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君のいる明日  作者: ほろほろほろろ
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計画

 かくして、急遽編成された『恋愛成就同盟』(私の命名)は、私の退院後早速活動を始める。ちなみに構成員は私、星乃怜佳と同じクラスの加山篤志くんだ。

 この同盟の活動の最終目標は、加山くんとその思い人である御嶋さんを恋人同士にすること。具体的な活動内容は、彼女の友人である私が事を運び易いように状況をセッティングし、そこへ加山くんを送り込む。そこで、加山くんがその場その場に応じた適切な紳士的行動をとることで、御嶋さんのハートを射抜く、という流れになっている。

 この活動は決してターゲットにバレるわけにはいかない。もし、この事実が明るみに出れば、この同盟の最終目標はおろか、私たちの人間関係さえも危うい。よって、行動には慎重さが最も求められる。

 様々な危険を孕んではいるが、勝算はある。私がこの高校に転校してから、ずっと御嶋さんのことを見てきたが、彼女は加山くんに対して全くの無関心ではない。むしろ淡い恋心を無意識ながらに抱いている。それならば、これからのアプローチ次第でいくらでも成功を掴むチャンスはある。だからこそ、私はこの計画を提案したのだ。

 行動はできるだけ早い方がいい。時間はいくらでもあるわけじゃない。出来れば、3ヶ月以内の任務遂行を目指したいところだ。まあこれは、加山くんの頑張りに依存するところが大きいが、そこは期待しておくとしよう。

 では、この同盟最初の活動を開始する。時刻は夕方の6時前。窓から吹く秋風の気持ちの良い放課後に、私は御嶋さんに勉強を教えることになっている。よって、今回の流れはこうだ。勉強を教え始めたのはいいが、急に用事を思い出す私。そこで近くにスタンバイしている加山くんに代役を頼み、私はその場から退場。加山くんが御嶋さんに分かりやすく懇切丁寧に勉強を教えることで彼のスマートさをアピールするのだ。

 では、流れを確認したところで、行動を開始しよう。


「怜佳ちゃん、退院したばかりなのにごめんね、あたしの勉強に付き合わせちゃって」

 何も知らない御嶋さんが私の席までやって来た。私はいつもの笑顔を浮かべて答える。

「いいよ。私は御嶋さんの役に立てるのが嬉しいんだ」

 これは本心だから、と心の中で言い訳をする。

 御嶋さんは早速数学の教科書を開き、分からないという問題を指さした。これは私が入院していた間に習ったところらしい。しっかり病院で一人で勉強した甲斐あってか、これはすぐに解けそうだ。ええと、これをこうして、それであれを……。

 はっ! いけないいけない。私が解説してしまったら今回の任務を果たせず終いだ。私は余計な雑念を振り払い、御嶋さんの後ろのほうで待機している加山くんに目で合図を送る。加山くんも頷いてそれに応じた。

 さあ、ここからが本番だ。

「あっ! いけない。私今日用事があったんだった」

 出来るだけ感情を込めながら台詞を暗唱する。

「えっ、そうだったの?」

「うん。ごめんね、御嶋さん。じゃ、じゃあ私の代わりに……」

 そこにいる加山くんに勉強を教えてもらったら? と言おうとしたとき、御嶋さんが私の言葉を待たずに口を開いた。

「そっか、用事があるんなら仕方ないよね。また、時間のあるときにお願いしていいかな?」

「あ、いや。だめだよ」

 ……。

 しまった。口をすべらせた。今回の計画が無駄になるかもという恐れから、つい余計なことを……。

 失態だ。ここは素直に逃すべきだったんだ。これでは余計な疑いを持たれるかもしれない。なんてことだ。後ろにスタンバイしている加山くんも凍りついて動かない。

「だめって、どうして? もしかしてあたしのこと、心配してくれてるの? そいえば、中間テストも近いからね」

 御嶋さんの言葉にはっとなる。御嶋さんのほうから逃げ道を用意してくれるなんて。

「そ、そうだよ。テスト近いんだし、分からないところは出来るだけ早く無くしたほうがいいよ。だから、えっと……。あっ、加山くん。ちょっとこっち来て」

 私は左手でちょいちょいと手招きをする。さっきまで石像にでもなったかのように動かなかった加山くんが、一瞬にしてそのしなやかさを取り戻した。そして彼は、何食わぬ顔で私たち2人の前に立った。

