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内臓袋からの手紙

作者: めじろ

手紙の送り主の女性は20~30代。少年は小学校低学年か入学前です。

○○くんへ



 おねがいが あります。 ひとつだけです。 おてがみの さいごに かきます。 かならず さいごまで よんでください。 ながいので ○○くんのパパが しごとにいったあとに よんでください。


 このおてがみが とどいた ということは おばさんは もうしんでいます。 おばさんがしんだのは ないぞうが たりないからです。 ○○くんはしっていますね。 ○○くんのパパが おばさんの ないぞうを とってしまいました。


 おばさんと○○くんのパパは じこにあいました。 おうだんほどうに くるまが はしってきました。 おばさんは ひざをすりむいただけでした。 ○○くんのパパは おおけがをしました。 びょういんで おばさんは ○○○くんのパパに ちを たくさんあげました。 そのときに ないぞうも とられてしまいました。

 あのときのことは よくおぼえています。 おいしゃさんが 「いますぐ けんこうなひとを ころして ないぞうを いしょくすれば たすかる」といいました。 ○○くんのパパは 「おかねなら はらうから たすけてくれ」といいました。 ○○くんは 「はやく パパをたすけて。 だれの ないぞうでもいいから パパだけは たすけて」といいました。おばさんは すこし ぞっとしました。

 ○○くんは パパさえ たすかれば だれがしんでも いいのでしょうか。

 ないぞうを とられたことに きがついたのは なんにちか たってからです。


 すぐに○○くんのパパに いしょくされたと わかりました。 まず おいしゃさんに ないぞうをかえして とおねがいしました。 でも しらないと いわれました。 つぎに ○○くんのパパに あいにいきました。

 うったえるつもりは ありませんでした。 わるいのは おいしゃさんです。 ○○くんのパパに おいしゃさんを せっとくしてほしかっただけです。 ないぞうを かえしてほしいとも おもいませんでした。 とりかえせば ○○くんのパパが しんでしまうからです。 はたらけなくなったかわりに おかねを もらおうと おもいました。

 しかし ○○くんのパパも おいしゃさんと おなじで しらないと いいました。


 すぐに あきらめて かえろうとおもいました。 そのとき ○○くんに あいました。 ○○くんは おばさんのことを おぼえていましたね。 そして 「パパを ころしてほしい」 といいました。 びっくりしました。 わけを きいて なっとくしました。 ○○くんは パパの ほんとうのこどもではなくて もうすぐ すてられると きまっていました。 おばさんは しぬまでの じかんの つかいかたを きめました。 ○○くんのねがいを かなえることに しました。


 ○○くんは ほんとうは やさしいこです。 パパをころしてほしいと ほんとうに おもっていないと かんがえました。

 おばさんは できるだけ せけんに ○○くんのパパが わるいひとだと さわぎたてました。 そのうえで さいばんを おこそうと おもいました。 けっきょく さいばんには できなかったけれど。 さいばんしょに いくまえに やくそくしましたね。 さいばんに かってもまけても たとえ さいばんに ならなくても パパに 「すてないで」 とつたえる と。

 ○○くんは やくそくを まもりました。 ○○くんは パパのこどもに なりました。


 おばさんは びんぼうだけど のこった じかんを たのしく すごしていました。

 あるひ ○○くんのパパの ひしょさんが でんわしてきました。 ○○くんのパパの おくさんになれば おかねを たくさんくれると いいました。 ○○くんのパパは すきじゃないひとと けっこんさせられそうに なっていました。 ほんとうにすきなひとと けっこんするために じかんかせぎをしたいから おばさんと けっこんしたことにしたいそうです。

 おばさんは なやみました。 だいじな のこりの じかんを おかねに かえたくありませんでした。 でも おばさんのいえは びんぼうです。 おばさんが はたらけなくなったから なおさら びんぼうに なりました。

 だから のこりの じかんを たましいといっしょに ○○くんのパパに うりました。


 ○○くんのパパの おくさんのふりをするのは つらかったです。 でも ○○くんがいたから たえられました。 スーパーや パンやさんのばしょを おしえてくれましたね。 ひみつのばしょを おしえてくれたときは とてもうれしかったです。 したのかいの ミナちゃんが ないていたとき なやみを きいてあげましたね。 さかのさんのおばあちゃんが おもいかばんを もって こまっているとき たすけてあげましたね。

