く度に鳴る足音だけが、やけに大きく響き渡った。


 今日の成果は、芳しくはなかった。

 駆たちは、様々な情報サイトを経由し、国内外問わず世界中のニュースを収集することに腐心した。

 宗教対立による紛争や、各国の政治的デモ、ある国の選挙に向けての政権公約にはじまり、また、具体的な日時を指定し、それに合わせて大規模な災害が発生する、或いは世界が滅亡するといった類いの、何ら根拠のない予言めいた書き込みも欠かさず調べた。

 果ては、とある一家の大黒柱の父親が口論の末、一人息子に殺されたという、個々の些細な事件すらもチェックする程であった。


 だが、どれ程地道に情報をかき集めても、そこから人類社会終焉に繋がる手掛かりは、何一つ得られなかった。

 世界中に居る人類がほぼ根こそぎ消滅するような、大規模な事態であるからには、現段階で何らかの前兆となる事件の一つや二つは見つけられるという、淡い期待を抱いていたのだが、早くもその甘い見通しを改めなければならないようだ。


「あー、分かっていたことではあるけど、今日は結局収穫はなしか」


 ガックリと肩を落とす駆に対して、遥は淡々と答える。


「元から長期戦になることは駆自身も分かっていたことでしょう。初日からそれじゃあ、これから先が思いやられちゃうよ」


 人類社会終焉の全貌を把握することができない現時点では、こうした日々の断片的な情報を、長期的スパンの中で、うまく繋ぎ合わせていくしかない。確かにその意味では、本日の結果は当然と言えるかもしれないが。


「まあそうなんだけどな。ただ、今日のような毎日を繰り返して、その上、また碌な成果がないと考えると気が滅入る」


「それはそうかもしれないけど、こればかりはしょうがないでしょうね」


 遥は、なおも、やれやれと陰鬱な表情を浮かべる駆を暫し眺めやり、不意に意地悪い笑みをつくる。


「まあ、人の無知さにつけ込んで嘘を教えて、その反応を楽しむようなイジワルをするから罰が当たったのよ」


 そのような遥の発言に、駆は透かさず、さも心が傷付いたとばかりに大袈裟に顔をしかめて見せた。


「罰とは何さ、失礼な。単にユーモアを交えた説明をしただけであって、そのような意図はないし、そのように捉えられるとは心外だな」


「ユーモアというより、思いっきり虚偽の事実だったよね」


「そんなことはない。世間の常識こそが虚偽の事実であって、遥はそれに騙されているだけだ」


「どんな理屈よ、それ」


 いちいち大仰な駆の反応に、遥は、堪えきれずに小さく吹き出した。

 そんな遥の様子に、駆もつられて笑いだしながら、同時に、落ち込んだ空気をどうにか払拭しようと、さりげない気遣いが出来る遥に感謝した。本当に、そうした心の機微を察して、支えてくれる存在は貴重だと改めて思う。


 そんなことを考えながら、ひとしきり笑った後、駆たちは階段の踊り場に差し掛かった。

 遥と談笑をしながら、ふと階段の方に目を向けると、ちょうど教師である真駈が、上の階からこちらに降りてくるところであった。

 互いに視線が合うと、駆よりも先に、真駈の方から声が掛かる。


「あれ、彼方か。珍しいな、まだ帰ってなかったのか?」


「ええ、ちょっと図書室で色々と調べたいことがあったんですよ」


 特に嘘をつく理由もなかったので、正直に答える。別に疚しいことをした訳でもないため、不審に思われることもないはずだ。


「そうか。ただ、あまり誤解を招くような行動には注意しろよ。お前はこの間の一件で、他の先生連中に目を付けられているからな」


「………確かに先日は、学校サボって一日女の子と遊びましたけれども、今日は完全に違いますよ、念のため」


 どうやら俺は、先日の一件と、今のこの状況は、端から見れば女癖の悪い人間と認識されてしまうようだ。自業自得とは言え、不名誉過ぎる。


「まあ、あまり心配はしていないから大丈夫だよ。流石に前回の一件であれだけの騒ぎを起こして、なおも懲りずに堂々と問題を起こすほど、馬鹿ではないと思っているからな。

ただ、本当にこれ以上は勘弁してくれよ。念のためな」


 真駈の忠告に、駆は乾いた笑いを漏らす。

 現段階では、駆と遥の関係は、自己申告の通り、遠い親戚ということになっているが、もしも、駆が先日一緒に遊び呆けた女生徒が、遥だと発覚した場合、非常に面倒なことになる。

