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君のいる明日  作者: ほろほろほろろ
23/34

文化祭 翌日

 まだ熱っぽい秋空の下、てくてくと寮から学校への道を歩いていく。周りには、私と同じように登校する生徒たち。でも、みんなちょっと元気が無さそうに見える。それは多分、文化祭が終わってしまったからだろう。

 昨日は私の通う高校の文化祭が催された。学校中の生徒達は、その準備期間を含めてとても楽しそうだったから、終わったことでの反動もさぞかし大きかったことだろう。

 それにしても、ちょっと教室に入り辛いなぁ。私昨日休んじゃったから、みんな心配とかしてくれてるのかも。でも、担任の先生が風邪で休んだって伝えてくれてるはずだからそんなに気とか遣われないのかも。そうだと良いな。

 そうこう考えてるうちに、あっという間に自分の教室まで着いてしまった。

 大丈夫、普段通りにすればいい。

 私は自分にそう言い聞かせて、教室の引き戸を開けた。

「……」

 教室中を見回す。私が学校に来たことに対する反応もいつも通りだ。

 そう思って自分の席へ着くと、出浪さんと片岡さんがすかさずやってきた。

「おはよ、星乃さん。昨日風邪引いたんだって? 文化祭の日に風邪だなんて残念だったけど、治ってよかったね」

「おはよう、星乃さん。昨日は来れなくて残念だったね。はい、これ。調理部で販売してたクッキー。良かったら食べて」

「ふ、2人とも、ありがと……」

 油断したところに気遣いの二連撃。このむず痒い感覚、私は苦手だ。


「こんな時期に風邪だなんて、エアコン入れたままお腹出して寝てたんじゃないの?」

 御嶋さんはいたずらっぽい笑みを浮かべながら、そんなことを言い出した。私は自分の尊厳を守るため、御嶋さんに反論した。

「なっ、私そんなはしたない子じゃないよ。お腹は出してないし、エアコンは寝る前にちゃんと消したもん」

「ふふっ、どうだか」

 普段通りの昼休み。御嶋さんは冷凍食品ばかりのお弁当を、私は購買で買ったおにぎりをもぐもぐと食べる。

「ああ、そうだった」

 急に思い出したように、御嶋さんは自分の鞄の中を探り始める。

「あったあった。はい、昨日のクラスの出し物で使ったCD。ほんとは昨日返そうと思ってたんだけど、怜佳ちゃんの部屋のインターフォン鳴らしても返事が無かったから。きっと寝てたんだよね?」

 一瞬だけ、背筋がぞくっとなる。

「あぁ、うん。昨日はずっとベットの上だったから。たぶん寝てたんだと思う。ごめんね、気付けなくて。それで……昨日は何時に来てくれたの?」

「う~んと、大体午後の6時くらいかな」

「そっか……」

 その時間だったら、きっと大丈夫。心配ない。

「あ、そうそう。これも渡そうと思ってたんだ。はい、昨日調理部で売ってたクッキー。これね、あたしも食べてみたんだけど、すごいおいしかったよ」

「あはは……ありがとう」

 本日2つ目の収穫だった。


 その日の放課後

 文化祭が終わり、各部活は活動を再開する。まだHRが終わってから間もないというのに、グラウンドからは早速野球部員達のはつらつとした掛け声が響いてくる。

 帰り支度を済ませた私は教室を見渡し、御嶋さんの姿を探していた。文化祭という大仕事を終えた今、美術部は特に何かに向けた作品制作をすることはなく、部員たちは暇なはず。そんな今日なら久しぶりに御嶋さんと一緒に帰れるのではないかと思ったのだ。

 御嶋さんは自分の席にいた。御嶋さんも丁度準備が終わったらしく、鞄を提げて自分の席を立つところだった。私も自分の荷物を持って御嶋さんのところへと行こうとする。

 しかし、私が一歩を踏み出した時、御嶋さんに話しかける人影が見えた。加山くんだった。2人は何やら話し始めた。二人の間に割って入るのも気が引けるので、私は2人の話が終わるまで待つことにした。

 自分の席にもう一度着き、なんとなく窓から外を眺める。グラウンドでは、陸上部がトラックを周回していた。半ば上の空でそれを眺めていると、御嶋さんと加山くんの話し声が聞こえてきた。気づけば教室にいるクラスメイトは数人となり、静かなせいで意図せずとも話し声が耳に入ってきてしまう。