「えっと、何? どうかしたの?」

「実は御嶋さんに勉強を教えようとしてたところなんだけど、私急用を思い出しちゃって。テストも近いし、代わりに加山くんが先生役になってくれないかな?」

 トラブルはあったが、何とか台本通りの流れに持ち込めた。こうなれば御嶋さんは断ったりしないはず。

「ああ、いいぞ。俺で良ければ」

「御嶋さんも、それでいいかな?」

「う、うん。あたしはそれでいいけど……」

 御嶋さんは少し納得いっていないみたい。

 まあ計画は概ね成功と言っていいだろう。私は荷物を鞄に押し込み、それを持って席を立った。

「じゃあ、2人とも、バイバイ」

 そう言い残して、私は教室を後にした。ほんとは2人の様子を見守りたいところだけど、さすがに教室の前で聞き耳を立てるわけにはいかない。今回は大人しく帰ろう。


 そして、時刻は夜の8時過ぎ。メールが来たので開いてみると、加山くんからの今回の計画に関する報告だった。結果はまずまず、バレたという心配は無し。無難なスタートを切れたといったところだろうか。

 最終目標を達成するためにも、相方との綿密な情報共有は重要だ。しかし、表立ってこういったやり取りが出来ない以上、メールでの情報交換は不可欠であり、様々な危険な局面を回避するためにも、それを徹底しなければいけない。

 次の計画はまだ完成していないけど、どうしよう。でも、そんなに頻繁に計画を実行しても怪しまれちゃうかもしれないから、次の機会は来週くらいにしようかな。まあ、気長に考えよう。

 それまでやっていた勉強の手を止めて、ベッドへと倒れこむ。

 ……これで、いいのかな?

 ふと、そんな疑問が頭の中に浮かんできた。

 私はそう遠くない未来に御嶋さんとは離れなければいけないだろう。でも、御嶋さんは私のことを唯一の友達みたいに思ってる。それは彼女をこれまでずっと傍で見てきたから分かる。

 いや、正確には『依存してる』だ。かつて彼氏に対してそうであったように、今は私に対して依存している。私以外に本当の表情は見せたりはしない。自ら目立ったり騒いだりせず、常にいい人を演じ続けている。御嶋さんの周りの人の中で、心を許せる人が私以外にはいないのだ。

 そんな中、私が御嶋さんの前から突然消えれば、彼女はまた一人ぼっちになる。私と初めて会った頃の彼女に戻ってしまう。誰とも深く関わらず、心を通わさず、上辺だけの付き合い方しかできなかったあのころの御嶋さんに。

 だから私は私の代わりを用意する。御嶋さんにとっての、私以外の大切な人を。そうすれば、私がいなくなったときも、きっと御嶋さんは悲しまなくて済む。一人ぼっちに戻らずに済む。

 でも、はたしてこれは正しい選択なのだろうか。御嶋さんの為と言いながら、彼女に隠れてこそこそすることは正しいことなのか? いや、今更考えるのはよそう。どの道もう後戻りはできないんだ。たとえこれが、自分の罪滅ぼしと自己満足の為であったとしても。


 そのまま勉強を再開する気力が出なかったので、今日はもう寝ることにした。電気を消し、ベッドに入ろうとする。そこでふと、夜空を見ようと思い立った私は、窓を遮るカーテンを開けた。

 今晩の夜空は、一面が雲に覆われていた。

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