 ほんとうに ○○くんはやさしいこです。 こんなに やさしくて かっこいいこは ほかにいません。 だから おばさんは ○○くんが びょういんで いった ことばが しんじられません。


 パパさえ たすかれば だれが しんでもよかったのでしょうか。 おばさんは ○○くんにとって パパのないぞうの かわりなのでしょうか。


 ○○くんのパパにとって おばさんは ただの ないぞうの つまった ふくろです。 ○○くんのパパが おばさんを どうおもうかなんて どうでもいいです。 ○○くんのパパとおいしゃさんは ふつうの きたない おとなです。 でも ○○くんには そんなふうに おもってほしくありません。 ふつうの きたない おとなに なってほしくありません。

 ○○くんには くるしんでほしいです。 おばさんの ないぞうを とったことを こうかいしてほしいです。 ずっと いきているあいだ しぬまで くるしんでほしいです。 おばさんが くるしんだように。

 ないぞうを なくしてから ずっと おなかが いたいです。 みっかに いっかい びょういんに いかないと いけません。 はたらくことは できません。 りょこうにも いけません。 どろどろのものしか たべれません。 ○○くんの だいすきなハンバーグは たべれません。 おしえてくれた パンやさんのパンも たべれません。 いたくて おなかがすいて くるしいです。 いたみどめのくすりを もらって のんでいますが すこししか ききません。 いたみは なくならないのに ての かんかくが きえてしまいました。 なにより たくさんあったはずの のこりの じかんが かぞえられるくらいに なりました。 おばさんは やりたいことが たくさん ありました。 ぜんぶ できなくなりました。


 いちばん わるいのは おいしゃさんです。 つぎに わるいのは ○○くんのパパです。 でも おばさんが いちばん ゆるせないのは ○○くんです。 なぜなら いつもは やさしいのに おばさんが しんでもいいと いったからです。 まるで あくまが てんしのふりを しているようです。

 おいしゃさんと ○○くんのパパは ただの きたない おとなです。 おころうとも おもいません。 でも ○○くんはちがいます。 やさしいこころをもった かっこいいおとこのこです。 ほんとうは そのはずです。 だから わるいことをしたと おもってほしいです。 おもわないなら ○○くんは パパたちとおなじです。


 ○○くんは じぶんは わるくないと おもっているかもしれません。 でも ○○くんは さいばんしょで なにも いってくれませんでした。 びょういんで おいしゃさんやパパが おはなししたこを いってくれれば おばさんは さいばんを おこして かてたかもしれません。 かてなくても さいばんを おこせたかもしれません。 さいばんにならなくても せけんのひとに つたえることが できました。

 ○○くんのせいで おばさんは なんにも できませんでした。


 こんなに ことばを つくして かいたって ○○くんに つたわるとは おもっていません。 ○○くんは けっきょく おばさんの くるしみを わかりません。 きっと わかろうとしないでしょう。 きっと パパとおなじ ふつうの きたない おとなになるでしょう。

 おばさんの おねがいは ○○くんが ふつうの きたない おとなになったときに かなえてください。

 ○○くんのパパが おばさんを ころしたことは ○○くんの しょうらいのじゃまになります。 そのまえに パパを ○○くんが ころしてください。 これが おばさんの おねがいです。

ほんとうに ころすのではありません。 にどと しゃかいで かつやくできないように おばさんの ないぞうを とったことを はっぴょうしてください。 そうすれば ○○くんは せいぎのヒーローです。 わるいことを ゆるさない ただしいひとだと ほめられるでしょう。


 これから ○○くんは どんなふうに いきていくでしょうか。 おばさんのことなんか すぐに わすれてしまうでしょうか。 どんなふうに いきるのか みせてください。 おばさんは あのよから ずっと みています。


 さようなら。


●●●●年●月●日

              おばさんより


「人間椅子」っぽいのを目指しました。いかがでしょうか。

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