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君のいる明日  作者: ほろほろほろろ
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 冬が来た。

 12月が来た。

 あの美しかった紅葉たちは既にみな土へと還り、道の脇に立ち並ぶのは裸になって寒そうな木たち。私は厳しい北風に身を震わせながら、今日も学校への道を行く。


 週末を挟んでの登校。久々の外の寒さに凍えながらも、やっとの思いで教室まで辿り着いた。やっと暖房にあたれる。そんなささやかな幸せに胸を膨らませながら、私は教室後方のドアを開く。

「おはよ~、怜佳ちゃん」

 教室に入るや否や、すぐ側から聞き馴染んだ挨拶の声が聞こえた。御嶋さんだ。

「おはよ~、御嶋さん」

 私も挨拶を返しながら御嶋さんの隣の席に座る。2ヶ月に一回の席替えで、見事御嶋さんと席が隣同士になったのだ。

「それにしても、今日も寒いね~」

 そんな季節的常套句を言いながら、御嶋さんは手先を握ったりこすり合わせたりしている。やっぱりこの時期は手冷えちゃうよね。私も同じように指先を温める。いくら教室に暖房がついているといっても、指先足先までは温まらないのだ。

 そんな冬の朝の日常を送っている最中、ふと視線を廻らすと、机の脇に置かれた御嶋さんの鞄の口から何か布っぽいものが覗いているのが見えた。あれは、マフラー?

 御嶋さんはこれまで学校にマフラーをしてきていなかったはず。私はてっきり、寒いのが平気なのか、あるいはマフラー持ってないのかと思っていたけど、違ったのかな。気になった私はそれとなく訊いてみることにした。

「御嶋さんもマフラーしてくるようになったんだね。外すっごく寒いもんね」

 すると、

「ああ、これね、実は昨日加山くんがプレゼントしてくれたんだ」

 なんとも以外な答えだった。

 御嶋さんは鞄からマフラーを取り出して、私に広げて見せてくれた。

「昨日加山くんと一緒にショッピングに行ってたんだけど、そのときにあたしに買ってくれたんだ。あたしこれまでマフラーなんて巻いたことなかったから、正直こんなんでほんとに暖かくなるのかなって疑問だったんだけど、ほんとだったんだね」

 そうか、加山くんと週末に一緒にお買い物に出かけたのか。

 例の計画は順調そのものだった。これまでに私は様々なシチュエーションを用意し、加山くんはそれらをすべてクリアしていった。最初のうちは一緒にお弁当を食べたり、一緒に下校したり、一緒に登校したり。私は何も知らない御嶋さんとの会話を通して、彼女の意識が加山くんへと向いていくのを感じていた。

 そういていく内に次第に加山くん自身にも自信がつくと、自分から積極的にアプローチするようになった。学校生活の中でも、それ以外でも。だから、私が直接加山くんを手伝うようなことはだんだんなくなった。そして今は、もう私が直接干渉する必要もなくなっていた。

 そして、2人の仲は目に見えて近くなっていった。学校で二人が話すことが増えたし、学校の外でもたまに一緒に遊びに出掛けるそうだ。そしてなにより、御嶋さんのほうから加山くんと接する機会が増えた。

 これはとても良い兆候だ。間違いなく御嶋さんは加山くんのことを意識している。その意識が友達としてなのか、あるいはそれ以上のものなのかは分からないが。

 まあそんなこんなで、昨日は2人で仲良くショッピングデートですか。それはもう、随分と仲が良ろしいようで。

 御嶋さんの話に適当に相槌を打っていると、側のドアが開き、そこから加山くんが入ってきた。加山くんも寒そうに身を縮めながら歩いている。その首元には、見覚えのあるマフラーが。それはまさに、さっき御嶋さんの掲げていたものと一致していた。まさかのペアルックだったのか。

「あっ、加山くん。おはよ~」

「おう、おはよ」

 御嶋さんの爽やかな挨拶に、加山くんも自然に応える。以前は挨拶なんていう些細なことでも、御嶋さんの前となるとおどおどしていたのに、今ではすっかり堂々としている。加山くんはそのまま自分の席へと歩いていった。

 この2人は、本当に変わったと思う。御嶋さんは、加山くんの事を話題にすることが多くなったし、加山くんにも自分から話しかけるようになった。それに、加山くんをからかうことが少なくなった。加山くんはと言うと、御嶋さんに対して積極的になったし、御嶋さんの冗談にあまり動じなくなった。御嶋さんがあまり加山くんをからかわなくなったのは、加山くんが過剰に反応しなくなったからかもしれない。

「ああ、そうそう。昨日ね、加山くんがね……」

 マフラーの話をして思い出したのか、御嶋さんが昨日の思い出話を聞かせてくる。最近は特にこういう話が多い。ははは、惚気話の聞き役は楽じゃないね。


「……っていうことがあったんだよ。信じられないよね?」

「ちょっ、今更蒸し返さなくてもいいだろ」

 本当に楽じゃあないね。

 今は昼休み。私と御嶋さんと、ついでに加山くんとで一緒にお昼ご飯を食べている。御嶋さんは相変わらずの冷食弁当、加山くんと私は購買で買ったおにぎりやパンだ。

 朝から結構時間が経ったっているのに、御嶋さんの思い出話には底が無いみたいに次から次へと出てくる。その中には加山くんの失態の話なんかもあるものだから、側でその話をされる彼の心境は推して知るべしだ。

