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冬の王様  作者: 法田波佳
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長い冬のはじまり



 あるところに、一年中雪でおおわれた国がありました。

 そこには、春夏秋冬のうち、冬しか季節がありません。

 いつも地面は分厚い雪に覆われ、空はいつもどんよりとした灰色、風は凍てつくような冷たさです。



 そんなこの国にも、昔はきちんと春夏秋冬がありました。

 国土の東西南北それぞれに、春の城、夏の城、秋の城、冬の城があって、それぞれの季節を司る王様が暮らしていました。

 春には春の王様が、夏には夏の王様が、秋には秋の・・・と、それぞれの季節に、それぞれの王様が力を強めることで、四季が訪れていたのです。この国は、何十年、何百年と、そうして平和に暮らしてきました。

 けれど、そんなある年、急に冬の城から禍々しいほど大きな力が発せられはじめました。その力は、あっという間に国全体に広がっていきました。青々としていた草木は枯れ、鮮やかな青空は雲におおわれ、空からは雪がちらつきはじめます。すぐに雪は地面に積もり、季節は冬へと様変わりしました。

 ある、よく晴れた春の日のことでした。


 ほかの季節の王様たちは怒り出しました。そして、冬の城まで行って、何とか説得しようと試みます。


「力を緩めてください!」「このままでは、季節がくるってしまいます!」「民たちも、急に訪れた冬に困惑しています!」


 けれど、いくら言葉をつくしても、冬の王様は聞く耳をもちません。それどころか、三人が言えば言うほど、城から出てくる力は強くなっていきます。雪の粒はどんどん大きくなり、風も冷たさを増していきます。やがて、城の周りは吹雪が吹くようになりました。

 しばらくすると、春夏秋の王様たちはすごすごと帰っていきます。これ以上冬の城の側にいるのは、危険だと判断したのです。去っていく三人の姿を、冬の王様は、一人塔の上から眺めていました。


 そして時が流れ、春が終わりました。けれど、居座った冬は一向に去る気配はありません。

 夏が来て、秋が来ても、それは変わりませんでした。

 



 そんな状態がしばらく続いたある日、三人の王様たちは、自分の力がだんだん弱まっていっていることに気がつきました。

 本来、王様たちは自分が司る季節以外とは相性が悪いもの。自分の季節以外の間は力が弱くなってしまいます。それでも、これまでは順番に季節が巡ってきていたので、バランスがとれていましたが、今は違います。ずっと冬のままの今、春夏秋の王様たちの力は弱まっていく一方なのです。

 王様たちは焦りました。このままでは、力がなくなって、消えていってしまうかもしれない。その予感は、王様たちを恐怖に包みました。

 何十年、何百年と生きてきた王様たちも、やはり消えることは怖かったのです。


 ついに王様たちは、この国から去ることを決めました。

 それを聞いた民たちは大慌て。急いで三人のもとへと向かい、考え直すようにと頭を下げます。冬以外の王様が国から出て行ってしまう。それは、もう冬以外の季節が二度と来ないと言うようなものでした。


「どうか、どうか、このままここにいてください!」

「王様たちがいなくなったら、私たちはどうすればいいんです?」

「このままずっと冬のままなら、食べる物がなくなってしまいます!」


 縋りついて懇願してくる民に、王様たちは困ってしまいました。

 王として、民たちの願いを叶えてあげたい。けれど、そう思うのと同じぐらい、自分の身も心配だったのです。

 悩みに悩んだ末、王様たちは、民に贈り物をすることにしました。

 出発の日の朝。王様たちは、民の代表者に一粒の種を渡しました。不思議そうな顔をする民に、三人を代表して、春の王様が言います。


「これは、私たち三人の力を集めて作ったものです。土に埋めて育てれば、やがて大きな木がなるでしょう。その木は、雪にも、冷たい風にも負けません。やがてたくさんの実をつけ、そしてたくさんの種を残すでしょう」


 そして王様たちは、いつか必ず帰ってくると言って、国から出て行きました。


 民は、さっそくその種を植えてみることにしました。分厚い雪をかき分け、かき分け、やっと見えた地面に種を埋めます。期待半分、不安半分で、民たちは一生懸命手入れをしました。すると、種は次の日には芽を出し、その次の日には小さな木へと育ちました。そのままぐんぐん育っていき、一週間後には、天まで届くような大きな大きな木になりました。

 しばらくすると、春の王様が言ったとおり木は実をつけ、それからたくさんの種ができました。残された種を植えると、またすぐに木となり、実がつきます。

 そうして、あっという間に、小さな森ができました。

 森の木は、振りつづける雪にも、冷たい強風にも負けず、花を咲かせて実をつけます。民たちはそれを見て大喜び。これで、何とか一年中冬でも暮らしていくことができそうです。




 そんな風にして、何十年もの時が流れました。

 しかし、ある日民たちは、木がだんだんと枯れつつあるのに気がつきました。一本、また一本、と日ごとに木は枯れていきます。どうやら、王様たちが込めておいた力が薄まりつつあるようなのです。

