20 裏 ロメスの若い日とカスクレ村
リガンテ大将軍に呼ばれたフィゼッチ将軍とエイド将軍は、今回のエイド将軍率いる軍がほとんど死者を出さずに一仕事終えたことを知らされた。
それはいいが、周辺一帯の国境の村に同じことが繰り返される恐れがある。
二つ村を挟んだ砦にいる兵士だけでは対応しきれないだろうから、王都から兵士を差し向けるのであればそれまで駐留し続けても構わないという、ケリスエ将軍からの早馬だった。
「その辺り一帯の領主から定期的に見回りの兵は出させることにしたけど、それとは別に砦の増員をはかるつもりなんだ。で、あそこの砦は元々エイド将軍の部下が仕切っているよね?」
「はっ」
「エイド将軍から20名、フィゼッチ将軍から10名、出してもらえるかな」
「なぜその人数なのか、お聞きしてもよろしゅうございますかな?」
「勿論。というのも、ケリスエ将軍が、ぎりぎりその人数だろうと連絡を寄越したんだ。どうもその周辺の村人に話を聞いたりして、過去の戦を知っている長老に、敵国から攻めてきた時の話を聞いたらしく、その程度を置いておけば、援軍が届くまではぎりぎりどうにかなるだろうと。あまり兵士を多く送ると、今度は兵糧が尽きるそうでね」
「なるほど、さすがはケリスエ殿。たしかに兵糧は大事ですからな」
「エイド将軍もやはり兵糧は気になりますか」
「勿論ですとも。いやはや、将軍職になりますと食料は確保しておいてもらえるが、自分が一兵卒の時にはなかなか配られぬこともございました。ケリスエ殿はそういった事情をご存じでいらっしゃる」
ワハハと笑い飛ばすエイド将軍に、貴族出身のフィゼッチ将軍は何とも言えぬ顔になる。自分も食料は確保されていることが多いからだ。
といっても、戦場の飢えを知らぬわけではない。
「ケリスエ将軍に、あの暴れ狼もついていったと聞き申したが」
「ああ、うちのロメスもそんなことを申しておりましたな。やはり慕われておられるのでしょう。いや、ケリスエ将軍の鈍さだけはどうしようもないのでしょうが」
「そうだよね。どう見ても、仇と狙っているどころか、・・・だよね」
「まあ、よろしいではありませんかな。本当かどうかは知りませぬが、数多の男と女を後宮に納め、どちらとも交わったという皇帝もいるのだとか。そんな話を聞いたこともございます。それに比べれば親子と言っても赤の他人。健全な限りではございませぬか。他人がどうこう言うことでもありますまい」
「えっ、そんな皇帝がいたのっ? ちょっとちょっと、詳しく聞かせてよ」
― ◇ – ★ – ◇ ―
エイド将軍が部屋に戻り、ロメス達に砦に送る兵士を見つくろうように伝えると、ロメスは変な顔になった。
いきなりの話だったからである。
分かりやすく、先ほどの話をしてやると納得したが、ロメスは違うことも気になったようである。
「その男と女を後宮にいれた皇帝とはなんなのですか?」
「ああ。昔、女好きな皇帝が多かった時代、男も女も好きな皇帝がいたのだそうだ。その皇帝は自分の後宮に男女共に入れたという話があるそうでな。かつて戦場で治療にあたった者が、寝物語に皆に語ってくれたのだとか。フィゼッチ将軍はその話を興味深く覚えていらしたそうだ」
「男と女を後宮に入れたとして、その皇帝は男性ですか、女性ですか?」
「男だ。何でも男と交わる時には女装をしたという話だが。・・・しかし意外だな。お前さんがこんなことに興味を持つとは。ただのおとぎ話だぞ?」
「私としては、そんな気持ち悪い話を受け入れられる将軍が信じられませんよ」
「戦場ではよくある話ではないか」
「そりゃそうですけど」
そう言いながらロメスは何だか変な顔をしていた。エイド将軍もいささか心配になる。
「大丈夫か? 今日は具合でも悪いのか?」
「いえ。体調は絶好調です。・・・すみません、なんでもありません」
ロメスは首を振ってエイド将軍に笑顔を見せながら、かつて自分が少年だった日のことを思い出していた。
女装して迫ってくる男。
それは記憶に沈めた不快なキーワードである。
(まさか、そういうことだったのか・・・!?)
あの時、自分はまだ身も心も清らかな少年だった。
だから何を要求されているのか、全く意味が分からなかった。だから蹴り飛ばして逃げたのだが・・・。
あまりに理解できず忘れ去っていたが、今なら分かる。そう、自分が何をすべきだったのかも。
再び会うことがあったら・・・・・・。
その先は、ロメスの微笑だけが知っている。