 私はそんな2人の話をにこにこ顔で聞いている。ああ、最近の購買のおにぎりは塩気が多い気がするなあ。

 それにしても、加山くんと話す御嶋さんの顔はほんとに嬉しそうだ。御嶋さんのあの表情は私と2人でいるとき以外は誰にも見せたこと無かったのに…。少しだけ、心に寒い風が吹いたような気がした。

「ねっ、怜佳ちゃんもそう思うよね?」

「……え?」

 急に同意を求められてしまった。一体何の話をしていたんだろう。考え事をしていて全然聞いていなかった。

 私はにこにことした表情を崩さずに、

「あはは、ごめんね。聞いてなかった。ちょっと考え事してて……」

 と顔の前で手を合わせる。すると御嶋さんは、別に気を悪くするでもなく、

「考え事? 何か悩み事とかあるの?」

 とむしろ私を気にかけてくれた。まあ、御嶋さんに話せる内容だったら有難かったんだけど。

「ううん、そんな大層な事じゃないよ。ただ、今日の夕食は何にしようかな~って」

「そっかあ。あ、そういえば怜佳ちゃんって料理得意だったよね? 一度ご馳走してもらったの覚えてる。あのときの焼きそばは美味しかったな~」

「へぇ~、そうなのか。星乃が料理得意だなんて意外だな」

「意外って……。それはそうと、また食べたいなあ、怜佳ちゃんの手料理。ねぇねぇ、今度またご馳走してよ。お礼するからさ」

 その場凌ぎに適当なことを言ったつもりだったけど、これが思いのほか話を大きくしてしまった。でも、たまには料理を振る舞うっていうのもいいかもしれない。

「御嶋さんは料理全然だもんね~。たまには冷食なんかより美味しいもの食べたくなるよね~」

 そう思いながら、私は珍しく御嶋さんをからかって見せた。ほんのいたずら心だ。

「あ~、怜佳ちゃんひどい。まあ、確かにそうだけど……」

 御嶋さんはムスッとした顔になる。

「うふふっ、冗談だよ。いつでも私の部屋に来ていいよ。そのときはご馳走するよ」

 そう言うと、御嶋さんはぱぁっと目を輝かせるのだった。


 放課後

 部活へ向かう御嶋さんたちと別れ、寮の自室のベッドでダラダラと過ごす内に日も暮れた。暗くなってきた外の景色をカーテンで遮り、そしてまたベッドに倒れこむ。

 なんでだろう? 最近はずっとやる気が起きない。いつも日課にして欠かさなかった復習も、机に向き合えなくて結局やらない日が続いている。

「はああぁぁ~~」

 それに溜め息も多い。溜め息をつくと幸せが逃げるってよく言うけど、それって本当なのかな?

 最近は御嶋さんと2人でいることが少なくなった。加山くんが御嶋さんと一緒にいることが多いからだ。それは確かに、私にとっての幸せが逃げてることになるのかも。なら、これはこの溜め息のせい? 私の溜め息が加山くんを御嶋さんへと引き寄せるのか?

 ううん、それは違うだろう。そんなバカな話があるものか。これは逆なんだ。私が溜め息をつくから御嶋さんと一緒に居られないんじゃない。一緒に居られないから溜め息が出るんだ。

 だから、私から幸せを奪っているのは加山くん自身なんだ。

 でも、御嶋さんと加山くんがくっつくことを望んだのは私。それを後押しする真似をしたのも私だ。だから、私は何か文句を言える立場じゃない。

 そう分かってはいても、頭には自然と加山くんへの嫌な気持ちが湧き上がってくる。これを、嫉妬と言うのだろうか?

 ブンブンと頭を振って、無理やりその感情を拭い去ろうとする。でもすぐには消えないものだから、振り過ぎて頭がくらくらしてきた。少しして落ち着きを取り戻すと、私は相変わらずベッドの枕元にほかってあるケータイに手を伸ばした。連絡先の一覧から加山くんの名前を選び、彼宛のメールを書き出した。

「えぇっと、『突然ですが、加山くんに御嶋さん絡みで手を貸すのはこれで打ち切ります。もう加山くんは、自分だけの力でやっていけると判断したからです。これからも頑張ってください。』っと」

 少し素っ気ない感じになっちゃったかな。まあいいや。送信っと。

 大丈夫、加山くんならもう一人でも上手く出来る。ここ最近だって、私の協力なしに頑張って御嶋さんにアプローチしてきたんだし。

 それに……御嶋さんは加山くんに惹かれてる。今の御嶋さんを見ていれば分かる。間違いない。それが果たして恋心か友情かは判別はつかないけど、どの道私の目的は達成できる。だから後は、ただ見守るだけ。

 そう、見守るだけなのだ。

「……」

 だから、この気持ちたちは抑えなければいけない。加山くんへの嫉妬も。御嶋さんへの、この恋慕も。

 見守るだけの私に、どちらの感情も必要ない。むしろ、あったらきっと邪魔になる。

 私の望みは、御嶋さんにとっての私の代わりを用意すること。その人と御嶋さんの間に分け入ろうとする気持ちは、いらない。

 ベッドの上に寝転がっていたら、だんだんと眠くなってきた。

 私の元から、思考が離れていく。脳裏に次々と雑多な映像の波が寄せては引いていく。

 そして、私はまた夢を見る。映し出されたその映像の中には、私に微笑みかける御嶋さんがいた。

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