 それを眼にした民たちは慌てました。この森が、国のみんなの命の源なのです。木が全部枯れてしまえば、食べる物はなくなってしまいます。

 すぐに、民たちは集まりを開きました。これからどうするかを話し合いましたが、いい案はなかなか出ません。しばらくすると、みんなは考え込んで黙り込んでしまいました。

 そんな中、ある一人の民が言います。


「冬の王様に生贄を捧げてはどうだろうか」


 民の言葉に、みんな膝を打ちました。そして、それはいい!と賛成します。冬の王様も、若い綺麗な娘を捧げたら、きっと機嫌を直してくれるだろうと考えたのです。


 すぐに、民たちは生贄とする少女を探しはじめました。

 しかし、少女は一向に見つかりません。冷たく、残忍で恐ろしいと噂される王様に、大切な娘を差し出そうとする親など、一人もいなかったのです。国の命運がかかっている。それはどの親もわかっていましたが、うちの子じゃない子がなればいいと思っていました。

 民たちは次第に焦り出します。そうこうしているうちにも、どんどん木は枯れていっているのです。ゆっくり探していられるほど、残された時間に余裕はありませんでした。

 そして、ふとある民が思い出しました。国のはずれ、春の城がある東の方の村に、身寄りのない少女がいることを。

 反対する親も、兄妹もいない少女なら、ひょっとすると引き受けてくれるかもしれない。そう思った民は、藁にも縋る思いで、少女のもとへと向かいました。

 会うなり、民は地面に膝をついて頭を下げます。どうか生贄になってはくれないかと。少女は、そんな民の姿に最初眼を丸くしましたが、すぐに微笑んで言いました。


「私でいいのでしたら」



 民たちは、喜び勇んですぐに準備に取りかかりました。そして次の日には、少女は生贄として冬の城へと向かうことになりました。

 これまで見たことがないほど綺麗なドレスを着せられた少女は、御輿に乗せられて運ばれていきます。

 冬の城があるのは、国の北のはずれにある大きな山。城に行く人など、ほとんどいないため、道などありません。わずかにある獣道を通って登って行きます。

 えっちらほっちら、えっちらほっちら、と山道を登ることしばらく。やっと城がある、山の頂上へと辿りつきました。朝出発したはずなのに、城に着くころには、もう日が暮れかかっていました。

 真っ赤に染まった夕焼け空を背景に、そびえ立つ真っ白な城。そこからは、思わず足がすくむような威圧感が漂っています。民たちは、少女を御輿から下ろすと、もう用はないとばかりに一目散で帰っていきました。

 しんと静まり返る中一人取り残された少女は、城の玄関まで行くと、中に向かって呼びかけます。


「冬の王様!貢ぎ物として参りました。どうぞここを開けてください」


 返ってきたのは、沈黙でした。それからも何度か呼びかけましたが、扉が開く気配は一向にありません。少女は困ってしまいました。中に入れてもらえなければ、話になりません。頑張って何度も扉を叩いて、何度も呼びかけます。

 けれど、物音ひとつ、城の中からは聞こえません。

 やがて、日はすっかり落ち、辺りは暗くなりました。明かりなどない城の周りは、自分の手さえも見えないほど真っ暗です。唯一の救いは、城から少し明かりが漏れ出していることでしょうか。その光で、少女は冬の王様は中にいるということを改めて確認しました。

 夜になって、寒さが余計に厳しくなっても、少女は諦めずに扉を叩き続けます。

 どれくらいそうしていたのでしょうか。月が頭上にまで昇ってきたころ、扉の向こうから声が聞こえてきました。


「帰れ。私は、生贄など求めてはいない」


 王様であろう声は、低く冷たいものでした。そんな声に、少女は思わず肩を震わせます。けれど、勇気を振り絞って声を出しました。


「嫌です。私は、貢ぎ物としてここに来ました。このまますごすごと帰るわけにはいきません。それに、私には帰る場所なんてありません」


 少女の言葉に、返事は返ってきませんでした。そのことに、少女はがっくりと肩を落とします。

 動物の鳴き声ひとつ聞こえない静かな夜。

 疲れからか、少女の瞼はだんだんと重たくなっていきます。しばらくは、頑張って起きようとしていたのですが、だんだんと意識は眠りの海へと深く潜っていきました。


 朝、少女はバタンという大きな音で眼を覚ましました。眼を開けると、すぐそばに誰かが立っているのに気がつきました。

 そこにいたのは、少女の背より頭3つ分は高い大きな男性。その男性からは、かすかに冷気が出されていて、近くにいるだけで背筋がつうっと寒くなりました。少女はそれを見て、きっと彼が冬の王様だと思いました。

 冬の王様は、何の感情も宿らない冷え切った眼で、少女を見下ろしています。そして、少女が目覚めたことを確認すると、少女に背を向けて、扉の向こうへと消えて行きました。

 少女は、王様の行動を不思議に思って見ていましたが、扉を見てぱっと顔を輝かせました。昨日までぴっちり閉じられていた扉は、王様が中に入っても開かれたままだったのです。中に入ってもいいということだ!そう思って少女は勢いよく立つと、急いで扉へと駆けて行きました。





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