「いいよ、あれくらい。あたしも嬉しかったし」

「でも、一方的に貰うだけってのは嫌なんだ」

 貰う? 加山くんが御嶋さんから? 私の知らない間に、2人の間で何があったんだろう。

「あっ、そうだ。これから時間あるか?よかったら何か奢るよ」

 えっ!? それって、もしかして。加山くんは御嶋さんを、デ、デー……。

「え~、それってデートってこと?」

 そ、そんなっ。御嶋さんと加山くんが、デートだなんてっ。

「ばっ、バカかお前。俺はそ、そんなつもりじゃ」

「あははっ、分かってるよ。そもそも加山くんにゃ、女の子をデートに誘う度胸も勇気も無いんだろうけどね」

 いつものように加山くんをからかいながら、御嶋さんは笑った。加山くんはと言うと、顔を赤くしながらむくれていた。

「いい加減茶化すのはやめてくれ。で? これから時間あるのか?」

 御嶋さんは答える前に教室を見渡し、丁度私と目が合ってしまった。御嶋さんは一度私に微笑むと、加山くんと向き直った。

「うん、一度帰ってからならいいよ。制服で店とか入るのって抵抗あるから着替えたいんだ」

「そうか。んじゃ、待ち合わせってことで。場所は……学校出てすぐのところの公園でいいか?」

「うん、いいよ」

「じゃあ、また後で」

「またね~」

 そして、加山くんは教室から出て行ってしまった。御嶋さんはその姿を、笑顔で見送っていた。やがて加山くんが見えなくなると、御嶋さんは私の方へと近づいてきた。

「おまたせ~。さぁ、帰ろうか」

「う、うん」

 私は、どこか複雑な気持ちを自分の中に感じながら、御嶋さんと共に教室を後にした。


「ただいま~」

 部屋に戻った私は、エアコンをつけて、少し休憩しようとベッドへ横になる。やっぱりまだまだ暑い。なんて忌々しい太陽だろうか。その熱が部屋の中にまで侵食してきている。

 団扇でパタパタと扇ぎながら、枕元にほかってあるケータイへ手を伸ばす。見ると、そこには新着メールが一通。お母さんからだ。

 メールを開いて、読んでみる。

「…………」

 まったく、お母さんったら、心配性なんだから。

 だいじょうぶだよ、お母さん。無理はしてない。むしろ調子が良いくらいだよ。だから、

「しんぱい、ないよ、っと。送信っ」

 ケータイを再び枕元にほかる。エアコンが効いてきて、この部屋もだんだん居心地が良くなってきた。

 音楽をかけようと、ベッドから立ち上がってラックの前に立つ。どれにしようかと悩んでいると、そういえば文化祭で使ったCDを今日返してもらったことを思い出した。あれは私の中でも結構なお気に入り。決めた! そのCDをかけることにしよう。

 鞄からそのCDを取り出し、プレーヤーにかける。流れてくるのは、ゆったりとしたピアノの旋律。その音楽に身を包まれながら、ベッドに腰掛てそっと目を閉じた。


 気付いた頃には、カーテンの開けっ放しの南窓からオレンジ色が差していた。

「もうこんな時間かぁ」

 カーテンで夕日を遮り、夕飯の支度を始める。今日は……麺があったはずだから、簡単に焼きそばでも作ろう。

 トントン、とキャベツを切り、豚肉を切り、それらを麺と一緒に炒めていく。

 あぁ、懐かしい。確か前にも、こうやって焼きそばを作ったことがあった。あの時は御嶋さんもいて、私の手料理をご馳走したんだった。

「……また、そういう機会があるといいな……」

 そう思った瞬間、脳裏に今日の放課後での御嶋さんのことを思い出した。加山くんと親しげに話す御嶋さん。そしてそのとき、彼女は笑顔だった。その表情を見た時、私は何だか複雑な気持ちになったのだ。

 あの時の御嶋さんの笑顔はとても自然だった。そして、これまで約半年間御嶋さんのことを見てきて、その自然な笑顔を見せた人なんて私以外にはいなかった。私以外の人に見せる笑顔は、まるで仮面でもつけているかのような、不自然なものだった。もっとも、クラスメイトの皆はそれに気づいていないようだけど。

 そんな御嶋さんが加山くんに対してあの笑顔を向けたことに、私はひどく動揺していた。一体何の心境の変化があったのだろう? もしかして、昨日の文化祭で2人に何かあったのだろうか? まさか御嶋さんは、加山くんのことを……。考えれば考えるほど、動揺は大きくなっていった。

 御嶋さんのことにばかり気を取られ、焦げた臭いに気が付いたのは大分後のことだった。

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