 少なくとも、確実に一悶着あるだろう。


 最悪の想定に、思わず背筋を震わせながら、駆は、傍に居る遥かの様子を伺う。

 当の遥は、何を思ったのか、真駈にじっと視線を向けて佇んでいた。

 まるで、真駈の一挙一動を注視するかのように、或いは、自身の疑念を確かめるかのような、そんな印象を抱く。


 真駈自身も、自らを見つめる鋭い視線を感じたのだろうか、駆の傍に居る遥へ目を向けた。


「初めましてかな。今日からこの学校の生徒になった、雲居(くもい)さんだね。どうぞ宜しく」


「あ、宜しくお願いします」


 遥は、ハッとして返事をした。

 因みに、遥自身に苗字はないため、今真駈に呼ばれた雲居という苗字は、この世界の元の人格だった、遥なる者の苗字をそのまま拝借したらしい。


「聞いたよ。彼方の遠い親戚だっけ?」


「はい、そうです。転入初日で、まだまだ戸惑うことも多いですが、ご指導ご鞭撻の程宜しくお願い致します」


 遥と真駈との会話は、表層上は何ら問題ない。しかし何故だか、遥の様子を観察すると、終始何かに戸惑うような、また自らの疑念を振り払うかのような、そんな複雑な心境にあることを感じさせられた。


 そろそろ、日が完全に没する。ぐずぐずしていると、辺りは本格的に暗くなってしまう。

 ここが潮時とばかりに、真駈は口を開いた。


「さて、今日はもう遅いから帰りなさい。引き止めて悪かったな」


「とんでもないです。では先生、さようなら」


 互いに別れの挨拶を告げて、駆と遥は学校を後にした。






 学校の校門を抜けたところで、駆は、遥の真駈に対しての、一連の反応について尋ねた。


「さっき、真駈先生と会って話をしていたときに、何かあった? 何か様子が変だったけど」


 今もなお思索に耽っていたであろう遥は、駆の問いに、ああと反応を返す。


「やっぱり、気づいた?」


「そりゃあ、あそこまであからさまだと流石にね。完全に表情が強張っていたからな」


 遥は、額に手を当て、天を仰ぐ。


「うわー、マズい。絶対に怪しまれてる………」


「かもしれないな」


 遥は、己の失態を恥じるように唸る。暫しの間、気まずい空気が流れ、やがて気をとり直すように話し始めた。


「別に、あの人が直接どうとかではないの。ただ、以前にあの人――正確には、あの人の魂と対になる肉体を、終焉後の私たちの世界で見たことがあったから、少し驚いただけ」


「え? そうなの?」


 それは初耳だ。

 確かに、魂と対になる肉体は、一定の周期毎に存在するという話は聞いている。よって、遥のように、真駈についても、魂と対になる肉体が、終焉後の世界に同様に存在していても不思議ではない。


「けど、確か終焉後に生きている人間は、6人だったはずだよな。そうなると、話に聞いていたより1人多い気がするけど」


「うん、今生きている人間は、6人で間違いないよ。終焉後にいたあの人は、私が初めて目にした時にはもう死んでいたの」


――成る程。

まあ、元々遥の住む世界で目撃した人間が、こちらで生きているとなれば、実際に驚くだろうし、違和感もあるだろう。そして、何よりもまず先に、この世界の真駈と、終焉後の世界の、真駈にあたる人物との間に、何らかの因果関係があるかどうかに意識が向けられる。


「私は最初、私たちが暮らす世界にいた人が、魂の同期で、さっきの人をこちらの世界に接続して来たことが頭をよぎったの。でもよく考えると、向こうで既に死んでいるからそれは違うのかなって。

 誰かが独断で、あの人の魂をこちらの世界の人間に接続したなんて話も聞いてないし」


 確かに、死亡した時期にもよるが、亡くなった段階で、自らの意志でこちらの世界に接続を試みることは不可能だろう。それこそ、誰かが意図的に接続を実行しない限りは。


 兎に角、情報が不足している。幸いにも、もうじき時宗との定期報告がある。その際に今回の件を聞くことは出来るだろう。



 二人して静かな夜道を歩きながら、駆は事態が少しずつ動き出すのを予感していた。



年末年始は、ゆっくり致します。

年明け4日頃、ひっそり更新予定です。

それでは、良いお年を!


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